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品質には万全を尽くしておりますが、希に体質に合われて慢性の腹痛になられる方もございますので、体調不良のときの読書はお控えください。




前回までのあらすじ
存在自体がトラブルメーカー、皆瀬和久は自分が悪の魔法少女ラスカル☆ミーナである事を隠して白瀬美奈子として生活していた。そして、メイドマニア御蛇蓑図教授と共謀し、世界中の人間をメイドにする陰謀を企てるが、仲間割れとファンシー・リリーの活躍によって、それは潰えた。
さて、今回、ラスカル☆ミーナはどんな騒ぎを起こすのやら……
(本編とは若干異なる点もございますので、前作をお読みになられることをお勧めいたします)


魔法少女 ラスカル☆ミーナ

作:南文堂


絵師:もぐたん さん




第7話 スクール水着だらけの水泳大会

 気温と湿度、それに風速で決定される不快指数にぜひとも騒音を加えて欲しいと思えるほど、やかましく蝉の声が鳴り響いていた。午前中も、3限目ともなれば充分すぎるほど気温は上がり、空調設備のない教室はいくら風通しがよくても地獄であった。
 一ノ宮中学は、大学まである私立一ノ宮学園の中等部で、けっして貧乏ではないが、中等部創設者である現理事長、一ノ宮孝治(いちのみや・こうじ)氏曰く、
「夏は暑い。冬は寒い。当たり前なこと。扇風機とストーブで充分だろう。その程度の環境劣化で頭の働きが鈍るんなら、社会に出ても苦労するだけだから、今のウチに鍛えておいてやるのが教育というものだ」
 というわけで、中等部校舎内で空調設備があるのは図書館と実験室だけであった。
 職員室はおろか、理事長室にも空調がないのは「生徒に我慢を強いて、その模範となる教師が我慢しなくてどうする」という理由かららしいが、教職員からは毎年、嘆願書が提出され、理事長によって却下されていることが繰り返され、空調のないまま、現在に至っていた。
 そのために美奈子達はにじみ出る汗をハンカチで拭い、べたつく不快感と格闘しながら、授業を受けなければならなかった。
「それでは、今日はここまでにしておきます。各自、次の授業のところは目を通しておくように。それと、読書感想文の締め切りだから、それも忘れないように」
 柏原佳子(かしわら・よしこ)が教員用教科書をぱたりと閉じると同時にチャイムが鳴った。彼女の授業は一秒だって早まったり遅れたりしないし、一秒だって伸びたり縮んだりしない。職人芸的な時間配分であった。
「先生! 今年は新作ですか?」
 授業が終われば気さくな先生である柏原に、男子生徒の一人が質問した。
「ふふふふ、ご希望どおり新作よ」
 柏原は嬉しそうにそう答えた。
 今日は美奈子達のクラス、2年2組のプール開きの日であった。一ノ宮中学では何年か前から、生徒と先生のスキンシップを図る場として、プール開きの日は担任教師も一緒にプールに入ることになっていた。そのために、若い女性が担任のクラスは男子生徒の喜びもひとしおであった。
 柏原は三十路を前にしてはいるが、日頃の努力の成果か、抜群のプロポーションを維持していて、男子生徒に人気があった。
「先生! 今年こそ、ビキニですか?」
「着てあげたいのはヤマヤマだけど、お上が許してくれないのよ」
 許せば着るというのかという突っ込みが、何人かの心の中でされただろうが、そんなことは構わずに、
「だけど、期待していてね。それでも、みんなが満足のいくデザインだから♪」
 柏原がウィンクして不敵な笑みを浮かべた。
「おおっ」
 それを見た男子生徒達は室内気温を越えるほど盛り上がった。
「嫌ね、男子って」
 それを横目で見ていた女子達はそう感想を漏らした。どんなに将来有望でも発展途上では柏原のプロポーションには敵わないので、逆にこの時ばかりは女子には人気がなかった。
「市販の水着対スクール水着じゃ、差がありすぎるもの。尚更よ」
「でも、あの年齢でスクール水着を着ろって言うのもなんだかね」
「好事家には受けるでしょうけど」
「そんな道に目覚められたら困るっていうのが、市販の水着を着用の理由らしいわよ」
「はあ、うらやましい……」
 誰とはなしに本音の溜息が漏れる。
「そうよね。私たちも自分で選んだ水着を着たいわ。ねえ、美奈子ちゃん?」
「ん? 私は別にどっちでも。それよりも、早く着替えないと時間がなくなっちゃうよ」
 振り向いてそう尋ねる庸子に、美奈子はそんなことは些細なこととばかりに袖のボタンを外した。
「み、美奈子ちゃん?!」
「なに? あれ? みんなして、どうしたの?」
 美奈子はリボンタイを外し、ブラウスの第二ボタンに手をかけたまま、周囲の人の視線がこちらに釘付けになっていることに目を瞬かせた。
「美奈子ちゃん、ここで着替えるつもり?」
「え?」
 庸子の台詞の意味が理解できずに美奈子は目を瞬かせた。
「相原! 白瀬はここで着替えたいんだ。邪魔するなよ」
「その通り! 個人の意思は尊重しなければならん」
「?! あっ!」
「やっと、気がつきました?」
 美奈子は慌てて外しかけたボタンを留め、顔を真っ赤にして教室から飛び出した。それを見て、男子生徒諸君は地団駄を踏んで悔しがったのは言うまでもない。
 その他の女子達もそれに続くように教室を出ていって、最後に美穂が教室を出しなに、上体だけを教室に戻し、まだ悔しがっている男子達に向かって口を開いた。
「おあいにくさま。美奈子ちゃんの裸は女子だけが見られる特権なんだから。綺麗よ、美奈子ちゃんの裸。肌なんて、生まれたての赤ん坊みたいにつるつるで、胸だって、着やせするタイプだから大きいし、なんといっても形がいいのよね、美乳なの。揉むと張りがあって、弾力もあるし、乳首だって、ピンク色で程よい大きさなの。それに腰からのラインが何とも悩ましくって、お尻なんかつんと上を向いて形がいいし、かわいくって、女の私でも襲いたくなるぐらい――なーんてね、私もよく見たことないのよね、美奈子ちゃんの裸。とりあえず、ふくらんだ妄想を鎮めてからプールに来なさいよ、あなたたち♪」
 美穂は悪魔のような微笑を残して教室を後にした。不覚にも、手近な席へと着席せざるえない男子生徒達は臍をかんで、ふくらんだ妄想を払拭しようと努力しなくてはならなかった。

 美奈子は恥ずかしさのあまり、逃げ込むように入った女子更衣室だが、考えてみれば、今日は水泳の授業。いつもの着替えとは一味違うことを思い出し、いつもよりも怯えた小動物のように隅の方で小さくなっていた。
「まったく、美奈子ちゃんはしっかりしているのに、うかつものですわ」
 庸子がブラウスのボタンを外しながら、妙に嬉しそうにぼやいた。
「そこがまた可愛いんだよな」
 それをニヤニヤと笑いながら里美がそれに応えた。
「あら? 意外に意見が合いますわね、里美」
「この件だけは多分、みんな合うと思うよ。なあ、美穂?」
「当然。だから、からかい甲斐もあるし。そこも美奈子ちゃんの魅力よ」
 何を今更といった顔で美穂はしれっと答えた。
「あの〜、誉めるんだったら、もっと他のを誉めて……間抜けなところだけが、私のいいところみたいに聞こえるから」
 けなされながら褒められているような微妙な感じに美奈子は困惑の表情を浮かべて、おずおずと反論した。
「あら? そんなに言うのなら、やっぱり、ちゃんと体を見せてくれないといけませんわ」
「な、なんで、そうなるのよ」
「性格面は間抜けで可愛いと決まりましたから、他のところと言えば……」
「外見。容姿。プロポーションね」
「まあ、お顔は毎日拝んでますけど、今まで、美奈子ちゃんの下着姿をちゃんと見たことがないですから」
「身体測定の後に転校してきたし、体育の授業も隅のほうで隠れるようにさっさと着替えちゃうし、スカートだってめくらせてくれないし」
「めくられて、たまりますか!」
「と言うわけで、今回は美奈子ちゃんを鑑賞することになりました。異議のある人は手を上げて」
 美奈子が思いっきり手を上げた以外、誰も手をピクリとも動かさなかった。庸子達以外の女子も美奈子のプロポーションには興味があるらしく、更衣室の視線は美奈子へと集まっていた。
「異議なしっ! 満場一致で賛成!」
 いつの間にか議長の美穂が満場一致を宣言した。
「私が挙げてる!」
「被告人には投票権がありません」
「被告人って……私、悪いことしていないって」
「パタリロとかで言うでしょう? 美しさは罪って」
 指と手首足首の準備体操をしながら、議長から執行員に変わった美穂はつかつかと近づいて来た。
「い、いやだ! 美しくないから罪じゃないって!」
 美奈子は近づいただけ後ろに退ったが、、狭い更衣室ではそれも数歩で限界に追い詰められた。
「それを決めるのは、私たちのお仕事♪ 大人しく、あきらめなさい」
 不敵な笑みで詰め寄る美穂。
「や、やだ!」
 美奈子は腕を十字にして身構えた。
「ふふふ、私の前に、どんな防御も無意味よ。神宮流合気柔術の真髄を見せてあ・げ・る♪」
「見たくないって!」
 美穂は美奈子の虚をついて瞬時に間合いを詰めて、身体を密着させるとボタンを外しにかかった。美奈子がそれから逃れようとして、いくら身をくねらせても、どう動いても、ぴったりとくっついて離れはしなかった。そう言っている間にブラウスのボタンが全て外され、ダンスでも踊らされているようにして、それを脱がされた。
「うそっ!」
「武術の基本にして奥義よ。中国武術で言うところの沾連随走(せん・れん・ずい・そう)。相手にくっついてはなれないで、相手の動きを察知して、先を読み、誘導する」
 そう説明しながらも美穂はスカートのジッパーを下げて、留め金を外した。床に落ちたスカートを拾い上げようとして、かがみかけたのを利用し、ブラジャーまでも外した。もちろん、スカートも脱がしていた。
「武士の情けじゃ、最後の一枚は取らずにおこう」
 下着一枚になって、その身を晒した美奈子は恥ずかしさのあまり、全身がほんのりと朱を帯びていた。それがまた、なんとも言えない色香が漂って、その場にいた全員が息を呑んだ。
「……うーん、予想以上にいい身体してるな」
「まったくですわ。全身、引き締まっているのに柔らかさをそこなわない。肌なんて、月並みですけど、珠のようですわ」
 思わず感歎の声を漏らした。
「みんな、ひどいよ!」
 恥ずかしさか、怒りか、目尻にうっすらと涙を浮かべながら抗議した。
「まあ、まあ、そんなに怒らない。女の子同士のスキンシップじゃない。見せて減るもんじゃないし」
「ううー。恥ずかしいよぅ」
「恥ずかしがることありませんわ。とても綺麗ですわ。こんなに綺麗な身体を隠しておくなんて、神へのボウトクですわ」
(私は悪の魔法少女だから、ボウトクさせて)
 と庸子に目で訴えたが、即座に却下されたのは言うまでもない。
「お願いだから、私をオモチャにしないで」
「いいえ! 美奈子ちゃんはみんなのアイドルですもの。マスコットキャラクターとしての役割がありますわ」
「勝手にマスコットキャラにしないでよぉ。それに、マスコットキャラクターなら、恵ちゃんのほうが……あれ? そういえば、恵ちゃんは?」
 こういったことには必ずといっていいほど前面に出てくる友人を見かけないのに気が付いてあたりを見渡した。
「……恵ちゃん?」
 浮かれたロッカールームの隅のほうで一人だけキノコの生えそうな暗澹たる空気を身にまとって、黙々と着替えていた。
「そういえば、美奈子ちゃんは知りませんでしたわね。恵ちゃんは水が苦手なんですの」
「そ、そうなの?」
「うん、最初はプールに入るのもダメだったんだけど、去年、頑張ってなんとか入れるようになったんだ」
「昔はお風呂も怖かったらしいから、すごい進歩よ」
「そうなんだ」
 美奈子は銀鱗を助けた時、水に過剰と思うほど反応した恵子を思い出した。
「そういうわけで、夏のプールのアイドルは美奈子ちゃんなわけ。おわかり?」
「うん――じゃない!」
「まあ、美奈子ちゃんがそう言っても、決めるのはみんなだからね。さあ、早く着替えていきましょう」
 美穂はそう言ってさっさと着替えを始めた。他の全員もそれにあわせて、着替えを始め、美奈子はなるべくそれらを見ないように水着に着替えた。
(いくら慣れたっていっても、やっぱり恥ずかしいよぉ)
 自分の裸への抵抗はなくなってきたものの、他の女性の裸にはまだ敏感な和久の心は秘密の花園に迷い込んだ罪悪感と幸福感の板ばさみに苛まれていた。

