目録に戻る
『中編:人魚の涙』に戻る












Uni ☆ Birth



作:ノイン  絵師:地駆鴉





後編:現存在(ダー・ザイン)




 あすを しんじる

 いのちの きせき

 はてなき やみを てらしだす

 いつも こころに ひびいてた ちきゅうが うたう

 のくたーん

 ちじょうを

 にじで かがやかす…




「お母さん、お父さん、おはよう」
 ボクはお父さんとお母さんに、朝の挨拶をした。
 最近、ボクはお母さん達と暮らし始めたんだ。
 嬉しいよっ!!
「おはようシア、身体の調子はおかしくない?」
 お母さんは、このごろボクの身体の調子をよく聞いてくる。
 んと…最近はちょっと眠たいかなぁ……でもそれ以外はなんにもないしね。
「うん、なんともないよ」
 ボクは笑顔で答えた。

 お父さんもお母さんも、ボクと一緒にいてくれる。ボクは嬉しいよ。
 でもね、お母さんもお父さんもときどき、苦しそうな顔をするの。
 なんでかな? って思う。ボクのせいかな?
 ボクのせいだったらいやだな…

 あの恐い人もときどきはボクのところに来るけど、ボクより、お母さんにいろいろと聞くことが多いみたい。
 あの人が来ると、お母さんもお父さんも恐い顔になる。ボクも恐くなる。
 だからあんまり、あの人のことは好きじゃない。

 とか、ボクがいろいろと考えていると、お母さんがボクの目の前に来た。
「シア、今日はどこかに遊びに行きましょうか?」
 えっ? 遊びに行くの? ここって、宇宙だからあんまり行くところないって思っていたよ
「どこに行くの?」
 ボクはお母さんに聞いた。まさか宇宙にとか言わないよね。真っ暗な中に行くのはちょっと恐いな。
「研究所の外にあるコロニーの本体部、その中にあるレジャー施設よ」
「そうなんだ…宇宙に行くの?」
「大丈夫よ、すぐ近くにあるからね」
 研究所から、ドッグって呼ばれている場所に、お母さん達と一緒に向かう。
 そこにはすっごいでっかい宇宙船があった。
 ボクの10倍はあるかな…
「大きいね」
「そうでもないのよ、これは自家用だから」
「自家用?」
「そう、これは私の所有物よ」
「ふへ〜〜、そうなんだ」
 その宇宙船はクラゲを横に倒したような形をしている。なんだか変な形だよ。

 ボクはお父さんとお母さんと一緒に、宇宙船でレジャー施設にむかっている。
 窓からコロニーの全体を見てみると、宇宙船より、いっぱいいっぱい大きいことがわかった。
 コロニーっていっても、こんなに大きかったんだね。
 お母さんが言うには、コロニーって、だいたい月の10分の1の大きさがあるんだって、月の大きさがよくわからなかったけど、ともかくとっても大きいってのはわかった。それで、そのレジャー施設には、宇宙船に乗って、そのエリアに行く方法しかないみたい。
 研究所ってのはいろいろと危険だからコロニー内から直接行けないようになっているんだって。ちなみに研究所のエリアは町ひとつぐらいの大きさだって話をお母さんから聞いた。

「宇宙って真っ暗ってわけじゃないんだね」
 宇宙船の小さな窓から見える宇宙は、コロニーの研究所から見える宇宙より、とっても大きかった。そして、遠くのほうにちらちらと光が見える。あれが星かな。宇宙は黒いだけじゃなかったんだ。ボクはなんだか嬉しくなって、自然と笑顔になっちゃう。
「そうね、深宇宙って言っても光がまったく届かないわけではないからね」
 隣に座っているにこにこ顔のお母さんが、ボクに答えを返す。お母さんが笑っているとボクも嬉しい。
「セリナ、見えてきたぞ」
 宇宙船を運転していたお父さんが、ボクたちが座っている後ろの席を振り返る。
 ボクが前のほうを見てみると、ちょうど、大きい透明なわっかと小さい透明なわっかが水平に重なった形をしたコロニーが見えてきた。光がてかてかと光っている。
 なんだか電灯の形に似てなくもないな。

