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キツネの”ムコ”入り!?

作:keyswitch







「はぁ…赤点を1つとっちまったかぁ。どうやって言い訳しよう」

 そう言いながら加藤 樹莉(かとう じゅり)高校3年生は、とぼとぼと歩いていた。その彼の持っている答案用紙には『29点』と書かれていた。つまるところ、後1点あれば赤点を間逃れたというボーダーラインなのだ。
 名前だけ聞くと女の子にしか聞こえないが、れっきとした男の子(母親がサワダケンジのファンだったかららしい)。筋骨隆々…とまでは行かないが結構いい体をしている。
 それもそのはず。彼は体育系の高校に通っているのだから。しかも、国体に出られるほどの技術の持ち主。今まで取った賞の数はすでに数えきれないほどになっていた。
 …という訳なのかどうかは知れないが、片方ばっかり力を入れると、もう片方がおろそかになってしまうのが世の常という物。別に、勉強が出来ないと言うわけではないのだが、レッドゾーン(赤点とも言う)ギリギリのラインを超低空飛行していた彼が、本日初めて、ついにそのラインを切ってしまったという訳なのだ。
 …訂正。勉強は出来ない彼だが、すんでの所で踏みとどまって助かっていたのが、ついにその足元が崩れ去ったと言った方が合っているだろう。
 しかし…肩を落とす彼の姿は、あまりにも情けない物があるのだが…別に赤点の1つや2つや3つや4つぐらい気にしてはいけない。作者だってそれくらいは………恥ずかしい過去を暴露するのはやめよう。
 というわけで、彼は肩を落とし、とぼとぼと家路にとつくのであった。

 だが…たかだか赤点1つでここまで落ち込むことはないのであろうかと思われたのだが…これには彼なりの理由があった。
 それは彼の生い立ちから…は必要ないか。彼の親の職業に関係していた。
 彼の父親は神主をしている。つまりは、彼の家は神社なのだ。そして彼はその跡取り息子となる。というわけで、両親は神道系の学校へと入れたかったのだが、彼はそれを拒否して、とある条件を呑んで体育系の学校へと進学してしまったのだ。で、そのとある条件とは、文武両道(古いって)。曰く、最低でも赤点だけは取ってはならない・もし取った場合は即刻退学して、すぐに神道系学校へと入れるという物…
 ゆえに…この赤点という物は、彼にとっては『死刑宣告』にも等しいのであった。


「中間テストとはいえ…親父もお袋も何故か知ってるから隠すわけにも行かないし………」
(その辺りは後で説明するとして)そういって、死刑台に向かうがごとくとぼとぼと歩きながら家の前まで着いた…といってもそこは神社。目の前には鳥居と石段があるのだが…
「はぁ…この階段…登りたくないなぁ」
 いつもは、基礎体力を付けるためにこの階段を軽々と数往復しているのだが…登りにも関わらず、地獄への1本道の下り階段に見えてしまう。
「今日は知り合いの家にでも………お?」
 階段を見たくない一心から、回れ右をして、ふと目の前の道路を見ると………1匹の動物が横たわっている。動く気配さえないようだが…
「まさか、車にでもひかれたんじゃないだろうな?」
 そう思い、その動物へと駆け寄る。
 さわってみると、まだ暖かい。それに出血などをしている訳ではなさそうだ。
「ふぅ、よかった。大丈夫そうだな」
 腐っても神社の息子、死にそうな生き物を放って置けるわけもなく…とりあえず歩道の方へと戻る。
「しかし、このからだの大きさはネコ…じゃないよなぁ、それにこの尻尾は…」
 そう思っていると…
(もう…妖力の限界です………申し訳ありませんが、貴方の中に入らせて下さい)
 と、女性の声が樹莉の頭の中に響く。
「ん…誰かなんか言ったか?」
 辺りを見回すが…誰もいない。気のせいかと思って、助けた動物に目を戻す…と、
 その身体が、だんだんと輝き始めた。
「な…なんだぁ!?」
 そして…その輝きがその動物と共に樹莉の身体までも包み始める。いつもなら身体の方が勝手に動くはずなのに、何故か今は金縛りにあったように全く動かない。