 ちりちりと肌を焼く太陽が容赦なく気温を上げる。例え、プールの水質が少しぐらい悪かろうとも――設備は一級なので、そんなことはありえないが――、この熱気から逃れられるのならば誰も文句は言わなかっただろう。
 消毒用塩素独特の、あのムッとする匂いが立ち込める中、滑り止めのマットが敷き詰められているプールサイドに生徒達は整列し、大人しく体育教師の注意事項を聞いているふりをしている。
 準備体操は終わっている。あとはプールに入るだけである。今日はプール開きの日。授業といっても、あってないようなものである。うずうずする気持ちを抑えて、生徒達はじっと待った。
「……くれぐれも、無茶なことはしないように! 以上。それじゃあ、身体を慣らしてから、プールに入るように」
 歓声が上がった。注意するのも聞かずにプールへと飛び込む男子生徒たち。先に入ったものが遅れたものに水をかけて強制的に水に慣らさせる。夏の晴れた空を楽しげな声が突き抜けた。
「遅れて申し訳ありません、浜松先生。なかなか片付かなくて」
 ヤッケを羽織って柏原がプールサイドに姿をあらわすと男子生徒はことさら歓声を挙げた。
「いいえ。今、プールに入ったばっかりですよ、柏原先生」
 そう言って、浜松は柏原をエスコートした。
「先生! 早く、水着になってくださいよ」
 男子生徒の一人が催促する。それに全員が賛同して『かしわら』コールが起こった。
「もう、しょうがない子達ね」
 などといいながらも嬉しそうに羽織っていたヤッケを脱いだ。
「おおっ!」
 色は黒と濃いグレーの斑模様で、一応、ワンピースだが、ビキニを上下繋げた中間的なデザインで、露出度は高かった。
「先生、そ、それは……」
「今年は強敵がいますもの。気合を入れましたの。規則上の問題は全てクリアーしていますよ」
 柏原はさらりと言ってのけた。女性教師の水着の規則は「ワンピースであること」「色は原色を基調とした派手なものは選ばない。黒、紺、白が望ましい」の2点であった。
「似合いません?」
「い、いえ、そんなことはありません。似合ってます」
 小首をかしげながら尋ねた柏原に、浜松もそれ以上は突っ込めずに素直に引き下がった。
「さすがですわ、柏原先生」
 プールの中からそのやり取りを聞いていた庸子が感心したように呟いた。
「本当に綺麗よね、柏原先生」
 その呟きを勘違いした美奈子が同意の言葉をちょっとため息混じりに応えた。
「そうじゃありませんわ。あそこで、『いけません?』と訊かずに『似合いません?』と訊くところがさすがですわ。そう訊いて異議を挟む隙を与えない。見習いたいですわ」
「そんなこと見習って、どうするの?」
「当然。美奈子ちゃんをあの手この手の手練手管で、いろいろな格好をしてもらうためですわ」
「ヨーコちゃん、あのねぇ……」
「この間、芽衣美ちゃんにお会いしましたわ。芽衣美ちゃんにわたくし、協力するって約束しましたもの。楽しみですわ」
 両の手を胸の前で組んで夢見心地でくるりとターンをした。
「お願い。普通の暮らしをさせて、ヨーコちゃん」
「いいじゃありませんか、悪の魔法少女をやってるくらいなんですから、一つや二つ、非日常が増えても」
 美奈子の両肩に手を置いて大真面目な顔でそう言った。
「ヨ、ヨーコちゃん!」
 その台詞に美奈子は焦って周囲を見渡して、一人の人影を認めて、狼狽して溺れそうになってしまった。
「どうしたんだ? 二人とも、そんな隅で固まって」
「あ、あわわわ、さ、里美! な、なんでもないっ」
「ふーん、なんか怪しいな」
 慌てて否定する美奈子を里美はジト目で見下ろした。
「な、なんでもないわよ。本当に。そ、それよりも、何か用じゃなかったの?」
「あ、そうだ。ヨーコ、あたしと競争しないか? 一往復50メートルで」
 端の3コースがちゃんと泳ぐ人用に確保されていた。
「よろしいですわ。受けて立ちましょう。あっ、そうですわ。美奈子ちゃんも一緒に競争しません?」
「え? 私も? うん、別にいいけど……」
「じゃあ、決まりですわ」
 そう言って、1コースから美奈子、里美、庸子の順でスタート台に三人が並んだ。
「あら? 白瀬さんたちが競争するようですわね」
 スタート台に上がった美奈子達を見つけて、柏原が面白そうとばかりに身体を乗り出した。
「これは面白い。尾崎里美はスポーツ万能。水泳も女子の中では学校一二のタイムですし、相原庸子も水泳だけは得意らしくて、このクラスでも尾崎に次いで速いですから、それほど引けは取りませんよ」
 浜松はそれを見て、解説を加えた。
「白瀬さんは?」
「うーん、タイムがわからないからはっきりとはいえませんけど、運動神経は悪くないですけど、二人には敵わないでしょう」
「それじゃあ、賭けをしません?」
 柏原はにこやかに教師らしからぬ台詞を吐いた。
「賭け、ですか?」
 浜松もさすがに驚いて、訊きかえして確認した。
「ええ、白瀬さんと相原さん、どっちが勝つか。私が勝ったら、来週末のホームルームの時間にプールを自由に使わせてくださいね」
「そ、それは……」
 確かにプールのスケジュールを管理している浜松は、ある程度、それは自由になる。柏原の性格上、正規の手続きを踏んで使用許可を取るだろう。その前に仮に押さえておいてもらうということなのだろう。浜松の筋肉組織でできた脳細胞がフル回転して、そして、結論をはじき出した。
「い、いいでしょう。その代わり、私が勝ったら、一日、付き合ってもらいますよ」
 フル回転でオーバーヒートにでもなったがごとく、荒い鼻息を吹き出して浜松は答えた。
「いいわよ」
「本当ですか?」
 その要求をあっさりと柏原が飲んだために、浜松は思わず聞き返してしまった。
「教職者たるもの、約束は守ります」
 柏原はちょっと眉間に皺を寄せてそう言い返した。
「わかりました。それじゃあ、どちらに賭けます?」
「私は白瀬さんの勝ちに賭けます」
 迷うことなく、確信をもって柏原は断言した。
「それじゃあ、私は相原の勝ちに」
 浜松は内心ニヤリとした。学校でも五指に入る相原は並大抵のことでは負けないだろう。そうなれば憧れの柏原先生とのデートが……それを思うと鼻の下が伸びて、再び鼻息が荒くなってしまっていた。
 それを横目で見ながら、柏原はやれやれと思ったが、勝算があるので自信は揺るがなかった。
「それじゃあ、位置について、よーい……ドン!」
 美穂のスタートの合図と共に三人は飛び込んだ。水飛沫の少ない、水の中へ滑り込むような綺麗な飛込みでスタートを切った三人は、水中をドルフィンキックで進んでいった。
 真っ先に浮上したのは3コースを泳いでいた庸子であった。それからやや遅れて美奈子が浮上し、一瞬、遅れて里美が浮上した。三人はほとんど並び、若干、相原が遅れている形となった。
 長く潜水できた二人が若干有利に立ったが、ほとんど差がないといってもいいぐらいであった。
 庸子は水飛沫を最小限に抑えた力を抜いたストロークで、ゆっくりだが確実で無駄がなかった。一方、それとは対照的に水飛沫はすごいものの、それを跳ねのけるかのような力強いフォームでグイグイと前に進んでいく里美。そして、美奈子は里美にも負けないぐらいダイナミックなフォームでしかも確実に水を掴むようにして泳いでいた。
「……」
 浜松は言葉を失っていた。運動神経は確かに悪くは無かったが、美奈子がここまでやるとは思っていなかったらしい。
「あら、意外。尾崎さんともいい勝負をしますわね。そう言えば、皆瀬君も水泳は得意でしたものね」
「か、関係ないでしょう、そんなこと!」
 明らかに動揺していた浜松はぶっきらぼうにそう答えた。
「ふふふ、確かにそうですわね」
 柏原は余裕の笑みを浮かべて、浜松は引きつった笑みを浮かべていた。
(まだ、ターンが残っている。それに、後半、スタミナ切れもありうる)
 浜松が一縷の望みをかけて、そろそろ折り返しにかかろうとする三人を見つめた。
 美奈子と里美の差はほとんどなく、強いて言うならば、かすかに里美がリードしていた。庸子はそこから身体1/3ほど遅れていた。
「やるな、里美。この姿でやるのは初めてだけど……」
 そろそろターンに差し掛かりかけたところで美奈子はある決意をした。
「相原も尾崎もクイックターンができます。白瀬は遅れますよ」
 浜松は誰とはなしに呟き、暑さとは別の汗を背中にかいていた。
「あら? 尾崎さん達にできて他の人には無理なんておかしいですわ」
 それに比べて余裕綽々の柏原がにこやかに言う。その言葉を証明するかのように里美に続いて美奈子がクイックターンを決めた。庸子も当然、それを決め、三人の差はほとんど変わらなかった。
「よし! 上手くいった!」
 美奈子は女の子の身体で上手くできるかどうか不安だったクイックターンを決め、波に乗ってペースを少し上げた。
 残すところ15メートルで、美奈子はついに里美を抜いてトップに踊り出た。がしかし、その途端、スタミナ切れでフォームが崩れただしてしまった。そうなっては、パワーもない美奈子のペースは格段に落ちてしまい、あっさりと里美に抜き返されてしまった。
 それでもなんとか庸子とのリードを守りきり、結局、2着でゴールした。
「白瀬さんの勝ちですね、浜松先生」
 泳ぎ終わって、お互いの健闘を称えあっている美奈子達を見ながら、柏原は隣の筋肉ダルマに対し勝利宣言の笑顔を向けた。
「……わかりました。プールは空けておきますが、ちゃんと正規の手続きは踏んでくださいよ」
 苦虫を噛み潰したように顔面の筋肉をぴくつかせながら浜松は少しぶっきらぼうに言い返した。
「ええ、当然です。ちゃんと校長の許可はとりますよ」
 それにも明るい声で彼女は返してプールから上がる美奈子たちの方を見つめた。そして、彼女以外にも美奈子たちに視線を注いでいる者たちがいた。
「ほんとに、白瀬って着痩せするんだな。いい身体してるな」
「ああ、結構美人だしな」
「尾崎の奴も成長してるよな」
「でも、あいつタッパがあるからなぁ」
「そうだな。相原は背がそれほどないし、美人だよな」
「胸がちょっと小さいけどな」
「でも、井上よりもマシじゃないか?」
「あいつのは小さいんじゃなくって、ないんだよ」
「いえてる」
「そう考えると、白瀬ってポイント高いよな」
「そうだな……」
「あっ、てめぇ、抜け駆けはなしだかんな」
「なんだよ、何も言ってないだろ!」
 男子生徒たちの視線を集めていた。柏原はどう足掻いても憧れにしかならないが、高嶺の花でも地続きにあれば取りにいける気がして、自然と興味の対象の中心となっていた。
 その会話を聞いていて、前畑克治(まえはた・かつじ)が隣でぼーと美奈子たちを見つめていた西脇彰を肘でつついた。
「おいおい、ボーとしてると、取られるぞ。男なら男らしく、しゃきっとコクってこいよ」
「えっ?! お、おれは、べつに、なにもそんなつもりはないって」
 彰は弁明したが、明らかに狼狽していてバレバレであった。
「そんな事いってるとマジで取られるぞ。明るく、活発、性格優しくて、美人。いままで、フリーでいるのはマジで奇跡だったんだぞ。そろそろ、全員、気がつき始めたんだ。これから、競争激しくなるぞ」
「だから――」
「同じバイトをしたことがある仲間っていう、アドバンテージなんて、あっという間になくなるぞ」
「な、なんでそれを!」
「まあ、色々とな。とりあえず、メル友から始めませんかってでも言ってみろよ」
「……白瀬さん、携帯持ってない」
「う゛ぞ! マジで? 今時?」
 前畑もさすがに驚いたらしく、美奈子のほうに視線を向けた。
「皆瀬も持ってなかっただろ? あの家のしきたりなんだってさ。携帯電話は稼ぎのあるものしか持ってはならないって」
 ため息混じりに彰はそう答えた。女の子の、しかも居候している家に用もなく電話をかけるのは、彼にとっては清水の舞台から飛び降りるよりも勇気がいった。
「へぇ、白瀬も大変だな。でも、ちゃんと話してるんじゃないか。それなら、デートに誘わんかい!」
「断られたらどうするんだよ」
「安心しろ。骨は拾ってやる。あたって砕けてこい」
 前畑は爽やかに笑って親指を立てた。
「他人事だと思って気楽に言いやがる」
 彰は苦笑を浮かべ、美奈子たちの方を再び見ると、美穂を加えて四人で何やら話に花を咲かせていた。

ミーナ第7話 もぐたんさん

イラスト:もぐたん さん

「しかし、驚いた。これほど速いとは思わなかった」
 里美は満面の笑みを浮かべて美奈子の手を握って上下に振った。
「うん、水泳は得意なんだ」
 ちょっと照れた表情で美奈子は笑った。
「本当。びっくりですわ。さすがはネコを助けに川に飛び込むだけのことはありますわね」
 庸子は感心しながら納得していた。
「美奈子ちゃん、すごいよ。これから、河童の美奈子ちゃんって呼んでいい?」
 美穂が嬉しそうに美奈子に二つ名をつけた。
「それは勘弁して……」
「えー、かわいいのに。うーん……勘弁する代わりに、ちょっと頼まれてくれない?」
 美穂はそう言ってちょっとだけ真面目な表情を見せ、それにつられて美奈子も真面目な顔で、「何を?」と訊き返した。
「実はね……」
 美穂はちらりと恵子の方を見た。
 眩しい太陽、晴れ渡る空の下、暗い雰囲気、曇天の心中で一人、一度もプールへ入らない女子生徒がいた。
「恵ちゃん」
 その彼女に、水も滴る美人の女子生徒が声をかけた。
「……美奈ちゃん。なに?」
 彼女はのろのろと、声をかけた人物を見上げて、重苦しそうに口を開いた。
「一緒に泳ごう♪」
 粘度の高い空気を払拭しようと敢えて、明るい声で美奈子は言って、手を差し伸べた。
「……しってる、でしょう?」
「うん、だから」
「っ!」
 それまで恵子が見せた事もない軽蔑と憤慨を含んだ視線で美奈子を刺した。しかし、美奈子はそれに怯むことなく、その視線を柔らかく受け止めた。
「せっかく、去年、苦労してプールには入れるようになったんでしょう?」
「だけど……」
 恵子はプールからの照り返しで顔は明るく照らし出されていたが、それに反するような表情を浮かべていた。
「それって、泳ぎたいからでしょう?」
「それは……そう、だけど……」
 恵子は目を伏せて滑り止めのマットを見つめていた。
「じゃあ、泳げるようになろうよ。協力するから」
「でも……」
 恵子はさっき、里美と見せたデットヒートを繰り広げた人間と一緒に泳げるはずがないと躊躇した。
「大丈夫。きっと、泳げるようになるから」
 美奈子は恵子に、にっこりと微笑んだ。
「……うん」
 恵子はその笑顔に決心し、ずっと差し伸べられた美奈子の手を掴み、重い空気を振り振り払って腰を上げた。