「あれがレジャー施設なの?」
「そうよ、あそこがここのコロニーの中でも、居住区の次に人が集まっているところよ」





 宇宙船をドッグに入れて、到着♪
 ボクはがまんできなくて、走りだしちゃった。
「お母さん、お父さん、はやくぅ」
 ドッグから、細い通路を抜けると、いきなり光がぱっとさしこむ。まぶしい♪
 眩しさで閉じた目をゆっくりと開くと、上のほうには真っ青な空と、やわらかい光を放っている太陽があった。あったかいなぁ。
 そして、次にはざわざわというざわめきが聴こえてきた。
 いままでに見たことないようなたくさんの人、こんなに人がいるなんて知らなかったよ。
 研究所にはほとんど人がいなかったし、だいたいボクって、ほとんどお母さん達と一緒にいたからね。
「シア、迷子にならないようにね」
 お母さんがボクの手を握った。
「あれ?」
 お父さんは前のほうをさっさと行っちゃってる。

「お父さ〜ん」
「なんだ? シア」
「手を繋ごうよ」
「…」
 どうしたのかな、お父さん、顔が赤い。でもちゃんと繋いでくれた。
 お母さんもお父さんも手があったかい。

「人工光がこっちはちょうどいい具合に調節されているわね」
「そうだな、研究所にいたからまったくわからなかったよ」
「ん? どうしたの?」
「ほら、ここの空と太陽が見えるでしょ」
「うん」
「あれは、ホログラフィなんだけど、うまく調節されているなあと思ってね」
「うまく調節されているって?」
「そうね……地球に似ているようにできているのよ」
「そうかぁ、ボクも地球に行ってみたいな」
「……」
 お母さんの手がぐっと握られた。痛いぐらいに
「どうしたの、お母さん? お父さんも?」
「なんでもないのよ」
 お母さんがにこりと笑う。
 ときどきボクはなんとなくだけど、お母さんは嘘をついているんじゃないかなぁって思うこともある。
 なんだか苦しそうなんだもん。
 どうしたの? って聞いても、何も答えてくれないし…
 ボクはどうすればいいんだろ?
「シア……眠たいの?」
「ん? えっ…」
 ボクが黙っていたからかな? お母さんとお父さんが心配そうな顔で覗き込んできた。
「大丈夫? シア?」
「うん、ボクは大丈夫だよ」
 ボクが元気に答えると、お母さんもお父さんもほんとの笑顔を返してくれた。
 そうなんだ、ボクが元気だったらいいんだね。
「行こう、早くぅ」
 ボクはお母さん達を引っ張っていった。

「これに乗ろう」
 それはなんだかすごくでかいマグカップ、なんだかここのレジャー施設って、オーナーさんの趣味で『れとろ』になっているって、お父さんが言ってた。
 う〜ん『れとろ』って、後ろへって意味なんだけど、どこらへんが後ろなんだろ。
「レトロってどういうことなの?」
 ボクはもう一度、お父さんに聞いた。
「簡単に言えば、昔に戻った感じを与えるってことだよ」
「ふーん」
「もっと、正確に言えば、これは人類が宇宙に進出してまだ間もない頃の『遊園地』という施設を真似てあるらしい」
「そうなんだ」
 ボクはそのでっかいマグカップが、ボクらの歴史を表しているようで、なぜだかとっても好きになった。

「しっかり掴まっておけよ」
 お父さんが中央のハンドルを回すと、ゆっくりとマグカップが回転しはじめる。
「うわっ、回ってる」
「大丈夫よ、シア」
 外から見てて、回るのは分かっていたけど、実際に体験してみると全然違うよぉ。
 かなり速い。

 ぐるぐる回る
 ぐるぐる回る
 ぐるぐる回る
 ぐるぐる回る
 人を乗せて…

「シア……シア!!」
「うにゃ…お母さん?」
 ボク、寝てたみたい。それとも気絶してたのかな?
 回転が速かったしね。

 マグカップから降りると、足元がものすごくフラフラしてた。
 ああ、地面がぐにゃぐにゃしてる!!
「大丈夫か? シア」
 お父さんがボクの腕を掴んで、支えてくれた。
「ぐにゃぐにゃするけど、大丈夫」
「ぐにゃぐにゃ?」
 ボクが地面を指差すと、お父さんは納得してくれた。
「地面がぐにゃぐにゃか、シアはおもしろいな」
 言って、ボクの頭をくしゃくしゃする。

「さて、次はどれに乗りましょうか?」
 うーんと、次は次は……あれなんだろ?
「あれな〜に? お母さん」
「あれはジェットコースターね」
 ジェットコースターかあ、たくさんの人たちが大声で叫びながら、乗ってる。
「乗りたいなぁ」
「いいわよ、行きましょう」