(わたくしの名はキリュウ…妖力が回復するまで、貴方の身体をお貸し下さい)
 また、樹莉の頭の中に声が響く。
「それってどういう…」
(言葉通りです。私が貴方の中に入るのです)
「勝手に人の身体にはいるな!」
(貴方とは霊波が一致します。霊波が一致しない人の中には入れないのです。人助け…ではないですね、狐助けと思って協力して下さい)
「き…狐だとぉ!?」
 その瞬間、自分の神社の守り神が狐だということを思い出す。
「まさか…ウチの神社の守り神…」
(あら…わたくしの神社の方だったのですか。どうりで、馴染みやすいわけです。ならば、別に問題はありませんね)
「俺にとっては大問題だぁ!」
 そして…樹莉の思考さえも輝きの中に包まれていった。


「ん………」
 樹莉は、まだ痛む頭に手を当てながら、何とか立ち上がった。
 どれぐらい気を失っていたのだろうと思い、腕時計を見ると…どうやらほとんど時間はたっていなかったらしい。が、
 それよりも気になる物が目に飛び込んできた。それは…
「なんで…こんなに腕が細いんだ!?……って、何なんだこの声はぁ」
 そう、腕が細く白く…まるで女の子の手のようになっていたのだった。そして口をついて出た声も、ソプラノの効いた声に…
「い…一体、俺はどうし………」
 そこまでいって…ようやく今あったことを思い出した。
「狐に化かされた…じゃなくて狐と同化しちまった…のか?」
 思考がそこまで追いついて、ようやく事態を飲み込めて…って、普通に飲み込めるようであったら、即人間をやめて神様になれるだろう。普通の人間ならば…
「どうなってるんだぁーーー!!!」
 とパニックを起こし、階段を一直線に駆け上がって自分の家へと入るのが普通の行動…だと作者は思うぞ。

 いつもは軽々と上り下りできたはずの階段が妙にきつく感じながらも、何とか家の中へ入って、一直線に向かうのは…お風呂場。まぁ、一刻も早く自分の姿を見たいと思ったのだろう。
 そして…鏡の前へと立つ。そこに映し出されたのは………
(さぁ、早く『お約束の言葉』をいってくれぇ。じゃないと進まない:作者の心の叫び)
「………」
(さぁ)
「こ…こ…こ………」
(さぁさぁさぁ)
「こけこっこーっ!!」
(たわけものー!)
 錯乱した樹莉に、何故か上空からたらいが落下してきた。その衝撃で、ようやく我を取り戻したようだ。

「これが…俺………なのか?」
 鏡に映し出されたのは…まごうことなき女の子。15歳程度だろうか。しかも幼いながらも妖艶な美しさを醸し出している美少女だった。
 しかし、唯一気になる点があるとすれば…
「この耳は一体…」
 そう、耳なのだ。普通の人間にある位置には何もなく、髪の中から3角形の耳が2つ飛び出しているように見える。そしてその耳の先は…黒い。つまりは、
「まるで、狐の耳じゃないか…」
 そう言うこと。と、ふと樹莉はある違和感を感じた。まぁ、胸には違和感があっても不思議ではないかも知れないが、違和感を感じたのは…お尻。
「何か…窮屈な感じが…」
 そういって、ベルトをゆるめてズボンを少しおろした瞬間………

 ふぁさぁっ

 という感じで、ふさふさした狐の尻尾が現れた。
「これって…俺の尻尾?」
 なにげに…本当に何気なく自分の尻尾に触れる。それは…まさしく狐の尻尾だった。ふさふさしていて柔らかく、羽毛などとは比べ物にならないほど肌触りが良かった。
「きもちいい………」
 少々、ナルに入っていた樹莉の姿がそこにはあった。




「樹莉、帰ってるのならすぐに本堂に来なさい!」
 うっとりとしていた樹莉は、その母の声を聞いた瞬間我に返り…顔を青ざめた。
 いままで、いきなり女の子になってしまったことで忘れていた『赤点』という大問題を思い出したからだ。…もっとも、赤点と女の子になってしまったことを天秤に掛ければ、99.99%女の子になってしまったことの方が問題なのだろうが、今回の樹莉はその0.01%に含まれる方だったのだ。
 足どりも重く…本堂へと向かう。ちなみに尻尾は何とかズボンから出す事が出来たようだ。まぁ、ウエストが細くなったからかもしれないが。