 庸子と里美、美穂がすでにプールに入って、プールサイド際の一角を確保するように囲んでいた。美奈子が、恵子に付き添うような形でプールの縁に座って、先ずは足を水につけてみせた。
 恵子はしばらく迷ってはいたが、意を決し、プールの中へと足を入れると、水への恐怖かその冷たさか、ぴくっと身体を震わせた。
「大丈夫?」
 それを見て、庸子が心配そうに声を掛けた。
「うん、平気だから」
 明らかにやせ我慢しているように見える恵子の返事に庸子たちプールに入っている三人の表情が曇った。
「そんな顔してたら、入るに入れなくなっちゃうよ」
 美奈子は不安な人間に不安な顔を見せても何もいい事はないと、たしなめるようにピシャリと言った。
「身体を慣らしてから、ゆっくり入ればいいよ、恵ちゃん」
「……うん」
 恵子は手で掬った水を水着にかけると、乾いた紺色が濡れた濃紺へと色を変えていった。
「さ、一緒に入ろう」
 ぽんと、恵子の背中を叩いて、美奈子はにっこり微笑みと縁から水の中へと滑り込んだ。恵子もそれを見て、おそるおそる縁にへばりつくようにプールの中へと入った。
「えらいえらい」
 恵子の頭を撫でた美奈子の手から滴る水滴が、顔にかかって、彼女はびくっと反応したが、それでも少し嬉しそうにはにかんだ。
「さて、これからどうしますの、美奈子ちゃん?」
 とりあえず、フェーズ1が終了して、期待と不安から庸子が尋ねた。
「うーん、どうしよう?」
「……み、美奈子ちゃん? もしかして、何も考えてなかったとか?」
「あ、あははは、そ、そんなわけないじゃない」
「……」
 そういう美奈子に対して八つの瞳は疑惑の視線を投げかけていた。
「――というわけで、恵ちゃん、顔を水につけてみて」
 疑惑を打ち消すために美奈子は恵子の両肩に手を置いて真面目な顔をした。
「む、無理だよ、そんなの!」
「毎日お風呂に入っているのなら、プールに入れる。毎朝、顔を洗っているのなら、水に顔をつけれる。はず! 大丈夫! 死にはしないって」
「息ができないと死んじゃう!」
「何も、そこまでつけておけと言う訳じゃ……」
「うー……」
 睨みつける恵子に美奈子は苦笑を浮かべた。
「やめとけ! やめとけ!」
 にらみ合いを続ける美奈子と恵子の頭上から声がして、いっせいにそっちの方を見上げた。
「加藤君!」
「浩ちゃん!」
「そんな奴、一生泳げるようになんかならないって。時間の無駄だ」
 浅黒く焼けた肌の、引き締まった体の少年が口を真一文字に結んで仁王立ちで見下ろしていた。
「加藤君には関係ないでしょう!」
 美奈子は少し眩しいのを我慢して、きっと加藤を睨み返した。
「こいつとの付き合い長い俺が言ってるんだ。泳げるようになるもんか!」
 加藤は何か苛立つように断言した。
「泳げるようになるわよ、絶対に! なんでも、やってやれないことはないのよ! できないのは諦めてるからよ! 恵ちゃんだって、あんたになんか負けないぐらい、泳げるようになれるわよ!」
 加藤の決め付けたものの言い方にカチンと来た美奈子は捲くし立てるように反論した。
「じゃ、じゃあ、やってもらおうじゃないか! 大体、おまえ、前から思ってたけど、女子の癖に生意気なんだよ!」
 加藤は美奈子の捲くし立てるような喋りに気圧されて、今時、小学生でも言わないような罵声を返した。
「女子の癖にぃ?! ええ、やってやるわよ! ぎゃふんって言わせてやるから!」
 しかし、罵声は低レベルなものほど腹が立つものである。
「あらあら、随分と盛り上がっているわね」
「か、柏原先生!」
 柏原はその場の雰囲気を無視するような暢気な抑揚で言い争う二人の間に割って入ってきた。
「話は大体聞かせてもらったわ。それで、いいことを思いついたのだけど、来週末のホームルームの時間にプールを使わせてくれるように頼んであるのよ。その時にあなた達の勝負をしましょう」
「勝負?」
 柏原の提案に怪訝な表情を浮かべる全員を代表して、美穂が訊き返した。
「そう。でも、ただ単に泳げるようになるかどうかで勝負するんじゃ、面白みが欠けるから、そうね……リレーにしましょう」
「リレー?」
「白瀬さんたち五人と、加藤君他、男子四人の対抗リレー。もちろん、ハンデはつけるわ。そうね……白瀬さん達は5人で200メートル、加藤君チームは250メートル。それでどうかしら、浜松先生?」
「上田がなんとか泳げるんでしたら、ちょうどいいぐらいと思いますよ」
 いつの間にか柏原の隣にいた浜松が彼女の示したハンデを妥当だと首を縦に振った。
「じゃあ、決まりね」
「ま、待ってくださいよ。け――う、上田が、ほとんど泳げなくて、水の中を歩くようだったら、勝負の意味がないじゃないですか!」
 加藤は少なくとも勝負の意味がなくならないように条件をつけた。
「なるほどねぇ。それじゃあ、こうしましょう。足を一回ついたら、その場所から5メートルバックして、そこからスタートする。それなら、歩いてゴールはないでしょう」
「……それなら、いいです。受けて立ちます」
「で、男子のメンバーは誰にする?」
 柏原の言葉に加藤はクラスメイトをざっと見渡した。
「はいはいはい! 俺と西脇が入る」
 加藤が誰かを指名する前に前畑が西脇の腕を掴んで手を上げた。
「お、おい! 前畑!」
「友達のためだ。一肌脱げ」
「頼む、西脇。協力してくれ」
「……わかったよ」
 加藤に頭を下げられて、西脇はチームに加わることを承諾したが、ちらりと気になる方へ視線を移した。
(うわ、白瀬さん、睨んでる。だよなぁ、やっぱり)
 西脇は友情のためとはいえ、美奈子に睨まれて陰鬱な気分になっていた。
「サンキュ。それじゃあ、あと、安田と平田も頼む」
 しかし、西脇の憂鬱などまったく関係なく、メンバーがさくさくと決まっていった。
「仕方ない。ここはクラス委員として、一肌脱いでやろう」
 と平田。
「といって、それ以上脱ぐなよ。俺もいいぜ」
 と安田。
「なあなあ。このままじゃつまらんから、勝った方が負けた方に何かやってもらうってのはどうだ? どうです、先生?」
 前畑が、何がそんなに嬉しいのか、楽しそうに手を上げて提案した。
「そうね。そのほうが面白いかもしれないわね。負けたチームは勝ったチームの要求を聞くことにしましょう。但し、一日だけよ。さて、加藤君たちは勝負するみたいだけど、白瀬さんたちはどうする? バツゲームも加わったから、断ってもいいわよ」
 柏原は美奈子たちに尋ねなおした。
「もちろん。受けて立ちます!」
 美奈子は当然といわんばかりに、いつになく強気で勝負を受けた。
「み、美奈子ちゃん?!」
「みんな、悪いけど、付き合ってもらうわよ」
「美奈子って……熱血だね。僕よりも」
「新たな一面ですわ」
 瞳に炎でも燃やしかねない美奈子を里美たちはあきれるように見つめていた。
「私たちが勝ったら、あなたたち、女子の制服で一日過ごしてもらうからね」
 美奈子が宣戦布告のようにびしっとバツゲームを宣言したところで、授業終了のチャイムが鳴り響いた。

 濡れた水着のせいで少しむっとする湿度の高い更衣室だが、賑やかなおしゃべりで華やかさに満たされていた。その中で美奈子はやっぱり、隅の方でこっそりと着替えていた。そうしているところへ後ろから声をかけられ、怯えるように前を隠して振り返った。
「……安心しなさい。誰も襲ったりしません。それより、白瀬さん。ずいぶんと大ミエ切ったわね」
 声をかけてきたのはクラスメイトの丹羽由美子(にわ・ゆみこ)であった。美奈子は別の意味で警戒心を高めて、ぎゅっとガードする手の力を入れた。
 和久だった時は、ちょっときついところはあったが、気さくな感じのする好印象を持っていた女子だった丹羽だが、美奈子として登校するようになって、いつの頃からだろうか、何かと彼女に突っかかってくるようになって、自然と距離を置こうとしていた。
「だって、悔しいじゃない」
 少しだけ上目遣いで拗ねるように丹羽に言い返した。
「でも、それって、自分の勝手で勝負を受けたんでしょ? みんな迷惑してるわよ、きっと。上田さんが一週間ちょっとで泳げるようになれだなんて、無茶と思わないの?」
「うっ、そ、それは……」
 言われるまでもなくもっともな意見を改めて言われて、言葉に詰まった。
「ご心配してくれて、ありがとう、丹羽さん。生憎とぜんぜん迷惑してないんだな、これが。安田にぎゃふんと言わせるチャンスだからな」
 美奈子を後ろから抱きかかえるようにして里美が二人の会話に割って入ってきた。
「私も、あの5人が女装するのは見てみたいし、面白そうじゃない」
「美奈子ちゃんが受けた勝負ですもの。わたくしとしても、依存ありませんわ」
 美穂と庸子がさらに援護した。
「みんな……」
「う、上田さんはどうなのよ!」
「あ、あたしは……」
 少し離れていたところで着替えていた恵子に話題が振られて、恵子は少し戸惑った表情を見せて考え込んだ。
「やっぱり、嫌でしょう? 無茶だもんね、一週間で泳げるようになれだなんて。迷惑よね」
 その表情にホッとして、丹羽は一気に煽った。
「あたしは、頑張る」
 しかし、恵子の返事は彼女の予想は完全に外れていた。
「恵ちゃん……」
「今まで、切羽詰って泳げるようにならないといけないなんてなかったから、いいチャンスかもしれないと思う。勝負は……もしかしたら、あたしのせいで負けちゃうかもしれないけど……」
 恵子は申し訳なさそうに目を伏せたが、その背中をぽんと、里美が叩いた。
「何のためのリレーだよ。恵が、ちゃんとゴールしたら、あとは任せろ。僕たちで何とかする」
「そうそう、こっちには男子にも引けを取らない、河童三姉妹がいるんだから」
「……お願いだから、その、河童はやめて」
「なんで? かわいいのに」
「と、言うわけですわ、丹羽さん。応援してね」
「っ! わかったわよ! 勝手にしなさい!」
 丹羽は回れ右して、美奈子たちに背中を向けて、自分のロッカーに戻った。
「ありがとう、丹羽さん」
 美奈子はその背中にお礼を言ってから、少し考えて、
「でも、確かに今のままでは負けるのは確実よね。特訓の計画を立てないと……」
「特訓?」
「そう! 特訓なくして勝利なし!」
 ぐっと拳に力を込めて、大真面目で答えた。
「本当に、美奈子ちゃんって……」
「熱血よね」
「なんだか、僕の台詞が……」
 いつもと異なる展開に庸子たちは少し呆れるように顔を見合わせた。
「それじゃあ、帰りにあたしの家に寄っていく? 一番、近いし」
「よし。それじゃあ、そうしようか」

