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ウェディングマーチは変拍子

作: 南文堂



 三月になれば暖かくなるという幻想はとうの昔に捨て去った。だから、この寒さも織り込み済み。夏は暑く、冬は寒い、春は暖かく、秋は涼しい。これが日本の四季で、何の不思議も無い。そして、昔の人は言っていた。「暑さ寒さも彼岸まで」と。だから、あと十日ほどは冬の担当なのだろう。
 私が寒さを理性で納得していると、一迅の風が何かに怒りをぶつけるように吹き抜けた。私の長い髪が束ねているにも関わらず風の暴力に翻弄され、鞭のように私を打った。
 私は軽く苛立った。舌打ちしなかったのが奇跡だと思う。
 この春、大学に入学する前に切ろうと思っていたけど、予定変更。あさっての卒業式が終わったら切りに行こう。
 私の髪は長くて綺麗だと他人によく褒められる。手入れは大変だけど、私の自慢だった。私の夢を叶えてくれるはずだった長い髪。でも、その夢はもう叶わない。何ヶ月も前に髪を伸ばしている理由を失っているのに、未だに切れない私の髪。
 私ははたと苛立ちの本当の理由に気づき、自己嫌悪に陥った。
 なんてことはない。髪を切るのさえ周りに気遣いし、切るタイミングを逃している。そんな自分は風に翻弄される髪と変わらない。自分自身への苛立ちを髪に八つ当たりしているだけ。
 自分の心の狭さがかなり情けない。ため息をつきたくなるのを我慢して顔を上げた。
 悲しいかな、人生という道程には、立ち止まったものの手を引いてくれるお人好しはいない。自分で歩いていくしかない。
 まったく、水戸黄門のオープニングテーマに共感する日が来るとは思わなかった。
 ともかく、気を取り直して、目の前の風景を見た。三年間通い続けた見慣れた道が続いている。
 目をつぶっていても学校に行けるほど歩き飽きた道だけど、それも今日を入れてあと三回で終わりかと思うと変に感慨深くなる。
 途中、緩やかだけど長い坂道がある。若い私たちには全く苦にならない緩い坂道で、生徒の中には坂道と気がつくまでにかなり時間のかかる人もいるぐらい緩い。
 その坂道の途中、見知った後姿を見つけた。ショートカットをした、小柄な女子生徒。ゆっくりと坂道を登る彼女は、私の中での、できれば今会いたくない人ランキング一位だろう。
 でも、無視することはできない。彼女は私のかけがえのない親友だから。
「おはよう、由紀」
「さくらちゃん、おはよう」
 後ろから声をかけたが、振り返る前から誰だかわかっている笑顔を見せてくれた。
 私の幼馴染で親友の冬山由紀。洒落みたいな名前だが、それを言うと、私もなので、それにはあえて触れない。
 由紀の笑顔は昔から眩しい。何があっても、不思議とそれだけは変わらない。
 その由紀の笑顔が少しだけ曇った。他の人なら見逃すほど些細で一瞬の変化だったけど、付き合いの長い私は見逃さない。
 その理由は考える必要もなく知っていた。そして、心の奥がちくりと痛んだ。
 私という鬼を退治しようとしている罪悪感という名の一寸法師が針の剣を突き立てたのだろう。だけど、私は退治されてあげるわけにもいかないし、一寸法師を追い出すことも不可能と思う。多分、一寸法師が飽きるまで、何度も味わう痛みだろう。
 でも、今は私の心の痛みより、由紀の事を心配すべきだろう。
「痛む?」
 私の問いに由紀は小さく首を振って否定しようとしていたが、私が嘘は許さないと目で訴えると、苦笑を浮かべた。
「さくらちゃんの彼氏は大変だね。何でもお見通しされちゃうんだもの」
「嘘つく方が悪いのよ」
 そっけなく答えたが、さっきから心の中の一寸法師は大暴れしている。
「そうだね。……昨日まで暖かかったのが急に冷えたから、ちょっと痛いかな」
 由紀は自分の左足をちらりと見た。左の膝に巻かれたサポーターが黒いレギンス越しに由紀の脚線美を台無しにしている。
「肩、貸したげようか?」
「できれば、お姫様抱っこして欲しいな」
 私は反射的に由紀の頭をはたいた。この娘は!
「いたいよ、さくらちゃんー」
 はたかれた頭を抱えて由紀が少し涙目で文句を言う。ショートカットで、少し童顔のかわいい顔立ちをして、そんな目をされたら、女の私も転びそうになる。
「由紀がふざけるからでしょ。そんな余裕があるんなら、一人で大丈夫ね」
 私は顔が赤くなるのをごまかすように少し怒って見せた。
「うん。一人で大丈夫だよ。今日は寒くなるって聞いていたから、ゆっくりでも大丈夫なように早く出たんだし」
 由紀の芯の通った決意に満ちた笑顔に私はドキッとした。最近、由紀は時々こうゆう表情をする。……ああ、そうだった。あの事があってから由紀は変わったんだ。
「さくらちゃん、どうかしたの?」
 由紀に声をかけられて、私ははっとした。
「なんでもない。でも、早く出るにしても、ずいぶんとね」
 私は由紀と自分の心をごまかすように話題を変えた。
「そう? いつもより一時間前に起きて、ゆっくりと準備して出てきただけだよ? でも、冬の一時間って、すごいよね。起きたら、寒いって思ってたけど、想像以上に寒かったから、もうびっくり。外も暗かったし」
 由紀はちょっとはしゃぐように話し始めた。でも、一時間前?
 私はスカートのポケットから携帯電話を取り出し、ふたを開けて、由紀に見せた。
「ん? 新しいネコパンちゃんの待ち受けにしたんだ」
「そう、かわいいでしょ――じゃなくて、時間」
「時間? もしかして、時間ぎりぎり? もっと早く出なくちゃいけなかった?」
 由紀は改めて私の携帯に表示されている時刻を見た。
「あれ? さくらちゃん、携帯の時間、違ってるよ」
 由紀は私のことをドジっ娘だと笑いながら、自分の携帯を取り出して時間を見た。そして、固まった。
「大方、二時間早く目覚ましセットしたんでしょ」
「あうー、そのとおりでございますー」
 携帯の目覚ましのタイマーのセット時刻を確認しながら情けない声が聞こえてきた。まったく、この娘は。
「どうりで眠いはずだよね。あーあ、もっとゆっくり寝れたのに」
 由紀に会わないように早く家を出たのに、それ以上早く由紀が家を出ていたなんて、本当に笑い話よね。きっと、神様が逃げ腰の私にダメ出しをしているんだろう。
「二時間遅いよりマシと思うことね。でも、三年はもう自由登校だから眠たいなら家で寝ていればいいじゃない」
「だって、あさってには卒業だよ? もう、この制服を着て、さくらちゃんとか、みんなに会えるの、三回しかないんだよ?」
 由紀が少し鼻声で言う。それはわかっていたけど、考えないようにしていたこと。
「卒業式前から泣かす気か? 式本番になったら涙が枯れちゃうじゃない」
 私の声も鼻声になっていた。本当にこの娘は。