 本堂には、正座をして瞑想に入っている両親の姿があった。
 おそるおそるといった雰囲気で本堂に入る樹莉。そして…両親の前に正座をする。
(赤点取ったこと、思いっきりばれてるよなぁ)
 そう思いながら。

 ここでちょっぴしいらない説明をば。
 樹莉の両親…実は県の教育委員会の委員長を務めているのである。ということで、樹莉の行動は全て両親には筒抜け・テストで何点取ったかぐらいは即座に連絡が入るのだ。まぁ、完璧に職権乱用なのだが『可愛い我が子のため』という大義名分と、今までの実直公正な行動から、その辺りには目をつむってもらっているというのが実状の所だ。
 ちなみに、赤点を取ったらすぐにでも転校できるように、すでに書類は高校入学時には完成したことは樹莉は知っていなかったのだが。

「さて」
 入ってきた足音を聞いた父は、座ったことを音で確認すると、そのまま話を始めた。
「お前もすでに、何故呼ばれたかはわかっておろう。学校からの連絡で、今期の成績であか…………」
 話ながら、目を開けた父親は………目の前に座っている人物の姿を見て…言葉が止まった。まぁ、当たり前の話ではある。
 …というか、目をつむったまま話を始めるのも何だと思うのだが。
 不意に言葉が止まったことを不審に思った母もおもむろに目を開けて…目の前にいる人物を見て…父と同じように硬直する。
 そして………
『…かわいい…』
 あんたら…言う言葉が違うだろうが。確かに父は、可愛さと妖艶さが混ざった少女がいたらそんな反応してもおかしくはないが、母までとは…

 次の瞬間、父と母が、樹莉の方に向かって突撃してくる。それでも本当に両親か。
 そして、樹莉に触れるか触れないかとなった瞬間、
『ひゅっ』
 という衣擦れの音と共に、樹莉は正座した状態から垂直に飛び上がった。そして、何もなくなったところに両親が飛び込んできて衝突…いい音と共に衝突した。そして2人はノックアウトした。
 対して、垂直に飛び上がった樹莉は、3−4mはあろうかという本堂の天井、梁の上に立っていた。その顔は、信じられないと言う表情で。まぁ、普通に考えれば誰だってそう思うだろう。何の反動もなく正座した状態から垂直に飛び上がることは絶対に不可能だ。なのに、今自分はそれを無意識のうちにこなして、例え反動があったとしても人間では登れない場所にいるのだから。
「俺は…一体………」

 とはいえ、両親をこのままにして置くわけにもいかないので、スッと梁から降りる。そして、音も立てずに本堂へと降り立つ。
「母さん、母さん大丈夫?」
 ここで父ではなく母に向かったのは…なぜだろう。とりあえずコンプレックスでないことは、彼女のためにあえて言っておこう。
「う……うーん」
「大丈夫、母さん」
「えっと…あ、あなたは誰?」
 まぁ、これなら普通の反応だろう。さっきの反応は見なかったことにしてもらえると彼女としても嬉しいだろうから、見なかったことにして上げてほしい。ただし父は除く。
「俺だよ。樹莉だよ」
「そんな訳ないでしょう、樹莉は女の子みたいな名前だけどれっきとした男の子よ」
「だから、女の子になっちゃったんだよ」
「そんな事信じられるわけ無いじゃないの」
「信じるも信じないも………」
 とまぁ、すったもんだがしばらくの間続く。
 まぁ、普通に信じられたらそれこそとんでもない話ではあるのだが…