 ジェットコースターはカタカタと音を立てながら、段段と頂上に上がっていく。
 緊張する〜

 カタカタカタカタ…
 周りの人の顔を見たら、みんな緊張しているのがわかる。
 ボクは初めてだから、ちょっと恐いです。
 カタカタ…
 音がやんだ…
 …
 …
 …
 あっと、思った瞬間には、ものすごい速さで下に引っ張られてた。
 うわっ…顔にすごい風があたる。
 下についた時には、とっても疲れたって感じで…ボクはもうジェットコースターには乗らないよ。
 ふう…恐かった。





 ホログラフィのお日様はだんだんと西の空へと移って行く。
「そろそろ、帰りましょうか」
「そうだな…そろそろ帰るか」
「え〜、帰るの?」
 ボクはまだ帰りたくないよぉ。
「じゃあ、あとひとつだけよ」
 お母さんは、あとひとつって言ってる。うーん、どれがいいかな?
 やっぱりあれがいいよね。
「観覧車に乗りたいな」
 それは遊園地の中で中心地にあるんだ。
 大きな大きな、まるいわっか
「シアは観覧車が好きなのね」
「そうだな、もう4回は乗ったな」
「うん、観覧車好きだよ」

 観覧車の中で
 ボクは窓にぴったりと顔を近づけて、外の景色を見ていた。
 ホログラフィの夕日が、ゆっくり、ゆっくりと地平線に吸い込まれていく。
 それがなぜだか悲しくて…
「シア、泣いているの?」
 ボクは急いで涙を拭った。
「泣いてないよ」
 突然…涙が溢れてきた。おかしいな…
 どうして、涙が出てくれてくるんだろ…
 なんで悲しいのかな…
 ボクはお母さんに抱きしめられた。
「シア、大丈夫だから…大丈夫だから…」
 お母さんも泣いている?
 ボクは少しだけ悲しくなくなって、今度は眠くなってきたちゃった…

 あったかくて、大きな背中、ボクお父さんにおんぶされてるみたい。
 まだ、なんだか眠たい…
「シアを助けることはできないのか? セリナ」
「できないのよ。もうどうやっても、シアは…」
「プログラムの無効化は? セリナが創ったんだろ」
「創作者だからこそ、不可能なことがわかるのよ…」
「そうか…もうできることは…ないのか…」
「……シア…」
 ごめんね…お母さん………………………………





 次の日、フォーレさんがボクの家に来た。
「セリナ博士、ご機嫌いかがですかな…」
「……」
 お母さんが無視しているから、ボクのほうにやってきた。
「シアちゃんは元気かな?」
「ボクは元気です」
「そうかそうか…ところでセリナ博士」
 フォーレさんがくるりと、お母さんのほうに向き直った。
「何ですか?」
「シアちゃんを少しの間、実験に参加させてくださいませんかね?」
「今更、何の実験をするというの!!」
「実戦ですよ」
 お母さんが驚いた顔をする。実戦ってなんだろ??
「シアにはこれ以上は無理よ…」
「シアさんがパルさんになった後でもよいのですか?」
「それは…」
 口を閉じたままのお母さんのところから、フォーレさんはゆっくりとボクの方へ来た。
「シアちゃんはどうなのかな?」
「えっ? ボクは…」
 何をするのかも分からないのに、「うん」とは言えないよ…
 その時、お父さんがフォーレさんの目の前に立った。
「帰ってくれ。あんただって、人の子だろう。シアに触れないでくれ!!」
「ふん、まあ今日のところは帰ります。明日までには決めておいてください」

 フォーレさんが帰っていった後
 お母さんもお父さんも暗い顔をしていた。
 ボクにできることはないのかな?

「お母さん、フォーレさんの言ってたことだけど…」
「シアは考えなくてもいいのよ」
「でも……」
 ボクが何か言うとお母さんが悲しい顔をする。
 ボクは何も言わないほうがいいのかな…
「わかった…」
 お母さんの言うとおりにするのが、ボクにできること
 そう考えたから、何も言わなかった。



「シア、起きて、シア」
「うん、どうしたのお母さん? まだ夜だよ」
 目をこすって、時計を見ると、まだ夜の2時。真夜中だよぉ

「今から…」
「今から?」
「地球に行きましょう。シア」
「地球に?」
 ボクは驚いた、だって、ここから地球まではものすごく離れているっていうのに、どうやって地球まで行くんだろ? ん? それよりも…
「どうして、地球に行くの?」
「シア…聞いて」
「うん」
「フォーレって言う人が、昼間来たでしょう?」
「うん」
「その人がシアを連れて行こうとしているの。逃げないといけないのよ」
 ボクの肩に置かれているお母さんの手
 強い力で掴んでいる。
「地球に…ボク帰るの?」
 ごく自然に言葉が出てくる。
 ボクは帰るんだ。
 そう思ったらなぜだか嬉しくなってきちゃった。
 笑顔がこぼれてきちゃう。
 そして、お母さんがにこりと微笑みを浮かべる。
「そうよ、帰りましょう」
「うん、わかった」