 由紀のペースに合わせてゆっくりと歩いてきたが、授業開始時間までだいぶんと時間があり、学校は人影まばらで静かだった。グランドでは部活の声が聞こえるが、校舎は閑散として、コンクリートの壁が重苦しい沈黙を保ち、ますます寒さを増幅していた。
「由紀! さくっち!」
 正面入り口の玄関をくぐろうとしたその時、静けさを破るように明るい大きな声がこだました。私たちはそちらの方に顔を向けた。誰だかはわかっているけど。
 声をかけた人物は、犬なら絶対尻尾を振っているだろうぐらい、眩しい笑顔で駆け寄ってきた。ウィンドブレーカーを羽織っているけど、その下はランニングに短パン。見ているだけで寒くなりそうな格好をしている。
「おはよう、太陽。朝練?」
「うん。会社の監督が卒業式まではこっちにいていいって言ってくれたんだ。向こうに行って、練習ついていけないなんて迷惑かけられないし、できるだけ走っておかないとね」
 夏海太陽は卒業したら、東京の実業団で陸上選手として就職が決まっている。本当ならば、卒業式を待たずに実業団の練習に参加しているはずだが、その実業団の監督が「卒業式まで出て卒業」と高校生は卒業式後に練習に合流としてくれたらしい。
「練習メニューをもらったんだけど、やっぱ、すごいわ。ハードだし、内容濃いし」
「くじけそう?」
「まさか! まだ速くなれるかもしれないって、ワクワクしてるよ。あー、早く練習に合流したいな。なあ、さくっち、元副会長の権限で卒業式早くできない?」
「できるか、バカ!」
 遠足に行く子供のようにはしゃぐ太陽の頭をはたいた。まったく、この男は。
 隣で由紀が笑っていた。太陽も笑い出した。私もなんだかおかしくなった。
 こうして、三人でバカをやるのも、あと三日しかないのかと思うと、寂しく感じる。多分、二人も同じ思いなんだろう。
 私は地元の国立大学に進学が決まっている。将来、翻訳の仕事がしたいので、留学するのが理想だけど、家のローンで家計を切り詰めている両親にこれ以上無理を言えないし、大学卒業後に自分で学費を稼いでから行こうと思っている。
 由紀はスポーツトレーナーの勉強をするため、東京の大学に進学する。足の怪我をするまで選手だった経験や、リハビリの体験を生かしたいという。あの娘なりに考えていたことらしい。
 太陽は三年のインターハイに出場し、200mで優勝、100mで準優勝、国体でも好成績を残した。大学の推薦も来ていたが、あっさり実業団入りを決めた。勉強するより走って仕事したいという。らしい発想だと思う。
 そして、由紀と太陽は高校卒業したら、結婚することになっている。
 最初は反対していた由紀と太陽の両親も二人の本気にあっさり折れてしまった。今では逆に後押ししているようにも見える。
 よく考えてみれば、家は隣同士、私たちが幼稚園に入る前に同時に引っ越してきて、それから家族ぐるみで付き合いをしている。お互い、「どこの馬の骨」ではないのだ。両親たちが「いつか別の誰かに取られるなら、こっちの方がマシ」と思ったのは責められない。
 まあ、そういうふうに誘導したのは私なのだけど。
 ともあれ、幼馴染み二人が結婚をする。
「――ということになっている。春川、これでいいか?」
「え?」
 私ははっとして、周りを見渡した。私は自分のクラスの自分の席に座っていた。周りにはクラスメイトと元生徒会のメンバーが集まっている。黒板にはご丁寧に「自習」の文字が大書されていた。
 そうだった。あの後、由紀と太陽と別れて、自分のクラスに行き、二人の結婚式の打ち合わせをしていたのだ。
「ごめん。聞いてなかった」
「しっかりしろよ。アキントリオの司令塔がぼーっとしてたら、二人は暴走しっぱなしだぞ」
 元生徒会長の秋野実が私の頭をファイルでバシバシ叩く。とりあえず、秋野の腹に座ったまま、正拳突きを入れよう。
「バシバシ叩かないでよ、殴るわよ」
「殴ってから言うな」
 秋野はうめきながら文句を言っている。急所は外したけど、かなり痛そう。座ったままだったから腰は入ってないけど、油断してたところにパンチを食らっちゃったのね。未熟者め。
「会長、副会長の夫婦漫才が一段落したところで、話を進めましょう」
 元会計の雨宮梅香がいつもの仕切り直しの一言を言う。半年前の生徒会室と変わらない空気に私は顔がほころんだ。
「会長と夫婦と呼ばれて嬉しかったですか? そうなら、打ち合わせはいいので、病院に行ってきてください、副会長」
「安心して、それはないから」
 私がきっぱり言うと、秋野は少し寂しそう。だけど、それは無視して仕事を済まそう。
「基本的にシンプルな結婚式ですので、後は確認作業が主な仕事となります」
 梅香がまとめた進行表を見ながら、手配した物品、人のチェックをしていく。予算を見ても、質素倹約そのもの。披露宴ではなく、結婚式だから当たり前といえば、そうだけど、値段交渉などは梅香ががんばってくれていたことは知っている。
「ありがとう、梅香」
「どういたしまして、副会長」
 相変わらず、梅香はそっけない返事をする。
 いつもこんな感じで周りからは「冷たい」など言われている。だけど、本当は態度に出ないだけで喜んだり悲しんだり、怒ったりしていることを私は知っている。一年の秋からの付き合いで、今では直感的に梅香の喜怒哀楽が読み取れる。
「ん? そういえば、馬術部に馬を提供してもらって、商店街を馬車でパレードはどうなったんだ?」
 秋野が復活して進行表を見て訊いた。
「そんなバカ演出、即効却下したわよ」
 親友二人を見世物にするつもりはない。本当はこっそりするつもりだったのが、みんなにばれて、学校あげてのイベントに昇格してしまっているだけでも申し訳ないというのに。
「その予算も組んでないですし、そもそも、そんな予算は無いです」
 梅香が二人の希望予算、本当にぎりぎりの総支出を書いた紙を秋野に突きつけた。
「馬術部の連中、乗り気で調教してるぞ。演劇部の大道具班にリアカー改造を発注しているらしいし、もう出来上がっているんじゃないか?」
 秋野が頭をかきながら苦笑している。ふざけて誰かが言った企画がなんでしっかり進行しているのよ?
「さっさと、止めてきなさい! 今までの費用はなんとか捻出するから、即中止よ」
 統括している私のところに進捗の書類が上がってこないのは、なし崩しで結成された組織だからだろう。でも、それは勝手な言い訳。そうなることは予想できたし、本来は私が各部署を見回ってチェックすべきことだった。
 仕方ない。自腹を切ろう。これは私のミスだ。
「えー。せっかくだし、商店街の人たちも楽しみに――」
 どうやら、拳で語らないと話が通用しないようね。私は指の関節を鳴らした。
「うむ。連絡の齟齬があったのは由々しきことだ。早く命令撤回せねば、我が軍に多大な損害を及ぼしかねない。これより、計画中止を伝達しに行ってくる。失礼」
 秋野は最敬礼して教室を飛び出していった。最初からそうすればいいものを。私の指の関節が太くなったらどうするつもりよ?
「副会長。それで、ウェディングドレスの方は大丈夫なんですか?」
 秋野が教室を出て行ってから梅香が私にそっと尋ねてきた。今までのきりっとした表情ではなく、不安そうだった。梅香が表情を出すほど不安なの?
「大丈夫。絶対間に合わせるから。被服部の人たちにもちゃんとアドバイスもらっているし、間に合うって言ってくれてるし」
 私は不安を吹き飛ばすために明るく胸をたたいた。
 私は幼稚園のときに二つの約束をした。一つは無理になったけど、もう一つの、「由紀のウェディングドレスは私が作る」だけは守りたかった。
「でも、それならもっと裁縫を練習しておけばよかった」
 幼稚園のとき、私はファッションデザイナーになるつもりでいたらしい。実はあんまり憶えていない。
 ファッションデザイナーになると言っていた割には私は昔から絵心は全く無く、幼稚園でも変な絵ばかり書いていた。ある日、それをからかわれたことがあった。その時に由紀が「あたしのウェディングドレスはさくっちにつくってもらうんだから」と苛めていた子たちに啖呵を切ってくれたのだ。
 あとで思うと、それが「絵が下手」というののフォローになっているとは思えないけど、子供の喧嘩は気迫で決まる。その時の由紀の気迫は大人ですら反論を許さないほどだった。それ以来、私の絵をからかう子はいなくなった。
 だから私は、自分の将来の夢は忘れても、この約束だけは守ろうと思っていた。でも……
「どうかしたんですか、副会長?」
「え? ううん。何でもない」
 ごまかすように笑顔で首を振った。
「そうですか? 無理しないでくださいね。最近、ぼーっとしていることが多いから、疲れているんじゃないですか?」
 梅香は本当に心配そうな顔をしている。いかん、いかん。他人を不安にさせてどうする。
「大丈夫。私はそんなにヤワじゃないわよ」
 胸を叩いて見せた。まだ、不安そうな顔をしているが、それ以上は聞かないでいてくれた。ありがとう、梅香。
「さて、それじゃあ、ドレスつくりの続きに行ってくる。何かあったら、被服部の部室にいるし。あと、悪いけど飾りの方は指揮、よろしくね」
「そちらはお任せてください。副会長」
 私は立ち上がって、残された時間を有効に使うことにした。ウェディングドレスは式までに必ず間に合うと思うけど、早く完成させてみんなを安心させてあげたい。

