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「25点………古文なんてだいっ嫌いだぁ!!!」
 そう言って、答案をクシャクシャにしながら、石川京一(16)はため息を付いていた。
 普通であれば、答案用紙をクシャクシャにしてしまうと後が大変なのだろうが、彼の父親は彼の現在通っている高校の教師・おまけに古文担当。さらに言えば、さっきの解答用紙を採点したのも彼の父親なのだ。
 だから、答案用紙だけをどうしようが全て親にはつつ抜けになっているわけで、手元にある答案をクシャクシャにしようが破ってしまおうが大した違いは無い。
「どうせ今日の夜は、親父にくどくど言われるのがオチなんだ」
 そう言いながら、とぼとぼと自宅の自分の部屋へと向かうのだった。

 あ・ここで『実はこの子は神社の息子で…』などというオチはないですから念のため♪ 何せそっくりな書き出しが…(以下略)


新しい同居人
作:keyswitch




 ということで、時間は過ぎて、夜・というよりもすでに深夜に近い時間帯。
「おそいなぁ、親父…どっかで事故でも起こしたかな?」
 もっとも、帰ってきたところでお小言をいわれるのがオチなので、そんなに明るい気分で待っているといわけには絶対にないのだが、流石に親1人・子1人の家族構成のため、心の片隅では心配をしているのが本音だった。彼の母親は…あとで説明ね♪
「いつもなら遅くなるときは必ず連絡があるはずなのに…何か急な会議でもあって、それが延びてるんだろうか?」
 そう思いながら…深夜番組を見ながら父親の帰りを待っているのだった。この辺りは彼も律儀というか何というか…もっとも、明日が休日という理由もないわけではない。



 そして…時計の長身と短針が同時に12を指す直前、玄関のドアが開く音と同時に
「今帰ったぞ〜」
「失礼しま〜す」
 と聞き慣れた父親の声と…聞き慣れない若い女性の声が玄関から聞こえてきた。
(やっと帰ってきたのか。どこかで宴会でもしてきて、帰れなくなった同僚の教師でも連れてきたのかな?)
 そう思いながら、玄関へと出迎えに行く。やはり律儀というか何というか。
「おかえ………」
 京一は、玄関までで迎えに行って………言葉を失う。
 それはそうだろう。父親の隣には、自分と同い年くらいだろうか…とてつもなくかわいい女の子がいたのだから。
「………親父…まさかとは思うが、援助交際なんかしてきたんじゃねえだろうなぁ!」
 その瞳には、怒りの炎がめらめらと…ということはなく、完全に侮蔑の眼差しが秘められていた。
「何をいっとるか、そんな事するわけがなかろう。仮にも儂は聖職者だぞ」
「なら、その聖職者が何でこんな時間にそんな女の子を連れて来るんだよ!」
「今日から一緒に住むことになったのでな。迎えに行って遅くなった」
「よろしくおねがいしま〜す♪」
「………はぁ?」



 というわけで、場所は変わって居間・3人はお茶を飲みながら顔を見合わせている。
「………というわけで、この人は今日から我が家の一員となったわけだ」
「おい! 居間に座ったとたん『というわけで』といわれても何も内容はわからんぞ」
「うーむ。普通の話ならこれだけで、説明が終わってるはずなんだがなぁ」
 たしかに普通の小説ではそういうお約束もあるのだが…作者のみのお話モードに入ってうだうだ説明するのも面倒だから、出来れば当人の口から話して欲しいのだけどね。
「そう言うことなら、話してしんぜよう」
「…誰に向かって話してるんだよ、親父は」
「どうでも良かろう。大体がそんなところに突っ込まなくていい。
 では回想モードと行くか」
「だから…」

「お前の母さんが亡くなったのは、お前を産んですぐのことだったよな」
「何でいきなりそんな話に。
 親父がずっとそうやって俺に言い聞かせていたんじゃないか」
「うむ。じつはな…お前の母さんは死んではおらんのだ」
「はぁ? それってどういう…」
「では回想モードスタート」
「…それはやめろ…」



「あれは、儂が20歳の頃じゃった………大学生をしておった儂は、古史の研究のために、とある山奥の小さな村に行っていたときのことじゃった。
 その村は、地図には載っていないほどの山奥の小さな小さな村・というよりも集落で、住民もわずか十数人というところじゃった。
 