 研究所のドッグから、たった一機で飛び立つ宇宙船
 その中にボクとお母さんとお父さんがいる。
 コロニーに目を移すと、どんどん小さくなっていってる。
 宇宙の中にぽつんと浮かぶコロニー
 とってもとっても小さな白い粒
 ボクの中で、少しだけ不安な心が芽生えてきた。
 あそこはボクが生まれた場所だから…
 地球はボクの故郷かもしれない場所、記憶の隅っこにある心の故郷
 でもあのコロニーもボクの故郷なんだ。
 だから、小さくなっていくコロニーを見ていると、なんだか恐くなった。





「どうやって、地球まで行くの?」
 ボクはとても気になってた。だって、すごい遠くにあるんでしょ?
「ワープリングを使うわ」
「ワープリング?」
「ワープリングというのはね…」

 って、あれ? 時が…いつのまにやら経ってる。
 ボク全然わからなかったみたい…
 意識が半分飛んでたよ。
 なんとなくわかったのは、量子テレポートを使って、こっちからあっちに移動するんだってことぐらい。
 お母さんは量子テレポート装置のの発明者なんだって、すごいなぁ。
「リングが見えてきたぞ」
 操縦桿から、お父さんがこちらに向かって呼びかける。
 ボクが前を見てみると、大きなわっかや小さなわっかがいくつも重なっているのが見えた。
 あれがワープリングかぁ。
 くるくると一つ一つのわっかが回転している。
 あれ…なんだか…眠く…
 あと…少しでちきゅ…なのに…
「シア…シア…」
 お母さんの声が遠くに聞こえる…どうしたのかな。いきなり眠くなってきたよ。


「シア!!」
「ふぁい!!」
 お母さんが耳元で叫んだみたい。耳が痛いよ〜。
 ボクはお母さんの膝の上で寝てたみたい…ちょっと恥ずかしいな。
 ボクは起き上がった。

 あれ? お母さんがなんだかほっとしている。お父さんもだ。
「なんだか眠くなっちゃったみたい、おかしいな。いっぱい寝てるのに」
 お母さんはボクの手を握った。
「シア…あと少しで地球だから、しっかり起きてなさい」
「あ…うん」
 お母さんは強い口調で言ったけど、なんだか泣いているみたいだった。
 ボクはできることをする。
 お母さんの言うとおりにする。
 そうしたら、お母さんは悲しくなくなるのかなぁ…

「ワープするぞ」
 宇宙船がわっかの中に入った。わっかの回転がどんどん速くなる。
 わわっ…なんか、周りが光ってきたよ。
 宇宙船がものすごい速さで加速されていく。宇宙船の中は全然速いって感じないんだけど、わっかを通り過ぎるスピードが速くなってる。
「速いよ、お母さん」
「これは量子に力を与えているだけよ、ある一定の『高さ』までエネルギーを与えないと、量子テレポートをすることはできないのよ」
 なにも音は聞こえないけど…音にすれば、ヒューって感じ。
 周りの光もまぶしいぐらいになってきた。
 ボクは目がちかちかしてきた。



 突然、ヒュン…って音がした。
 眩しさで閉じちゃってた目を開くと
 そこには青い星があった。


 きれい…
 あおがきれいだよ。


「シア…おかえりなさい。シア…」
 お母さんが優しい声で呟いた。ボクは嬉しい気持ちと悲しい気持ちがどっちも心の中に生まれて、なんだかよくわからない涙がでてきた。
 でもボクは何を言えばいいのか知ってる。
 たったひとこと、ずっと前から言いたかった言葉…

「ただいま…」
 ボクの口から言葉がこぼれた。





 ここが…地球…

 宇宙船が降り立った場所はどこかの草原
 でもここはまだ夜みたい。まっくらでほとんど前が見えない。
 でもボクはこの草原を見たことがある。
「夢で見た場所だ…」
 ボクは突然湧いてきた懐かしさで胸がいっぱいになった。
「ここが地球よ、シア」
「ボク、ここにいたことがあるよ」
「そうね、シア…」
 お母さんは遠くにある山を見ている。ほとんどまっくら。何も見えない。
 何も。