 あの日は二年生の夏休みも終盤、日にちも憶えている。八月二十二日。九月までカウントダウンが始まっているというのに、真っ青な空に入道雲が浮かぶ、典型的な夏空の日だった。
 一年の秋から私は生徒会に入っており、その日も生徒会の用事で学校にいた。
 その日、由紀と会ったのは偶然だった。私は生徒会、由紀は陸上部。同じ学校にいても、活動場所が違っていた。たまたま、顔を洗いに来た由紀と資料倉庫で調べ物の帰りに手を洗いに来た私とが顔を合わせた。
「暑い中、練習、お疲れ様、由紀」
「さくっちこそ、生徒会の仕事、お疲れ様」
 私が手を上げて、笑顔で声をかけると、由紀もひまわりのような笑顔で応えてくれた。
 おたがい、八月が終われば夏が終わるなんて幻想はとうの昔に捨て去っている。じっとしていても暑い中、運動している由紀の顔は濡らしたように汗が吹き出ていた。
「お互い様よね。でも、今から走れって言われたら倒れそうよ。身体がなまっちゃって。そういえば、最近走ってないな。また、ジョギングでも始めようかな?」
 軽くストレッチしてみると、冗談じゃないぐらい体が硬い。本気で走ろうかしら?
 そんなことを思っていたけど、一向に由紀から言葉が返ってこない。私は妙に思って、由紀を見ると、なんだか神妙な顔をしている。
「……さくっち、陸上続けたかったんじゃなかった?」
 私は心の中でため息をついた。由紀とは親友だし、付き合いも長い。見た目、あっけらかんとしているくせに、妙なことだけはズルズルと引きずる悪い癖がある。これもその一つ。
「またその話? 私のタイムじゃ競技会には出れないし、記録会も怪しいもんよ。うちの学校の陸上部は趣味で走るための部じゃないもの。私にはちょうど渡りに船だったのよ」
 私も足にはちょっとは自信があった。中学時代は由紀や太陽とタメを張っていた。特に長距離は私の独壇場だった。
 でも、伸び代は中学時代で使い切ったようだった。一年の夏には立派な陸上部の落ちこぼれになっていた。選手になる見込みがないと見られると、自然、雑用を頼まれることが増えた。それでも私は辞めるつもりは無かった。支えることも立派な役割と思うようにしていた。雑用しながらでも、走れたし。
 そんな時、とある生徒会行事で陸上部から生徒会へ貸し出され、手際がいいと評価された。そして、生徒会選出選挙に推薦され、書記に当選し現在に至る。当選と同時に生徒会規約により陸上部は退部となったのは去年のことだった。
 陸上に未練が無いといえば嘘になるが、生徒会でみんなを支えるのも悪くないと思っている。走るのは、どこでもできる。
「でも……」
 夏の太陽のように明るい笑顔が暗く沈んでいるのは見るに耐えない。私は由紀にデコピンした。
「っ!」
「由紀らしくもない。気にし過ぎだって。そう思うなら、私の分も走ってちょうだい。由紀が走っているの見るの、私、好きだから」
 私はすっきりと笑ってみせた。由紀は私なんかよりも陸上の才能がある。一流とは言わなくても、がんばれば全国にいけるぐらいの才能はあると思う。今年のインターハイ予選も、出場まであと一歩だった。
「……うん。わかった」
 由紀は私の笑顔の意味がわかったのか、いつものように笑顔になった。
 人づてに由紀は予選敗退以来、記録が伸びずにスランプだと聞いている。多分、そんなこともあって、不安になっているんだろう。私をダシに陸上部を辞められたら目覚めが悪い。
「私は長距離志望だったから、短距離の由紀が走るとしたら、凄い量になりそうね」
「え? 回数じゃなくて距離で? それは無茶だよ」
 本気で嫌そうな顔をする。まあ、陸上部の練習でそれは無茶だけど。
「悩んでいたって仕方ないわよ。やれることしかできないんだから」
「ちぇっ。さくっちは何でもお見通しか」
 口を尖らせてすねている。私は自然と顔がほころんだ。
「恐れ入りなさい。第一、由紀に頭脳労働なんて似合わないわよ」
「へいへい。それじゃあ、顔洗って、さっさと練習に戻るわ」
 由紀は蛇口をひねり水を出すと、顔を洗うというよりも頭から水をかぶった。水滴を滴らせ、眩しい夏に光る姿は女の私でもドキッとするぐらい格好良かった。
 タオルで適当に顔と髪を拭くと、焼けるような日が照るグラウンドに飛び出した。
「がんばってね。無茶しない程度に」
「さくっちはいつも難しいことばっかり、あたしに言うよね」
 由紀は笑いながら手を振った。
「私はできない人には言わないことにしているから」
「ありがとう」
 由紀の後姿が陽炎に揺れて、グラウンドで練習している陸上部の方へ消えていった。私もその後姿を見送ると、手を洗って気合を入れて自分のすべき仕事を片付けることにした。
「部活終わったら、久しぶりに一緒に帰ろうかな? 帰りにアイス買って♪」
 でも、それは無理な話だった。
 私はその時、生徒会室で資料をまとめていた。どこかで救急車のサイレンが聞こえたが、住宅街にある学校では珍しくない。少し、外が騒がしく感じたが、気になるほどではなかった。
 結局、私がそれを知ったのは、夕方ごろ、一緒に帰ろうと由紀を陸上部に迎えに行った時だった。
 由紀は練習で走っている最中に倒れたらしい。倒れ方が変だったことに気づき、顧問が救急車を呼んだ。由紀は転んでひざが少し痛かっただけで、大げさだと救急車に乗るのをごねたそうだけど。
 病院で診察結果は、左膝の前十字靭帯断裂。普通は接触プレーのあるサッカーやラグビー、ストップアンドゴーやジャンプの多い、バスケットやバレーボールなどで見られる怪我らしい。しかし、疲労やホルモンバランスなども関係しているので、陸上で起こりえないわけではない。
 日常生活のみならリハビリだけでも回復するらしいが、競技に復帰するためは手術は不可欠だった。それに例え日常生活のみだとしても、怪我した膝をかばって他の場所に負担がかかることもあるので手術した方がよいらしい。
 そんなわけで、由紀はしばらく学校を休んで靭帯の再建手術を受けたのだった。
 そして、由紀が怪我した日、太陽は監督の卒業大学で練習に出かけていて留守だった。
 練習から帰ってきて、母親か誰かから由紀の怪我を聞いたらしい、私の家に慌てて飛び込んできたのだった。その時に格好は、練習から帰ってきたままなのだろう、ジャージの上下にバックを肩にかけたままだった。
 太陽は私の顔を見るや、自分が怪我したかのような真っ青な顔をして、「どうしよう」を連発してパニックになっていた。
 最初は落ち着かせようとしたが、あまりにも落ち着かないので、「あんたは“どうしよう”セミか!」とハリセンで叩いて落ち着かせた。
「どうしようもないでしょ。靭帯切ったからって、死なないわよ」
「さくらちゃん、冷たいよ」
 太陽は子供のように頬を膨らませた。外見は背も高く、顔もいいし、黙っていれば格好のいいのに、中身がアマちゃんというか、流行の草食系というか、頼りがいのないお子様なのだから仕方ない。
 それでも、それが母性本能をくすぐると女子のウケはいいのだけど。
「それに選手生命も終わりじゃないんだし、手術でも何でもできるんだから」
 ネットで調べただけで、実際はどうなのか知らなかったが、その時から私は由紀なら絶対再建手術を受けると確信していた。あの娘がこれぐらいでへこたれるわけが無い。
「だけど、さくらちゃん」
「だけども、やけどもないの! いい? 一番大変なのは由紀なのよ。周りがオロオロ、オタオタしてちゃ、心配させるでしょうが」
「うっ。それはそうなんだけど、心配で……」
 太陽は、反論できずに私の家の廊下で正座して床にのの字を書いている。まったく、なんでよりにもよって……
「心配するより、今できることがあるでしょ? それを先にしたら?」
 私はしゃがんで優しい声で太陽の肩に手を置いた。触れた肩は、女々しく見えても筋肉質でがっしりしている。太陽も男の子なんだなと、変に意識してしまう。
「そうだ。そうだよ! さくらちゃん、ありがとう」
 太陽はいきなり立ち上がった。あまりにいきなりだったので、私はびっくりして尻餅をついた。見上げる太陽は少し男らしく、格好良かった。
 うん。やっぱり、男の子。ちょっと、パニックになったけど、しっかりしてもらわなくちゃ。
 でも、太陽は私の予想の斜め上を行く男だった。
「サインペンを買いに行かなくちゃ」
「サインペン?」
 決意に満ちた表情と台詞が全く一致していない。聞き違えるにしても、元が予想できないで、私はあっけに取られ、思わずオウム返ししてしまった。
「うん。サインペン。それを買って、お見舞いに行って、ギブスに『早くよくなってね(はぁと)』って書かなくちゃ」
 ふざけているわけではない。笑わそうとしていっているわけでももちろんない。大真面目に言っているのだ。
「言うに事欠いて、それか!」
 私の神速のハリセン殴打が飛んだのは必然だった。ほんと、なんでよりにもよって……