 そこで…儂は彼女と出会った。彼女はまだ150歳という少女じゃったが…」
「ストップ」
「なんじゃ? 回想シーンを止めるとは非常識な」
「どっちが非常識なんだ!?
 なんで150歳で『少女』だったんだ!?」
「見た目は15歳の子じゃたからのう」
「なんじゃそりゃぁ…というか、見た目が15歳って、親父ってそう言うシュミがあったのか?」
「失敬な。ちゃんと20歳の時と言っただろう、そのころではそれくらいの年齢差はものの数ではなかったぞ」
「親父、日本語が変」
「古文ではこれであっておる」
「うそつけ」
「それはそれは美しい女の子だった。儂は人目でその少女に心を奪われてしまったのじゃ」
「…いつの間にか話が元に戻ってるし…」

「そして、儂は研究に明け暮れると同時に、彼女との清い交際を続けておったのじゃ。
 じゃが…楽しいときほど時のたつのは速いもので、5年の月日があっという間に過ぎていった」
(さらっと言ってるが…それって逆に言えば、最低でも25歳まで大学にいたって事だろう。何年留年したんだよ)
「ん? なにかいったか?」
「何も言ってないぞ」
「そして…別れ際に約束をした。儂が晴れて教授となった暁には、必ず君を迎えに来ると。
 そして、一緒に暮らそうと………」
「はい、確かにそう言われました」
 そう言って口を挟んだのは…一緒に座ってニコニコしている少女だった。
「………はぃ?
 ってことは、キミは、親父の奥さんになると言うことで…というか、過去形だったから俺の親父の奥さんになったという事になって…俺の母さんって事になるのか?」
「はい、そうです♪」
「そ…そうです。っていわれても、信じられることと信じられないことがあるわけで」
「京一は信じないのか?」
「信じられるか! そんな事!!
 同い年くらいの女の子に『お母さんですよ』なんて言われて『はいそうですか』って信じるような人間がどこにいるっていうんだ!!??」
「儂は信じておる。事実じゃからな」
「私も信じていますよ。私のお腹を痛めた子ですから」
「あんたらは当事者だけど…………って、俺も当事者か。
 でも、俺にはそんな記憶は全くない!」
「それはそうでしょう。生まれてすぐに人間界へ里子に出されましたから」
「へ? 人間界? 里子??」
「ああ、説明しとらんかったか。
 彼女は人間じゃない。妖怪なんだ」
 その、教師でもある父親の口から発せられた信じられない単語に、完全に固まってしまう京一だった。
 


 固まった息子の姿を見ながら…
「ではそろそろ、母子2人にしてくれますか?」
「うむ、そうだな。つのる話もあるだろうし」
「…一度も会ったこともないのに『つのる話』なんて存在する訳無いだろう!」
 を、復活したみたい。
「照れちゃってぇ 可愛い♪」
「絶対違う!!!」
「では、儂は先に眠らせてもらうとしよう」
 そう言って父親が部屋から出て行き…ふたりっきりになってしまった。
「…………」
 こういう状態に置かれた場合、男性側の行動は大体パターンとして決まっているだろう。だが、さっき『自分の母親』と言われてしまっている以上、何もできない状態になってしまっていた。
 …何かしてしまったら、このお話は絶対に表には出せなくなるからね♪ 早まっちゃ駄目だよ、京一君♪