 と、
「どうしたの?、何かすごい音がしたんだけど」
 そう言って顔を出したのは、巫女さんの衣装を着た妹の瑠姫(るき)だった。
「どうしたのお兄ちゃん、すっごく可愛くなっちゃって。おまけにお耳と尻尾まで付けて」
『え゛』
 普通に信じられる人物がここに約1名いたようだ。作者としてはすごく助かる存在だった。
「どうして、俺のことがすぐにわかるんだ?」
「だってお兄ちゃんでしょう。身体の中に誰か別の人がいるみたいだから見た目は違って見えるけど、お兄ちゃんはお兄ちゃんだよね」
「瑠姫、どうしてそこまで…って、お前って元々そういう見る能力があったっけ」
「そうだよーん」
 そう、この家族で唯一、瑠姫だけがそっちの世界の存在を見ることが出来る。そっちの世界とは…説明しなくても解るよね。あなたの知らない世界です。(知ってる人もいるかな?)
 それにしても…その能力もないのに父親は神主をしてたのか、この神社は。世襲制(?)とはいえその辺りも考えた方が良いと思うんだが。
「瑠姫が言うんだったら…間違いなく、本当に樹莉なんだね」
「だから最初からそう言ってるだろう」
 まぁ、どれだけ言っても信じてもらえないのが普通だと思うんだけどネェ。信じてもらえただけ良しとしなければいけないよ樹莉ちゃん。


「でも…何で樹莉がいきなり女の子になったの?」
 気絶したままの父をほったらかしにして女性3人で話し出す。
「お兄ちゃんの中に誰かが入ったのよ」
「誰が?」
「そんな事、見ればわかるでしょう。とがったお耳にふさふさの尻尾といったら、ウチのご本尊の狐さんに決まってるでしょう」
「確かにそうね。でも、なんで樹莉の中に入ってるの?」
「そこまではあたしにもわからないわよ。お兄ちゃんが知ってるんじゃないの?」
「俺が!?。そんな事わかるわけ………」
 ない!。そう言おうとした時、脳裏にイメージがわき出した。




 今から千年ほど前の話だろうか。
 まだその頃の人類は、神をまつる心があった。その心には力が存在していた。それが霊力。
 すでに妖狐になっていたキリュウは、その霊力を自分の妖力へと換え、生きながらえていた。
 しかし、流石に一方的に霊力を搾取していては悪者にされてしまう。そこで一計を案じた。
 それは…自分の妖力の一部を使い、自分が霊力をもらっている人間達の住む村を守るという物…いわば、共存共栄を考えたわけだった。
 もちろん最初から、狐の姿で出るわけにはいかないので、神のような威厳ある姿で、人間達の枕元でささやいたりした。が、流石にすぐには信じてもらえるわけもない。
 が、次の年、大飢饉が発生。にもかかわらず、キリュウの守る村だけはそれを免れて…村人達も『これはもしや』と思うようになる。
 それから、周りの村に天災が降りかかっているにもかかわらず、キリュウの住む村だけは免れて…ここにいたって『お狐様のおかげ』となったのだった。
 その時点で、かなり妖力を消費していたキリュウであったが、神社を建て、自分自身に信仰を向けられる=直接霊力をもらえる状態になり、すぐに回復することが出来た。
 以後、数百年、この状態が続いていた。

 ………のだが、
 結局は、人間も自分勝手な都合のいい動物。
 自分達だけが助かっていればいいと言う考えが蔓延しだして、次第に人間から吸収できる霊力が少なくなってきた。
 それに比例して…自らの妖力も次第に枯渇していくようになり………

 …今日・ついに妖力が尽きてしまい、姿を現してしまったらしい…





「ねぇお兄ちゃん、そのシチュエーションって…」
「うん?」
「1話目ののっけから死んじゃって・そのまま生き返って・妖怪と戦って・トーナメントで優勝して・魔界へ行って・自分も魔族になっちゃって・うやむやのうちに終わっちゃったマンガの、元お相撲さんみたいな名前の・銀髪だった・賢くてカッコよかった人に似ていない?」
「…瑠姫…説明長すぎ…」
「えっと、確か題名は…ゆう…」
「言うな。規制に引っかかる」
 なんの規制だろうか?
「ゆうやけニャンニャン!!」
「お前は歳はいくつだぁ!!」
 えっと…設定では確か14歳の中学3年生だったはず。というか知ってる樹莉の方も問題大ありの気がするんだけど。