「何か楽しいことでも?」
 声をかけられて、わたしははっとなった。そうだった。ミシンをかけていた最中だった。
 幸い、無意識でもちゃんとミシンを走らせていたようだ。それを確認して、ほっとした。なんだか、最近ぼーっとしすぎよね。
「ごめんなさい。お邪魔でした?」
 私は改めて声をかけてくれた人を見上げた。ちょっと不安そうに私を見ている。
 被服部の元部長で、私の同級生の土谷庸子。私のわがままを聞いて、私のデザイン――というには程遠い、謎のイラストを元にしてウェディングドレスを型紙に起こしてくれた。それから、作り方を付きっ切りで技術指導してくれている。
 ほわっとしたお嬢様風のかわいい感じのやさしい娘。きっと、男子はこういう娘が好きなんだろうな。
「ううん。ありがとう。ちょっと、ぼーっとしてたみたい。危うく自分の袖ごと縫っちゃうところだったわよ」
 私が照れ隠しに頭をかきながら笑おうとしたけど、袖を誰かが引っ張る。だれよ、まったく!
「ちょっと、遅かったようですわね」
 庸子は苦笑してハサミを手に取った。私の袖は見事にウェディングドレスと一体化していた。
「面目ない」
 糸を切ってもらいながら、私は恥ずかしさをごまかすように顔をしかめていた。
「慣れないことを集中してすると疲れるのは当たり前のことですわ。根をつめすぎるのはよくないわよ」
 庸子はあっという間に袖を引くウェディングドレスを分離した。さすがは本職。きっと、庸子が作ればもっと綺麗にもっと早くできていたんだろうと思う。
「わかってはいるんだけど、タイムリミットが決まっているしね」
「それなのに最初は新郎のタキシードまで作るって無理言ってましたわよね。ウェディングドレスだけでも素人の春川さんには大変ですのに」
 庸子はほがらかな顔だが、本当はかなり怒っている。彼女も梅香と同じで表情が読みにくい。
「無茶言っていたのは百も承知。だけど、両方作らないと、約束の半分しか果たしていない気がして……でも、確かに無理だったし、庸子に頼って押し付けるみたいになって、ごめんなさい」
 私は心から頭を下げた。私のわがままを庸子は尊重してくれて、最初は両方作る計画を立ててくれた。しかし、それが甘いことをすぐさま思い知らされて、ウェディングドレス一本の計画に作り変えてもらった。その上、タキシードを庸子にお願いまでしてしまった。
 私の無茶で私がつらいのはいいが、それで庸子や梅香、ついでに秋野などに迷惑をかけている。ほんと、最近の私はどうかしてる。
「友達としては、いつもなんでも一人でしようとする春川さんが最後に甘えて頼ってくれたのは、うれしかったのですけどね」
 庸子はしゃがみこんで、頭を下げる私の顔を下から覗き込んで、いつものようににっこり微笑んでいた。
「恥ずかしい台詞禁止!」
 私は鏡を見なくても顔が赤くなっているとわかった。庸子も言っておいて、顔を赤くしている。変なのは私だけじゃない。みんな普通にしているけど、卒業式が近づいて変になっている。
「そ、そういえば、先ほど何を考えておられたのですか? とても楽しそうなお顔をしておられましたが?」
 庸子も恥ずかしかったのだろう、あっさりと話題を変えた。
「さっき? ……ああ、ちょっと、二人のことをね」
 私は再び思い出して、複雑な思いで笑うべきかどうか迷った。
「ふふふ、アキントリオの思い出ならきっと楽しい思い出なのでしょうね」
「その呼び名は辞めて欲しいんだけどね。それにしても、結局、その呼び名からも離れられなかったなあ」
 私は心底残念に思い呟いた。小学校のときにつけられたあだ名が高校卒業までもつなんて、どんだけ物持ちがいいのやら。
「あら? 素敵な呼び名と思いますけど?」
「春川、夏海、冬山。春夏秋冬の秋がないから、アキナイで商人、三人だからトリオ。合わせてアキントリオ。うどん屋の営業中の駄洒落よ」
「そうでしたの? 私はてっきり、お三人の話題はいつ聞いても飽きませんでしたから、アキントリオと思っていましたわ。なるほど、そういう由来なのですね」
 庸子が目から鱗という顔で手を打った。
「あのー、そんな命名だと思われていたの?」
「少なくとも、私の周りの人は」
 卒業前に知る驚愕の事実。軽くショックだよ、私は。
「でも、うらやましいですわ、幼馴染。私は転校が多かったので」
 庸子の父親はいわゆる転勤族らしい。高校は彼女が一人暮らしして三年間同じところに通えたが、中学までは毎年のように転校を繰り返していたらしい。ひどいときは一年に三回転校したとか。それは確かに大変とは思うのだが。
「幼馴染なんて腐れ縁よ。庸子こそ、いろんな出会いがあって、あっちこっちに友達がいるじゃない」
 普通は転校すればそれっきりだが、庸子は親しい友達とは手紙をやり取りし、何人かは夏休みや冬休みに何かのイベントなどに一緒に遊びに行ったりしているらしい。そんなマメな庸子の友人ネットワークは半端無く広い。あれほどの人数とよく付き合っていけると感心する。
「隣の芝生は青いってことですわね」
 くすくす笑う庸子に私はやられたと苦笑を浮かべた。
「でも、その腐れ縁もあと三日。さて――」
「今日はもう終わりにしましょう」
 庸子が作業の打ち切りを宣言して、片づけを始めた。
「え? まだ」
「もう、ほぼ完成しているわよ。あした、冬山さんに試着してもらって、全体のバランスを見ましょう。最終調整するのに、これぐらいにしておいた方がいいわよ」
 庸子がウェディングドレスをマネキンに着せてみる。技術が伴わないので派手さは無いが、それでも華やかなドレスに仕上がっている。
「じゃあ、タキシードの方を手伝う」
「それは私が作ってますから、ご心配無用ですわ。あとは明日の試着で最終調整するだけになってます」
 そう言って、きらめくタキシードをどこからともなく取り出した。私に付きっ切りなのに、いつの間に作ったの? 被服部元部長の実力は侮れない。
「文句を言う前に言っておきますわ。ウェディングドレスを素人が仕立てるだけでも無茶があるのに、これ以上無茶して、両方とも台無しにしては本末転倒でしょう? タキシードも仕上げでは手伝ってもらいますから、それで納得しなさい」
 庸子は私が驚いているのを不服と勘違いしたみたいだった。でも、確かに自己満足で半端なものを二人に着せるのは本末転倒だと思う。庸子の判断が正しい。
「要はお祝いする気持ちだと思いますわ。仕上げるときに心をこめれば、魂はこもりますわ。もちろん、私だって、夏海くんのファンだもの。心をこめて縫わせてもらってますわ」
 そういえば、庸子は太陽が好きで告白したんだった。
「ふられた者同士で花嫁花婿の衣装を縫っているなんてちょっと滑稽で笑えますわね」
「同士って、私はふられた覚えはないんだけど」
「春川さんが夏海くんを好きなことぐらい、この庸子様はお見通しですわ」
 ふふん♪ といった顔でとんでもないことを言う。
「見当違い。太陽なんて、弟みたいなものよ」
「そういう風にしておきましょう」
 まったく、庸子は。時々、勝手にストーリーを自分の中で作るから。
 結局、私はその日は早く帰って休むことにした。
 帰る途中、グランドを見ると太陽はまだ練習をしていた。由紀は陸上部の後輩たちに囲まれて色々と質問されていた。
 由紀は最終的に怪我で選手として部活に参加はできなくなったが、マネージャー兼コーチとして引退まで在籍した。陸上部の監督が言うには、由紀は指導者として資質があるらしい。
 私は二人に声をかけず、一人帰ることにした。

 私たちの住む町は、昔から住んでいる農家の入り組んだ路地の町と区画整理された新興住宅地がワンセットになっていて、それぞれ元町、新町など呼ばれていた。
 私たち三人は新興住宅地に住んでいるが、遊び場はもっぱら元町ばかりだった。迷路のような路地、空き地に農作業の小屋に畑。いたずらして何度、農家に謝りに行ったことだろう? 最後には仲良しになって、農作業の手伝いもしていた。
 そして、一番よく遊んだのは、この神社だろう。
 私は学校の帰り、寄り道して元町にある神社に来ていた。
 神社は小高い丘の上にある。百段以上はある立派な石段をあがり、鳥居をくぐると境内が広がる。社務所は雨戸が閉められ、お参りの人もなく閑散としていた。
 神主さんは高齢のために祭など用事のあるとき以外はふもとの家に住んでいる。子供の頃かそうだったけど、新しい神主さんが来る気配は一向に無い。もっとも、元町の氏子が毎日掃除しているので荒れた印象は無い。
 申し訳程度のお賽銭をして鈴を鳴らし、二礼二拍一礼。大過なくすごせている感謝をして、本殿の裏に回った。
 本殿横にある小さな稲荷社の横を抜け、雑木林を少し歩くと手すりがあり、その向こうには新興住宅街が広がっていた。神社の裏は急勾配になっていて、新町を一望できる。そして、川向こうの隣町、その向こうには遠足に行った慶山渓のある山脈まで見渡せる。川の上流をみると、平地に張り出した山地がある。林間学校で行ったキャンプ場はあの辺りにあるはず。三人での思い出が尽きることなく思い出せる。
 私は大学進学しても地元を離れるわけではない。この風景も見たくなったら見に来れる。
 だけど、高校最後だろうと思うと、なんだか感慨深いものがあった。
「何をセンチメンタルに乙女してるのよ」
 柄にも無く感傷に浸る私に自分でツッコミを入れた。
 私はきびすを返して、雑木林を抜け、本殿と稲荷社の間を抜けた。境内の石畳を歩き、鳥居の下で立ち止まった。石段の上から元町が一望できる。
 太陽はずいぶんと西に傾いているけど、夕焼けには早い。十分に明るい町を見て、そのまま視線をおろして、石段を見た。下の駐車場までかなりある。
「それにしても、よく死ななかったわね」
 私は長く続く階段を下まで見下ろして、少し背筋が寒くなった。