「さあ、そろそろ行こう。元の家が残っているかな」
 お父さんが歩き始めた。お母さんと手を繋ぎながらボクも続いた。
 小さな丘を登って、頂上につく。そこから下を見下ろすと小さな家が見える。
 暗くてよくわからないけど、あれがボクの家なのかな?
「さあ、行こうか」
「うん」
 ボクは駆け出していって、家の前まで来た。
 突然、家の扉が開いて、そこからあの人が出てきた。
「フォーレ…さん?」
「やあ、シアちゃん。奇遇だね、こんなところで会うなんて」
 ボクはすぐにお母さんの後ろに隠れた。なんだかこの人って恐いよ。
「セリナ博士。そしてヴィッツさん、いけませんな…こんなところまで旅行ですか」
「あなたに関係ないでしょう!!」
「関係ない? ふふ、関係ないことはないでしょう。あなたがたの宇宙船が飛び立った時から、すぐに追いかけた私の苦労も考えてくださいよ」
 フォーレさんはそう言って、銃を構えた。
「私だって、こんなことはやりたくないんですがね…シアちゃんが死ぬ前に地球を見せれてよかったじゃないですか…」
 えっ!?
 ボクは死ぬ!?
「お母さん、ボク死んじゃうの?」
「シア…ごめんなさい…」

「まったくひどい親ですよ、実の娘を救うためとはいえ、シアちゃんを殺すなんてね」
 フォーレさんの言ってることがわからない。ボクを殺す?
「どういうことなの、お母さん?」
「シア……私は…」
 お母さんはボクの肩に手を置いたまま、地面に座りこんだ。
 泣いてる。どうしよう。

 お母さんの目は涙でいっぱいになってる。
「おかあさん…いいよ。ボクは大丈夫だから」
 あっ…お母さんがいきなりボクを強く抱きしめた。
 うっうっ、苦しいよ。
「シア、私はシアをね、殺そうとしたの…ううん、もう、殺してしまったの…」
「わかんないよ、お母さん」
「お母さんはね、シアの中に眠るパルを救うために、シアを消すプログラムを打ちこんでしまったのよ」
「ボクは消えちゃうの?」
「ごめんなさい」
 お母さんは崩れ落ちるように、ボクに謝り始めた。
 ボクはゆっくりとお母さんに背を向けて
「そっか…」と短く言った。
「シア?」
 ボク、泣いている。でもお母さんに泣いているところ見られたら、お母さんはもっと苦しむ。
 笑わないとね。
「いいよ…お母さん」
 あっ…だめ…
 ぽろぽろと涙がでてきた。

「まったく、酷い親がいたものです。いくら創りものとはいえ…」
 フォーレさんがつかつかとボクのほうに寄って来た。もちろん銃は構えたままだ。
「それ以上は言うな…」
 お父さんがボクの前に立つ。銃が危ないよ。
「シアちゃん、君は真実を知りたいだろう」
 ボクは黙って頷いた。もうボクの命が残り少ないなら…
 なんでも知っておきたいから。
「セリナ博士には、パルーシアという名前のご息女、つまり娘さんがいたんですよ。その娘さんはある日死んでしまった。そこで生き返らせようとして、量子テレポート技術を用いたんです」
 ボクは黙って頷く。フォーレさんは例のにやにやした笑いを浮かべると、さらに話を続けた。
「しかし、量子テレポートはいまだ新しい技術、当然いろいろと不安定ですし…扱うのも大変お金がかかるのですよ。そこでセリナさんは国の資金に目をつけ、研究を偽って娘さんを再生したのです」
「再生?」
「ええ、純然たる再生です。情報さえ残っておけば、無からでも有を創り出せるのですよ。いや、そもそも情報が『有る』のだから…無からとは言えないか…」
 なんだか難しい話になってきたけど…ともかくボクの身体はそのパル-シアっていうコのものなんだね。
「ところが再生したものの、あまりにも身体に秘めた『情報』が多すぎるため、パルーシアさんは目覚めなかったのです。そこでセリナ博士は『シア』という仮の人格を付加し、身体を動かすための補助プログラムとすることを思いついたわけです」
「そこまで知っていたのか…」
 お父さんがフォーレさんを睨みつけた。
「ええ、悪いとは思ったのですけど調べさせてもらいました。なにしろ仕事なんでね」

 お父さんとフォーレさんの話も耳に入らなかった。
 ボクは創られた命なの?
 だから…いらないのかな?
「お母さん、ボクは…ボクは…人形なの!?」
「違うわ。シア…違うの…」

「何が違うのか…まったく呆れて物も言えません」
 泣き崩れたお母さんに向かって、フォーレさんは冷たく言った。
「貴様ぁ!!」
 フォーレさんにお父さんが飛び掛る。
 危ない!!

