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Auld Lang Syne

〜you'll be born again〜

作:ノイン







第四話

 蛍が学校に通うことになって一日目、早速友達ができた。
 眼鏡っ娘にもかかわらず快活な少女、白井奈美(しらいなみ)と、おっとりとした少女、周音寺明美(しゅうおんじあけみ)である。
 そして…

「ふわぁ…太陽があったかい…」
 蛍は机に身体を預けながら眠そうな声をだしている。今は弛緩のとき、つまりは休み時間。そして季節は冬と春が交差する刻。
 この太陽の日差しが優しい季節はすべてが優しい。

「ほんとにあったかいね。今年は」
 奈美が同じく机につっぷしながら、答える。今にもねむりそうな声だ。
「そおだね〜」
 同じく明美。だが、明美はいいとこのお嬢様なので、机につっぷすという行儀が悪い行為はしない。しかし、いつもこんな調子なので、弛緩しっぱなしなのではないかと周りから思われている節がある。彼女はおっとりした性格なのだ。

 キーンコーンカーンコーン

 蛍がそのまま眠りそうになったころ、聞きなれたチャイムの音が響いた。休み時間が終ったようだ。

 ガラリと教室のドアが開き、担任の筒木(つつき)先生が教室とともに入ってくる。
 そして、その後ろには見知らぬ少年が続いた。プラチナブロンドの髪の毛、そして蒼い目はどこか涼しげで理知的な雰囲気がある。

 外国の子かな?

 蛍は少年の顔を見た。その瞬間、互いの目が合い、少年は蛍にうっすらと微笑み返す。
 なぜか恥ずかしくなった蛍は目を伏せてしまった。

「では…自己紹介をしてもらおうかな」
 筒木に促されて、少年は軽く頷いたあと、黒板に文字を書いていく。

『ルーシア・ド・カリタス』

 あ・・・英語じゃないんだ

 蛍は黒板に書かれた文字がカタカナだったことに安堵してしまった。英語をまったく知らないわけではない。なにしろ彼女はちょっと前まで、一応中学生だったのだ。とはいえ入院していてほとんど勉強できなかったため、英語に関してはほとんど知らないと言ったほうがよい。蛍は自分が精神的には中学生であるにも関わらず、英語ができないということに少し引け目を感じている。
 それは蛍が自身のことを『他のクラスメートよりはお兄さん?』 なんだと考えていることの現われだ。しかし、その意識も急速に曖昧になってきている。自分が10歳の女の子として存在していることに違和感がなさすぎるのだ。なぜかは蛍にもわからない。

 蛍がぼーっと黒板に書かれた白い文字を見つめていると、少年が声をあげた。

「ルーシア・ド・カリタスです。ルーとでも呼んでください。日本には来たばっかりで、よくわからないこともありますので、よろしくお願いします」
 ほんとに日本に来たばかりなのか疑ってしまうほど、流暢な日本語だ。
「晴宮の席の隣が開いているな。ほら、あそこだ」
 筒木が開いている席を探し、指し示す。そこはもはやお約束的に蛍の席の隣であった。

 

「よろしくお願いします…晴宮さん? でいいのですか?」

 話しかけられちゃった…緊張するよお

 蛍の緊張した様子に、ルーシアはふっと苦笑する。
「そんなに緊張しなくてもいいですよ。晴宮…蛍さん」
「……はじめまして、ルーシアくん」
 気弱に小声だ。まあ、それもしかたないことだろう。蛍は基本的に人見知りするタイプなのだ。
「ルーでいいですよ。まあ、どちらでもかまいませんけど…」
 ルーシアは蛍に笑いかけたあと、前に向き直った。

 ボクってだめだなぁ。知らない人に話しかけられると緊張しちゃうし…

 蛍は真面目に授業を受けているルーシアの顔を見た。中性的な雰囲気を持つ顔。

 自己紹介ぐらいちゃんとしなくちゃ。休み時間になったら、もう一回話しかけよう

 

 蛍はそう決意すると、考えを切り替え、授業を真面目に受けることにした。
 小学生の授業なので、一応楽勝な勉強ではある。だが、真面目に受ければそれなりに成果があがる。無駄ということはない。
 それに、蛍は勉強ができるということを嬉しく感じていたのだ。
 あの死ぬ直前の日々、それは一言で言って束縛であった。ベッドから一歩も動くことができない。遊ぶことも勉強することも、喋ることでさえ満足にできない。それを思うと、今がどれだけ幸福なのか蛍には痛いほどよくわかる。
 苦しみが幸福を感じさせてくれる。そして、痛みが安らぎの意味を教えてくれる。