 由紀の膝の手術は無事成功した。内視鏡を使ったので傷跡も小さくて済んだと由紀の母親は喜んでいた。
 手術して数日で松葉杖で歩き始め、由紀は熱心にリハビリしていたらしい。若いというアドバンテージが活きて、回復が早いと医師が驚いていたそうだ。本当はもっと早く退院できたが、大事を取って手術後二週間ほどしてから退院した。
「もう、退屈で死にそうだったわよ!」
 退院して真っ先に由紀は心底私に愚痴った。退院の頃には松葉杖無しで普通に歩けていた。私も元気そうな由紀に安心した。
 今思うと、それが間違いだった。
 その頃、私は生徒会で副会長になり、学園祭や体育祭など行事が連発する時期で忙殺されていた。もっと手を抜いてもよかったのだけど、私も他の生徒会役員もその気はさらさら無かった。夜遅くまで学校に残り、休み時間すらも仕事していた。おかげで、学園祭、体育祭は生徒や参加者に大盛況だったけど。
 あれはそんな仕事に忙殺されていた時だった。休憩にみんなで飲むジュースを買いに購買部の自動販売機のところに行くと、由紀がベンチに腰掛けてぼんやりジュースを飲んでいた。
「あ、由紀」
 私は軽い調子で声をかけた。そういえば、由紀に会うのは久しぶりだった。
 幼稚園時代から続いていた三人同じクラス連続記録は高校二年で途絶えた。私は国公立文系、由紀と太陽は私立理系。針路が違えばクラスが分かれるのも仕方ない。太陽なんかは泣きそうだったけど、同じ学校で今生の別れみたいなのが信じられなかった。
 でも、実際、別のクラスになると会う機会は減った。たまに廊下ですれ違い、挨拶を交わす程度だった。正直に言うと、ちょっと寂しくもあった。
「さくっち、おひさ」
 口調は軽く、笑顔であったが、いつものような明るさが無いことに私は少しおかしいなと思った。
 でも、すぐに明るさが無いのはリハビリで疲れているせいだろうと思った。由紀はリハビリを療法士に止められるぐらい熱心にしていると、由紀の母親がぼやいていたのを思い出した。
「こんな時間まで学校にいるなんて。今日はリハビリお休み?」
「うん。今日はお休みなんだ。さくっちは忙しそうだね?」
 由紀が苦笑していた。多分、私のオーバーワークを聞いているのだろう。由紀のことをいえない。私も苦笑した。
「おかげさまでね。会長はアレだし、フォローが大変よ。今日は商店街の人たちと打ち合わせでいないから仕事がはかどるわ」
 私は生徒会のメンバー分のジュースを買いながら無駄口を叩いた。忙しすぎてテンションが変になっていたのかもしれない。
「大変だね」
「でも、やりがいがあるから楽しいわよ。忙しいけど、充実してる」
 ジュースを袋に放り込んだ。由紀と久しぶりのおしゃべりだけど、仕事はまだ残っている。早く戻らないとみんなに迷惑がかかると、生徒会室の方が気になった。
 由紀は私の考えを読んで悟ったのか、何か納得したようにうなずいた。
「そっか。じゃあ、また今度ね」
 由紀はそういって立ち上がると飲み終えたジュースの空き箱をゴミ箱に捨てて、夕焼けが照らす廊下をゆっくり歩いていった。校舎の玄関を出ていく後姿を見て、私はそこでやっと由紀の様子が変だったことに気がついた。
 私は自分の鈍感に舌打ちして、由紀を追いかけようとしたが、運悪く、生徒会の後輩が廊下を走って、私を呼びに来た。
「副会長ぉ! 大変です。生活指導の杉内先生がスクールクイーンコンテストは許可できないって、今、生徒会室に。会長もいなくて、どうすれば……」
 私は一瞬迷ったけど、生徒会室に向かった。会長の秋野がいれば任せられるが、会計の梅香では喧嘩になるし、一年の書記には対応は難しい。各委員長も何人かいるが、逃げるか喧嘩かどっちかだ。
 私は携帯で由紀に連絡しようとしたけど、電源は切られていた。仕方なく、太陽に電話した。まだ部活中かもしれないけど、もう終わっているはず。とにかく出て!
「さくらちゃん、どうかしたの?」
 のんびりした声が聞こえた。
「太陽! 悪いけど、由紀をお願い。様子が変なの。今、中央棟の購買部から出て行った。追いかけて」
「え? うん、なんだかわかんないけど、わかった」
 太陽は私の声でわからないながらも、わかってくれた。ぼーっとしているけど、さすがは幼馴染。
「ごめん。私も用事済ませたら、すぐに行くから」
 私は太陽に頼んだら大丈夫と安心して電話を切って、生徒会室に早足で急いだ。でも、友人より公務優先するなんて、自分は最低だと奥歯をかんだ。
 私の予想通り、生徒会室に戻ったときには喧嘩寸前だった。人物配置も予想通り過ぎてため息が出そうになる。
 私はとりあえず、双方をなだめながら、杉内先生を説得した。内申の気になる生徒を抱きこまれないためと、血気盛んな生徒が再び喧嘩腰にならないように、各委員長たちは解散させた。
 私は説得中にこめかみの血管が幾度と無く切れかけたが、辛抱強く説得を続けた。
 杉内先生の言う中止の理由は、その根拠が曖昧で怪しかった。だが、それを単刀直入に切り出すわけにも行かない。ここは持久戦でタイムアウトを狙い、仕切りなおしの間に裏を取るつもりでいた。
 最終的には教頭先生が生徒会室の前をたまたま通りかかり、立ち寄ってくれたことで解決した。コンテスト中止は杉内先生の独断専行で、生徒会に知らされていたとおり、職員会議でちゃんとコンテストは承認されていた。
 杉内先生が帰った後で知ったことだけど、書記の一年が会長の秋野にメールし、秋野が教頭先生にメールしてくれたのだという。
 書記の子と秋野の機転に感謝しつつ、私は仕事を切り上げさせてもらって、由紀のところに駆けつけることにした。
 携帯のメールには太陽から由紀を見つけて神社にいると連絡が入っていた。
 すぐに電話したが、二人とも出る気配が無い。私は神社に急いだ。あたりはもう、真っ暗になっていた。
 街灯に浮かび上がる心細い道を私は全力疾走した。昔なら平気だった距離で息が上がる。足が重くて、亀のように遅いスピードにイラついた。気持ちだけが焦って、何度も転びそうになる。
 やっと神社の石段の下にたどり着いたとき見たのは、駐車場に倒れている由紀と太陽だった。
 私の心臓が止まった。一秒ぐらいは確実に。
 慌てて駆け寄って、二人とも息をしているのを確認して、とりあえず、ほっとした。頭を打っているかもしれないから揺らさないように、声をかけながら頬を叩いた。
「由紀! 太陽!」
「ん……あと、五分……」
 私の呼びかけに太陽が緊迫感の無いボケをかます。殴るわよ、本気で。
「寝ぼけてんじゃないわよ! こんなところで倒れて、どうしたのよ!」
「……あれ? さくっち、おはよう」
 太陽がむくりと起き上がった。打ち身はありそうだったが、見た目は平気そうだった。
「太陽、吐き気とか、めまいとか、手足がしびれるとか無い?」
 見た目大丈夫でもまだ安心できない。太陽は寝ぼけたような顔で首をひねると、なにやら自分の身体を触ったり、動かしたりして確認していた。
 私は、太陽の奇妙な動きはとりあえず大丈夫ということにして、まだ気がつかない由紀の頬を叩いて起こそうとした。
「……さくらちゃん、いたいよー」
 由紀が情けない声を出して目を覚ました。あの由紀がこんな声を出すなんて、よっぽどひどいのかもしれない。
「どこが痛いの? すぐ救急車呼ぶから」
 私は携帯電話を取り出して、救急車を呼ぶ番号を思い出そうとしていた。
「さくらちゃんがぺちぺち叩くから、ほっぺが痛い」
 ……心配した私がバカみたい! 一発殴っておくか。
「まあ、さくっち、落ち着いて」
 太陽が殴ろうとしている私を止めた。
「人が心配して駆けつけたら倒れてて。心臓止まったわよ、きっかり十秒! 何でこんなところで二人して寝てたのよ!」
 私は怒りと安堵感で泣きそうになって怒鳴った。
「えーと、神社の境内で話をしていて、暗くなったし帰ろうとしたら、石段の一番上で足を滑らせちゃったみたい」
 太陽が少し思い出すように言うと、まだ寝たままの由紀がうんうん頷く。
「それでとっさに助けようとして腕を掴もうとしたら、二人まとめて下まで転がり落ちたみたいなんだよ」
 私は石段を見上げてから、もう一度、じっくりと二人を見た。あっちこっちに擦り傷があるし、制服も破けている。
「あんたら、よくそれだけで済んだわね。はっきり言って、死んでもおかしくないわよ」
 蒲田行進曲も真っ青よ。でも、何だろう。この違和感?
「うん。僕もそう思う。でも、びっくりだよね」
 由紀が言う。あれ?
「そうよね。ほんと、あたしもびっくりよ」
 太陽が言う。あれれ?
「ちょっと、待って。何、この、アフレコ失敗した映画を見ているみたいな気持ち悪さ」
 私は正体不明の頭痛に眉をひそめた。
「さすが、さくらちゃん」
「さくっち、勘がいい」
 私は理由がわかった気になった。でも、そんな非常識な!
「どうやら、あたしたち、入れ替わっちゃったみたい」
 それを聞いて、今度は私が気を失った。