「それではそろそろ本題に入りましょうか。
 京一にかかっている封印を解くか解かないかを決めなければいけませんね」
「何だよ、その封印ってのは。
 というかいきなりで話が見えないんだが…」
 大丈夫だよ、いきなりのことだから作者も読者様も何も見えていないはずだから♪
「私の血を引いていると言うことは、それなりの妖力を持っている事になります。しかし、その力は人間界で暮らすためには全く無用の力・いえ、逆にあってはならない力だったのです。そんな力を持っていることが判ったら、人間界で暮らす事など到底不可能でしょう。
 そこで私は考えました。ならば、その力を封印してしまえばよいのだと。そうすれば、見た目では全く判断が付きませんから、人間界でも問題なく暮らす事もできると考えたのです。ただし…力を封印すると、成長速度も人間と同じ速さになってしまいます。つまり、私たちよりも10倍も速く年をとりやすくなってしまうのです。私は悩みました。そして、ひとつの賭に出ることにしたのです。
 私の子供に封印をかけて人間界で生活をさせ、知識を蓄えた時・私と同じ歳になったときに封印をといてあげようと」
「ってことは、俺は、キミと…いや、母さんとおなじ『妖怪』だというのか?」
「ええ、そうですよ♪」
「…そうさらっと言われても…現実味が無いというか、実感がわかないと言うか…
 それ以前に、見た目・同い年程度の普通の女の子にそんなことを言われても、にわかには信じがたいと言うか…」
 実際は、母親が生きていたことに対しては非常にうれしいのだが、その母親がまさか妖怪で、なおかつ見た目的な年齢が自分と同い年の姿だとしたら…普通は信じることは出来ないだろうね。
「では、封印を解けば信じてもらえますか?」
「まぁ…どんな風に変わるのかにもよるわなぁ」
「それはもう! 劇的に変わりますよ♪」
「…それが胡散臭い!」
「これでも胡散臭いですか?」
 そう言ったかと思うと、少女はすっと立ち上がり何か呪文のようなものを唱え始める。
 呪文の詠唱が終わったときには…目の前の少女は確実に変化していた。普通の人間にはあってはいけないものが彼女の身体から生えているのだった。
「それって………その頭の上に付いているものって…」
「そうですよ」
「ネコ耳♪」
「どこがです! あんな人間に飼い慣らされた下等な動物と一緒にしないで下さい」
 そう言って怒った時に…尻尾があるのが目に入る。その尻尾は茶色で、先端だけが白くなっている、ふさふさとした尻尾だ。ここまで見てしまえば、誰でも判るだろう。
「あんた…」
「やっと判りましたね」
「タヌキか!」
 その瞬間、少女の手元にあった本(どうやら辞書のたぐいだったらしい)が直線で京一の顔面へと飛んでいき、(辞書の角が)完璧にヒットした。
「冗談でも言ってはいけないことはあるんですよ♪」
 恐ろしいことをしておきながら、笑顔でさらりと言ってのける辺りは流石に『亀の甲よりなんとやら』といったところか。
「ふ…ふぁい」
 顔面を押さえながらついうっかりとぼけてしまったことを後悔する京一だった。


「ということは、俺の中にも妖怪の…その…狐としての血が流れているって訳なのか」
「そうですよ。多分ですが、無意識に能力の一部を使ってませんでしたか?」
 そう聞かれて…今までの生活を振り返る。
 夜・真っ暗だったはずなのに、何故か辺りがしっかりと見えていたことがあった。
 体育の時間・瞬発力の測定で並はずれた数字を叩き出したこともあった。もっともそれに反比例するように持久力はあまりなかったのだが。
「………ないなぁ………」
「それって嘘でしょう?」
 さすがに頬を伝う一筋の汗を見逃さなかったらしい。だが、京一の方もここで『あった』などと言おうものなら、未来は真っ暗になりそうな予感がひしひしとしていた。

「なぁ」
「なあに?」
「俺の封印を解かないと、俺は一体どうなるんだ?」
「どうもなりませんよ。そのままの姿で暮らす事になります」
「なら、俺はこのままの方が…いいな」
「あなたがそう思うのなら、私はなにもしません。
 でも、我が子の方が父親よりも先に逝く姿を私は見たくないですわ」
 そう言って彼女は、悲しそうな顔(の振り)をする。
「え゛、逝く…って?」
「そのまま封印を解かないと、封印を施した相手・つまり私の年齢を超えるとそこから急激に成長が進んで…大体寿命がさらに1/10位になってしまいます。つまり、あなたの寿命は…人間の寿命が80年だとしたら…そうですね、あと約6年と言うことになりますね♪」
 高校生が『いきなりあなたの寿命は後6年です』といわれたら…まぁ、普通焦るだろうねぇ。
 京一もその中の1人だったらしく慌て出す。良かった、普通のキャラで。
「俺の命は、後たった6年だってぇ!?」
「封印を解かなければ・の話です。
 封印を解けば、私と同じように成長がゆっくりになりますよ」
「それって…逆に人間の10倍近い寿命になるって事か?」
「ええ、そうですよ。
 それと、あなたに封印するときに特殊な方法を使いましたので、封印を解除すると性別が入れ替わってしまう可能性がありますけど、まぁそれは寿命に比べたら些細なことですよね♪」
「まてぃ!! それのどこが些細なことなんだぁ!
 ってことは、もしかしなくても俺にかかった封印が解ければ…」
「女の子になる可能性がありますよ」
「あああぁぁぁ………」