パンッッッ!!

 恐さで閉じた目を開くと、お父さんが左手を右手で抑えていた。
 血が流れている。
 ひどいよ、なんでこんなことするんだろ。
「まあ、今回のことは、最強の兵器ができたので不問にしてあげましょう。私に感謝することです。本来なら、反逆罪として処理されてもしょうがないのですよ」
 そこまで言って、フォーレさんはボクを見た。
「さあ、シアちゃん…いやPAL−1…最後の実験です。わが軍が創った最強の兵器、ウーシアを破壊しなさい。これができなければ…お二方に未来はありませんよ」
 そう言って、フォーレはお母さん達のほうに銃口を向けた。

 次の瞬間、ボクの背後に何かの気配
 振り返ると、ボクとおんなじぐらいの大きさのコがいた。
 ショートカットの金髪の女の子、顔がとっても綺麗だと思う。  でも彼女には表情がなかった。
「人道的でしょう、私の創った人形は人格というものを持ちません。その代わりに脆弱な人間のボディではなく、もとから最強の硬度と柔軟さを備えた特殊なスキンを用いてますがね」
「ボクがこのコと闘えばいいの?」
「そうですよ…いまだに実戦での力を見ていないですしね。ウーシアはPAL−1のコピーにすぎませんが、どちらが強いか、興味があるところです」

「だめよ、シア」
「お母さん…」
「PALの力を使えば、シアの寿命は一気に削られるのよ」
「ボクは死なないから、絶対死なないから」

 ねえ、お母さん、ボクは人形じゃないよね?
 だって、こんなにボクのことを思って泣いてくれているもん。
 だから、ボクは闘える。
 前みたいに意識をなくさないように集中しながら、ボクの中に在るPALを目覚めさせるための『言葉』を唱えた。
 ボクは死なない。絶対に!!





 意識が沈んでいく…
 いけない…ボクは…
 兵器じゃない…

 ウーシアは数メートルはあった距離を一気に詰めてきた。

 速い!!

 両手をクロスさせて、ぎりぎりでガードする。

 ドンッッッ!!!

 そのまま後ろへ吹っ飛ばされる。
 衝撃に逆らわずに後ろへ飛び、そのまま空中で姿勢制御を行う。
 機体のダメージ、極めて軽微

 地上は不利だ。
 ボクはそのまま上空へと飛び立つ。
 ウーシアはボクを人形の目で見つめると、右手を突き出してきた。
 そして、いくつもの光弾が放たれる。
「くっ…」
 自動追尾…フォトンによる拡散不可能…
 ボクは地上へ高速で落下し、地上すれすれで水平飛行に移る。
 後方を熱探知…光弾はすべて避けた。

 ガッッッ!!!

 突然、右のほうから衝撃があった。
 意識がなくなりそうになる。
 光弾は囮だったのか……
 ボクが上を見上げると、ウーシアが虚ろな目をして立っていた。
 ただの人形の目……恐い。
 ボクは勝てないの?

 ウーシアの右手から光が放たれる。
「きゃああぁ!!」
 寸前でかわそうとするが、全部は避けきれなかった。
 ボクの光を貫いて、肩と右足に被弾…
 やけつくような痛みに意識が飛びそう。ボクがボクでなくなっちゃう。
 遠くのほうにお母さん達が見える。
「はあ、はあ、ボクは死なない!!」
 シールドしながら闘ってたら負ける。ボクは一撃に賭けることにした。
 右手を突き出して、光子の剣を創る。
 これだったら、一撃でシールドを貫くことができるはず…

 ウーシアはシールドを展開したまま、細身の剣を創りだした。
 そんな細い剣で受け止められるはずがない。
 ボクは一気に駆け出し、ウーシアの胴をなぎ払う。

 バチィィィィィィィ!!!

