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Auld Lang Syne

〜you'll be born again〜

作者:ノイン さん

絵師:もぐたん さん





第二話

 啓が蛍として生きていくことになってから6日目、蛍は既に自分の肉体年齢にみあうだけの体力がついていた。そして予定通り明日には退院することが決定した。

「蛍ちゃん、もうすっかり元気だね。」
 白井が長いすに座って本を読んでいた蛍に話しかけた。
「はい、もう全然元気ですよ。」
「よかった、いよいよ明日で退院ね、おめでとう。」
「はい嬉しいです。白井さんいろいろありがとうございました。」
 にっこり笑って蛍は言う。
「それにしても、これはゴキブリ並の回復力じゃわい。よかったのう。」
 篠崎先生は誰にと言う事なくひとりごちた。

「ゴキブリって…でも確かにすごい回復かも。」
 蛍はそれを聞いて、ちょっぴり背中に嫌な汗を流しつつも、自分のすさまじい回復力は蛍の言った力のことではないかと推測した。

デュナミス、それって体力が異様につく能力だったのかな?
 蛍は短絡的にそう考えた。真実はわからないが、そんなことは蛍にとってはどうでもいいことだった。なぜならもうすぐ退院できるという思いが蛍の中にはあり、それは長い間入院していたものにとっては、天国への門が開かれたに等しく、蛍はいてもたってもいられないほど、心の中でわくわくしてたのである。

そして退院の朝

蛍はまぶしすぎるほどの晴天の朝に目覚めた。

「おはよう蛍ちゃん。」 
 蛍の母である叶恵が個室の病室に入ってきた。

「おはよう、お母さん。」
「いよいよ退院ね、嬉しいわ。」
「うん、ボクも嬉しいよ。」
 蛍は嬉しさでいっぱいのようだ。
「ほら、これに着替えて。」
 叶恵は空色のワンピースを蛍に見せた。
「えっ何これ?」
「お外に出るからね。おめかししなくちゃだめよ、女の子は。」
「タクシーで家に行くんでしょ、いいよ、パジャマで。」
 蛍は恥ずかしかった、今着ているパジャマなら、まだ男女の差というものがなく、さほど恥ずかしくなかったのだが、叶恵が持っていたそれは、あまりにも女の子女の子していたのである。

「せっかく買ってきたのに。」
 叶恵は心底がっかりした顔つきで、ワンピースをバッグに直そうとした。
 が、蛍は決心したような顔つきになり、叶恵にたどたどしい声で言葉を搾り出した。
「あ、あの…」
「うん、どうしたの?」
「やっぱり着ようかなそれ…」
「そうやっぱり女の子はおめかしが大事よね。」

 蛍は頭に超がつくほど恥ずかしかった。しかし、これから本当の『蛍』の代わりに叶恵のお世話になることを考えると無下に断る事もできなかったのである。

「あの…」
「今度はどうしたの?」
「ちょっと着替えるから、外にちょっとだけ出てて。」
「なんで、私は蛍ちゃんのお母さんなのに、恥ずかしがらなくてもいいのよ。」
「ボクが恥ずかしいの。お願い。」
「はいはい、蛍ちゃんは恥ずかしがり屋さんねえ。」
 そう言うと叶恵はちゃんと部屋から出て行ってくれた。

 ぬぎぬぎ

 ぬぎぬぎ

  ぱさっ

 ショーツ一枚の姿になった蛍、華奢な身体つきながらも女の子を主張している丸みを帯びた体、少しだけ膨らんだ胸、病的ではなく、あくまで透き通るような白い肌。まさに完璧な美少女だった。蛍は顔から蒸気がでてくるんじゃないかというほど真っ赤になっている。それもそのはず蛍はこのときまで自分の身体を見てはいないのだ。誤解しないように言っておくが、蛍は一週間の間、風呂に入ることはなかったが、タオルを蒸したもので身体を拭いてもらったり、髪を洗ってもらったりはしている。まあそれはそれで、ものすごく恥ずかしかったが、おかげで自分の身体をゆっくり確認(鑑賞とも言う)する暇がなかったのである。

 少しの間、自分の身体に見とれていたが、不意にいけないことをしているんじゃないかという思いが湧いて、急いでベッドの上に置いてあったワンピースを着た。いや正確には着ようとした。はっきり言ってさっぱり着かたがわからなかった。悪戦苦闘の結果、5分ぐらいかかりなんとか着ることに成功。女の子も楽じゃないのである。