「で、どうするの、その耳と尻尾。確かにそれはそれで可愛いとは思うんだけど…そんな姿で外へ出たら『神社の娘さんがキツネ憑きになった』って言われかねないわよ」
「でも、お払いを受けにきた人に、その姿でお払いをしてもらったら、『美人のおキツネ様に御払いをしてもらえた』って、逆に有名になるんじゃないの?」
「人の姿で、金儲けの悪だくみをするなぁ!!」
「でも、その耳と尻尾…」
「こんな物、気合でなんとかするのが筋ってもんだ!。某妖精さんだって、気合で羽を出し入れ出来るくらいなんだから、俺に出来ない事はなーい!」
 それは言ってはならないことなのだが…聞かなかったことにしてね。
 そういって、何やら訳の解らん御呪いでもするかのようなポーズになって一心に祈り始める。誰に祈っているのかはまったく解らない。

 と…だんだんと・段々とではあるが、怒られたネコのように耳がたれて来たような感じになって行き、髪の毛の中へと収まっていった。ちなみに髪型はいつの間にかロングになっており、色はキツネの体毛と同じ茶色であった。まぁ、一部…耳の先の部分に当たるところが両側で一房だけ黒くなっているところはご愛敬というところか。
 そして、そのふさふさな尻尾。流石にこちらは小さくはならないだろうと思いきや、こちらも段々と小さくなって行き、ネコの尻尾程度まで短くなってしまった。もっとも、どれだけ念じても無くなる事はなく、結局は尻尾全体が小さくなっただけで、残ってしまった。ふさふさ感はそのままで…
「まぁ…これは長めのスカートでもはいて、隠すしかないわね」
 そう母がいった瞬間…樹莉は完璧に硬直した。それもそうだろう、いきなり『スカートでもはいて隠す』とかいい出されたのだから。つまりは女性物の服を着ろといわれているのと同じ事なのだ。

「か…かあさん。それは、俺に女になれということなのか?」
「なれじゃなくて、すでになってるでしょうが。
 瑠姫、樹莉に合いそうな巫女さんの服を持ってきて」
「はーい」
 そういって、瑠気は元気良く飛び出して行く。
 基本的に神社には巫女さんの制服が数着用意されている。これは、冠婚葬祭や正月などアルバイトで巫女さんを雇う時に使うものなのだが。
「俺は男なんだぞ。男が巫女の服なんて……」
「…小遣い50%ダウン…」
 ある意味死刑宣告と同等の言葉だった。しかし、その後に続く言葉が彼女の思考能力を破壊した。
「…巫女の姿でバイトしたら、小遣い100%アップ+バイト料50%アップ」
「やる!」
 この時点で、どうやら樹莉の思考能力は限りなくゼロになっていたらしい。


「お兄ちゃーん、ちょっと来てー」
 奥の物置の方から、瑠姫の声がした。
「サイズがわかんないからどれを出していいのかわかんないのよー」
「そう言えばそうね。いってらっしゃい」
「あ…ああ」
 そういって、樹莉は物置の方へ向かう。ちなみに頭の中では『赤点の事がチャラになった』と考えていたとかいないとか。

「えっと…お兄ちゃんのサイズだとこの辺りだと思うんだけど…」
 そういって並べられたのは、巫女さんが着る衣装の上下一式。これを着なければいけないかと思うと…ちょっとイヤーな気分になる。と、物置の奥の方に何かが入っている事に気付く。普通では奥過ぎて見えない位置なのだが、なぜか、その時の樹莉にははっきりと見えていた。
「瑠姫、ちょっとどいてろ」
「うん…どうしたの」
「奥の方に気になるものが合ったんだ」
 そういって、身体を物置の奥の方へとおしこむ。周りはまっくらで何も見えないはずなのだが、樹莉の目にははっきり見えていた。
(ネコじゃあるまいし…)
 そう思いながらも目的の箱に手をかける。そして、それを引っ張り出す。

 引っ張り出されたのは…何の変哲も無いただの桐の箱。違う点といえば…封印用の護符が貼られているところだろうか。とはいえ、かなり古いらしく所々取れかけている。まぁ、何故護符が貼られているかは気になるところだが、子供達にとっては、こういう物が禁断の物で開けてはいけないと言われている物なのだが、そこは好奇心旺盛な子供。開けるなといわれれば開けてみたくなる物が心情。
 結局は開けてしまう。と、そこには女性の神主用の衣装が入っていた。しかも父のつけているような衣装とは比べものにならないほどの…
「これって、もしかしてお兄ちゃんが身につけるために有った物じゃないのかなぁ」
「いや、違うな。人間に化けた狐が着るための衣装だろう」
「じゃあ、今キツネになってるお兄ちゃんなら問題無いんじゃないの?」
「そう…か?」
「そうよ。さぁ、ちゃっちゃと着替える」
 そういって瑠姫は、衣装を持って、樹莉を引きつれて更衣室へとはいった。