 その日の放課後、閑静な住宅街に黄色い声を響かせていた。他愛もない話だが、それが妙に楽しくて、笑顔が絶えなかった。
「そう言えば、恵ちゃんの家にお邪魔するのは初めてですわ」
「あ、そう言えば、僕も」
「美穂ちゃんは?」
「私は何回かあるけど……」
「そう言えば、美穂ちゃんと恵ちゃんは一年の時同じクラスだったんですわね」
「へー、そうなんだ」
「ついたよ。ここがあたしの家」
 外見、ごく普通の分譲建売一戸建ての前で足を止めた恵子が門を開き、玄関の扉のノブに手をかけてまわした。
「?!」
「どうかされました?」
「おかしいなぁ、今日はお父さんがいるはずなんだけど……ちょっと、待っててね」
 恵子はそう言うと鍵を探すのにカバンを開いて覗き込んだ。ちょうどその時、美奈子は何かのモーター音を耳にした。
「何の音?」
 美奈子がそう言おうとした瞬間、表の道路の角から奇妙な車が一台、飛び出してきた。それは水色で、人一人が乗れるかどうかぐらいの大きさの、上部に飛び出た膨らみに臼砲のような大砲がついている車であった。
「せ、戦車ぁ?!」
 美奈子は思わず、その形状に該当する一般名詞を素っ頓狂な声で叫んだ。それに釣られて他の四人もその得体の知れないミニチュア戦車の方に視線が集中した。そのうち、三人は唖然とし、一人は苦笑を、残る一人は困惑を浮かべた。
 ミニチュア戦車は恵子の家の、玄関横の駐車スペースに進入して止まると、しばらくして砲台がハッチのように後ろに開き、それに乗っていた人物、なかなか目鼻立ちの整った、きりりとした中年男性が姿を現した。
「むー、コーナ時の安定度が今一つだな。多架式無限軌道輪だとあんなものかな? オートバランサを予測型に――おや? 帰って来てたのか。おかえり、恵ちゃん」
 その人物は、何やらぶつぶつと呟いてから、恵子達に気が付いて、にこやかな笑みを浮かべた。
「お父さん! また、そんなもの乗り回して! 危ないって言ったじゃない!」
 恵子はいつも美奈子たちと話しているよりもきつい声で父親に注意した。
「何度も言っているが、これはそんなものじゃない。『ぼなぱると』という立派な名前がついているんだよ。それに、これはそこらの車より頑丈だぞ。象が踏んでも壊れない筆箱ぐらい丈夫だ。それより、『ただいま』がまだだよ、恵ちゃん」
「……ただいま、お父さん」
 恵子は、彼に注意を柳に風のごとくさらりと受け流され、、逆に返り討ちにあった。
「おかえり。ええと――」
 再びにっこりと笑って、呆然としている美奈子たちの方へと視線を配った。
「ご無沙汰しております、おじさん」
 それに反応して美穂がすっと前に出て、お辞儀した。
「おっ、たしか、美穂ちゃんだったね、お久しぶり。という事は、他のお嬢さんたちもお友達かな? はじめまして、僕は恵子の父の、信行(のぶゆき)と言います。いつも、娘が――」
「お、お父さん。紹介は後にして、とにかく、家に入ろ」
 お昼過ぎであまり人通りがないとはいえ、玄関先に人がたむろっているのはさほど風聞がよくないので、恵子は素早く鍵を開けて、玄関を開いた。
「ん? そうか? そうだな」
 彼はそう言うと、戦車の前部が観音開きに開いて、車椅子で降りてきた。恵子は素早くその後ろに回るとハンドルを握った。
「さ、入っていいよ。……どうかしたの?」
 その姿に美奈子たちは少し呆然として、その場で固まっていた。
「ああ、これね。昔、僕の不注意で怪我をしてね。それ以来、車椅子生活をしているんだよ。でも、それ以外はどこも悪くないから、気にしないでいいよ」
「……ごめんなさい」
 自分達の行動が失礼なことだとはっと気が付いて、美奈子たちは謝った。
「だから、気にしなくていいって」彼は優しく笑うと、「でも、ありがとう。さあ、いつまでも立ち話も疲れるだろ? 僕は座っているからいいけどね」
 片目を瞑ってみせると、美奈子たちはますます恐縮した。
 家の中へ入ると、玄関のかまちはリフトがついており、もちろん、敷居になど段差はなく、廊下にはフェルト地のタイルマットが引き締めてあった。
「フローリングだと掃除も楽なんだが、動くと音がうるさいだろう?」
 美奈子たちが納得していると、恵子はお茶を入れてくるからと離れ、父親に美奈子たちを居間の方に案内するように頼んだ。
「まったく、父親をなんだと思っているんだ?」
「うちの家訓は、立ってるものは親でも使えでしょう?」
 恵子は、彼の「僕は座っているんだがな」という台詞を完全に無視して台所へと姿を消した。
「すいません」
「いや、いいよ。僕も若い娘さんたちをエスコートするのはやぶさかじゃないしね」
 彼はにっこり笑って、美奈子たちを居間へと案内した。美奈子たちがソファーに腰掛け、それぞれ自己紹介が終わると、早速、彼は口火を切った。
「さて、この季節にこの家に来る恵ちゃんの友達の用件は大体わかっている。恵ちゃんを泳げるようにする大作戦作戦会議で、知りたいことはどうして泳げないかだろう?」
「そうです。何か、小さい時に水に関わるトラウマがあるんじゃないかな?と思うんですけど……」
 美奈子は単刀直入で切り出されて面を食らったが、素直に相手の話に乗った。
「うん、まあ、……そうなんだ。知りたいかい?」
(トラウマを上手く取り除ければ、水への恐怖心も克服できるかもしれないけど、恵ちゃんが話したくない内容かもしれないし、聞いておいて、聞いたことは黙っておこう。恵ちゃん、ごめんね)
「……差し障りないならお願いします」
 しばらくの逡巡ののち、美奈子は心の中の謝罪も含めて頭を下げて、お願いした。
「それじゃあ……あれは何年前だったか、恵ちゃんがまだ小さい頃にI手県のH神山にハイキングに出かけたんだよ」
 彼は遠い目をして語り始めた。
「はあ……I手県ですか」
「うん、ちょうど、そっちに用事があってね。家族サービスでハイキングに出かけたんだ。そのH神山のハイキングコースから少し離れたところに洞窟を見つけたんだ。僕は好奇心旺盛でね。その洞窟に入ってみたんだ。さほど深くもない洞窟で、すぐに行き止まりだった。行き止まりは綺麗な水の泉になっていたんだ。僕はちょっとがっかりして、その洞窟を出ようとした、その時!」
「恵ちゃんがその泉に落ちた?」
「そう。泉は意外に深かったみたいで、既に水面に恵ちゃんの姿はなく、僕は慌てて泉に入ったすると、いきなり、和服の美人が泉の上に現れたんだ。右手と左手に恵ちゃんをぶら下げて」
「はぁ?」
 変な方向へと進み出した話に全員の目が点になった。しかし、彼の話は、そんな事は構わずに先に進んだ。
「そして、その美人は僕にこう言った。お前の落とした子供は、おしとやかな男の子の恵か、それとも、腕白な女の子の恵子か? とね」
「あ、あの〜……」
「僕は即座に答えたね。腕白な女の子の恵子と。実際に落ちたのは、男の子の恵だったんだけどね。僕は前から、娘がほしかったんで、迷わず瞬間即答してしまったんだね」
 彼は腕組みをして、一人納得していた。
「ちょ、ちょっと、おじさん……」
「そしたら、その美人は、お前は自分の欲望に正直な男だ。と、からからと笑って、女の子の恵子をくださったんだよ」
「えーと、その、あの〜、ということは、恵ちゃんって、男の子だったんですか? 昔は」
 情報の整理統合が不完全のまま、確認するように訊き返した。
「幼稚園に入る前まではね。まあ、こんな話、信じられないかもしれないけどね」
 彼は自嘲的な笑み浮かべて肩をすくめてみせた。
「いいえ。魔法少女がいるくらいですもの。それくらいあっても、おかしくありませんわ。ねえ、美奈子ちゃん?」
「そ、そうだね、ヨーコちゃん」
 美奈子は引きつった笑いを浮かべながら庸子に同意した。確かに、魔法少女がいるくらいだから、これぐらいあってもおかしくないかもしれない。
「信じてくれてありがとう。その時の記憶があるのかどうかは知らないが、それ以来、水を怖がってね。もしかしたら、水に沈んだら、男の子に戻るんじゃないかって、無意識に不安がっているのかもしれないね」
 彼は真面目な顔で結論を言って、一つ頷いた。
「そ、そうだったんですか……」
 美奈子たちが妙に納得していると、恵子がガラスコップを載せたお盆を片手に居間に入ってきて、何も言わずに父親の頭を叩いた。
「いたいなぁ、いきなり何するんだよ、恵ちゃん。仮にも父親に手を上げるなんて、そんな娘に育てた覚えはないぞ」
「そっちに覚えがなくても、こっちには腐るぐらいあるの。それに、何よ、それ! 毎年毎年、よくそれだけ適当な事を考えつくわね! 去年は、あたしは実はサイボーグで、水に入ると錆びるって言ったんでしょ!」
「そうだったかな? 昔の事は忘れてしまったよ」
 恵子に睨みつけられて、とぼけた風に視線を外して彼はしらを切った。
「あのあと、みんな、真に受けちゃって、大変だったんだから!」
「ということは……」
 状況に置いてけぼりを食らった四人は顔を見合わせた。
「お父さんの言ったことはみんな嘘よ。本当は私が小さい時に、川で溺れて、それで水が苦手になったの。ついでに言うと、お父さんの怪我は、溺れたあたしを助けて岸に上げた後に、今度は自分が流されて、岩に腰を打ったのが原因なの」
「恵ちゃん、すぐにばらしたら面白くないじゃないか。せっかく、今年は魔法少女が出たりしてたから、張り切ってファンタジー色で脚色したのに……」
 『の』の字を書くように拗ねながら彼は文句を言った。
「えーと、その……恵ちゃんのお父さんって、……とっても個性的だね」
 とにかく、なんと言っていいかわからない美奈子はとりあえず、そう言って無理矢理笑顔を作った。
「ごめんなさい」
 恵子はその笑顔に本当にすまなそうに謝った。
「謝ることないよ、とっても楽しいお父さんだよ。うん」
「そ、そうだよ。面白くて、楽しくていいじゃないの、ねえ?」
「楽しいお父様ですわよ、恵ちゃんのお父さんは」
「ちょっとだけならいいけど、ずっとだったら、うっとうしいだけだよ」
 恵子もフォローしてくれる美奈子たちに、うれしはずかしの苦笑を浮かべてそう応えた。
「恵ちゃん。その台詞、胸にグフってくるなぁ」
 その父親はさらに『の』の字を書いて拗ねていた。
「それを言うなら、ザクっとでしょう?」
「ザクとは違うのだよ、ザクとは」
 妙に低音を響かせた声で彼はそう切り替えした。
「……ガンダム……ですか?」
「僕は特にファーストにはうるさい方でね♪ この通り、チャッカマンを改造してビームサーベルを作るほどだ」
 車椅子の横に刺してあった筒状のものを取り出して、スイッチを入れると、青白い光を放つ光の刃が現れた。
「アセチレンガスと高純度酸素を高圧で噴出させて燃焼させているから、鉄も切れる」
「……」
 もはや呆れて言葉を失った美奈子たちはなんとコメントしていいかわからなかった。
「ちなみに、ちゃんと形も円柱型のファーストのものだ。角柱型のマークUとは違うよ。手間はかかったが、拘りがあるからね」
 そんな彼女たちを知ってか知らずか、彼は楽しそうに『ビームサーベルのようなもの』の説明を続けていたが、不意に真面目な表情になった。
「まあ、そんな話はさて置いて、そういう理由だから、恵ちゃんを泳げるようにするのは難しいと思うのだが、それでも挑戦するかな?」
 いきなり真面目な質問を浴びせられ、美奈子たちは完全に虚をつかれて、全員が沈黙してしばらく考えこんだ。そして、美奈子がおもむろに口を開いた。
「……恵ちゃん、一つ訊いていいかな?」
「なに、美奈ちゃん?」
「泳げるようになりたい?」
「…………うん。だって、その……今度、もし、もしだよ。あたしが泳げなくて溺れたら、また、誰か怪我させるかもしれないし……そんなの嫌だから……」
 そう言って、目を伏せて、一瞬の静寂が流れた。
「恵ちゃん、泳げるからって、溺れないということはないんだよ」
 彼女の父、信行が静かに静寂を破った。
「でも、泳げるなら溺れにくくはなるよね」
「そうだな。水の怖さを知っているんだから、無茶もしないしね」
「そうですわね。でも、今、問題なのは恵ちゃんの意志ですわね、美奈子ちゃん?」
「うん。恵ちゃんは泳げるようになりたい。それだけで充分。この夏はとことんまで付き合うよ。必ず、泳げるようになってもらうわよ。覚悟してね」
 美奈子は悪戯っぽく笑ってみせた。
「この夏って……勝負は来週だよ、美奈ちゃん?」
「別に勝負は関係ないよ。負けても、罰ゲームは私だけにしてくださいって言えばいいもん。もともと、私が勝手に受けた勝負だしね」
 美奈子は恵子の不安を庭先の埃のごとく軽く吹き払った。しかし、吹き払った埃は他の庭先に降りかかった。
「美・奈・子・ちゃん! 私たちのこと、そんなふうに思ってるの?」
「ひょえ?」
「見くびってもらっちゃ困るなぁ。罰ゲームが嫌なら最初から断っているって」
「え、えーと……」
「まあ、そういうことですわ。勝負を受けた限りは喜ぶのも悔しがるのも5人で一緒ですわ」
「みんな……」
「うんうん、青春だねぇ。いいねぇ、若いって。おじさん、感動しちゃったよ。というわけで、おじさんからプレゼント」
 そう言って、信行はチケットの束を財布の中から取り出して美奈子に渡した。
「――市民プールの回数券?」
「来週に勝負するなら、特訓するつもりだろう? どうせ特訓するなら、プールでした方がいいだろ?」
「でも……」
 その回数券を困ったように弄びながら、美奈子は彼を見た。
「恵ちゃんのために特訓してくれるんだから、これくらいはさせてもらってもいいと思うが?」
「あ、あの〜……ありがとうございます」
 美奈子たちは深々と彼にお辞儀してお礼を言った。
「それじゃあ、頑張って。ゆっくりしていってね。僕は『ぼなぱると』の整備でもしてくるよ」
 彼はそれを軽く受け止めて、居間から引き上げた。
「いいお父さんだね」
「そんなことないよ」
 恵子は少し照れたながらも嬉しそうに美奈子にそう返した。

 美奈子は部屋のペンギンのぬいぐるみを抱きながらベッドの上に座り込んで、部屋に遊びに来た芽衣美に今日のことを話していた。
「ふーん、そうなんだ、恵子おねえちゃんが……なんか、意外だね。でも、リン君助けた時、すっごい怒ってたのは、それが原因だったんだね」
「うん、そうみたい。時々、用事があるって、早く帰るのも、お父さんの病院の付き添いだったみたい」
「……美奈子お姉ちゃん、恵子おねえちゃんのお父さんの足、魔法で治せないの?」
(芽衣美ちゃん、それは無理よ)
「どうして? だって、男の人を女の人に変身させられるぐらいなんだから、歩けない人を歩けるようにするぐらいお茶の子さいさいなんじゃないの?」
「その場限りなら簡単だけど、それをずっとそうしておくには、犠牲を伴うのよ」
 美奈子は少し悔しそうにそう言った。
「ギセイ? どんな?」
「別の世界にいる、歩ける恵子ちゃんのお父さんを歩けなくするっていうね」
「そ、そうなんだ、知らなかった」
「私が呪いを使えれば別なんだけど、そんなにレベル高くないから。琉璃香さんや真琴お姉さまクラスじゃないとね。それに呪いは術者に負担が大きいから、年に一度ぐらいしか使えないの。真琴お姉さまは私を魔法少女にする呪い、琉璃香さんは私を美奈子の姿にする呪いをもう使っているから、あと十ヶ月ぐらいは無理なの」
 自分の力不足を歯噛みするかのように美奈子は言った。
(それに、呪いは失敗する可能性もあるから、呪詛返しの覚悟もしないといけないのよね)
 銀鱗がそれに補足を付け加えた。
「へぇ、何でもできるはずさ魔法は不思議ね〜♪ってわけにはいかないんだ」
「世の中そんなに、甘くないってことね。まあ、それはそれとして、恵ちゃんを泳げるようにするのに、芽衣美ちゃんにお願いがあるんだけど、聞いてくれるかな?」
「うん、いいよ。できることなら何でもするよ。その代わり、今度、一緒にコスプレしてね♪」
「うう……一回だけなら」
 仕方なく指を一本だけ立てて、条件を飲んだ。
「やった! で、あたしは何すればいいの、美奈子お姉ちゃん?」
「うん、実はね……」
 飛び跳ねかねないほど嬉しそうな芽衣美に美奈子は苦笑を浮かべながら、明日の特訓の計画を話した。