 前門の虎・後門の狼とはまさにこのこと…ちょっと違うな、前門の早老症・後門のTS症(キツネ耳・尻尾付き)といったところだろうか。
 どちらを選ぶかはあなた次第。さぁ、あなたならどちらを選びますか? え、躊躇無く後門を選ぶんですぁ? まぁ、人の好みに口出しするつもりは毛頭ありませんけどね。
 私ですか? もちろんそれ以外の方法を作っちゃいますね。でも今回京一君には、これ以外の選択肢はあげませんよ♪


「あ、必ず女の子になるという訳ではありませんよ。あくまで『可能性がある』というだけです」
 その一言に、一筋の光明を見いだしたような顔になる京一。それはそうでしょう、今まで健全な男として育ってきた以上、いきなり『女の子になります』といわれても『はいそうですか』といって受け入れられる訳はないですから。まぁ、一部の人間ならすんなりと受け入れられるかもしれないですけど。
「で、その可能性ってどれくらいなんだ? 1割とか2割くらいなのか?」
「まぁ、半々といったところですね。
 封印の解除自体が『生まれ直し』や『転生』に近い意味合いもありますから、普通の子供が産まれる時と同じで元の性でいられるか異性に変わるかは神のみぞ知るというところですか」
「………って事は、確率は50%・めちゃくちゃ不利じゃ………」
「寿命に関わる問題ですから、性別なんて、別に不利・有利という問題ではないでしょうに」
「俺にとってはすさまじい大問題なの!

 で、数日位はゆっくり考えることぐらいは出来るんだろう?」
「大丈夫ですよ。成長が今の10倍に加速し始めるのは48時間後ですから、それまでにゆっくりと考えれば良いことです」
「ゆっくりって、今日は金曜日…もう12時過ぎたから土曜日って事は、日曜日いっぱいって事じゃないかぁ!!!」
「ですね♪」
「『ですね♪』じゃない! 俺の今後の人生をたった2日で決めろってえのか!?」
「そうですよ。まぁ、人生なんてそんなモノでしょう?
 それに、あなたが高校を選ぶときもそのときのノリで決めたって聞いてますし、そんな調子でちゃっちゃっと決めちゃってくれればいいんですよ」
「………なぜそれを………」
「出来れば今すぐにでも結論を出してくれると、お母さんとしては嬉しいなぁ。
 そうすれば、明日の朝までには封印が解けて、一緒にお買い物が出来るしね♪」
「それってもしかして、自分の都合? っていうか、俺が女になることを前提に話してないか?」
「うん♪」
 流石に頭を抱えてしまう京一だった。

「とりあえず、考えさせてくれ」
 そう言って居間を後にして、自分の部屋へと向かう京一の姿があった。




「どうすりゃいいんだよぉ…俺は」
 京一は自分の部屋のベッドに横になって…身じろぎひとつせず考え込んでいた。
 まだ16歳の若さの彼としては………もちろん、決心は決まっている。
 流石にこの若さで死ぬのは嫌なわけで、結局は母親の言う言葉を受け入れて封印を解くことに同意しようと考えているのは確実。
 それに、性別が変わる確率はあくまで50%・女性にならない可能性だってある。まぁ、女になったところで、今の自分からそんなに変わることはない・その事実を隠し通せば済むだろうとの考えがおよんでいるらしい。
(あまいねぇ、京一君。そんなことをこの界隈の作者や読者様が許すと思ったんでしょうか?)
「とりあえず、死にたかないよなぁ。となると、選択肢は一つしかないって事だし。
 だが、妖怪になっても男のままでいられる可能性も半分はあるって事だろう?
 一か八か…人生ってチップを賭けてみるってのも悪くはないかもしれんなぁ」
「やっと決心がついたみたいですね♪」
「うわっ! どこから入ってきた!!??」
「どこからって…そこの入り口からに決まっているでしょう♪」
「例え親子でも、子供の部屋に勝手に入る親がいるのか?」
「地元ではそれが普通なんですよ。もっとも、子供部屋があること自体珍しい話ですけどね」
「そう…なのか。
 とりあえず、出てってくれないか?」
 恥ずかしさと気まずさから、声がうわずっている気もする京一だった。
「そう言うわけには…いま、あなたは今後を決めましたよね。
 善は急げといいますから、すぐにでもあなたの封印を解いてあげようとおもって来たのですが…」
「そ・そうはいわれても…心の準備という物が…」
 この期に及んで、後込みをする京一君。
 よくお話や漫画の中なので『封印を解く』と呼ばれるシーンでは、地面になにやら訳の分からない文様が描かれて、封印を解かれる人物がその中でもがき苦しむというシーンが彼の中ではフラッシュバックのように流れていたのだった。まぁ、大体の人ならそう考えてもおかしくはないんだろうけどね。