 私は神社の石段を下り終わり、二人の倒れていた場所に立った。
 あのあと、二人は私の携帯で救急車と両親を呼んだ。駆けつけた救急隊員が間違えて、あやうく私を搬送しそうになったらしい。ちょうどその時に駆けつけた由紀の両親が私をたたき起こしてくれた。
 私はとりあえず、二人が階段から落ちたことだけ救急隊員に伝え、由紀と太陽の付き添いを由紀の両親に頼んだ。少し遅れてやってきた太陽の両親には私と一緒に、どこかに飛ばされた二人のかばんの回収することをお願いした。
 病院の検査で、太陽の怪我はたいしたこと無かったが、由紀の左膝は砕けていた。詳しいことは知らないが、複雑骨折みたいなものだったらしい。
 医師たちは一生、よくて松葉杖、車椅子は覚悟してほしいと言っていたが、それを地獄のリハビリで一年で松葉杖なしで歩けるようにまで回復した。その回復力と精神力を医師たちは驚いたのはいうまでも無い。もちろん、私も驚いた。由紀の身体だが、中身の太陽にそんな根性があったとは。
 太陽ははっきり言って、草食系の典型だった。足が速いから陸上をしているが、一位になるのに、それほどこだわりが無かった。そのため、練習もいまひとつ積極性が無い。監督も「夏海に闘争心があれば、トップを狙える身体能力があるのに」と非常に残念がっていたぐらいだ。
 その太陽が根性を見せたのだ。驚かないわけがない。太陽にそのことを聞くと、こんな答えが返ってきた。
「だって、由紀ちゃんだったら絶対、こんな怪我克服すると思うもん」
 たったそれだけで根性出るなら、男の時に出しておけ。監督泣いてたぞ。
 そして、監督の言葉が正しいことは見事に証明された。
 太陽の中身は闘争芯の塊の由紀になった。途端に記録は伸び続け、インターハイ予選で高校新記録を記録し、インターハイ優勝までしてしまった。
 私は苦笑するしかなかった。
 それはそうと、普通、人間、入れ替われば大変である。それが男と女ともなれば並大抵ではないはず。しかし、家は隣で幼稚園時代から付き合い。肉親以上に長く一緒にいるのだから、相手になりきるのは苦もなかったらしい。
 まあ、最初は女の子の色々や、男の子のあれこれで大変だったようだけど。私もそれに色々と巻き込まれて振り回された。
 そして、お互いがそこそこ馴染んでしまうと、入れ替わって逆にしっくししてしまった。
 太陽は男子としては大人しすぎて頼りない感じがしていたが、女の子になるとそれがかわいく見えた。怪我してから淑やかになったと男子の間で人気急上昇。女子の間でも「やっと女に目覚めたか」とがさつさが無くなったと歓迎された。
 由紀は男の子になって、持ち前の積極性や闘争心が格好よく見えた。由紀を怪我から守ってやれなかった時から男らしくなったと女子の間で人気上昇。被服部の庸子もこのころ好きになったらしい。男子の間では少しやっかみはあったが、由紀の気さくな性格は男子たちも毒気を抜かれ、嫉妬に育つことは無かった。
 言葉遣いもお互いの言い方に変えて、あっさり順応したので私は狐につままれているようになった。時々、あれは自分の夢かと思ってしまうこともあった。
「そういえば、あれだけは二人とも頑固に変えなかったわよね」
 私は思い出して苦笑した。
 由紀は私のことを昔から「さくっち」と呼ぶ。この呼び方をしているのは由紀だけだった。そして、太陽は「さくらちゃん」。実はこの呼び方も意外にも太陽だけだったりする。入れ替わってもこの呼び方だけは変えなかった。
 それに気がついた同級生もいたが、太陽が「怪我をしてさくっちを守ってあげられなくなったから、さくっちを譲ってもらったんだ。その代わり、影ながら支えるさくらちゃんを譲った」など適当なことを言って納得させてしまった。
 だいたい、守ってもらった憶えも、支えてもらった憶えもないんだけど……。
 でも、周りは「さすがは長年の幼馴染は歴史が違う」と変に納得してしまった。まったく、世の中って奴は。
 もっとも、私も二人が入れ替わったことがばれないように学校、家と気を使っていたし、話もあわしていたのだけど。
 私は元町から自分たちの家のある新町に戻った。引っ越してきた頃は造成中の空き地が多かったが、今では家が立ち並び、空き地を見つけるのも難しい。でも、よく遊んだ風景は今でもはっきりと思い出せた。
 そういえば、昔から由紀がトラブルを起こして、太陽が巻き込まれて、私が収拾をつけていたっけ。
 私は一人、吹き出しそうになった。
 いつまで経っても私たち三人は変わらない。たとえ、二人が入れ替わっても、結婚しても、別々の道を歩んでも。
 私は当たり前のことにやっと気がついた自分を笑った。
「ただいま」
 私は少し気持ちが整理できて、すっきりした気分で家の玄関をくぐった。

 結婚式前日。ついでに卒業式前日。
 由紀のウェディングドレスが完成した。朝一番に試着してもらい、それを元に仕上げと微調整。昼過ぎに出来上がり、最終チェックのために今、本日二度目の試着をしてもらっている。
 オーソドックスなAラインの純白のウェディングドレス。
 純白の生地に由紀の健康的で張りのある白い肌がよく映えていた。さすがは、明日のために半年前から日焼けと美白に気を使ってきただけのことはある。去年までは真っ黒だった肌が見違えるようだった。
 私の技術が未熟でウェディングドレスの飾りが少ないことが気がかりだったが、それが逆に由紀らしさをよく出していて、まるで計算されていたかのようにはまっていた。庸子もある程度は計算してのことだったが、予想以上のはまり具合に驚いたほどだった。
 シンプルではあるけど、不器用なりに心血注いだだけあって、自分では満足のできだった。素人にしてはよくやったと思う。
「すごいですわ、春川さん。こんなに素敵なドレスができるなんて、正直、無理だと思ってましたわ。本当にがんばって、がんばって、すばらしいですわ」
 庸子はドレスのできに感動して私に抱きついて泣いていた。
「庸子がタキシードを縫ってくれたおかげよ。ありがとう。それを言われなかったら、半端なドレスだったと思うから」
 がんばったことが思い出され、庸子じゃないけど、ちょっと感動ものだった。
「さくらちゃん、ありがとう、あたし、あたし……」
 庸子と私以上に感動しているのが花嫁の由紀だった。中身は太陽だけど、私の幼馴染には変わりない。だから、もう、彼女は由紀なんだ。私はそう思っている。
「由紀はさくっちのお手製か。いいなぁ。僕もさくっちのお手製がよかった」
 一人、文句を言っているのは太陽だった。こちらもタキシードに身を包んで、悔しいけど格好良かった。馬子にも衣装。庸子の腕がよいだけよ。そういうことにしておこう。
「花婿は文句言わない。花嫁の添え物なんだから」
「相変わらず容赦なしだね、さくっちは。でも、ありがとう。約束憶えていてくれて」
 太陽が優しく微笑んだ。由紀もあの約束、憶えていたか。
「残念ながら、半分だけしか守れなかったけどね」
 私の言葉に太陽が首を振った。
「さくっちの気持ちはちゃんと受け取ったから、全部だよ」
「まったく。男前になりやがって」
 私は照れて顔を赤くするのを隠すように悪態をついて、太陽に肘打ちをした。
「さくらちゃん、ごめんねー。たいちゃんもごめんねー」
 由紀がいきなり私たちに抱きついてきた。まだ泣いている。
「由紀! いい加減に泣き止んどかないと、明日の分がなくなっちゃうわよ。ほら、ドレスが汚れるから!」
 私が由紀の涙を拭いてあげる。それを茶化す太陽を怒って、ぼける由紀につっこむ。それで調子に乗る太陽にけりを入れて、由紀が笑う。そして、みんなも笑う。私も笑う。そんなこんなで最後の試着は笑いに包まれて終わった。
 明日はとうとう本番か。……って、感傷に浸るのはちゃんと全部済んでからよ、春川さくら。油断していると、何が起こるかわかったもんじゃない。

 私は由紀の試着が終わると、結婚式の最終確認のために会場の教会に向かった。
「しかし、さすがは我が校の人気者だな。有志で集まる人数が多すぎて、削るのが大変だったぞ」
 道すがら、同行した秋野がリストを見ながら苦笑した。吹奏楽部が二人のために演奏をするし、合唱部が賛美歌を歌う。園芸部が花嫁のブーケやフワラーシャワーの花びらを用意する。他にもさまざまなところから申し出があった。学内だけではなく、地元商店街やスーパーからも色々と提供があるらしい。
「まあ、私の自慢の幼馴染だもの。人気者なのは当然よ」
「まったくだ」
「そこはつっこんでくれないと、単なる高慢ちきな女になっちゃうでしょ」
「それが狙いだからな」
 秋野がふふんと笑っている。こいつは最後まで。
「まったく。かわいくない」
「春川はかわいいのが好みか? うむー、女装でもしようかな?」
 秋野なら似合うかもしれない。うん。悪くない。そうすれば、私に付きまとうこともなくなるだろう。
「そしたら、彼氏を紹介してあげるわ」
「そんなの悪いわ。春川ちゃんだって、彼氏いないのにぃ。あたしだけ、彼氏持ちなんてぇ」
 脇を閉めてお祈りするように手を胸の前で組んで、思いっきり内股で腰を振りながら言った。そこまでするか、普通。
「秋野実、享年十八歳。卒業式を前日に控え、謎の死を遂げる」
 拳の硬さを確かめるように握ったり伸ばしたりする。大丈夫。急所を狙えば、女子の力でも人は殺せる。
「冗談はさておき、一つ聞きたいことがあるんだが?」
 秋野は急に真面目な顔になった。いつも、この手で逃れるよね。最後の最後まで。
「殺す前に聞いておいてあげる。何?」
「夏海と冬山は、冬山の二回目の大怪我のときに入れ替わったのか?」
 私はこけそうになった。いや、こけた。
「な、な、な」
「ふむ。はっきり言うが、結構な数の生徒は気がついているぞ。だが、あまりに超常現象過ぎて、誰も言い出せないようだ。それに二人が入れ替わったことで妙にしっくりしてしまった。だから、言ったところで誰も得しないから誰も言い出さないようだ」
 私は頭を抱えたくなった。必死に隠していたつもりだったのに。
「まあ、少なくとも、春川の呼び方は変えるべきだったな」
 太陽というか、由紀の言い訳は信じられていたわけじゃないのか。やっぱり。
「本人たちが必死で隠しているのを無理に暴くほど我が校の生徒は無粋じゃなかったことは、生徒会長をした身としてはうれしいことだ」
「副会長としてもよ。……やれやれ。全ては手の平の上だったわけね」
 私は軽く脱力感に襲われた。
「春川はよくやったよ。ただ、本人たちに隠す努力が足りなかっただけだ」
 秋野の慰めが身に染みてしまう。最悪。
「それで、夏海を好きな春川としては、今はどっちを好きとしたんだ? 身体の夏海か、心の冬山か?」
 とりあえず、秋野を殴った。質問は一つだけの約束。そして、その質問はデリカシーが無さ過ぎる。
「二人とも、大事な親友よ。生涯変わらずね」
 私はわかりきったことを口にした。口にしただけで、どうしてこんなに胸が痛むのよ?
「そうか。では、明日、髪を切るのは俺も付き合おう」
「なっ」
 なんで、こいつが知っている? 誰にもそのことは言っていないはずなのに。
「前に春川に髪を伸ばしている理由を聞いたことがあっただろう?」
 そういえば、そんなことを聞かれた覚えがある。
「その時に、春川は、ちょっとした願掛けと、非常にかわいい表情で答えてくれた」
「表情はともかく、そういったと思うわよ。それがどうして髪を切るのとつながるのよ?」
「春川が夏海を好きなのはすぐにわかっていた。大方、夏海と小さなときに交わした約束なのだろう?」
 私は眉を寄せた。どうして、こいつは時々、無駄に鋭いのだろう?
 その通り。私の小さいときのもう一つの約束。「太陽のお嫁さんになる」
 太陽は昔から太陽だった。頼りなく、世話ばかり焼かされる。でも、あの笑顔が好きだった。だから、私はいつでも守ってあげられて、いつでも笑顔を見れるお嫁さんになってあげると約束したのだ。多分、太陽は忘れているだろう。そんな些細な約束だった。
 そして、私の髪は、その時に、太陽が「僕、さくらちゃんの長い髪が大好き。結婚するまで切らないでいてね」と言った。こうして、私は髪を伸ばしたまま、幼稚園の時と同じように背中の真ん中より下、腰に届くぐらいの長さを保ってきた。もちろん、髪の手入れも怠らず。
「しかし、髪を切るとして、どんな髪形がいいか考えないとな」
 秋野は私が昔の約束を思い出している間、新しい髪形を考えていた。
 私は少し、吹き出しそうになった。バカだ。失恋したから髪切るなんて、いつの時代よ。
「モヒカンにしたら? 似合いそうよ」
 私は笑いながら言った。
「モヒカンか。オーストラリアの暴走族みたいであまり好きでないが、春川が似合うというなら、やってみてもいいな」
「もちろん、ピンクに染めてね」
 私は他愛もない軽口を叩きながら微笑んだ。その顔を秋野は真剣に見つめている。
「なによ? ピンクモヒカンなんて冗談よ。本気で言っているわけじゃないんだから――」
「春川はショートカットも似合いそうだな。美少女だから」
 ちっ! 油断した。ちょっと、顔が赤くなってしまった。
「ん? もしかして、惚れたか? それなら、遠慮無しに俺の胸に飛び込んでこい」
 とりあえず、照れ隠しに秋野を殴っておいた。
「私はね、二人が心配しないように幸せな結婚しなくちゃいけないんだから、あんたじゃ、力不足もいいところよ」
「そんなことを言っていると行き遅れるぞ」
 こいつの殴り収めはいつになるんだろう? 私の周りは腐れ縁ばかりなのかな?