 だから蛍は思った。

 結局のところ、生きている時間に無駄なときっていうのはないよね

 無駄な時はない。たとえ一見無駄に、そして無為に過ぎ去っていく時間も、明日への糧になるのだから。

 


 

「あの…さっきは緊張してて…ごめんね。ボクは晴宮蛍って言うんだ。よろしくね、ルーシアくん」
 授業が終わり、蛍はルーシアに改めて自己紹介をした。
「こちらこそよろしくお願いします。晴宮さん……私はここに来たばかりでわからないこともあるので、いろいろと教えてもらえると嬉しいです」
「あっ、うん、いいよ」
 蛍はこわばった顔を無理やり柔らかくして微笑み、ルーシアが差し出した手を握った。

「あ…」
 短く声を上げる蛍

 なにか一瞬、映像が視えた?

「どうしたのですか?」
「え?」
 蛍はいまだにルーシアの手を握りっぱなしだったことに気づき、真っ赤になりながら手を離した。その様子をルーシアは興味深そうに眺め、ゆっくりと席についた。

 やはり、彼女は視ているようです…デュナミスの力の覚醒も近い…とすれば、こちらの思惑も悟られてしまう可能性が高いということ、気をつけないといけませんね。

 ルーシアの心の裡は複雑だ。少年の外見とはかけ離れた人智を超えた思考をし、このあとどのように動くべきかを計算している。

 一方、蛍は奈美や明美と雑談をしていると、そのうちにチャイムが鳴った。
 四時間目、蛍にとっては、この日最後の授業だ。昏睡から目覚めたばかりの身体が疲れないように、今日は早退する予定なのである。

 

「今日は予定を少し変えて、オリエンテーションの時間を持ってきたいと思うんだが、いいか、みんな」
 筒木は机に手を置き、クラスに向かって、若々しい声をあげた。彼は今日、クラスに二人も新しい子が入ってきたことを鑑み、その交流を計ろうと思ったのである。もちろんみんなの答えは最初から決まっていた。

 とたんにクラスはざわめきだす。何をして遊ぼう、どこで遊ぼう、外に行こうと、どんどん話は拡大されていき、クラスのテンションは上がる一方だ。
「今日はここの教室の中で何かしようと思う。提案はないか」
 筒木はある程度、クラスを落ち着けてから、周りを見渡した。

「椅子とりゲームしよう」
 クラスの男子生徒の一人が言った。
 説明するまでもないくらいポピュラーなゲームだ。音楽にあわせて、人数よりも少ない数の椅子の周りをまわり、音楽が鳴り終わった瞬間に椅子に座っていた者が勝ち、座れなかったものが負けるという…
 曲解すれば、世の中の権力闘争を暗喩的に表したゲームと言えなくもない。筒木としてはダメだしはあまりしたくなかったが、蛍の身体と、椅子とりゲームを行う際の、周りに響く轟音に近い大騒音を考えると、あんまりよろしくない提案であった。


「あやとりでもしようよ」
 少し標準より幼い感じがする女子生徒が提案をする。だが、それは男子生徒がいやがり却下された。

「鬼ごっこしようぜ」
 今度はまたまた先ほどの男子生徒が提案したのだが、これは教室の中でできるはずもなく、わずか数秒で却下されてしまった。

 

 その後も話合いは10分ほど続いたのだが、どうにも何をするか決定できない。つまりは男子生徒と女子生徒で趣向がはっきりと別れてしまい、まったく決まらないのだ。このままでは話し合いだけで時間が過ぎ去っていってしまう。筒木はどうしたものかと頭をひねったが、どっちも満足するような答えを出すことができなかった。

 一方、蛍は奇妙なことに、この時を、何をするわけでもなく雑然とした話し合いが続くこの瞬間を嬉しく感じていた。いや、嬉しいという言葉だけでは説明できないほどの感情だ。
 病室での生活に思いをはせる蛍、あの日々は孤独だった。確かに片親である母親は仕事が忙しい中、毎日のように病院に見舞いに来てくれたし、クラスメートだって見舞いに来てくれた。そして病院には友達がたくさんいた。
 だが、病気とは孤独な闘いのようなものだ。
 そして、失ったのは、同じ時を生きているという一体感。
 永久に失ってしまったと思ったそれが今まさに『ここ』にある。