 ボクの攻撃は力の加わる方向をずらされている。
 流れるような剣の動きだ。
 バチバチと、光の粒子――フォトンがあたり一帯に撒き散らされる。
 勝てないよ…
 絶望感がボクを襲った。
 ボクが勝てる要素がない。
(あるよ…)
 えっ? 今、声が…聴こえた?
(シアの力は心の光。力を解放して)
 なんだか、懐かしい声――
 どうすればいいの? ボクはどうすればいいの?
(別々にあるものをあわせるの、あなたの中のPALを受け入れて)
 ボクがボクでなくなるのは嫌だよ。
(違うの、あなたの中の別の部分が融合するだけよ、心はあなたが考えているよりずっとファジーなものなんだから…あなたが受け入れれば、PALもきっとあなたを受け入れてくれるはず)

 ボクの中のPAL…ボクのボクでない部分…
 でも本当は違うのかな? ボクの心はいくつもの心を内包してて、PALもボクの一部なのかもしれない。ボクがパル―シアの一部であるように。
 ボクはPALになる……ボクはボクのままで…







 ボクは目覚めた…ボクの中のPALはPALの中のボクだった。
 二つは一つで、一つは二つ。
 ボクの光が虹色に輝いている。

 目の前にはウーシアが立っている。
 彼女が細身の剣を突き出してきた。
 ボクはそのまま手を突き出す。
 剣は光の粒子に還元されていく。
 これがボクの力。心の光
 彼女は高速で数歩、後ろへ後退し、そのまま光弾を放つ。
 ボクは彼女を壊したくないと思っている。
 でも…彼女は悲しすぎる『命』だから…
 ボクは光の剣を虚空から創出させた。
 光弾は無視していい。
 光によってエネルギーは拡散されて、ボクには届かない。
 ボクは飛翔して、そのまま彼女を貫いた。

 最後の瞬間に彼女の顔が微笑んでいたように見えたのは……
 ボクには本当のところはわからないけど…
 彼女は救われたんだよね?





 なんだか疲れた。
 ボクはふらふらになりながら、お母さん達が待っている場所に戻った。

「「シア!!」」

「ただいまぁ」
 最後はほとんど落下に近い形で地面に不時着。
「オリジナルがこれほど強いとは…」
 フォーレがボクをにやにやとしながら観察している。
 ボクはフォーレを睨みつけた。
「ボクはあなたを許しません」
 そのまま、ボクは力を使って、フォーレの持っていた銃を蒸発させた。
「何をする!! 私を殺せば、国の全軍がお前達を追ってくることになるぞ」
「ボクの力だったら、たとえ全軍を相手にしても全滅させる自信があります」
 ボクはフォーレの目の前に手を翳した。とたんに青い顔になる。
「やめろ!!」
「殺す」
 ボクはそのまま光弾を撃つ。
「うわああああぁぁ」
 光弾はフォーレのすぐ横をかすめて、地面を抉った。
 フォーレも命を持っている存在だから…ボクには殺せない。
「ボクは誰も殺さない。ボクは兵器じゃないんだから。ボクは人間だから」
「ふん、どうせ国に帰れば、兵器をひとつ破壊することなんぞたやすい。さようならシアちゃん、セリナ博士。そしてヴィッツさん。不良品は破壊することにします」
 フォーレはまた不敵に笑い去っていった。
 これでよかったのかな?
 ボクは……






 あと少しで夜が明ける…
 おかしいな…ひどく眠たい…
 ボクは死んじゃうのかな?
 あっ…
 身体が支えきれなくて、ボクは地面に倒れこんだ。
「シア……」
 お母さんとお父さんが遠くに見える。視界がぼやけてきた。
「お母さん…」
 だめだ…力が入らないよ。
「なに? シア」
 お母さんはボクの口に耳を近づけて、ボクの言葉を必死に聞こうとしてくれている。
「人魚の話…最後はどうなったの?」
 お母さんは涙で赤くなった目をぬぐうこともなく、ゆっくりと口を開く。