 ………10分……20分………

 30分かかり、ようやく衣替えが終わったようだ。
 その頃には父も復活し、驚きながらも話を聞いていた。ちなみに75%は信じていない様子だったが。

「パパ・ママ、お兄ちゃんの衣装替えできたよー。さぁ、はずかしがらずに出てきて」
「そ…そんなにひっぱるなよぉ」
 そういって、目の前に現れた樹莉に…両親は言葉を失った。

 神々しい

 そんな言葉がピッタリと合う姿だったからだ。
 金色の刺繍が施された巫女の衣装に着飾った樹莉は、本当に神々の世界から舞い降りた聖女のようにも見受けられた。
 幼さと妖艶さという相反する魅力も相まって、見る物を引きつけずにはいられない美しさと優雅さを兼ね備えている。
「何か…恥ずかしい…よぉ」
 そう言った樹莉の頭には元通り耳が着いており、袴からは尻尾が出ている(尻尾を通す穴も何故かちゃんとあった)。どうやら精神統一よりも恥ずかしさの方が先に立ってしまい元に戻ってしまったようだった。

「父さん…母さん……どうしたの?」
 言葉の通り、両親は固まったままだった。というか、圧倒されていたと行った方が良いのではないだろうか。まるで目の前に『神』がいるような感覚を味わっている2人だった。
(あぁ…久しぶりの霊力は…非常に美味です)
 樹莉の中にいるキリュウから言葉が漏れる。
「あっ、おまえ、喋れるのなら何故今まで出てこなかったんだ!!」
(いま、あなたの御両親から霊力を頂いたので、こうやってお話しできるようになっただけですよ)
「霊力をもらったんなら、もういいだろう。出てってくれ!」
(こんな微量の霊力では、無理な相談です。もっともっと霊力を頂かなくては離れることは出来ません)
「…もっともっとって…後どれくらい必要なんだ?」
(…そうですねぇ…あと20年ぐらい慕われなければ)
「に・に・20年!」
 20年も元に戻れない…それを聞いて、樹莉の思考は停止した…


 倒れる兄を何とか支える瑠姫。
「お兄ちゃん、大丈夫?」
(まさか、たった20年くらいで気絶してしまうなんて…)
「妖狐のあなたにとっては大したこと無いかも知れないけど、人間の20年って言ったら結構長いのよ」
(そうでしたか…でも、何故あなたは私と直接お話が出来るのですか?)
「…そういう体質なの。勘弁して欲しいわ」
(それだったら、あなたの中に入った方が早かったかも知れませんね)
「冗談!。あたしは狐っ娘になる気は、さらさらないわよ」
(残念です…)

「でも20年って、早くも遅くもなるんでしょう?」
(え?…ええ、もちろんです。昔のように慕ってもらえれば早まりますし、駄目なら遅くなります)
「なら………逆に妖力が貯まっても、お兄ちゃんの身体から出なくてもいい・なんて事は、あり?」
(ええ…まぁ。他人の身体にいれば、それだけわたくしの妖力も使う必要はないですから………何が言いたいのですか?)
「だって、あたしとしてはお兄ちゃんじゃなくてお姉ちゃんが欲しかったんだもーん」
(そうなのですか。ならば、微力ながらお手伝いさせてもらいますわ)
 ここに、妖狐キリュウと瑠姫の密約がかわされたのであった。もちろん樹莉には何も判ってはいない。


 つづく…のかな?



 あ、そうだ。忘れてた。
 結局両親はそのまま硬直し続け…気が付いたときには辺りはすでに夜のとばりが降りていたという。





おちゃらけで〜す。笑って許してね。
ので、続くかどうかは完全に不明なのです。(ぉぃ)

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