「何か勘違いをしてません?」
 そういわれて…冷や汗を流している自分に気づいたらしい。
「封印を解く行為自体に苦痛など問うことは全くありませんよ。
 あんな人間が尾ひれを付けたようなうわさ話を真に受けないようにして下さいね」
「じゃあ、封印を解くって、どうやるんだ?」
「母である私と、子供であるあなたが、一糸まとわぬ姿で一晩抱き合うだけですよ」
「え゛!?」
「そのなかで、私があなたにかけた封印が、私自身の妖力で中和されて解ける仕組みです」
「で・でも・・・あ・あの・・・・・」
 どうやら、『一糸まとわぬ』の一言に次の言葉が出てこない京一君のようだった。
「当たり前ですよ。身体を接触させる面積を大きくすることによって、私のかけた封印を私の妖力で中和の速度を速めるのですから。
 手をつないだ程度では1年経っても封印は解けませんよ」
「で・でも…親子で…その……あの………」
 すでにその顔は真っ赤になっていた。純だねぇ〜


 と、
 京一の目の前で彼女の方が、1枚・また1枚と着ているものを脱ぎ始める。
「か・母さん…」
 そんな言葉にも耳を貸さず、彼女は身体にまとっていた全ての衣服を取り去っていた。
 流石に健全な男の子(のはず)の京一君にとっては女性の裸は好奇心の対象ではある物の、実の親である以上ついつい姿を見ないように、脱ぎ始めた直後から回れ右をして彼女の姿を見ないようにしていた。しかし…
「今度は京一の番♪ さぁ、早く脱いで♪」
 そういって彼女は、背中から京一に抱きついてくる。
 抱きつかれた京一背中には母の柔らかい胸の感触が…感触が……感触がなかった。確かに母の身体のぬくもりは感じるのだが、その温かさは…何かを通して暖かさに感じたようだ。

 おそるおそる…といった感じで、京一は母の方を見る………その姿は…
 確かに、両手・両足と頭部は自分と同じ人の姿をしていた(もっとも頭からは耳がぴょこんと出ているので全く同じとは言いきれないかも知れない)のだが、身体全体は…キツネの体毛で覆われていた。ちょうど、キツネの毛皮で出来たハイネックの服とショートパンツをはいているような姿だったのだ。
「母さん…その姿は?」
「やっぱり、親子とはいえ…同い年位の男の子に自分の裸を見せるのって………恥ずかしいもの…
 これぐらいは隠させてくれてもいいでしょう♪」
 そういいながら下をぺろっと出すしぐさをする。
「俺は良いのか! 俺は!」
「そりゃそうでしょう。子供の成長を見るのは親の権利ですからね♪」
「………」
「それとも、見たかったのかしら?」
「そ…そりゃぁ、見たくないっていったらウソになるけど………」
「それは好きな人が出来たら見せて貰うようにしなさい。もしくは…自分自身が女の子になったら好きなだけ見なさいね♪」
「自分の裸を見てうれしがる人間がどこにいるんだ!!」
「まぁ、この界隈には結構いるらしいですけど♪」
「………どこだそこは」
 どこなんでしょうね。そう言うツッコミはしないで下さい。



「………」
 どうやら、意を決したようで服を脱いでベッドの中へと潜り込む京一君。とはいえ、やっぱり見られるのは恥ずかしいので、母親に『いいって言ったら入ってくる』様にいって部屋から追い出してしまったのだった。
「母さん………いいよ」
「そんなに恥ずかしがる事なんてないのにね」
「俺が恥ずかしいの!」
 と、母親がベッドの中へ入ってくる。京一君は背中を向けているので…丁度背中から抱きつかれるような感じになる。
 ………うらやましがらないようにね。あくまでも『親子』なんだから、そんな話にはなりませんよ。