蛍ちゃん♪絵師:もぐたん様 「ふえぇ〜、女の子の服ってこんなに着るのが難しかったのか、初めて知ったよ…」
 一仕事を終えたというような感じの声で蛍は呟いた。
 そして、ふと鏡の方に目をやり、その神秘さをたたえた目がいっぱいまで開かれた
「これが、ボク?ってやっぱり言わないといけないのかなぁ〜?」
 言ってる事は結構まぬけだった
 まあ、それはそれとして、空色のワンピースを着た蛍は今までの緑色のパジャマを着ていた時よりも、数段可愛かった。これは別に蛍がナルシストだからなのではなくて、客観的に見てそうなのだ。
「やっぱり、パジャマとは全然違うね、あっ首元にブローチまでついてる♪」
 結構うれしそうである
 そして蛍は鏡の前で腕を組みながらポーズをきめた
「憂いの美少女なんちゃって。」

 などと馬鹿なことを言ってると突然ドアが開いた、叶恵である。

「うわっ!!」
「どうしたの?そんなに驚いて。」
「なっなんでもないよ….」
 耳まで真っ赤にしながら蛍は答えた。
「じゃあ行こうか。」
「うん♪」

 いよいよ退院の時が近づいた。時は午前の10時

 啓の蛍としての人生が始まって、6日と23時間あまり、ちょうど転生してから一週間が経とうとしていた…

「それでは篠崎先生、白井さんありがとうございました。」
 深くおじぎをする叶恵、それに蛍もならった。
「身体のことでなにかあったらすぐに病院に来るんじゃぞ。それと一ヶ月ごとの通院も忘れんで来るんじゃ。」
 優しい声で篠崎先生が言う、そして白井もしばしの別れの言葉を述べた。
「蛍ちゃん元気でね。」
「はい、ありがとうございました。」
 会心の笑みを浮かべながら蛍は言った。
「じゃあ行こうか。」
 叶恵は蛍と手をとりながら、病院の自動ドアをくぐった。
 蛍は手をつないでいるという事実が恥ずかしすぎて顔をうつむかせたまま歩いている。その姿がさらに可愛さを助長させていることに彼女は気づいてなかった。というよりもむしろ気づく余裕がなかったと言った方が正しいかもしれない。

 その後、二人は病院の前に待たせてあったタクシーに乗り込んだ

 そのタクシーの運転手、年の頃は50代ぐらいだろうか、人懐っこそうな顔をした人だった。

「退院ですか。おめでとうございます。」

 バックミラーで笑いかけながら、その運転手は顔にマッチした深みのある声で、お祝いの言葉を述べた

「ありがとうございます、ほらっ蛍ちゃん。」

 叶恵はぼうっとしていた蛍を促した

「えっあっ、ありがとうございます。」

 蛍は別のことを考えていた。蛍の家がどんなところかという、他愛のない問題である。しかし当の蛍にしてみれば初めての家である、彼女にとっては大問題であったのだ。ちなみに蛍はこの一週間の間に自分の家族に関して、おおよそのことを聞いていた。それによると蛍の父親はさる大会社で代表取締役をしているらしく、まあ言ってみれば、金持ちであるらしい。それでいろいろと想像を巡らしていたのである

 今日は水曜日の朝方、道はがらんとしていて、蛍を乗せたタクシーは悠々と道路を走っている。蛍は道すがらに見える、木々や店や交差点、そして太陽の光、すべてを新しく感じた。蛍は思う、まるで世界が生まれ変わったようだと。病院での目覚めの時もそれは感じていた。しかし病院は彼の(あえて彼女と言わず彼と言わせてもらう)人生が終わった場所だ。その限りにおいて、まだ彼はその人生に一種の閉鎖性を連想させていたのだろう。だが、退院した今、彼女は蛍として生きる人生を深く自覚するに至ったのだ。そして…