 平日とはいえ、お昼下がりの蒸し暑い午後ともなると、そこそこ込み合った市民プールは賑やかな子供の声で満たされていた。プールサイドで準備体操をし終わった恵子たちは一ヶ所に固まって、美奈子の特訓の説明を待っていた。
「で、言われたとおり、セパレートの水着を着てきましたけど、何かあるんですの?」
「それはおいおい説明するとして、先ずは、恵ちゃんがどうして水が怖いのかを考えてみたの。恵ちゃん、顔は洗えるわね?」
「うん、それぐらいは……」
「だけど、顔に水をつけれない。昨日、プールで言ってたけど、息ができないから怖いんじゃないかと思ったの。また、溺れちゃうと無意識に思ってしまうんだと」
「なるほど。それで、どうするの? まさか、スキューバダイビングでもするつもり?」
「近いけど、はずれ。ちょっと、待ってて、今日はそのために特別ゲストを呼んでおいたから」
 美奈子は恵子たちをその場に待たせて、建物の陰に入った。
「美奈子お姉ちゃん、準備オッケーだよ」
 そこに待っていた芽衣美を見つけて美奈子は破顔した。
「ありがとう、芽衣美ちゃん」
「それじゃあ! なんだか、久々に言う気がするけど――」
「(ラスカル☆ミーナに変身よ!)」
 芽衣美と銀鱗が声をハモらせた。
「……どうしても言わなくっちゃ、気がすまないのね」
 美奈子は元気一杯の芽衣美の肩に手を置いて項垂れた。
「もっちろん!」
(魔法少女の使い魔の務めですから)
 美奈子は苦笑を浮かべて、右手にバトンを出現させると黒い髪が金髪に変化して生き物のように自分で結い上げられ、光とともに出現した髪留めで留められると、着ていた水着が黒のビキニへと変化した。場所が場所だけに、今回のコスチュームは水着バージョンらしく、手袋もロングブーツもなしで、代わりにサンダルと手首にはロッカーキーが巻きつけてあった。
「魔法少女ラスカル☆ミーナ! 真夏の太陽なんて隠れちゃえ。眩しさ倍増で参上ですっ」
「芽衣美ちゃん、煽り文句は言わないよ」
「え〜、せっかく、考えたのに」
 ブーと頬を膨らませて芽衣美が文句を言ったが、ミーナは取り合わなかった。
「それよりも、変身させるよ。準備いい?」
「いつでもオッケー♪」
 ミーナはバトンを振うと芽衣美を美奈子の姿に変身させた。
「準備完了。さて、みんなのところへ……ぶっ!」
 振り返ると建物の角から覗き込む四人の顔が並んでいた。
「美奈ちゃんがラスカル☆ミーナだったんだ」
 恵子は目を輝かせて少し上ずったような声でそう言った。
「知らなかったぁ。こんなに身近にいたなんて」
 驚きの表情を浮かべながら、少し感心して里美がそれに続けた。
「美奈子ちゃん。隠れるんなら、もう少しマシなところにしたほうがいいですわよ」
 少し困ったような表情で庸子はそう忠告すると、
「あからさまに怪しいもんね、建物の裏に誰かを呼びにいくって」
 美穂が少し呆れた顔でそれに付け加えた。
「美穂ちゃんも知ってましたの?」
「うん、多分そうだろうって思ってたんだけど、この間、デパートであったときに確かめたの。ヨーコちゃんも?」
「わたくしは転校初日の学校を案内しているときに偶然、知りましたの」
「二人ともずるい! なんで教えてくれなかったのよ!」
「冷たいなぁ」
「ごめんなさい。美奈子ちゃんは、美奈子ちゃんなりに一所懸命、そのことを隠しておられたみたいだから」
「言うのも、かわいそうかなって気になって、つい、ねぇ?」
「なんだか、そんな言い方されると、全然隠し事が下手みたいに聞こえる……」
「うーん、間違っても上手くはないと思うけど」
「ミーナお姉ちゃん、すぐに顔に出るし、おっちょこちょいで抜けてるから、そういうのは下手だよね。でも、それが可愛いんだよね」
 もう、ばれてしまっているのなら余計な魔力を使うのは勿体無いと変装を解いて、猫耳娘の使い魔、マイティー・メイの姿に戻った芽衣美が口を挟んだ。
「芽衣美ちゃん、よくわかっておいでですわ」
「一応、変身した後はメイって呼んでね、ヨーコお姉ちゃん。その方が気分が乗るから」
「わかりましたわ。それでは、美奈子ちゃんも、変身しているときは気分が乗るように、ミーナさんって呼ぶことにしますわ」
「……好きにして」
「で、どうされますの、特訓は?」
 プールサイドに戻って、庸子はミーナに訊いた。
「さっきも言ったけど、顔に水をつけれないのは息ができないから怖いんじゃないかと思った。それなら、息ができるようにすればいいってこと。もちろん、スキューバダイビングなんかせずにね♪ そう、に――」
「わかった! 河童になればいいんだ!」
 美穂が、ミーナが何か言う前に自信満々に手を挙げて答えた。その答えにミーナは口を開けたまま、間抜けな顔で硬直した。
「河童なんて、いやぁ!」
 恵子は当然と言えば当然の反応をした。美穂を除いて他の四人も恵子と同意見らしく、そんなことしないでよという目でミーナを睨んでいた。
「えー、かわいいのに。それに河童になれば、CMで中井○一と共演できるかもしれないわよ」
「できないって、美穂ちゃん」
 ミーナは呆れて物も言えない状態からなんとか復帰して、とりあえず、突っ込んでおいた。
「共演は置いといても、河童はまずいんじゃないかな? 河童の川流れって言う諺もあるし……」
「里美、それ違う……だから、に――」
 ミーナのツッコミをさらりと聞かないふりをして、里美はさらに続けた。
「なるんなら、半魚人だろう?」
 里美の言葉に二の句が継げないミーナは陸揚げされた魚のように口をパクパクさせていると、代わりに庸子が言葉を発した。
「半魚人はダメよ。抱きついたら、ウロコが刺さりそうじゃない」
「何も抱きつかなくても……」
「抱きつかなかったら、どうやって、ミーナの胸を揉むのよ」
「正面から正々堂々と揉めばいいんじゃない、美穂お姉ちゃん」
「うーん、その手があったわね……うーん、いいかも」
「美穂ちゃん、相変わらず好きだね、それ」
「ライフワークだもん♪」
「美穂、メイ、恵ちゃん……みんな……お願いだから、話は最後まで聞いて! 水の中で溺れないようにするには、に――」
「「「「「人魚になればいい」」」」」
 恵子たち、五人の綺麗に揃った声に、ミーナは言うべき言葉を失って、再び口をパクパクさせていた。
「でしょう? ミーナさん。皆さん、わかっていましたわ」
「ちょっと、からかってみただけだよ。ごめんな、ミーナ」
「セパレートの水着じゃなくちゃダメで、水に溺れないっていったら、これしかないものね。でも、あっさりそう決まるのは面白くないと思ったから、ごめんね、ミーナ」
「ミーナお姉ちゃん、ごめんなさい。でも、ノリには合わせないとね♪」
「あー、面白かった。やっぱり、ミーナちゃんはミーナちゃんだね♪」
「っ! み、み、みんなのイジワルぅ!!!」
 ミーナはバトンに魔力を注いで、真夏の太陽の照りつけるプールサイドであっても目に見えるほどの青白い光でそれを包むと、ハリセン状に広げた。ミーナの周囲の大気が揺れて背景がゆがむ。
「ミ、ミーナさん、落ち着いて」
 鬼気迫るものに庸子達は思わずたじろいだ。
「問答無用ッ!」
 ミーナはハリセンをプールサイドに打ちつけると、ハリセンを包んでいた光が一気に開放され、周囲は閃光で満たされた。
「きゃあぁぁぁぁあぁぁぁああぁ!」
 悲鳴が上がり、閃光が薄れると、そこには五人の人魚が虹色の鱗を眩しいほどに陽光に輝かせ、プールサイドでぴちぴちと跳ねていた。
「エラ呼吸だから、早く水に入らないと窒息するよ」
 ミーナの台詞を証明するかのように、五人は次第に息苦しさを覚えて、慌てて、プールの中へとダイブした。恵子は少し躊躇ったものの、息苦しさには勝てずにプールに飛び込み、水の中へと沈んだ。
「ミーナ! 何てことするんだ!」
 水に入って呼吸して、少しは落ち着いたのか、里美が水面から顔を上げて、ミーナに文句を言った。
「ちょっとした仕返しよーだ」
「突然、変身させるなんて、ひどいわよ」
「だって、私、悪い魔法少女だもん♪ で、気分はどう?」
「ミーナさん。心なしか、少し苦しいんですけど……普通、人魚って、湖とか沼とか川には現れませんよね。もしかして、淡水ではダメなんじゃありません?」
 庸子が少し息苦しそうに眉をひそめた。
「うん、私も……」
「そういえば、僕も……」
「ミーナお姉ちゃん!」
「ええ?! そんな! プールの水を海水にするっていっても……ええい! いちかばちか!」
 ミーナは再びバトンを振り上げて今度は水面にたたきつけた。プールの水が一瞬、光り輝くとエメラルドグリーンを湛えた水へと変わり、プールの底はさんご礁へと変化した。プールに入っていた人々も全員、人魚となって、ちょっとしたパニックが起こり、その異常に気がつき、プールに飛び込んだ監視員のお兄さんたちも同様に人魚へと姿を変えて、そこここで悲鳴が上がっていた。
「む、胸がぁ! こ、この胸は俺のもんだぁ!」「こ、この尾ひれのラインがたまらんぅ!」「船を転覆させて、王子様を助けなきゃ!」「人魚になれるなんて夢のようだわぁ!」
 ……そこここで悲鳴のような歓声が上がっていた。
「う゛〜、疲れた〜」
 プールサイドでは一人、疲労困憊したミーナはその場にへたり込んだ。
(ご主人様、人魚の海と直で空間を繋げるなんて、無茶するからですよ)
 銀鱗の呆れた声がミーナの頭に響いた。
「だって、しょうがないでしょ。他に思いつかなかったんだから」
 そう言うと、ミーナも人魚に変身して、プールへと飛び込んだ。
「ふー、気持ちいい!」
 火照った体の熱が水へと逃げる心地よさを満喫しながら、ミーナは他のみんなの待つ水中へと潜った。
「ミーナちゃん! ミーナちゃん! すごいよ。水ん中でも息ができる!」
 恵子が興奮して潜ってきたミーナに抱きついてきた。
「け、恵ちゃん。む、胸が腕に当たってるよ」
 ミーナの腕に柔らかな感触が伝わって、思いっきり狼狽した。
「? 女の子同士なんだからいいじゃない」
「う、うん、そ、そうなんだけどね……そ、それよりも、水には慣れた?」
 ミーナは抱きつかれた腕をそっと抜いて、話題を変えた。
「うん! 息ができるんなら。それに上とか下とか行けるから、まるで飛んでるみたい!」
「よかった。それじゃあ、今度は水に顔をつけれるよね?」
「で、でも、その時は今みたいに息ができないんでしょう?」
「息は吸えないけど、息は吐けるよ」
 ミーナは息を吐いて見せ、ミーナの口から気泡が漏れた。
「ね♪ 息を吐いている間だけ顔に水をつけていれば、大丈夫♪」
「……ねぇ、魔法でなんとかならないのかなぁ?」
 それでも不安げに恵子はミーナを見つめた。
「でも、それじゃあ……」
 ミーナは困惑の表情で言いよどんだ。一時的に水中で呼吸できるようにはできなくもない。ミーナにとって、それは決して難しい事ではないが……
「恵ちゃん。そんなことして泳げるようになっても意味ないよ」
「美穂ちゃん……」
 いつの間にか二人の傍にやってきた美穂が恵子をたしなめた。
「恵ちゃんが頑張らなくっちゃ、ミーナがこうやって公共の施設を無茶苦茶にして、ここを利用している人に迷惑かけて、監視員のお兄さんを人魚姫に変えて、悪逆非道を尽くして、こんなことしている意味がなくなっちゃうよ」
「み、美穂ちゃん……」
 ミーナは改めて自分のしたことを言われて、ちょっと顔を青くしていると、恵子はミーナのほうを見てしばらく考え込み、ちょっと真面目な表情を美穂に向けた。
「……うん、そうだね、なんでも魔法に頼っちゃだめだね。あたし、頑張ってみる」
「それでこそ、恵ちゃんよ。でも、今日はとりあえず、せっかく人魚になったんだから、思う存分楽しみましょう」
「うん、そうだね。いこ、ミーナちゃん」
 美穂の笑顔に誘われて、にっこり笑うと恵子はミーナの腕をとって、引っ張った。
「それより、ミーナ。ミーナって、なんだか、変身前よりも胸が大きくなってない?」
「え? そ、そんなことないよ、気のせいだよ、美穂ちゃん」
「んにゃ。この手の平が覚えている胸よりも確実に大きくなってる」
 美穂はミーナの後ろに回ると羽交い絞めするようにミーナの胸を揉み出した。
「ちょ、ちょっと! 美穂ちゃん!」
 美奈子は身体を捻って逃げようとしたが、そう簡単に逃がしてくれるわけもなかった。
「いいなあ、この揉み心地。渚ネエが『抜群♪』というのも頷けるわ。ちょっと、青い果実みたいに硬さがあって、それでいて弾力に富んで、揉んでいる指を押し戻すような……」
「み、美穂ちゃんんん! お、お願い、お願いだから、や、やめてェェ」
「いいじゃない、減るもんじゃなし、もしかしたら、増えるかもよ……そうなったら、悔しいな。悔しいから、揉んじゃえ♪」
「だーかーらー」
「美穂ちゃん、それじゃ、オヤジだよぉ。でも、大きくなるんなら、美穂ちゃんのはあたしが揉んであげる」
「え?! ちょ、ちょっと、恵ちゃん、そんなの、いいよ!」
 美穂は身を捻ってそれを断ろうとしたが、この期に及んでもなおミーナの胸から手を放さない天晴れな心意気が邪魔して、恵子の攻撃を避けるには不十分だった。
「遠慮なんかしなくていいよ」
 両の手をワキワキと動かして恵子は美穂に、美穂がミーナにしているように背後から羽交い絞めするように胸を鷲掴みに掴んだ。
「ちょ、ちょっとぉ! や、やめてったらぁあ!」
「それじゃあ、わたしのもやめてって!」
「それはいやぁ!」
 美穂は後ろから恵子に胸を揉まれてもなお、ミーナの胸を揉みつづけていた。見上げた根性である。
「お母さん、あのお姉ちゃんたち、なにやってるの?」
「み、見ちゃいけません!」
 子供の教育上芳しくないじゃれつく三人の人魚は周囲に赤面を巻き散らしたのは言うまでもなかった。
 夕方頃にミーナが事態を収拾して引き上げたが、噂を聞きつけた人魚マニアが何を期待してか来客し、例年よりもちょっとだけ市民プールの収益が伸びたのは些細な事であった。

 市民プール人魚騒動から一週間程が過ぎ、勝負まであと数日となった。お昼休みも中ほど、既に校庭には、かき込むようにお昼を平らげた男子生徒がサッカーなどに興じて、歓声が上げていた。美奈子は炎天下の中、よくやるものだと半ば感心したが、そういう自分もつい一月半前までは、あの中に混じってボールを蹴っていたことを思い出し、なんだかとても奇妙な感じを覚えながら、食べ終わった弁当箱を洗って、巾着袋にしまい込んでいた。
「……らせさん」
 美奈子は少し、ボーっと夢のようなもやの中を彷徨っていたところを誰かに呼びかけられ、ハッとして、我に返った。
「白瀬さん?」
 もう一度呼びかけられたが、今度はその中に怪訝な響きが含まれていた。
「え?! えと、なんだっけ? 丹羽さん」
 美奈子は取り繕うように、にっこり微笑んで返事した。大抵の場合はこれで丸く収まる。和久から美奈子になって習得した技である。
「もう! 人の話をちゃんと聞いてないの? 上田さんは泳げるようになったかって訊いたの」
 もっと、文句を言いたいだろうが、少し顔をしかめただけで、丹羽は美奈子にもう一度同じ質問を繰り返した。
「うん。顔を水につけれるようにはなって、この間から、ビート板とかで練習も始めてるし、今でも7、8メートルなら何もなしで泳げるわよ。でも、まだ息継ぎができないの。だから、三日後までに25メートル完泳は無理かもしれない」
 色々と突っかかってくる彼女に美奈子としてはちょっとうんざりしていたが、一応、こっちの心配をしてくれているのだから邪険に扱うわけにもいかず、素直に進行状況を話した。
「あ、当たり前でしょう! 先週まで1メートルはおろか、顔も水につけれなかったのよ、上田さんは!」
「そうだね。でも、人間、頑張ればなんだってできるんだね」
 美奈子は頑張っている恵子を思い出し、嬉しそうに言い返した。
「だけど、7、8メートルじゃ、今回の勝負、勝ち目はないわよ。どうするつもり?」
「勝負はやってみなくちゃ、わからない。もしかしたら、今日、息継ぎできるようになるかもしれないし、できなくても、勝負の日までに泳げる距離が伸びれば何とかなるから」
 せめて、15メートルまで。心の中で美奈子は付け加えた。もっとも、現在の二倍の距離を泳げるようになるのはかなり難しいことはわかっていたが。
「そんなの、希望的観測ってやつでしょ。もし負けて、罰ゲーム、どうするつもり?」
 心の声が聞こえなくても充分、それが無茶なことは誰でもわかっていた。
「もちろん、罰ゲームはやるよ。勝負だもん。泣いて許してもらうつもりはないよ」
 美奈子はきっぱりと言い放った。あまりにも思いっきりよく言い切られて丹羽はしばらく喋る言葉を失っていた。
「はあぁぁ、負けた時、罰ゲーム無しにしてもらうように頼んであげようと思った私が莫迦みたいだわ」
 額に手を当てて頭を振って溜息をついた。
「丹羽さん。頼んでくれるなら、ヨーコちゃんや恵ちゃん、それに里美と美穂ちゃんのバツゲームを勘弁してくれるように頼んでくれないかな? もともと、私、個人的な勝負だから」
 美奈子は真剣な顔で丹羽を見つめた。
「……あなたって、時々、変に男らしいわね」
 彼女は呆れた表情で美奈子を見返して、素直な感想を口にした。
「え? ええと……それがいい女の条件ってものよっていうのが、お母さんが教えなの。それで、お願いできるかな?」
 ちょっと狼狽しつつも、なるべくかわいく、もう一度お願いした。
「……ふぅ、わかったわ。頼んであげるわよ。まったく、あなたって人は――」
「ありがとう、丹羽さん。恩に着るよ」
 何か言われる前に先手必勝と美奈子はにっこり笑ってお礼をいった。
「っ! あ、あなたのためじゃないからね! 私はあくまで、ヨーコちゃんたちの――」
 彼女の笑顔に思わず顔を赤くした丹羽は怒鳴るように言い返した。
「わかってる、わかってる。それじゃあ、よろしくね」
 美奈子はすでに踵を返して、水飲み場を離れ、軽快な足取りで教室に戻っていっていた。
「また、白瀬さんにちょっかいかけていたのか? 丹羽さんも、飽きないねぇ」
 美奈子の後ろ姿をボーと眺めていた丹羽は、ひょっこりと水を飲みにやってきた前畑に突然、声をかけられて狼狽した。
「ち、違うわよ! 前畑君には関係ないでしょっ!」
「ん? どうしたんだ? 顔が赤いけど――ふっ、俺に惚れてもらっちゃ困るなぁ。俺には心に決めた人が――」
「バカ! あんたなんかに誰が惚れますか!」
「でも、白瀬さんには惚れちゃうんだよね」
「な、なに言ってんのよっ! そ、そんなわけないじゃない!」
「白瀬さんも大変だ。野郎にも女子にも両方から惚れられるとはね」
「だから、違うって言ってるでしょっ」
「はいはい。そういうことにしておきますよ。まあ、安心してていいよ。バツゲームはひどいものするつもりはないから」
「当たり前よ。というより、普通、勝ってもバツゲームはしないわよ。あなたたち男でしょう?」
「俺はそれでも構わないけど、それじゃあ、白瀬さんたちのプライドはズタボロだよ。丹羽さんだって、そうだろ?」
「だ、だけど!」
「まあ、まだ、俺たちが勝つと決まったわけじゃないし、勝っても負けても後腐れないようにってのが一番だろ? だから――」
 前畑は丹羽の耳元に口を近づけて、何か囁いた。それを聞いて、彼女はあからさまに、顔をしかめた。
「あなたって――」
「最高だろ? だから、白瀬さんたちを一生懸命、応援してやれよ、丹羽さん」
 得意げな笑顔で前畑はそう言ってその場を後にした。