「でも…本当に大きくなりましたね」
「母さんが俺を最後に見たのって…俺が幾つの時なんだ?」
「生まれてすぐに、彼に託しましたから…本当に16年ぶりですね」
「寂しく…なかったのか?」
「そりゃぁ、寂しいかったわよ。自分のお腹を痛めた子供に会えないだなんて…
 でも、今・こうして成長した貴方に会えたんだから…こんな嬉しいことはないですよ」
「で…親父はこれからは一緒に住むって言ってたけど………」
「ええ、そのつもりです。
 私も人間社会のことを学び・貴方も妖怪としての力の使い方を学ばなければなりませんからね。これからは一緒に暮らせます。
 私はあなたと一緒に…親子で暮らせるだけで・それだけで…幸せですよ」
 母親の幸せという言葉に、複雑な想いになる京一君。確かに家族一緒に暮らすのが一番いいのは解ってる。でも、例え母親とはいえ、自分と同い年の女の子がひとつ屋根の下で暮らすとなると………
 とかいう、古い考えを持ってる彼なのでした。 まぁ、杞憂に終わるんですけどね。
「ちょっと待て、なにが『杞憂』に終わるんだ!?」
 作者の愚痴を聞くなんて反則はダメですよ!

「でも………京一の身体…温かい」
 そう言って母親は京一の背中にしっかりと抱きついてくる。とはいえ、その身体は狐の体毛で覆われているので『ふさふさ感』しか感じられないのだが…
「母さん………」
「なあに?」
「本当に…俺の母さんなんだよな」
「信じられない?」
「頭が混乱してるのは確かだけど………でも、何か懐かしい感じがするのは…気のせいじゃないと思いたい」
「心配しなくても、母さんはずっと京一のそばにいますよ」
「でも、動物の子供っていつかは親離れしていくもんなんだろう?
 だとしたら…」
 いつかはこの母親とも…
「その心配はいりませんよ。
 妖怪としての私達はすでに絶滅寸前にまで衰退しています。ですので、親子は一生一緒にいるのが普通なのです。もっとも、今まで暮らしてきた集落から出ることがなかったので自然にそうなってしまったとも言えますがね。
 もちろん、子供が自分の意志で外へ出ていく場合はその限りではありませんよ」
「ってことは、母さんの両親も…」
「ええ、喜んで村を送り出してくれましたよ。
 それに別れるといっても、永遠の別れじゃありませんから。人の数十倍以上の寿命を持つ妖狐属にとっては、数十年なんて短いものです。
 あなたと暮らせなかった時間の方がどれだけ長く感じたことか…」
「………………」
 時間の単位の変化で頭が混乱し始めているのと、母親に抱かれているという心地よさから、だんだんと京一の意識は夢の中へと引き込まれていった。
「さぁ、ゆっくりとお眠りなさい。
 次に目がさめたときには、あなたは立派な妖狐に生まれ変わっていますから」
 その言葉が耳に入ったのかどうかは判らないが、京一は母の胸で安らかな寝息を立て始めていた。
 その寝顔を見ながら…母は、涙を流していた。うれしくて…心からうれしくて。

「この刻をどんなに長く感じたことか。やっと…やっと会えましたね………京一」





 ちゅんちゅんちゅん…
 小鳥のさえずりの音が聞こえた瞬間、京一はまるでゼンマイ仕掛けの人形のように跳ね起きる。
 その姿は…昨日とまったく変わっていなかった・つまり男性のままだった。
「やった〜!!! 男のままだ〜〜〜!!♪」
 それを確信した京一は、飛び上がらんばかりに喜んだ。 あの〜、ちゃんと服を着てからそう言うしぐさはしてくださいね。
「それを早く言え!」
 そそくさと服を着ようとする京一君だった。
 が、作者も読者様もそんなことでは許してくれない♪ ちゃ〜んと考えてありますよ〜♪