これこそが完全なる新生・・・
「なんだかいいね…」

 蛍は外を眺めながら言った。
「どうしたの?」
「言葉で説明するのが難しいんだけど…」
 蛍は今の気持ちを説明する単語を検索した。
「嬉しいんだ、全部が。」
 叶恵は蛍が何を言いたいのかに耳を傾けた。蛍は形にならない『思い』を言葉にしようと思案する。
「生きてるってことが…誰かの贈り物だって思わない?」
「贈り物?」
「そう贈り物…」
 蛍は半分は自分に言い聞かせるように言った。
「蛍ちゃんの言いたいことなんとなくだけどわかるわ。」
 叶恵は蛍が嬉しいのは昏睡状態から回復したことであると勘違いをしていた。彼女が理解できないのは無理もない事であるが、蛍が本当に言いたい事は、死から生還した自分が、今「ここ」にいるという喜びである。蛍はそのことを必死になって伝えようと、腕を組んで思案しているのだが、「蛍」のことを話題に出さずにうまく伝える方法が思い浮かばず唸っていた。すると、いままで黙って話しを聞いていた運転手が不意に口を開いた。

「私もお嬢さんの考えに賛成ですよ。」
「えっ?」
「生命が誰かからの贈り物だという考えですよ。」
 運転手は信号が赤に変わったのを確認すると、後ろを振り返りながら言葉を続けた。
「私も40ぐらいの時に心臓の病気を患いましてね。死にかけたんですよ。」
「・・・」
 蛍と叶恵はなんと答えてよいかわからずに黙ってしまった。しかしそのまま黙っているのも失礼な気がして二人は同時に謝った
「ごめんなさい…(すいません…)。」
「ああ、お気になさらずに。」
 運転手は気にした様子もなく続ける
「結局手術することになってしまって、ようやくこの年で復帰したんですよ。その時からです。こうやって胸に手を当てて、心臓の鼓動の音を聞くたびに、自分が生きている事を実感するんですよ。そして心臓よありがとうと思うんです。病気になる前は自分の心臓が動いていることなんて意識したことすらなかったんですけどね。」
 しみじみと語った後、またタクシーはするすると動き出した。



 蛍は何度も運転手の言った言葉を反芻していた。自分の生命は「蛍」からもらったものだけど、それじゃあ「蛍」に生命をくれたのは誰だろう?神様?蛍はそんなとりとめのない事を考えながら、ただただ外の流れ行く景色を見ていた。
そは・・・の・こえ
そは神の声・・・
「えっ何?」
 周りを見渡す蛍、何かが聴こえた気がした
「どうしたの?」
 叶恵は蛍の挙動不信な行為に怪訝そうな顔をしている
す・・の
すべての存在に・・・

「なんでもないよ。」
や・・ぎを
安らぎを・・・

「本当に大丈夫?」
き・・を
希望を・・・

「大丈夫だよ…」
い・・ち・・
生命を・・・

「顔色悪いわよ。」
ゆ・を
夢を・・・

「う…ん、だいじょ…ぶだから。」
ゆ・・・・いま・・・めを・・け
夢の夢よ今こそ『目』を開け!!

 蛍はそう言うとそのまま崩れ落ちた。
「蛍ちゃん?ねえ、どうしたの蛍ちゃん?」
 叶恵は突然気絶してしまった蛍の身体を揺さぶった。三年前に蛍が昏睡状態に陥った記憶が甦る。嫌な予感が胸に広がった。

「蛍ちゃん!!」

「えっ、あっ…はい。」
 蛍が気絶していたのは数秒間であった。叶恵は安堵の顔で呼びかける。
「どうしたの、蛍ちゃん、気分が悪かったの?」
「ううん、大丈夫。」
 微笑ながら返事をする。蛍は心の中で聴こえた気がした声について思いを巡らしていた。
 ザ――――――――