『やがて…いつの日からか…人形だった"その人"に心が生まれました』

『"その人"は記憶も心もまったく、"人間"が愛していた"その人"とは別人でした』

『それでも、"人間"は"その人"を愛しました』

『"人間"にとって"その人"はあくまで"その人"だったからです』

『人形にすぎなかった"その人"も"人間"を愛するようになります』

『"その人"はある日、言いました』

『私は、あなたの愛していた人とは別人です、それでも私を愛してくれますか?』

『別人ではないんだよ。君の中に僕の愛した人がいる。君は"その人"なんだ』

『"その人"はいきなり泣き出してしまいました』

『どうしたんだ? "人間"はおろおろしながら尋ねます』

『あなたは私を愛してくれているわけではなくて、"その人"を愛しているだけなのよ』

『そんなことはない!! "人間"は強い口調で言います』

『僕は君が好きだ。それは君の心が好きだからだ。君が君であることが好きだからだ』

『私の心は創りものなのよ』

『違うんだよ。心はもっと、もっと単純で複雑なものなんだ』

『"人間"はいつのまにか泣いていました。"その人"も泣いていました』

『"人間"は呟くようにして言いました』

『それは、僕が君を君と思うこと。そして君が自分を自分だと思うことなんだ』

『私が私を?』

『そうだよ。それこそが今、僕の目の前にいる僕が好きな人なんだから』

『"人間"は"その人"を抱きしめました』

『そして、二人は幸せにくらしました』

『死が二人を分かつまで…』





「お母さん…ありがと…」
 ボクはもう…眠たいよ。
「シア…お願い死なないで」
「シア死ぬな」
 お母さん、お父さん…ごめんね……
 もう……

 ボクの意識は闇に飲まれた。






 ここはどこだろう? ボクが生まれた場所?
 周りは暗くて何も見えない。ボクはどこにいるのかわからない。
 ボクは死んじゃったんだ。
 寒いよ……お母さん…お父さん…


(やっと会えたね)
 えっ? さっき心の中に聴こえた声とおんなじだ。
 闇の中で現れたのは…ボク?!
 そのコはボクと瓜二つって感じだった。
「誰?」
(私はパルーシア)
「そうなんだ…最後なんだね」
 悲しい気持ちが湧き上がる。
 パルーシアさんはボクの変わりに生きる。
 ボクは死なないといけない。
「お母さんとお父さんに、ボクは生まれてきてよかったって伝えてください」
 泣いたらだめだよね…
(シアちゃんは生きたくないの? 正直に答えて)
 お母さんに似た優しい声、ボクは我慢できなくなって
 涙があとからあとから零れだす。
「ボクは……生きたい…」
(そう。シアちゃんの願いを叶えてあげる)
 ボクはパルーシアさんに抱きしめられた。
 途端に強烈な睡魔が襲ってくる。
(シアちゃんの中に私が存在することは、私の中にシアちゃんが存在することなの)
「パルーシアさんが…パルーシアさんでなくなることはないの?」
(シアちゃんが今、シアちゃんで在ると同時にPALとして在るのと同じことよ)
「ボクは…パルーシアさんとおんなじ存在?」
(私という(ダー)存在(ザイン)するのが、私であり、あなたなの。だから同一であり、他でもあると言えるんだよ)
 わかったよ。ボクはボクのまま、パルーシアになるんだ。
(一緒に生まれ変わろうね、シアちゃん、ううん私の中のボク)
「うん、生まれ変わろう、ボクの中の私」

 光が満ちて…闇が追い払われていく。
 融合と生誕の地平線に
 星が生まれ
 心の宇宙が創造された。






 最初に感じたのはあたたかさ…
 何があったかいのかなって思って目を開けたら、
 お母さんの涙だってわかった。
 悲しまなくていいんだよ…
 ボクは生きているんだから。
 最初の一言めは何て言おう。
 見ると、太陽は地平線から顔をだし、緑色の草原がさやさやと揺れていた。
 風はあくまで暖かな微風を紡ぎだし、空は青く冴え渡っている…

「きれい…」

 ボクの心が感じた。まぎれもない真実
 それは生まれ変わったボクが初めて発した言葉になった…








Uni☆Birth end







 あとがき…っぽいの

 さてさて、やっとこさ終わりました。

 今回の物語はこれで一応完結ですが、これからあとはどうなるんでしょうね。

 実はな〜んも考えてなかったりします。

 そのほかにもいろいろと破綻が…

 まあ、SFっぽい雰囲気がでていればいいなぁと思います。

 最後にこの場をお借りして



 さんくす♪

 新しいイラストを提供してくだささった、地駆鴉さん

 宇宙の背景を提供してくださった、かわねぎさん

 文章のアイディア、HIKOさん、もぐたんさん、南文堂さん  に大感謝の意を表明します。



 ↓に今回のモチーフにしたものを挙げます。

・アルジェントソーマ――最終話近くをちょっぴり――

・ショパンの夜想曲2番――これ聞いて執筆―――

・最終兵器彼女―――ピグな少女はお気に入り――

・イエスの『悟りの境地』と『オープン・ユア・アイズ』――これ洋楽です。

・ハイデッガー『時間と存在』――かなり曲解しちゃいました。全然作品とは関係なしかも…名前はそのまま取りました。

・タイムトラベルの謎――量子テレポートについての勉強です。不確定性原理についても多少なりとも学びました…全然わからなかったですけど(^^;

 それでは、ここまで読んでくださり、ありがとうございました。


この作品の感想は感想掲示板へどうぞ。

目録に戻る