「さぁ、京一。自らの変身を解いて見なさい」
 母親がいきなりへんな言葉をいう。『変身』?
「封印は解けました。ですが、あくまで封印がなくなっただけであって、あなた本来の姿に戻ってはいないのです。
 今の姿は、ただ単に今までの身体がそうなっていたように、封印時のまま固定されているだけなのです。いわば『昔の自分の姿に変身』している状態なだけです。
 自らで、その封印を解除しない限り、結局は元の木阿弥ですよ」
「でも、どうやって…」
「簡単なことです。心の中で『願えば』いいのですよ」
 そういうと母親は、精神統一をはじめたようになり…そして、しばらくして耳と尻尾が隠れて、どこからどう見ても普通の人間の少女の姿になっていた。
(ちなみに彼女はすでに衣装を着ているので念のため)

「さぁ、やって御覧なさい」
 いわれたとおりに目を瞑り精神を統一させてみる。そして、心の中で『元に戻りたい』と願いつづける。
 そして………京一の身体が金色のもやのようなものに包まれたかと思うと、そこから『ぴょこん』と、あの耳と尻尾が現れる。それを見た母親は、
「封印解除は成功しました。よかったわね、京一」
「母さん………ん?」
 その声が、今までより数オクターブ以上高いことに本人が気づく。
 そして、金色のもやが晴れたそこには…神々しいまでの美しさを持った少女が一人立っていた。



(と、ここでとりあえず、一通りのお約束シーンがあったと思ってください。手抜きではありません。読者様の想像力のほうが説明にはうってつけですので………ああっ、石を投げないでぇ)



 背格好が母親と瓜ふたつだったので、母親の衣装を借りることにした京一だった。あたりまえだが、女性用の服装などは着た事が無いので、母親に1から10まで説明を受けての着付けだったのだけど。
「ほんとに綺麗ねぇ…母親の私から見ても羨ましい位」
「多分、今まで封印されていたせいで、女性としては無垢な状態で育ったのだろう」
「あんたら…人の身体だと思って言いたい放題…親だったら少しは子供の事を心配しろ!」
 いらだった表情になっている…つもりなのだが、どう見ても拗ねているようにしか見えない女の子の姿の京一クンだった。
「あら、何を心配する必要があるの?」
「そうだぞ、息子が娘に代わったくらいで動じるとでも思ったのか?」
「………ぉぃ………」
 さすがにこの言葉にはぐうの音も出なくなる京一だった。そりゃそうだよね、息子が娘に代わったら普通は大騒ぎ・どころではないはずなのに。
 まぁ、妖怪と・それを知っててなおかつ結婚した親父だけのことはあるということでしょう。
「こら、勝手に読者を納得させるんじゃない!」
「何を話してるの? それよりも、女の子になったんだから『女の子らしく』なりなさいね♪」
「男だっつーの!」
「説得力が無い」
 あったら怖いと思いますけど…かわいらしい女の子が『男だ!』といわれて納得するようだったら…

「さて、珠藻の住民登録と、戸籍登録・それに高校への編入届はすべて済ませてある」
「母さんって『珠藻』(たまも)って名前だったのか」
「それで、京一…ではまずいな、とりあえず京子と改名する事にしよう」
「かってにきめるな! と言うかそんな事簡単に出来るのか!」
「ふっふっふ・(じゃ)の道は(へび)と言うことわざがあろう。そんな事簡単に出来るわい」
「親父にそんな権力が…」
 ほんのちょっぴりだが父親の事を見直す。
「いや〜、 新しく出来た住○ネットが学校のパソコンからでも操作できるのに気がついてな、この儂でも簡単に扱えるものだから、ちょちょいのちょいっと♪
 あっというまじゃったぞ」
 こらこらこら、それは言ってはいけない言葉なんですけど。
「ということで、珠藻は京子の双子の姉妹として登録しておいた。もちろん珠藻の方が姉じゃ。
 で、来週からは京子と一緒に高校へ通って人間界の事を学ぶんだぞ」
「はい♪」
「って、俺の意向は無視かい!」
「おまえに意向なんてあったのか?」
「こら〜〜〜!!!」



 とまぁ、どたばたが絶えない家族になってしまったようで。
 とりあえず体裁上は、父親に双子の娘・なのだが、実は両親に一人娘と言う変な家族構成のこの一家、果てさてこの先どうなるのでしょうか?

>つづけますか?


「つづけんでいい!!」
 あ・そなの。元に戻る方法を知りたくないんだ。じゃあ…
「あ、やっぱり続けて♪」
 現金な京子ちゃん♪ でも続きはいつになるかわからないよ〜


 でも続く予定はいまのところありませんけどね♪
「こらぁ!」





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