 突然、ある種のイメージが視覚化される。まるでビデオを見ているような感覚だった、見ているわけではないのだが、周りの映像とダブって『視』えた。不思議な感覚・・・

 タクシーが十字路に差し掛かる

 突然、横からトラックが突っ込んで来る

 運転手が慌てて、ハンドルを切るも間に合わず衝突

 まるで紙のように空中を舞うタクシー

 そして、火と死…

 蛍は「視」えたイメージのあまりの生々しさに恐怖した。しかし本当の恐怖は100m先に今「視」えた十字路が見えた時であった。

 ぐんぐん十字路が近づいてくる。

 嫌な予感がする

 手前の信号が赤に変わり停車するタクシー

 どうしよう、止まるように言ったほうがいいのかな?でも…

 信号が青に変わり再びタクシーは動きだした

でも、もしも気のせいだったら、でも、でも…

 蛍はパニック状態に陥っていた、そしてタクシーが十字路に差し掛かる寸前に叫んだ

「ブレ―キ踏んでぇ!!!」

 蛍の言葉に反応して、運転手はブレーキを反射的に踏んだ。

キイイィィィィィィーーーーーーーー、ブオォォォーーーーーーーーー

 急停止したタクシーの目の前を大型トラックが猛スピードで通り過ぎた…
 あとには呆然とした顔の運転手と叶恵、そしてとても疲れた顔をしている蛍がいた。

 数十分後、晴宮家の前に到着した。
「「ありがとうございました。」」
「いやはやお嬢さんのおかげで助かりました。さっきは危なかったですね。」
「ぁ…いえ、ミラーでトラックの影が見えただけですから。」
「うむむ、すごい視力ですね。それではお大事に。」
 タクシーが去っていくのを見届けた後、蛍は目の前にある家に目を移した。
 それは三階建ての標準的な日本人の家からすれば、かなり大きな家である。豪華絢爛というよりもむしろ、どっしりと構えていて、それでいてクリーム色が暖かな雰囲気を醸し出している。建てた人の人柄をうかがわせるような、そんな家だった。
 蛍は前世で住んでいた家との大きさの違いに少々気圧されている。
「ここがボクの家?」
「そうよ。ほら早く入りましょ。」
 叶恵はまたまた蛍の手を引いて家の中に入った。

パアアーーーーン

「うわっ!!」
 突然の大きな音にびっくりする蛍、蛍の父と兄である悟と優一がクラッカーを鳴らしたのである。今日は蛍が退院する日なので、会社や学校を休んで二人は家で待っていたのだ。そして二人は声をそろえて蛍に向かって言った。
「「退院おめでとう。」」
 蛍は胸が熱くなるのを感じながら
「ありがとう。」と言葉を返した。



 叶恵が昼ご飯を用意しながら悟に向かって話しかける。
「今日は危なかったのよ。」
「どうしたんだ?」
「危うく交通事故になるところだったのよ。」
「なに、大丈夫か!?」
「なりそうになっただけだと言ったでしょう、蛍ちゃんのおかげで助かったのよ。ねえ蛍ちゃん?」
 蛍は台所の隣に面している居間で優一と一緒にテレビを見ていたのだが、突然話を振られて隣の部屋を覗いて言った。
「どうしたの?」
「あのね、蛍ちゃんのおかげで今日は助かったって話してたのよ。」
「ううん・・・あれは『視』えただけだから。」
 蛍は頭をふるふると振りながら答えた。心の中であの時の状況を思い出す。あの時は完全に未来のことがわかっていた。いや『視』えていた
 デュナミスって、この力なのかな?そういえば、病院で食べ物の味が変わったような気もするし、うーん
 蛍は自分の身体に眠っているデュナミスについて思いを馳せた。いままでにわかっていることは三つ、『食べ物の味が変わる?』『体力が異様に付く?』『未来予測ができる?』というまったく整合性のないものだ。しかもどれも本当にデュナミスによる力であるという確信が持てない状況下にある。結局、蛍は考えることを放り投げた。

「さあ、できたわよ。」
 叶恵はそう言うと蛍のいる居間に昼ご飯をもってきた、今日のメニューはふわわっとしたフランスパンとシチューだ。香ばしい匂いがあたりに満ちる。悟も皿を持ってきて、叶恵の加勢をする。それにならい蛍も手伝おうと台所に向かおうした。それを優一が止める。
「蛍はここで待ってていいんだよ。」
「うん、わかった…ありがと。」
 嬉しかった。ただただ単純なことだけど自分をいたわってくれていることが伝わった。涙が落ちそうになって、蛍は慌てて目をごしごしとこすった。

「「「「いただきまーす。」」」」
 思えば、蛍にとって、ひさしぶりに他の人と一緒に食べる食事であった。だからこそ、蛍はその食事を病院の食事の何倍もおいしいと感じた。そして蛍はたくさんの『思い』をこめて
「おいしい・・・」と呟いた
「そう、よかったわ。」
 叶恵は蛍に微笑みながら言葉を返した。悟が言葉を繋ぐ
「叶恵の作る料理は本当にうまいな。なあ優一?」
「そうだね、母さんの料理は標準以上だと思うよ。」
「愛がスパイスなのよ。」
 叶恵は片目をつぶりながら言った。