 その晩、三家族合同の卒業パーティーの夕食会が盛大に開かれた。
 本当は明日が卒業だけど、明日の夕方には太陽は新幹線に乗って東京に行くことになっている。そんなわけでパーティーが今晩になった。
 ついでに言うと、今晩は二家族にとっては結婚前夜なのだけど、親戚よりも近い他人同士なので感傷はあまり無いようだった。
 親同士で二次会に突入すると、主役の三人は明日に備えてそれぞれの部屋に戻った。今回の二次会は太陽の家らしい。私の家からは由紀の家をはさんで向こうなので静かでいい。時々、騒ぐ声が聞こえるぐらい。ほんと、近所迷惑よね。明日にでも近所に謝りに行かなくちゃ。
 お風呂に入りなおし、パジャマに着替え、自分の部屋でベッドに横になった。
 一人っきりの家は少し寒かった。私はお気に入りの狐のぬいぐるみを抱きかかえた。
 こうしてゆっくり一人でいるのはどれぐらいぶりだろう? 昨日まではすることが一杯あった。生徒会の仕事、受験、結婚式の準備、ウェディングドレスつくり……。私の気を紛らわしていてくれた。でも、こうして、何もすることが無くなって、一人になると……
 泣くな、私!
 これからは、今までみたいに、三人一緒じゃないんだから。一人でも大丈夫って、二人にちゃんと、ちゃんと知っておいてもらわないと、二人が心配するじゃない。私は、アキントリオの司令塔よ。私がちゃんとしてないで、どうするのよ。
「やっぱり、泣いてた」
「うん。泣いてたね」
「泣いてなんかない!」
 私は目の汗を拭って飛び起きて反論した。って?
 見ると、由紀と太陽がベランダの窓を開けて、私の部屋に入ってきた。ベランダには由紀の家のベランダからはしごが渡されている。
「久々だから緊張した」
「もう、どきどきだよ」
 怪我する前は、よく由紀がこうして私の部屋に遊びに来ていた。危ないので止めるように何度も注意した。今回はどうやら、由紀を抱えて太陽が渡ってきたみたい。わかった途端、私の血が頭に上った。
「バカ! 落ちて怪我でもしたらどうするつもりよ! あんたの足はあんただけのものじゃないのよ。由紀と二人分の足なんだから。それも、由紀を一緒になんて!」
「だから、言ったのにー。絶対、怒るって」
「でも、入れ替わってから、これを一度やってみたくてしょうがなかったんだもん」
 二人の口調が由紀と太陽に戻っていた。入れ替わってすぐの頃は、三人だけでいるときに、時々戻ることもあった。けど、最近はほとんど無かった。
「帰りはちゃんと玄関から帰りなさいよ」
「うん」
「そうするよ」
 私はやれやれとベッドの端に腰を下ろした。由紀は私の椅子に腰掛け、太陽はクッションの上に胡坐をかいた。そういえば、この配置も昔から由紀と太陽が逆だけど定位置だった。
「こうして、三人で集まるのも久しぶりだね。昔みたい」
 由紀の声で太陽が呟く。
「そういえば、そうね。でも、明日でみんな別々の道なのよね」
 太陽の声で由紀が言う。
「当たり前でしょ。私たちはいつまでも子供じゃいられないんだから。ずーっと三人一緒なんて無理な話よ」
 私は当たり前のことを口にした。大学が同じでも、就職すれば、就職が同じでも部署が、部署が同じでも結婚すれば。三人一緒はどこかで崩れる。高校で終わったのはいい潮時だったと思う。
「でも、さみしいよね」
「うん」
 沈黙が続いた。この三人で、こんなに沈黙が続くなんて記憶に無い。寂しいのは私だけじゃない。それが少し嬉しかった。私は無理やり笑顔になった。
「ほーら、暗い顔しないの。別々の道でも、私たちが幼馴染で、親友だって言うのは変わらないでしょ? それで十分じゃない。私と由紀は勉強。太陽は実績。みんな、それぞれの道でがんばって、また会った時に恥ずかしくないようにお互いがんばろう。一緒に手をつないでいくだけが友達じゃないわよ」
 私は立ち上がって腰に手を当てた。三人でうだうだ言った時はいつも最後がこのポーズだったなと思い出し、ちょっと恥ずかしい。
「さくっちは強いね」
「うん。さくらちゃんはやっぱり強いね」
「今更なこと言わないの。強くなくちゃ、あんたたち二人のリーダーは務まりません」
 私は少しおどけて自慢げに言った。強くないけど、強くあろうとしてきた。それはこれからも同じ。
「ごめんね、さくらちゃん」
「なにが?」
 いきなり謝る太陽に首をひねった。
「さくらちゃん、僕のことが好きだったんだね。全然気がつかなくてごめん」
「なっ!」
 私はあまりにも言い返すことがたくさんあって言葉が喉につっかえた。
「入れ替わってから由紀ちゃんに聞いて、初めて知ったんだ」
 私は今は太陽の身体の由紀をにらみつけた。
「本当のことでしょう? 隠したって駄目よ。あたしだけじゃなくて、太陽以外はみんな気がついていたわよ」
 私は言葉が見つからない。昼間、秋野に見抜かれていたのを知ったが、あれは秋野の勘のよさが成せるわざと思っていた。
「他の隠し事は上手なのに、それだけはへたくそもいいところだったわよ。おかげで、入れ替わったのも結構ばれてたみたい」
 ちょっと、死にたくなってきた。原因は私なの?
「太陽があたしに告白してきた時は正直迷ったわよ。あたしも入れ替わってから、太陽のこと好きになりだしていたから。でも、さくっちのこと考えるとね。それでばらしたの」
「僕も聞いてびっくりしたよ。でも、僕はやっぱり、由紀ちゃんが好きなんだって。でも、さくらちゃんも大好きだし……。どうして、三人じゃ駄目なのかって、悩んだんだ」
 神妙な口調で太陽が言う。私は何も言えずに押し黙った。由紀も黙っている。わずかな間、沈黙が続いた。
「で、二人で考えたの」
 由紀がゆっくり口を開いた。
 おかしい。なんで、私、期待してるの? そんなの無理なことなのに。どう考えても、できないことなのに。
「二人でさくっちを襲っちゃって、三人で愛し合えばいいって♪ そしたら、三人一緒で――」
 神速のハリセン二刀流が二人の頭にクリティカルヒットしたのは言うまでもない。
「よかったわね。実行してたら、舌噛み切って死んでやるところだった」
 何かを期待した私がバカだった。本当にバカだ。
「そしたら、僕らも後を追うよ」
「だね」
 朗らかにいう二人に私はめまいがした。
「さくらちゃんを泣かせて幸せになりたくないもん」
「そうそう。さくっちが笑ってくれなきゃ、あたしらも幸せじゃない」
 二人の計画は多分、本気で考えていたんだろう。かなり間違っているけど。でも、そこまで思われているのは、幸せ者よね、私って。
「あのまま泣いたままだったら、実行するつもりだったのに、残念」
「二人で喜んでもらうために、色々と研究してきたのにね」
「勝負下着まで買って」
「そうだよ。せっかくだし、見る?」
 太陽が由紀のパジャマをたくし上げようとした。
 もう一度、神速のハリセンが部屋を切り裂いた。
「はぁー。あんたらとだと、おちおち泣いてもいられないわね」
 そういいながら、私の顔が緩むのが感じられた。
「覚悟してね。アキントリオは永遠に不滅だから、一生泣いてられないよ」
 真面目な顔をしていう太陽に私と由紀は笑った。
 私たちはそのまま、高校最後の夜を尽きない思い出話で夜更けまで話し込んだ。
 口には出さなかったけど、きっと、二人が元の口調になるのは、これが最後だろうと私は感じた。由紀は太陽に、太陽は由紀に。今までもそうだったけど、今までとは違う覚悟――私には何が違うかわからない、入れ替わった二人だけにわかることだと思う。でも、けじめをつけにきたのだというのはわかった。そして、それを私と話すことにしてくれた二人に私は素直に嬉しかった。