 日は高いので、まだ周囲は明るいが、放課後からずっとプールにいた美奈子たちは体温を奪われて、連日の疲れも貯まっていることもあり、明日に備えて特訓を切り上げる事にした。
「いよいよ明日ですね。ドキドキしますわ」
「うん、そうだね。恵ちゃんもよく頑張ったよね」
「でも、結局、息継ぎができないから、12、3メートル泳ぐのがやっとだし、目標の15メートルに足りないし……」
 足をついた地点から5メートルバックして再スタートというルールだと、15メートル以上泳げれば、余計に泳ぐ距離は5メートルと歩く距離は5メートルで、合計35メートル。ハンデを15メートル取れる。が、それ以下だった場合、二回足をつくことになるので、そうなれば、10メートルも余計に泳いで、10メートル歩かなければならなくなり、合計45メートルとなって、ハンデはたったの5メートルになる。
 もし、15メートル泳げても、何とか泳げるだけの恵子のスピードはハンデ15メートルでもあっさりと抜かれ、男子の第二泳者が10メートルほど泳いだ時点で、第二泳者の美穂にバトンが渡ると予想していた。リードで言えば15メートル。もし、二回足をつくことになれば、美穂の時点でリードどころか、2メートルぐらい遅れてスタートになる計算になる。
「みんな、……ごめんなさい」
 恵子は奥歯を噛みしめて、俯いた。
「恵ちゃん、まだ、負けたわけじゃないって。リレーなんだから、あとの私たちを信じて自分の仕事をする。それ以上でもそれ以下でもないわよ」
「美奈子ちゃんの言う通りですわ。今からしょぼくれていては勝てる勝負も勝てませんわ」
「大丈夫、僕に任せて。2メートルなんて、いいハンデだよ」
 里美がポンと恵子の背中を叩いた。
「恵ちゃん、私、正直なところ、勝負までに泳げるようになるのは無理だと思ってたの。だけど、ここまで頑張って、少しでも泳げるようになったんじゃない。それだけで充分。明日の勝負は楽しみましょうよ」
「……うん」
「おじさんも見に来るんでしょ? 恵ちゃんの勇姿を見せてあげなくっちゃね」
「うん」
「それに、加藤君の鼻もあかさなくっちゃね」
「うん。あたし、頑張る」
 恵子はぐっと拳を握りこんで決意を固めた。