 そして
 二度と手に入らないと思っていたものを手に入れたような
 なくした故郷にもどってきたような
 そんな想いは
 春の日差しのように蛍を包み込んでいった。

 

「どうしたの蛍ちゃん…泣いてる?」
 奈美が蛍の顔が何かを我慢しているように見えて心配そうに声をかけた。
「ん…なんでもないよ」
 蛍は震えそうになる声を、なんとか普通時の声に保つ。嬉しさの混じったたくさんの声の中で蛍は誰にもわからないように涙を拭った。

 

「そろそろ決めたいんだが、どうしようか。多数決で決めるか」
「先生…よろしいですか」
 ルーシアが手をあげる。クラスの注目が集まり、ルーシアは立ち上がった。
「日本には将棋という文化があると聞いたことがあります。チェスにも似ているらしいので、それをしてみたいですね」
「そうか…だが、将棋の駒とかあったかな?」
 筒木はしばらく思案していたが、将棋クラブがあったことを思い出した。将棋の盤も駒も人数分あるわけではないが、相当数ある。何人かで分けて使えば、できないこともない。筒木はそこまで考えて、大きく頷いた。
「将棋クラブから借りてくるか。では、今日は将棋をしよう」


 


 

「では、将棋のやり方を知らないものは他の友達に聞くように」
 担任の机で大きな声をだす筒木、その声に答えたあとはほとんど遊びと同じようなものだ。授業のときとは違い、みんなが生き生きとしているように見える。

「明美ちゃんは将棋のやりかたって知ってる?」
 奈美は生まれてこのかた一度も将棋をしたことがなかった。どちらかというと身体を動かしているほうが好きなので、室内でやる遊びはあまりやったことがなかったのである。
「ええっと…うーんやり方なら知ってるよぉ」
 奈美の問いに少しの間考えて、明美は答えを返した。
 それを聞き、奈美は次に蛍のほうに向き直る。
「蛍ちゃんはやり方知ってるの?」
「えっ…ボク? うん、知ってるよ」
「そうかぁ…じゃあ教えてね、二人とも」
 奈美は見ただけで眠たくなりそうな将棋の駒に書かれた文字をじーっと見つめ、まるで真面目な姉に無理やり勉強をさせられるときのように、鬱な気分になっていくのであった。

「じゃあ。とりあえず明美ちゃんとボクがしながら教えようか? そのほうが覚えやすいでしょ」
「うん、そうだね」
 明美と奈美が納得したところで、蛍は将棋の盤をぱかっと開き、駒の入った木の箱を開けた。そして二人とも慣れた手つきで駒を所定の位置に配置していく。
 まわりでも次々と対局が組まれているようだ。中には山くずしという単なる遊びに興じるものも中にはいるようだが、それは少数派である。

「じゃあ、先手は…明美ちゃんがする?」
「あ…うん。いいよお」
 パチリと小気味よい音を響かせて、明美は角道を開けた。
「ほら…奈美ちゃん、見て」
 蛍は駒を指差しながら、横に座っている奈美に語りかける。
「ん?」
「駒にはそれぞれ、動かせる方向と範囲が決まっているんだよ。たとえば、この『角』という駒は斜め方向にはどこまでも行けるんだ。だから最初はここにある『歩』をひとつ前に動かして、『角』の道を開けるのが基本なんだよ」
「へえ〜」
 奈美は感心したように声をあげ、目を丸くする。
「だから、最初はまず駒の動かし方を全部覚えないとね、奈美ちゃん」
 蛍は心の奥底でかすかにあるお兄ちゃんな気分を満足させ、ちょっとだけ気分がよかった。
「そうだよぉ」
 あいかわらずな明美は、のほほん顔でもちゃんと次の一手を考えてたりする…
「やっぱり覚えなきゃだめなの?」
 実のところ、考える遊びはあんまり得意でない奈美は将棋なんて覚えなくてもいいとか思ってたりするのだが、なんだか妙に嬉しそうな蛍とマイペースの明美からのほほんと言われては、どう考えても覚えるしか道は残されていないようである。

 しばらくのち

「あぁ…負けちゃったぁ…ありがとうございましたぁ」
「ありがとうございました」
 蛍が勝利したようだ。途中でなかなかに苦戦した場面もあったので、明美は小学生としてはかなり強いほうであろう。なにしろ蛍は病院でやることもなく、室内での遊びをするしかなく。将棋も何回も何回もやっていたのだ。それとまあ、一応中学生の精神だから、経験差というものもある。