 食事が済んで、とりあえず蛍は二階にある自分の部屋に向かった。自分のと言っても、始めて入る部屋、しかも女の子の部屋である。蛍はちょっとどきどきしていた。

 ドアをそうっと開けて中を覗く蛍、そして…
 そこにはおおよそ小学生の女の子らしからぬ部屋があった。本棚には分厚い哲学書やら宗教に関する本やらが占領しており、蛍が予想していた少女漫画はひとつも置いてなく。またCDコンポの側においてあったCDは今のはやりのアイドルグループなどではなく、クラシック音楽やどこの国かもわからぬ洋楽である。そして極めつけは机の上に置いてあった『イグアナの正しい飼い方vol3』という本であった。どうやら『蛍』は少しばかり個性的な女の子だったようだ。
「これが女の子の部屋なのかな…?」
 蛍は少しばかり落胆を含む声で呟いた。とその時、視界の片隅にトランプを見つけた。本棚の端の方に置いてあったそれを手にとり、蛍は一つの考えが浮かんだ。そして1階に降りていった。

「あの…お兄ちゃん。」
 まだ少しばかりお兄ちゃんと言う事が恥ずかしいのか、はにかみながら蛍は優一を呼んだ。
「なんだい、蛍。」
「トランプしよ。」
「いいよ。何をしようか?」
 優一は読んでいた新聞紙をたたんで、蛍の方に向き直った。
「じゃあ、『神経衰弱』をしよう。」
 蛍がこんなことをし始めたのには理由があった。『未来予測』について確かめてみようと思ったのだ。残りの未知の力について『味を変える事ができる』というのは、味がほとんどないおかゆならまだしも、先程のような味がついている食事ではほとんどわからなかったので確認は不可能。また『体力が異様に回復する』というのは、別段普通より回復が早かっただけと考えられなくもなく、いまいち確かめようがないことでもあった。それで結論的に力があるかないかを、一番確かめやすい、未来予測について実験してみようと思ったのである
 よもや知らない人はいないと思うが、『神経衰弱』とはトランプを裏にした状態で、無作為にカードを並べて、交互にプレイヤーがめくり、同じ数字をめくることに成功したら自分の得点となりさらにもう一度めくるチャンスをもらえ、失敗したらカードを裏返して次の人のターンになる。そして最終的にすべてのカードがなくなった時点で取った枚数の多い方が勝ちというゲームである。ルールの性質上求められるのは記憶力と勘である。もしも未来予測ができるなら、確実に勝利できるはずであった。
「じゃあ、俺が最初にめくるかな」
 『神経衰弱』はその性質上、先にめくるほうがほんの少しだけ不利なゲームである。優一は数瞬考えたあとカードをめくった
 一枚目、ハートの10
 二枚目、クラブの3
 はずれなのでめくったカードをまた裏返す
 次は蛍の番である、ゆっくりと深呼吸するとあの時の感覚を取り戻そうとする
「あの時の感じ・・・」
 蛍は目を閉じて、感覚を鋭敏にしていく。そしてゆっくりと『目』を開いた。
 すると様々なイメージが浮かんできた。違う数字のカードを引く未来、同じ数字のカードを引く未来、あらゆる可能性事象が『視』えた。蛍は同じ数字を引く未来を「視」ながら、カードをめくる。
 一枚目、ハートの8
 二枚目、ダイアの8
 三枚目、クラブの2
 四枚目、ダイアの2
 その調子で次々とカードをめくっていった。が、途中で優一が驚いた顔をしているのに気づき慌てて、わざとまちがったカードを引いた。そしてわざとらしい声で取ってつけたように言う
「うわあ、すごく運がよかったよ、一回で24枚も取っちゃった。あはは。」
「・・・すごいな、蛍は。」
 その後、『神経衰弱』は蛍が30枚ほどカードを取って勝利を収めた。その気になれば全部のカードを取る事も可能だったのだが、それは言わない約束である



 夜、既に夕飯を済ませて9時頃
「蛍ちゃん、お風呂一緒に入ろうか?」
 叶恵が蛍に問いかけた。蛍はとたんに真っ赤になる。
「いいよ、一人で入れるから!」
「蛍、お兄ちゃんと一緒に入ろう!!」
 優一がいきなりとんでもない事を言いはじめた。蛍は猛烈に首を振り否定する
「絶対いやだぁ。」
「ううっ、蛍がぐれちゃった、前は一緒に入ってたのに。」
 いきなり泣きだす優一、蛍は呆れ顔である。
「別にぐれてないよ、ともかく一人で入るから。」
 そのまま話していると一緒に入ることになりかねなかったので蛍は急いで風呂場に向かった。
晴宮家の風呂はかなりの大きさで大人が二人は入れるほどである。蛍は自分の身体を見ないように目をつむりながら、スポンジに泡をたてて洗い始めた。
 ごしごし