 一ノ宮中学のプールには観客席がついており、設備面では過度と思えるほど充実していた。そこに特別に設けられた実況席で一人の男子生徒と中年男性が仲良く鎮座していた。
「さあ、絶好の好天に恵まれた2年2組の『突然水泳一番勝負』の時間がやってまいりました。実況はわたくし、越前平悟(えちぜん・ひょうご)、特別ゲスト解説は我が一ノ宮中学理事長の一ノ宮孝治さんでお送りします」
「よろしく」
 夏場のプールサイドには不似合いな背広服姿の孝治は軽く頭を下げた。
「早速ですが、理事長。今回の見所は?」
「なんと言っても一番は、カナヅチだった上田恵子さんが泳げるようになったかどうかだね。はっきり言ってしまえば、この勝負を受けて立った白瀬美奈子さんは無謀なほど漢ですね」
「はあ、なるほど」
「まあ、二番目は、そのハンデを背負って、男子並みの泳力を持つ尾崎里美さん、白瀬美奈子さん、相原庸子さんがどこまで食い下がれるか、井上美穂さんがどれだけハンデを維持できるか、といったところですね」
「勝ち目はあるのでしょうか?」
「漫画だと友情パワーで何とかなる展開ですが、作者はそれほど甘くはないってところですね。女子チームが最高の仕事をしても、勝つのはすこし難しいでしょう。男子チームのミスに期待するしかないですね」
「ずいぶんと、女子チームには歩が悪そうですね」
「ええ、おそらく、皆さん思っているように、負けるでしょう」
 孝治は思いっきり、きっぱりと言い切った。
「……孝治おじさんは! 何で、そんなに負けると決まった言い方するの!」
 準備体操をしながら放送を聞いていた里美がむっとしながら文句を言った。
「いいじゃない。勝って、鼻をあかしてあげましょう」
「ところで、恵ちゃんのお父さんは?」
 観客席を見渡したが、恵子の父親の姿はなかった。
「まだ来てないみたい。どうしたんだろう? 今日は出勤日だけど、昼までには戻ってこれるって言ってたのに……」
「今、美穂ちゃんが確認しにいってくれてるはずだけど……あ、戻ってきたみたい。どうだった?」
 息を弾ませながら戻ってきた美穂に庸子が急かすように尋ねた。
「うん、なんでも、仕事で、ちょっと、出るのが、遅れたんだって。急いでこっちに向かっている最中だけど、道が混んでて、あと20分はかかるって」
「ええっ! だって、スタートはあと10分後よ」
「20分なら恵ちゃんをアンカーにもっていっても無理ですわね」
「というわけで、美奈子ちゃん、出番よ」
 美穂は美奈子の方に手を置いて小悪魔的な笑顔を浮かべた。
「はい?」
 何を言っているのかまったく理解できない美奈子はちょっと裏返った声で返事した。
「ラスカル☆ミーナに変身だね」
「め、芽衣美ちゃん! いつの間に?!」
(ご主人様の窮地に駆けつけるのは使い魔の務めです。わかってますよ、ご主人様。恵子さんが困っているのをみすみす見捨てたりしないってことは)
「なるほど、騒ぎが起こればスタートが遅れる。そうなれば、間に合うってわけね」
「で、でも、こっちの都合で騒ぎを起こすなんて……クラスのみんなに迷惑かかっちゃうよ」
 美奈子はできれば変身はしたくないので逃げの体勢に入っていた。
「美奈子ちゃん。忘れてません? 自分が悪い魔法少女だってこと」
「で、でも……」
 しかし、そう簡単に逃がすわけはなく、5人の目が美奈子に集中した。期待と希望、脅迫と強制、何よりも信頼の眼差しが美奈子を追い詰めた。
「さあ、友情のため、私利私欲で変身よ」
「ううー、わかったよ! 変身すればいいんでしょ!」
 白旗を上げた美奈子は半ば自棄で変身を承諾した。
「それでこそ、美奈子ちゃん。あ、そうそう、騒ぎを起こすんだから、ハイテンションで登場しなくちゃダメよ。演技指導はしてあげれないけど、アドリブで頑張ってね」
「美穂ちゃん……。ねえ、やっぱり、そうしなくちゃダメ?」
 美奈子はもてる力を命一杯使って、可愛らしく懇願したが、全員に「もちろん」の一言を即答されるだけであった。
「ふえーん〜」
 美奈子は物陰に隠れるとバトンを出した。市民プールの時の反省を活かして、素早く変身した。あまりに速すぎて、文に書けないぐらい。
 芽衣美もメイに変身しており、猫耳をピクくっと動かし、尻尾を楽しげに振っていた。
「それじゃあ、ミーナお姉ちゃん。撮り直しはなしよ。アクションスタート!」
 ミーナはため息を一つつくと、気合を入れなおして地面を蹴り、隠れていた建物――水質調整室の屋根の上に飛び乗った。
 ドッシーン!
 飛び乗ったまではよかったが、着地した足元にたまたま転がっていたテニスボールに足を取られて、ど派手に転倒し、尻餅をつき、プールにその音を響かせた。
「いたたたた……」
 したたか打った腰をさすりながら、ミーナは立ち上がると、プールにいた人間全員の視線が彼女のほうに向いていた。
 あまりのことに、その場の時間が止まっていた。
(ご主人様、何か言わないと……)
 ミーナは自分の醜態に一瞬、真っ赤になって、言葉に詰まったが、何事もなかったようにコスチュームについた汚れを払うと、胸をそらして高笑いを上げた。
「にょほほほほ、作戦成功! みんなの視線を独り占め。春夏秋冬、古今東西、どこでもここでも、主役はわ・た・し♪ 私ヌキで盛り上がるなんて、困ったチャン。いくらプールだからって、水臭ーい。そんな薄情な人たちには、私がみっちり、お仕置きして、あ・げ・る♪」
 内心、ブラジルまで続く穴に身を隠したいぐらい恥ずかしさを感じながらも何とかその場を取り繕った。
「な、何だ貴様は!」
 そんな中、お約束の反応をしてくれたのは体育教師の浜松であった。そして、生徒たちの間にざわめきが走った。
「おい、まじかよ!」「脳味噌まで筋肉でできているって本当だったんだ……」「下手すると、俺たちの顔も覚えてないかもな」「やたらと体操服のゼッケンに厳しいから、そうかもね」「おいおい、そんなのが教師になっていいのかよ」
 この一ノ宮中学でここ一月半ほどの間に、二度も騒ぎを起こした超有名人のミーナを知らない彼に生徒たちは驚いたが、彼女としては口上のテンポが取れてありがたかった。
「わたし? 私を知らないなんて、なーんて、おぼぁかさん♪ 教えてあげるから、その筋肉細胞がみっちり詰まった、かたーい頭に彫刻刀で彫り込んで、憶えておきなさい。
 私は、魔法甚大、威力広大、被害拡大、超絶美少女、暗黒魔法少女、ラスカル☆ミーナっ!勝手気侭に何とはなしに、水着バージョンでプールに参上!」
 とにかく、我に返れば超光速で戦線離脱してしまいそうなほど恥ずかしいので、我に返らないようにミーナはハイテンションで名乗りをあげた。
「ミーナお姉ちゃん、特訓の成果がでてよかったね」
 リリーとの戦闘で影響されたか、最近見た悪の魔法少女のビデオに感化されたか、遺伝なのか、なかなか悪の魔法少女が堂に入っていた。
(ご主人様、立派です。やればできるじゃないですか。どこから見ても、聞いても、立派な悪の魔法少女ですよ。僕は嬉しいです)
 感極まった銀鱗の声が聞こえたが、反論した拍子にテンションが下がりそうだったのでミーナは何も言わないことにした。
「らすかるみーな?! どこの学校の生徒だ! うちの学校には留学生はいないはずだぞ!」
 浜松がミーナの名乗りに対して怒鳴り返した。プールにいた全員が呆れてものが言えない状態になっているのを見かねて、柏原が彼の袖を引いた。
「先生。浜松先生。あの娘はここ最近、摩訶不思議な事件を起こしている魔法少女の一人ですわ。ほら、バニーガール事件とか、セーラー服ブレザー合戦の」
「……………………あ。も、もちろん知ってますよ。いやだなぁ、先生。私はですね、その、あの、正体がどこの学校のものかと言う事をですね……な、なんにしても、とっ捕まえて、その正体を白状してもらいます」
 浜松はやっとミーナのことを思い出したのか、狼狽で醜態を晒し、ミーナのいる建物の屋上へと続くはしごを上がっていった。
「おまえ! 何の恨みがあってか知らんが、生徒たちは俺が守る!」
 醜態をカバーするためか、なにやら最近のヒーロー物でも言わないような恥ずかしい台詞を臆面もなくミーナに叩きつけた。ポーズつきで。
「いや、別に危害を加えようとかそういうつもりはないんだけど……」
 ミーナはその毒気に当って、テンションが下がって、すこし困ったように応えた。
「何を言う! お前はまた、生徒たちをバニーガールとかに変身させるつもりだろう! そうはさせるか! 生徒たちを変身させたくば、先ずは俺をスクール水着少女に変身させてからにしろ!」
 腰に手を当てて仁王立ちになっている浜松。
「それに何の意味が……」
「さあ! どうした! 変身させないのか!」
 仁王立ちでにじり寄ってくるビキニパンツ付きの筋肉の塊にミーナはたじろいだ。
「ミーナお姉ちゃん、変身させちゃいなよ」
「で、でも……」
(いいんじゃないですか? 変身したいものも指定してきているんですから……)
「そ、そうはいってもね、っと! ととっと、とっとこ!」
 いつの間にかに建物の端まで追い詰められていたミーナはバランスを崩して落ちそうになって、慌てて何かに掴まって、何とか落ちるのを免れた。
 ホッと一息ついたものの、屋上に掴まるところなどないはずなのに……と掴まったものをミーナが見ると、それは浜松のビキニパンツであった。
「!!!」
「お、おまえ!」
 掴まった拍子にずり下ろされたビキニパンツから浜松の凶器が白日の元に晒されていた。
 観客席にいた保護者の女性たちはすこし喜びはしたが、かぶりつきでそれを見せ付けられたミーナは久しぶりに見慣れたものを見たせいもあって、思いっきりパニックになって悲鳴をあげた。
「い、いやぁぁぁぁぁ!!!」
 そして、それとともにバトンで浜松を殴打した。浜松は半ばパンツを下ろされた状態だったので、上手く動くことができずにされるがままに打撃を食らっていた。
「ちょ、ちょっと待てェ! お前が脱がしたんだろうが!」
 常人ならば数発も打たれればノックアウトできるだろうに、さすがに鍛えてあるのか浜松は十発近くの打撃に耐えて、文句の叫びを上げていた。
 そうこうしている間に浜松は凶器をホルダーにしまい込み、ミーナの攻撃圏内から離脱することに成功した。
「な、なんてもの見せるのよ! き、気持ち悪い! 二度とそんなものを出せないようにお望みどおり、スクール水着少女にしてあげるわ!」
 ミーナは半ば涙目になりながら、バトンをハリセンに変えた。かと思うと、突然ダッシュして、浜松との間合いを詰めて、テニスのラケットでも振るように水平にハリセンをなぎ払った。
 小気味いい音を立ててハリセンが振り抜かれると、浜松の巨体が光に包まれ、次第にその光が収束すると、そこには、あどけない顔立ちのスクール水着を着た少女が一人立っていた。
 少女は己が置かれた状況を理解できずにしばらくポカンとしていたが、すぐに身体を捻って自分の姿形を見られるだけ見て確認すると、両手で自分の肩を抱いて俯いた。それを見て、肉体のみが取り柄の彼からそれを取り上げてしまったのは、少しやりすぎたかとミーナは反省しかけたが、
「すんばらしー! この折れそうなか細い腕。弱々しい肩。ない胸。ちょっとぽってりした下腹部。貧弱な足。どれもこれも理想どーおり!」
 少女は両手を空に掲げて、感極まって涙を流しながら感謝の言葉を叫んだ。その台詞に身の危険を感じてか、メイはミーナの後ろに逃げ込んだ。
「ミ、ミーナお姉ちゃん、あ、あの人、危ないよぉ」
「あ、あなたって、柏原先生が好きだったんじゃなかったの?」
 ミーナは逃げ腰になりながらも、メイを庇うようにして、その少女に訊いた。他の生徒たちもそれが知りたかったらしく、首を縦に振っていた。
「好きだが、何か問題があるの?」
 もうすっかり女言葉のスク水浜松は質問の意味がまったくわからないといった感じで訊き返してきた。
「いや、だって、その、柏原先生って、グラマーで大人の魅力満載の美人なのに、なんで、ロリータが理想って、矛盾してない?」
「柏原先生は教師として、人間として、その人柄が好きなのだ。むちむち育ったデカイ胸や尻などに何の興味もない。むしろ嫌悪感を感じるぐらいだ」
 少女はなんだか誉めているのか、けなしているのか、3:7ぐらいの比率の台詞を吐いた。柏原は眉を顰め、その場の全員が凍りついた。
「――と申しておりますが、何か一言、コメントは?」
 果敢にインタビューした越前は勇者であろう。柏原は不機嫌な表情のまま、越前からマイクを受け取ると屋上のスクール水着少女に向かって、一言文句を言った。
「嫌悪感を感じる。だなんて、最低だわ! 使うのなら、嫌悪感を覚えるでしょうが!」
「すいません、柏原先生。国語が苦手なもので……」
 スク水浜松は頭を押さえながら申し訳なさそうに謝った。
「……な、なんだか、そういう問題でもないと思うんだけど……」
 ミーナは呆れて、せっかく上げたテンションが下がってしまって、どうしようかと思っていたが、そこはさすが、トラブルの神様の寵姫であった。
「じゃあ、どういう問題だ――あっ! そうか! 柏原先生にこのナイスなボディーになってもらえば、心身ともに理想の女性になるんだ。そういう問題だな」
「えっ?!」
 ミーナがその言葉の意味を理解する前に少女は水質調整室の屋根からプールサイドに飛び降りて、柏原に向けて一直線で走っていった。プールの上を。
「柏原先生! このスク水浜松があなたを素晴らしい身体に変えて差し上げますよぉ!」
 水上を右足が沈む前に左足を、左足が沈む前に右足を前へ前へと突き進んでいく。さすがにこれには柏原も身の危険を感じてか、たじろいだ。
「せっかくの目の保養を貧相な代物に変えられてたまるか!」
 しかし、男子生徒たちが柏原とスク水浜松の間に人間バリケードを作って、彼女が近づくのを防いだ。それを見て、スク水浜松は走るスピードを落として、プールに沈んだ。
「よし! あの変態をとっ捕まえて、縛っておこう!」
 もはや、そのスク水浜松が体育教師であった事は一切考慮されておらず、男子生徒たちは彼女を捕らえるためにプールへと飛び込んだ。
「ふふふふ、トンで火にいる夏のムシっ。お前らも、この素晴らしい身体にしてやる。ありがたく思え!」
 スク水浜松はとんでもないスピードで泳いで、飛び込んできた男子生徒に抱きつくと次々とスレンダーなスクール水着少女に変えていっていた。
 男子生徒たちは水中戦が不利とみて、プールから上がって、水際作戦に切り替えたが、スク水浜松の水中からの水鉄砲を浴びて、一人、また一人とスクール水着少女に変えられていった。さすがに、見かねて女子生徒達も参戦したが、全員、スレンダー体型に変えられてしまった。
「いいね、美穂ちゃんは、あんまり変わんなくて」
「一センチは胸が小さくなってる!」
「そんなの、普通はわかんないよ。直径にしたら、3ミリぐらいだよ」
「3ミリ! 3ミリも減っているなんて激減よ!」
「……美穂ちゃん」
 などという会話が交わされている間に大局は決まった。
「くそっ! ここまでか!」
 バリケードも残すところ、2、3人となって、既にその機能も果たせなくなっていた。その上、スクール水着少女に変えられた者たちもスク水浜松側について逆に包囲に加わっていた。
「こういう未発達な身体もいいぞぉ」「大人しくこっちに来いよ」「お前らだけそのままなんて不公平だ。公平にしようぜ」「俺はもともと、こっちの方が趣味なんだ。いいぞぉ、スク水は」
 その包囲網の中からスク水浜松が一歩前に出た。
「さあ、観念してください。なってみれば楽しいものですよ、柏原せんせっ♪」
「浜松先生! お願いですから、正気に戻ってください!」
 柏原はさすがにこの異常な状況に恐怖したのか、少し上ずった声で懇願した。しかし、そんな懇願はまったく通用せずに、少女にしては不敵すぎる笑みを浮かべて彼女に近づいて来た。
 万事休す。そう覚悟を決めた時にどこからともなく、よく通る声がプールに響いた。
「待ちなさい!」
 一瞬、どこにいるのかわからずに全員が周囲を有視界探査した結果、更衣室の屋根の上に立つ人影を発見した。タップダンスでも踊るように足を交互に上げているのは、多分、焼けた折板屋根が熱いせいだろう。
「だから、言ったのに。熱いって」
「うっさいわね! ええと、どこまで言ったっけ?」
「まだ何も言ってないよ」
「そう、それじゃあ――嫌がる人たちをプリティーボディーにするなんて、言語道断! 供給が増えれば値崩れインフレしちゃうじゃない! プリティーボディーは一学年に一人と道徳で決まっているのよ! そんな非道は例え天が許しても、このファンシー・リリーが許さない! プリティーボディーの守護神! ファンシー・リリー! 夏のプールに水着バージョンで登場ですっ!」
 今回のリリーのコスチュームは、胸元には大きな黄色のリボンと、腰には白いフリルがスカートのように飾りがついているピンク色ベースの水着を着て、魔法少女もののお約束、夏限定一回限りの水着バージョンであった。
 ビシッとポーズを決めるリリーの笑顔が少々引きつっていたのは熱いのを我慢しているせいだろう。
「リリー、さっきから言おうと思ってたんだけど……サンダルもあるんだよ、そのコスチュームセット。……ほら」
 見かねて、ぬいぐるみのような白い犬、ウッちゃんがリリーにヒマワリのワンポイントをあしらった白いビーチサンダルを取り出した。
「なんでそういうことを早く言わないのよっ!」
 リリーはウッちゃんからビーチサンダルを奪い取って、急いで履いて足の裏を灼熱地獄から開放した。
「えーと……夏のプールに水着バージョンで登場です。まで言ったから――ミーナ! また、あなたの仕業ね!」
「え、えーと……にょほほほほ、そ、その通り!」
 水質調整室の屋根の上で状況から置いてけぼりを食らっていたミーナは突然、名指しされて、即座に対応できずに少し狼狽してしまったが、辛うじてテンションをあげてそれに応えた。
「今日という今日は許さないわよ!」
「いつもは許してくれたの? 毎回、毎回、しっぽを巻いて引き上げてるくせに」
「あれは戦略的撤退よ! それでも、背中とふくらはぎは前向きよ! とにかく! 今回は負けないわよ!」
「今回はってことは、今までは負けてたってことになるよ」
「う、うるさいわね! そうやって、人の揚げ足ばっかり取ってると、嫌われるわよ!」
「だって、悪の魔法少女だもの。みんなに敬愛されたら変でしょ」
「変でも何でも、揚げ足取っちゃダメ! 今日という今日は許さないわよ!」
「いつもは許してくれたの? 毎回、毎回、しっぽを巻いて引き上げてるくせに」
「あれは戦略的撤退――」
「リリー! これは罠だよ。ミーナの奴、こうして時間稼ぎをして、スクール水着を増やすつもりだよ!」
「謀ったわね、ミーナ!!」
「いや、別に謀ったわけじゃないんだけど……」
 時間稼ぎがしたいのは確かである。戦闘に突入すれば、瞬殺してしまうかもしれない。それでは事態収拾にかからなければならなくなって色々と面倒であった。
「そうはさせないわよ!」
 リリーはどこにしまっておいたのか、ペンギンを模したカキ氷製造機(家庭用)のようなものを取り出し、その頭のてっぺんについたハンドルを勢いよく回した。
 見る見るうちに受け皿にカキ氷が積もり、一杯になると自動的にイチゴシロップがかかり、取り出し口から飛び出し、スクール水着の生徒たちの手元に飛んでいった。カキ氷が飛び出した後は、すぐさま次の皿がセットされ、次々とすごい速さでカキ氷が出来上がり、飛び出していった。シロップもイチゴだけではなく、メロン、レモン、ミルク、ブルーハワイなどバリエーション豊かである。
 カキ氷を受け取った生徒達はうだるような暑さの中で、その冷たい食べ物の誘惑に抵抗できず、一気にカキ氷を口の中に流し込んでいった。
「うーん、冷たくておいしい」「やっぱり、夏はカキ氷よね」「へへへ、ラッキー♪」
「カキ氷を食べている間だけ足止めするってことかな?」
 メイがちょっと羨ましそうにカキ氷を食べているスクール水着の少女達を眺めながら呟いた。
「うっ! 頭がキーンとする!」
 しかし、誰かがそう言ってうずくまると、それをきっかけに次々と、あちらこちらでこめかみを抑えながら、スクール水着少女達はその場にうずくまっていった。
「り、リリー! まさか毒を……」
「誰がそんなことしますか! カキ氷を一気食いすれば誰でもなるわよ! 夏限定集団魔法、カキーン氷よ!」
「リリー、練習した成果があったね。大成功だよ」
「当然よ、ウッちゃん。天才のあたしが努力して失敗するなんてことはありえないもの。氷屋さんでバイトまでしたんだから」
 リリーは胸を張って大威張りだが、プールにいたスクール水着でない生徒や先生以外にも観客席の父兄まで全滅させていては大成功とはとても言えない筈だが、正義のために多少の義性は厭わないリリーにとってはそんな些細なことは大事の前の小事とばかりに完全に視覚的情報からはカットされていた。
「ふふふ、これであなたの野望も潰えたわよ!」
「野望って?」
「とぼけてもダメよ! プリティーボディーの少女を増やして、希少価値を下げて、あたしの人気を失墜させようという野望よ」
 自信満々の指摘にミーナは何を喋っていいかわからずに固まっていたが、メイがそれのフォローに入った。
「ミーナお姉ちゃん、ばれちゃったね」
「あ、えーと……ほほほほ、お馬鹿なリリーにしてはよく気がついたわね! でも、私を倒さない限り、頭痛なんかすぐに復活して、仲間を増やすわよ」
「甘いわね! 復活なんかしないわよ。復活しかけたら、またカキ氷が食べたくなって、一気に食べて頭痛がしてを延々繰り返すんだもの」
「……ほんとに正義の魔法少女?」
「いつも言っているでしょう! 正義のためには些細な犠牲は目をつぶるのよ! 某宇宙人だって、事故で警備隊員を殺しても、町を破壊しても、怪獣さえ始末すれば正義のヒーローでしょう。それとおんなじ!」
「そういうこと。この場にいた人たちを不幸にしたのは、みんな、ミーナのせいってことだよ」
 ウッちゃんがリリーの台詞を増強してミーナを打ちのめした。
「ミーナお姉ちゃん、悪逆非道だね♪」
「メイまで……こうなったら、正々堂々と勝負よ!」
「望むところよ!」
「勝負はカキ氷の早食い勝負! 異存ないわね!」
「ふふふふ……」
「?」
 俯いて無気味に笑うリリーに、ミーナはちょっと引き気味に怪訝な顔をした。
「墓穴を掘ったわね、ミーナ! 『カキ氷のリリー』と異名を取ったあたしの実力、とくと思い知りなさい」
 その台詞と同時にリリーはジャンプして、ミーナのいる水質調整棟の屋根の上に移動した。
「テニスボール、踏んづけて転ばないね、ミーナお姉ちゃん」
「馬鹿にしないでよ。そんな今時の漫画でも恥ずかしいこと、誰がするのよ」
「そ、そんなことより、勝負よ!」
 真面目な顔でリリーに突っ込まれ、ミーナはちょっと顔を赤くしながら、バトンを振ると大盛りのカキ氷を二杯、出現させた。
「大丈夫。変な小細工はしてないよ」
 ウッちゃんがカキ氷を調べて保証した。何か魔法でもかかっていれば、すぐにわかる。出現の仕方は魔法だが、正真正銘、まっとうな大盛りカキ氷であった。
「そんなセコイことなんかしないわよ。スタートは?」
「じゃあ、あたしがするね」
 メイが中央に立って片手を高々と上げた。
「準備いい? それじゃあ、れでぃーーーーーごう!」
 メイの手が振り下ろされると同時にリリーは残象を起こすほどのスピードでスプーンをカキ氷と口の間で往復させた。見る見る内にカキ氷の山は減っていく。一方、ミーナの方はのんびりと一口一口、味わって食べていたので、全然減っていない。
「うーん、冷たくておいしい。やっぱり夏はカキ氷だよね」
「ひょひょひょひょ、あふぁひふぉしゅふぃーふぉふぉふぃふぇ、あふぃふぁふぇふぁふぉ!」
「通訳しますと、『ほほほほ、あたしのスピードを見て諦めたの!』と言ってます」
 ウッちゃんが丁寧に通訳してくれている間にリリーはカキ氷を全て平らげた。
「どう! ミーナ! あたしの勝――ちううっ、頭がキーンってするぅ……」
「そりゃあ、あんだけ、一気に食べればね」
 ウッちゃんが冷静に苦笑を浮かべていると、ミーナは自分の皿を脇においてリリーに近づいていった。
「ほんと、すごいわね。でもね、悲しいかな、これ、戦争なのよ」
「ミーナ?!」
 うずくまっているリリーに向かって、アッパースウィングでバトンを振りぬき、ふっ飛ばした。
「うひょぉぉぉ〜〜……」
 ミーナによって飛ばされたリリーはプール脇にある大きな木の枝に引っ掛かって、目を回していた。
「ミ、ミーナ! ひ、卑怯だぞ! リリーはカキ氷の早食い競争に勝ったじゃないか! それを……」
「だーかーら、私は悪い魔法少女だって、いつも言っているじゃない。卑怯なのも当然よ♪ ほらほら、早く助けに行かないと、リリーが木から落ちちゃうよ」
「うぐっ! お、おぼえてろよ、ミーナ! 絶対、お前を倒してやる!」
 ウッちゃんは不細工な指でミーナを指差して睨みつけたが、ぬいぐるみ犬なだけに、今一つ迫力には欠けていた。そして、そんなことをしている間に、リリーの引っ掛かっていた木の枝が折れて、リリーが地面にめり込んだ事は予定調和であった。
 ちょうどその時、ミーナは校庭に土煙を上げて走りこんでくるミニ戦車を視界の端に捕らえて、「任務達成」と心の中で呟いた。
「それじゃあ、遊ぶのももう、飽きたし。私もかーえろっと。じゃあねぇ♪」
 リリーのカキ氷魔法とミーナの変身魔法をキャンセルして建物の裏に姿を消した。
 こうして、一ノ宮中学2年2組スクール水着の変は幕を閉じたのであった。騒動終了後、浜松体育教師が保健室行きになったのはこの騒ぎのせいということで全て処理された。