「晴宮さん、私と一局お願いできますか」
 蛍が見上げると、そこには澄んだ蒼い目が優しげに見つめていた。ルーシアだ。
「ボクと? いいけど…」
 言って奈美を見る。終ったあとは勝ったものと奈美が対局しようと、前もって話してたのだ。
 しかし、奈美は燃え尽きた顔をして、手をパタパタと振った。どうやら将棋は彼女の体質にはあわなかったようだ。

「よろしいですか?」
「うん、いいよ…ルーシアくんは将棋わかる?」
「ええ…さきほど対局を見て覚えました」
 蛍が驚きの表情になった。
「すごいね、すぐに覚えるなんて」
「いえ……それより、はやくしませんか? 時間もあと少ししかないようですし」
「あっ、うん」

 二人は急いで将棋の駒を並べた、
 蛍がルーシアの駒の並べ方を見てみる。どこもまちがいがなく、すばやく完了した。完璧に覚えているようだ。

「じゃあ、ルーシアくんが…」
 蛍がルーシアに先手を譲ろうとした刹那
「いえ…ここはレディーファーストで晴宮さんがお先にどうぞ」
 にこやかに笑うルーシア

 レディーファーストって言われちゃったよお

 蛍は顔を赤くしながら、一手目を指した。
「ではこうします」
「じゃあ…こうしようかな…」
 パチリパチリと一手指すごとに、蛍はルーシアの強さがわかってきた。

 これじゃ勝てないかも・・・

 中盤になり、蛍は劣勢に立たされた。このままではおそらく負けてしまうだろう。
 蛍はしばらく長考する。

 と、そこでルーシアがふと口を開く。

「将棋っていうのは奥が深いですね。そして宇宙のように広い」
 ふっと目を細めて盤面を見つめるルーシア、蛍は盤から顔をあげ、ルーシアの目を見つめた。
「宇宙?」
「そう、因果律によって支配されたこの『世界』のことです…それと同じように将棋も原因と結果が結びついて、ひとつの現象を成している。そうは思いませんか?」
 ルーシアに見つめられて、蛍は考える。
「うーん…ボクがこう動かしたら、ルーシアくんはこう動かすってこと?」
「そうです。晴宮さんが駒を動かすことが原因となって、結果として盤面で駒の配置が変わるでしょう? そしてそれが、次の一手を私が考えるときの原因になる。原因が結果に、そして結果が原因となって、出来事の因果連関は紡がれていくのです。これはまったくこの世界と同じことではないですか。」
 まるで禅問答のようなルーシアの話し方に、蛍はぼーっと考えていた。
「うーん、でもそれっておかしいような気もするよ」
「なにがです?」
「だって、ボクが知らないところでも、『世界』は動いているし…例えば、ボクが地球が動くように努力しなくても地球は動くでしょ。ルーシアくんが言ってることって、極端すぎないかな? 今はルーシア君が動かしているから、ボクが動かしたら、それを考えてルーシアくんがどれを動かすか決めるってことはあるかもしれないけど、ボクの『行為』が『世界』全部に関わっているなんて信じられないよ」
「そうですね…ですが、一人の人間の『行為』は『世界』に波及し伝わると私は信じていますよ。そして…」
 ルーシアはふっと沈黙し…思考する。
 怪訝そうな顔をする蛍
「どうしたの?」
「例えば…この盤面に展開されるすべての事象を視ることが出来る人がいるとしたら、その人の『行為』はおそらく世界を完全に掌握するほどの影響を与えることができるでしょうね。どうすればどうなるのかわかっているのですから…」
 最後はもはや独り言のように呟き、それと同時に時を知らせる鐘が鳴った。

 



「じゃあね、奈美ちゃん、明美ちゃん」
「あ…また、明日だね。蛍ちゃん」
「うん、また明日ぁ」
 蛍は教室をでるときに大きく手を振って、二人と別れた。

 また明日か…なんだか嬉しいな

「あれ? 晴宮さんもお帰りになられるんですか?」
「あ? ルーシアくんも?」
 蛍は昇降口で上履きから靴に履き替えているルーシアを見て、驚き気味の声を出す。
「ええ、今日はこの時間で終わりです。家族…が待っているんですよ」
「家族か・・・いいね」
 蛍は少しだけ寂しい声を口から吐き出しつつ笑った。今の家族のことも蛍は本当に好きだ。けれど、死ぬ前の母は二度と会えない。母の息子として会うことができない。
 それは二度と手に入らない心の故郷。   
「蛍さん…」
「ん?」
「忘れなかったらきっと会えますよ」
「えっ…」
 蛍が少し不思議な目をルーシアに向ける。するとルーシアは柔らかく微笑んだ。
「帰りましょうか」
「うん…」