 私たちは卒業式が終わってすぐに準備して、教会に集まった。
 元町の外れにある教会は意外と歴史と風格があり、真っ白な外壁が三月の日差しを受けて柔らかく輝いていた。子供のとき、三人でよくここの牧師さんにお菓子をもらったりしていた。ありがたいお説教付きで。
 そういう縁もあって、二人が結婚すると聞いて、快く教会を使わせてくれたのだった。
「おっ。さくら坊もおめかしして、かわいいぞ」
 牧師さんが私を見つけて、豪快に笑った。私は恥ずかしさに顔を赤らめた。
 本当は制服で参列するつもりが、庸子から薄いグリーンのドレスを渡された。最初は恥ずかしいと断ったが、三年間着古した制服で親友の結婚式を祝うのはあんまりだと説得されてしまった。
「しかし、ほんと、町の人気者だな、お前たちは」
 牧師さんはちょっと苦笑いしながら周囲を見た。教会の周りは、招待した参列者以外の同級生、下級生、近所の知り合いであふれていた。
「当然です。私の自慢の幼馴染ですから」
 私は笑って牧師さんに答えると、牧師さんも豪快に笑って「もっともだ」と言ってくれた。
 教会の中に入ると、薄暗くはあったが、ステンドグラス越しに入る光が揺れて、威厳のある雰囲気をかもし出していた。
 私は少し緊張して、落ち着かないでいる新郎の右隣に立った。
「さくっち」
 太陽が私を見つけて、やっと落ち着いたのか嬉しそうに笑った。
「これから花嫁迎えて、男としてひとり立ちするんだから、もっとドンとしていなさい」
「さくっちもなってみればわかるって、落ち着かないよ、花婿の席って」
「あいにくと、花嫁にしかならないつもりだし、ベストマンだけでも十分落ち着かない空気を味わっているわよ」
 私のこの結婚式の役割はベストマンという役らしい。なんでも、新郎の一番信頼する人なんだという。ベストマンが女の私なのは普通駄目だと思うが、私たち三人の関係を知っている参列者たちは納得の配役と思ってくれたようだ。
 新婦側にはメイドオブマスターという、ベストマンと同じく、新婦のもっとも信頼する友人が立つらしい。そこには庸子が立っていた。そういえば、由紀と同じクラスで、結構、仲良いらしい。被服部部長として面識はあったが、由紀の紹介で庸子と私は仲良くなったのだった。
 どうでもいいことを考えている間にすっかり結婚式の準備は整った。
 教会にオルガンの音が響き渡った。ピアノとは違う、どこか柔らかい音色で優しい旋律が教会に満ちていた厳かな空気を振るわせて、まろやかにする。
 そして、花嫁入場。
 真っ赤な絨毯のバージンロードを父親と共に歩く由紀は本当に綺麗だった。祭壇の前で待つ太陽も落ち着きを見せ凛々しかった。
 ああ、本当に結婚式をするんだ。
 私は今更ながらに実感する。少し、蚊帳の外のような一抹の寂しさがよぎる。それはしょうがない。こればっかりは納得しても克服するには時間が要る。
 昨日までは平気だった由紀の父親も、さすがに愛娘の花嫁姿で私と同じく現実味を感じたのか、バージンロードで手を離すときに号泣してしまった。
 賛美歌が合唱部の美しい歌声で奏でられ、天窓から差し込む光が花嫁のドレスを輝かせる。柔らかな光に包まれた女神みたい。
 牧師さんがいつものようなくだけた口調ではなく、厳かな声で挙式の開始を宣言した。
 私は牧師さんに二人の結婚指輪を預けた。これで私の役目は終わりと思っていると、庸子が私のドレスを引っ張った。
『メイドオブオーナーもお願いね♪』
 私にカンペを見せると、さっと教会の端に移動していった。
 ベストマンとメイドオブオーナーが兼任なんて、絶対駄目だろう。けど、参列者どころか、牧師さんまで納得しているみたいで、目で了承の合図を送ってきた。
 このまま式を止めるわけにも行かず、私は新婦側に移って、手袋とブーケを由紀から受け取った。
 手袋とブーケを渡すとき、由紀は嬉しそうに笑っていた。
 最初から、そのつもりだったのね。庸子もぐるで。どうりで、私がベストマンするとなった時、文句言わなかったはずよ。ちょっと、寂しかったんだぞ。
 ちょっとしたハプニングがありながらも、指輪の交換が無事に終わった。次は結婚証明書に署名だった。
 太陽はペンを取り、そのままじっとしていたが、私の方を一瞬だけ見て、にっこりと笑った。そして、一気に署名した。由紀もそれに続き、私に微笑みかけてから署名した。
 私は、二人の微笑の意味は直感的にわかった。この署名を持って、二人はお互いの身体でそれぞれの人生を送ることを決めたのだ。
 今更? いいや、違う。
 二人がこっそりと元に戻る方法を模索していたのは知っていた。もっとも、最有力候補の神社の石段を二人で転がり落ちるのは、今度は死ぬかもしれないと私が「したら絶交」と言ったためにやらなかったみたいだが。
 それを諦める。ああみえても、二人にとっては一大決心だっただろう。
 そして、ユニティーキャンドルに二人で火を灯し、牧師さんが二人に話を始めた。
「どんな困難でも二人なら乗り越えていける」
 牧師さんが二人に語りだした。私もそう思う。二人は入れ替わったなどいう信じられない困難を乗り越えてきた。私がいなくても、二人は上手くやっていける。私の自慢の二人なのだ。
 寂しくなんてない。喜びなさい、私。
 そして、話が終わると、太陽が由紀のベールをあげた。
 由紀がそっと目を閉じ、太陽が顔を由紀に近づける。唇がふれあい、由紀の目から一筋の涙が頬を伝い、ウェディングドレスの上ではじけた。
 おめでとう、由紀。おめでとう、太陽。幸せにね。
 唇が離れると、牧師さんが厳かな声で、でも高らかに宣言した。
「結婚が成立しました」
 教会中が拍手で満たされた。私も惜しみない拍手をした。涙がこぼれたが、これは悲しい涙じゃない。
「さくっち」
「さくらちゃん」
 二人が振り返って私の名前を読んだ。私は涙を拭って、満面の笑みで応えた。
「これはうれし涙よ。勘違いしないでね」
「うん。わかってる」
「幸せにならないと承知しないわよ」
「うん。もちろん」
 二人が私の涙をなめるように、両頬にキスをした。
「おめでとう、由紀、太陽」
 私は二人を抱きしめた。
 二人とともに教会を出ると、入ったときより大勢の人が教会の周りにいた。口々に祝福の言葉を叫んでいた。
 吹奏楽部の有志がウェディングマーチを三月の空に響かせた。
 由紀は教会の階段の上で後ろ向きになり、手にしたブーケを青空に向かって投げあげた。
 ブーケは私の方へと向かって飛んできた。
 まったく、あの娘は。
 結婚するあても無いけど、これは由紀の感謝の気持ちとしてありがたく受け取らせてもらうことにした。
 ブーケが私の手の中に納まると、歓声が沸いた。
 そうね。私も幸せにならなくっちゃ。二人に負けてられないもんね。
 さあ、とりあえず、髪を切りに行こう。お供に秋野でも連れて。

おしまし



あとがき
 この作品は実を言うと、私が主催している競作企画『四季の式』で書こうとしていた作品を再編したものです。
 再編というよりも元に戻したというべきか……。最初、思いついたお話はこんな感じのストーリーでしたが、『四季の式』の前年の競作企画『色の記憶』での作品と似た雰囲気になるのと、コメディー色をもっと出したいという自分の都合で、ドタバタものに再編していました。
 しかし、元のストーリーが変にまとまっていたことと、このアキントリオの空気感をドタバタでは上手く表現できないことで難渋し、結局、ボツになったのでした。ちなみに、作中にちょっとだけ出てきた馬車はドタバタコメディの名残です(笑)
 さて、作品は一応は入れ替わりTSなのですが、そんなものを銘打てば、詐欺扱いされかねないほど、そういう要素は皆無です。でも、入れ替わりTSで好きな人の心と身体が分かれたら、どっちを取るのか? そういう疑問が昔から私の中にあったので、こういう形で作品になったんだろうなと思います。
 結局、答えが見つからないままですが、無理に出さないといけない答えでもないですしね。そういう意味ではテーマが「式」の競作企画には不向きだったのかも(笑)。ボツで正解だったかもしれませんね。



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