 ごしごし

 ざばー

「なんか悪いことしてる気分だよ。」
 結局は薄目を開けて見ていたようだ。努力は認めてやってほしい。
 身体を洗い終えた後、今度は腰のところぐらいまである長い髪の毛を洗いにかかった。病院で洗ってもらった時のことを思い出しながら、シャンプーを手のひらに乗せて、お湯を少々混ぜて髪に沿って延ばした。その後にゆっくりと丁寧に洗ってゆく。
「がしゃがしゃって洗ったらいけないんだよなぁ。大変だ。」
 蛍はぼやきつつ、5分ぐらいかけてやっと洗い終えた。最後に湯船の水を溢れさせながら、肩まで入った。蛍は湯船の中の心地よさでぼおっとなりながら、今日起きたことを考える
未来が予測できるのはまちがいないな、でもあんまり先のことはわからないみたいだ。
 蛍はまた少し未来を『視』てみた。いくつもの相をなす事象が『視』えてくる。
 周りの景色がダブって見えるから普通の時にはやめといたほうがいいかな
 ふとあるイメージが『視』えて、蛍は焦った。
 お母さんが来る、…ああ、どうしよう。
 蛍は一気に湯船から上がると急いで風呂場から出てフリルつきのパジャマを着た。タッチの差で叶恵が来る。
「あら、もう上がったの?お母さんも一緒に入ろうと思ったのに。」
 そういうといきなり叶恵は上着を脱ぎ始めた。ブラジャー姿になる叶恵を見て

「うわあ、ごめんなさい」
 蛍は顔を真っ赤にしながら、脱兎のごとく風呂場の前の洗面所を抜け出した
「どうしたのかしら?」



 就寝前、蛍は自分の部屋の窓を開けて満天の星空を見上げている。
 コンコン、ドアをノックする音が響き、蛍は声をあげる。
「はあ〜い。」
「蛍ちゃん、もうそろそろ寝なきゃだめよ。」
「うん、もうそろそろ寝るよ。」
 叶恵は蛍の肩に手を置いて、一緒に星を見上げた。
「綺麗ね。」
「そうだね、きらきらして、まるで歌ってるみたいだよ。」
「ふふ、蛍ちゃんは可愛いことを言うわね。」
 蛍はもしかして考え方が女の子っぽかったかなと思い、恥ずかしさに俯いた。叶恵はそんな蛍の様子に気づくことなく、さらに言葉を続けた
「私も蛍ちゃんぐらいの年には、そんなことを考えていたものよ。夢を見るのが女の子のお仕事ね。」
「夢見る少女…なんだ。」
 複雑な顔をして蛍は呟いた。

 またまた登場した、謎の三人組がなにやら雑談している。
「彼女のリジョンが少しだけ広がったようです。」
「そう順調ね、ところであっちの世界とは連絡とれないの?」
「既に私達以外はこの世界に干渉することはできないようです。」
「私達三人を送るのが限界だったようね。」
 ちなみにミカは前回と同様にヤバイ目をしながら、蛍を見つめていた。それをマリアがちらりと確認して溜息をついた
「それにしても、なぜ私達三人が選ばれたのかしら。」
「オラクルによる計算では、我々が一番成功率が高いからです。」
「そういう意味ではなくて、なんか割り切れないのよ。ミカなんてまだ五歳なのに。」
「インタラクティブ・ヴィジョン・ストリーミングに意味を問うのは無意味です。それを解析するオラクルも。」
「もうわかったわよ、ところでこの後の予定だけど、ルーシアくん行ってくれる?」
「もちろんです。彼女に会うのは楽しみですね。なにしろ彼女は…」

「ルーシアくんだけ、ずるいです〜。」
 いきなりミカがマリアに抱きつきながら抗議の声をあげた。
「はいはい、ミカはもうちょっとだけ待っててね。」
「うにゅう、わかったです。」
 マリアに言われてミカはしぶしぶ納得した。











                                                    
こんにちはノインです、今回も謎が謎を呼んでますね、すいませんです。これで本当に終わらせる事ができるのか、あるいは意外と短い回で一気に謎を解いて終わってしまうのか、自分でもまだ見えていません。ともかく毎回をがんばって書いていくだけです。こんなところまで読んでくださりありがとうございました。



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