「もう、春ですね…」
 ルーシアが太陽の光を手で遮りながら、眩しそうに周りに目をやる。
「うん、もう春だよ」
 朝に通った並木道は暖かな昼の日ざしを受けて、より一層輝いている。
「それではここで、私は失礼します」
「うん。じゃあ、また明日!!」
「また明日お会いしましょう。晴宮さん」
 ルーシアはそう言うと去っていった。

 そしてルーシアが完全に見えなくなり、蛍は一人輝く並木道の中でたたずんでいる。

「…会いたいな。お母さんに」
 だが、会いにはいけない。会いにいっても自分を認めてくれないかもしれない。そして今の身体はいわば本当の『蛍』からの借り物だ。勝手にどうこうする気にはなれない。

 蛍は暗い顔のまま、『蛍』の家に帰宅した。

「あ、蛍ちゃんおかえりなさい。ちゃんと道がわかるか心配だったのよ」
 叶恵が心配気に蛍に声をかけた。
「すごく近いからわかるよ」
 蛍は悲しい気持ちを無理やり押さえつけて笑う。
「どうしたの…蛍ちゃん? 大丈夫?」
「うん…ボクは大丈夫」
 六ヶ月、病院での生活は時間にすればわずかだった。しかし、その生活は彼女の心に、なにかをすることを抑制させる気持ちを生んだ。する前にあきらめて我慢してしまうのだ。
「蛍ちゃん、疲れたの?」
「うん…疲れちゃった」
 蛍は元気のない声をだす。言ってみると不思議なもので、本当に元気がなくなってきた。
「じゃあ、今日は早めに眠ったほうがいいわね」
「うん…」
 階段をあがり、部屋に入る。そして蛍はベッドに横になると、薄い布団を深く被り眠った。

 意識は沈降し、拡散し、闇へ

 


 


 闇…辺りに満ちているのは闇の空気。

 そして、そこに三つの光があった。

「おかえりなさい。ルーシアくん」
「おかえりなさ〜いです!! ルーくん」
「ただいま帰りました…マリアさま。ミカさん」
 ルーシアは二人に軽く頭を垂れると闇の中に浮かぶ椅子に座った。
「で…どうだった?」
 マリアが超省略型の質問をした。しかし、ルーシアも聞きたい内容は心得ている。
「彼女のデュナミスは覚醒に向かい、その影響域…リジョンは拡大しているようです」
「間に合うかしら。終わりのときまでに」
「それは…わかりません。ぎりぎりでしょう」
 ルーシアの答えに厳しい表情を浮かべるマリア
「あう〜♪」
 と、そこで、ミカがいきなり奇妙な声をあげた。何事かとミカを見る二人
「…これが今回の蛍ちゃんかぁ。やっぱりカワイイよお♪」
「ミカ…いや、もういいわ…あなたはモニターでも見てて…」
「はいですー。マリアさま」

「それはそうとひとつ気になったことが…」
 ルーシアは口に手を当てて考える。
「どうしたの?」
「われわれが予定しているカオス因子の影響よりもあきらかに波動の幅が大きかったような気がしました」
「ありえないわ。私たち以外に誰が因果に影響を及ぼせるというの…私たちでさえ限界があるっていうのに」
「蛍さん以外に『視る』ものがいるのかもしれません…」
「…そんなことは理論上ありえないはず」
「そうですね…相互連関幻想潮流(インタラクティブ・ヴィジョン・ストリーミング)の観測機が故障していたのでしょう。おそらくは…」
 真面目な顔をして二人は思考を深めていく。
「えへ…かわいいよお」
 その隣でミカは煩悩全開っぽく、モニターに映る蛍の顔を見つめているのであった…
 

 


あとがき…

ひさしぶりに書いたら、自分で見ても、なんだかちょっと雰囲気が違う気がします。これは成長なのか…退行なのか…

それともただ単に作者が作品を忘れたのか(^^;)

というわけで、すぐさま、次回に続きます。続きたい続いたらいいなぁ。(弱気)




 
 

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