「さて、色々ありましたけど、メインイベント! 男女対抗水泳リレーを開始します」
 越前は実況席でマイクを持って再開を宣言した。
「でも、間に合ってよかったですね」
 観客席にやってきた恵子の父、信行は琉璃香と賢治の隣に陣取った。
「ええ、まったく、ラスカル☆ミーナ様様です」
 信行はにっこりと微笑んでそう答えて、
「それと、あの子が泳げるようになったのは、全部、美奈子ちゃんや他の友達のおかげです。我が娘ながら、いい友達を持ったと誇りに思います。ありがとうございます」
 深く頭を下げた。
「出来はあんまりよくないですけどね。あの子でも少しは役に立ったのなら、よかったですわ。さあ、始まりますよ」
 信行は琉璃香の言葉に頭を上げて、プールへと視線を移した。
 プールでは既にスターと選手がスタート台に立っていた。正確に言うと、恵子は飛び込みができないのでプールの中に入っていた。
「やめるんなら、今のうちだぞ、上田」
 男子チームアンカーの加藤はスタート台の横からプールに入っている恵子を覗き込んだ。
「やめない。浩ちゃんなんかに負けないんだから」
 水泳キャップを被りなおして、恵子は加藤を見やったが、逆光で表情は見えなかった。
「……勝手にしろ!」
 そう言い残して、控えの場所に帰っていった。
「青春だねぇ。加藤も少しは素直になればいいのに」
 トップバッターの前畑は苦笑を浮かべて、手首足首の柔軟をするとはなしにしていた。
「そういう前畑君は素直なの?」
「おうよ! 俺っちは自分の欲望に素直な男なんでぃ」
 何の自信があるのか変な訛りで胸を張って答えた。
「はいはい」
「というわけで、上田さん。俺の野望のために、手は抜かない。全力でいくよ」
「望むところよ」
「それじゃあ、二人とも、準備はいい?」
 柏原が二人に確認すると、準備オッケーの返事が返ってきたので、スターターの台に上がった。
「さあ、今、会場は緊迫に包まれ、スタートを今や遅しと待ちわびております。スターターの柏原教諭がピストルを空に向かって構えました」
「位置について、よーい――」
 パーン!
 火薬が炸裂して小気味いい音をプールに響かせた。
「さあ、スタートしました。実況は越前、解説は理事長でお送りいたします」
「よろしく」
「あっと、上田恵子選手。泳いでますね」
 かなり不恰好ではあるが、辛うじてクロールと思われる泳ぎ方で、恵子は水飛沫をあげながら、速くはなかったが、確実に前へと進んでいた。
「まったく、大したものですね。驚きです」
「そうでしょう。先週までは、まったく泳げなかったはずの上田選手ですから。さて、前畑選手は今、水面に浮上してきました。既にその時点で上田選手を5メートルほど引き離しています」
「当然と言えば、当然ですね」
「しかし、女子チームは第一泳者と第二泳者が25メートルづつで、計50メートルのハンデをもらっています」
「アンカーの白瀬選手と第四泳者の尾崎選手は男子並みのスピードを持っています。上田選手でハンデをどれだけ残して次の泳者、井上選手にバトンが渡せるかがポイントでしょう」
「ハイ、そうですね。そうこういっている間に、上田選手は約10メートルを通過しました。前畑選手との差はおおよそ、9、10メートルか。意外に健闘しています、上田選手」
「このまま、泳ぎきれば女子チームの勝ちですが、情報では上田選手は息継ぎができないと――」
「ああっと! ここで、上田選手、立ってしまいました! ルールでは、その地点から5メートルバックしなければなりません。ええと、おおよそ、11メートルでしたから、6メートル地点まで戻ります」
「恵ちゃん! まだまだ、余裕あるから、落ち着いていこう! 息、整えて」
 美奈子が余裕の笑顔で恵子に声をかけた。
「プールサイドからチームメイトの相原選手などを筆頭に、女子生徒の声援が飛んでいます。前畑選手、今、25メートルのターン」
「本当に全力で仕留めにきていますね。卒がない着実な泳ぎです、前畑選手」
 恵子は肩で息をして、少し呼吸を落ち着けると、プールの底を蹴って、再び泳ぎ出した。
「さて、リスタートラインまで戻り、再び泳ぎ始めました上田選手。情報によりますと、今までの最高水泳距離は13メートルだそうです。そうすると……」
「ゴール手前、6メートルで足を付くことになりますね。そうなれば、女子チームの勝ちは絶望的です」
「……なんだか、随分と嬉しそうですが、なにか?」
「え? ああ、いや、生徒達が一生懸命頑張っている姿は美しいと、喜んでいるのです。頑張る生徒に育ってくれている。勝っても負けても教育者冥利に尽きます」
「……台詞がうそ臭く感じますが、さて、プールに注目いたしましょう。前畑選手は順調に快調に飛ばしております。上田選手も健闘していますが、いささか苦しそうです。そろそろ、限界が近づいてきているのでしょうか? 今、15メートルラインを超えました。前畑選手は今、50メートル泳ぎきり、次の西脇選手にバトンタッチしました」
 加藤が控え選手の椅子から立ち上がると、プールサイドを走った。走って、恵子の横を併走した。
「もうだめ……」
 恵子は緊張のあまり、焦って、息を整えられずにスタートしたために息が続かず、いつもよりも1、2メートル手前で足をついて、作戦は台無しになった。それでも、何とかしようと頑張ったが、もう既に肺の中の酸素は完全に欠乏状態にあった。
「恵!」
「……浩ちゃん……」
 酸欠で朦朧とする中、自分の手足が立てる激しい水音の中でも不思議と彼の声は恵子の耳に響いた。
「ばかやろう! 息継ぎしろ!」
(……できないよ……みず、のんじゃう……そしたら、また、おぼれちゃう……)
「こっち向いて思いっきり、息を吸え! 俺を信じろ!」
 加藤の声に恵子は彼の顔を見ようとして横を向け、そして思いっきり息を吸い込んだ。空に近かった肺が一杯に空気を吸い込み膨らみ、全身行き血液特急に酸素たちが駆け込み乗車し、恵子の細胞は再び活力を取り戻し、泳ぐ力を得て、手の平に水を掴み、足で水を蹴った。
「やればできるんだよ! まったく」
 顔をしかめて、そういいながらも加藤は妙に嬉しそうだった。
「ええと、……加藤選手と上田選手が青春ドラマをやっている間に、男子チームは第二泳者、西脇選手は順調に差を詰めています。彼もそれほど遅くありませんね」
「ええと、資料によると、前畑、安田、加藤の三選手が31秒前後、彼も31秒台フラットぐらいのタイムですからね。一番遅い、平田選手で32秒弱ですからね」
「あ、やっと、上田選手、25メートルを泳ぎきりました。第二泳者の井上選手、スタートしました。西脇選手はおおよそ、17メートルほど泳いだところです」
 観客席から惜しみない喝采の拍手が巻き起こり、恵子を包んだ。疲労困憊した彼女は引き上げられたプールサイドで仰向けに寝転びながら、眩しい空を眺めていた。
「恵ちゃん、すごーい!」
 駆け寄ろうとした美奈子の腕を庸子が掴んで引き止めた。怪訝な表情を浮かべて美奈子は庸子を見ると、彼女は微笑みながら恵子のほうへ視線を導いた。
「ふん! 世話かけさせやがって。俺がいなけりゃ、何にもできないんだな」
 倒れた恵子を覗き込むように加藤が見下ろしていた。恵子からは逆光で彼の表情は見えなかった。
「浩ちゃん……」
「恥ずかしいからその呼び方はやめろっていっただろ!」
「だって、あたしの方がお姉さんだもの」
「たかだか三日だろ!」
「三日でも三年でも早く生まれたら、お姉さんなの。お姉ちゃんは弟を守らなくちゃ」
「……」
「これで、浩ちゃんがまた溺れても、助けにいけるよ。お父さんに助けてもらわなくても、あたし一人で」
「お前が来たら、余計溺れるから絶対に来るな」
「もう、素直じゃないんだから……」クスリと少し微笑んでから「ごめんね、浩ちゃん」
 と恵子は謝った。
「なんだよ、いきなり」
「うーん、なんとなく」
「変な奴」
「そうだね。……アンカー、頑張ってね」
「俺が頑張ったら、お前ら、バツゲームだぞ」
「あ、そっか。じゃあ、勝たない程度に頑張ってね」
「できるか、そんなこと。俺は不器用なんだよ」
「そうだね」
 そう言って、満面の恵ちゃんスマイルを浮かべた。
「さて、プールサイドでラブコメを展開している間に井上選手、いま、25メートルを泳ぎきりました。第三泳者は、相原選手。男子チーム、西脇選手はゴールまで残り6メートルほど。ここからはハンデなしの一人50メートルになりますから、この差が、そのまま、女子チームのリードとなります。井上選手、ほとんど実況されませんでしたね。恨むのなら、ラブコメしていた二人を恨んでください」
「青春じゃのぉ。里美ちゃんも、あれぐらい可愛さが溢れていたら、コップで掬って毎日飲むというのに」
「……ええと、さて、勝負のほうに話を戻しましょう。男子チームも第三泳者の平田選手にバトンが渡りました。委員長、副委員長対決ですね。日頃は副委員長が連戦連勝を収めているので、委員長の、男の面子をかけてここは少しは差を詰めておきたいところ。相原選手、綺麗なストロークで非力さをカバーしているのに対して、平田選手は性格どおり、ゴウイングマイウェイな泳法で、激しい水飛沫を上げて進んでおります。若干、差を詰めたか?」
「ぶはははは! あす、の、がく、えんを、しはい、する、のは、この、わた、し、だぁ!」
「……喋りながら泳いでいます。喋らなければもっと速く泳げるでしょうに……」
「意外に、喋らないと泳げないのかもしれません。オリジナルなやり方を全て否定するのはよくないですね。イチローや野茂の例をあげるまでもなく。比較したあとで、考えればいいでしょう」
「はあ、そうですか?」
「そういうものです」
「さあ、差は5メートル弱、だいぶんと縮まってきました。相原選手、今、25メートルターン。クイックターンを難なく決めます。さて、平田選手は……通常のターンですが……あっと、少々もたついてしまいました。明らかにタイムロスです」
「勿体無いですね。ここで勝負を決めようと焦ったのでしょう。後ろの二人が速いですから、勝利の貢献度を上げるために少々、突出しましたね」
「チームワークを乱すスタンドプレーというやつですか」
「スタンドプレー自体は悪いことではないのですが、それをする限りはきっちりと決めないと。その責任を負うことになります」
「なるほど。さて、その遅れを取り戻すべく、猛然果敢な泳ぎを見せる平田選手。それをせせら笑うかのように優雅に泳ぐ相原選手。しかし、徐々にではありますが、差は縮まってきております。いま、相原選手、タッチ、第四泳者の尾崎選手が飛び込みます。平田選手は残り、5メートル半ぐらいでしょうか? とりあえずは、少しは差を縮めることには成功した模様です」
「うーん、執念ですね。このバイタリティーがあるからスタンドプレーができるのでしょう、彼は。これからも頑張ってもらいたいですね。相原選手もよく頑張りました。男子を相手に一歩も引かない大健闘です。仲間と自分の能力を信じて泳ぎきったのでしょう。泳ぎに不安がありませんでしたから」
「やっと、もっともな解説になってきました。さて、男子チームも第四泳者にタッチされ、安田選手が尾崎選手を追っています。この二人、普段もよく喧嘩するのですが……」
「喧嘩するほど仲がいいのでしょう」
「そういうことにしておきます。さて、さすがに安田選手、スポーツ万能なことはあります。軽快な泳ぎに見えますが、速い。ぐんぐん、尾崎選手に迫っていきます。尾崎選手も遅くはないのですが、少々分が悪い。しかし、懸命にこらえます」
「負けず嫌いですからね、里……尾崎選手は」
「意外に頑張るな、お前ら」
 アンカーとしてスタート台に上がった美奈子は隣に立っている加藤に声をかけられた。
「当たり前だ。特訓までしたんだ。恵ちゃんが、みんなが、これだけ頑張ったんだ、絶対に勝つ」
「悪いが、それはこっちも同じだからな。手は抜かない」
「当然。勝負に情けは無用だ。全力でかかってこいよ」
「お、おう」
(ご主人様、勝負に集中して、女の子っぽくするの忘れてるよ)
「美奈子お姉ちゃんらしいね」
 テレパシーで会話を盗み聞きしていた銀鱗と芽衣美が苦笑を浮かべている間に里美がゴールし、壁にタッチした。それを見るや否や、美奈子はスタート台からプールへと飛び込んだ。
「さあ、勝負はいよいよアンカーの手に。女子チーム、アンカーを務めるのは白瀬選手。リードは、尾崎選手よく頑張りました、4メートル弱あります。これは面白い勝負になりそうです。男子チームも今、タッチ。アンカーは加藤選手。秒差で言うと、およそ三秒遅れでスタート。面白い勝負になりましたね」
「ああ。しかし、これぐらいは充分に射程距離範囲。きっと、すぐに追いつくでしょう」
「はあ、そうですか……それでは、見守って行きましょう。白瀬選手、最初から飛ばしていくようです」
 美奈子のリードは体二つから二つ半、およそ、3、4メートル。充分とは言えなかったが、足りないわけでもない距離であった。
「スタートダッシュで逃げ切るつもりだろうが、そうはさせるか」
 加藤は先週、美奈子が泳いでいるのを見て、後半にペースが落ちるので、前半はなるべくペースを加減して、差は徐々に詰め、後半の疲れたところで一気に差して、抜き去る作戦を立てていた。
「早い段階で並んで、引っ張る形になったら危険だからな」
 美奈子の負けず嫌いな性格が追いつかれたことによって真価を発揮して、火事場の馬鹿力が出ては困るので、加藤は用心深く作戦を立てていた。
 クラスメイトや見学に来ていた父兄などは、美奈子達が男の子相手にここまで健闘するとは思っていなかったので、「もしかして……」の期待で、大いに盛り上がっていた。
「むむ、いかん! このままでは、女子チームが勝ってしまう」
「えーと、どういうことでしょう、理事長先生?」
「やってくれたな、美奈子ちゃん! まんまと罠にはめられた!」
「わ、わな?」
「こらぁ! 加藤! ペースを上げろ! 死ぬ気で泳げェ!」
「り、理事長先生! あ、危ないですって!」
 片足を実況席のテーブルに乗せて、マイクを片手に絶叫する孝治に越前はしがみつくようにして転げ落ちるのを防いだ。
 解説席で孝治が絶叫しているちょうどその時、プールの中の二人はそろそろ25mのターンにかかろうかとしていた。
 美奈子がプールの側面の壁を蹴り、ターンした。その時点でリードは2m程。全てが加藤の予定通りであった。
「ここからペースをあげて、一気に差を詰めて、抜き去る」
 加藤も難なく、クイックターンを決めてペースを上げた。がしかし、思ったほど差は縮まらなかった。
「?」
 ペースを上げたのは加藤だけでなく、美奈子も上げたのであった。スタートして数メートルを飛ばして、最初から飛ばしていくように見せかけて、徐々にペースダウンし、体力を温存しておいたのであった。
「作戦成功!」
 美奈子は自分の作戦が見事に決まったことを知り、希望の光に向かって泳ぎ進んだ。
「浩ちゃん、がんばれー!」
 プールサイドから加藤への声援が上がった。
「恵ちゃん! 敵を応援してどうしますの」
「だって、あたしの時も応援してくれたんだもん。不公平にならないようにエールの交換」
 恵子はしれっと庸子に言い返した。
「まったく、恥ずかしいだろうが!」
 加藤は泳ぎながらもしっかりと恵子の声を捉えた優秀な耳を赤くし、ほんの少しペースが上げた。そのためにわずかに美奈子との差が縮まり始めた。
「何やってるのよ! 白瀬さん! あなた達、負けたら、男子チームとデートなのよ!」
 丹羽がたまらず、プールの際まで駆け寄って、美奈子達が負けた場合の罰ゲームを大声で叫んだ。
「なにぃ〜! それは本当か、前畑!」
 真っ先に反応したのは安田であった。隣で苦笑を浮かべていた前畑に、文字通り詰め寄るように詰問した。
「ありゃ、ばらしちゃったか。まあ、いいか。丹羽さんが言ったことは本当だ」
「お前らずるぞ!」「そんなことなら、俺も出る!」「横暴だ!」「抜け駆けはダメだってみんなで言っていただろうが!」
 しれっと答える前畑に観客の男子生徒達からブーイングが上がった。
「今までぼーとしているほうが悪い。抜け駆けじゃない。勝負に勝ったらもらえる、ご褒美なんだよ、デートは。それにこの件は理事長公認だ」
 ブーイングも軽く受けて流して、前畑は観客に言い返した。
「そのとおり! デート代も私のポケットマネーから出す!」
「理事長、そんなことしていいんですか?」
 さすがの柏原も理事長の暴走を無視できずに口を挟んだ。
「いい! 里美ちゃんをコーディネートできるんなら、理事長の席などくれてやる!」
「そんな……電車の席を譲るのとは訳が違うのですよ」
「という訳で、尾崎の衣装を担当してもらうことで公認してもらった。それに、約束は白瀬たちとの間で交わしたものだから、周りからとやかく言われる筋合いはない!」
 前畑はいつもの軽い調子ではなく、きっぱりと言い放った。ブーイングしていた男子生徒達はその言葉に圧されて、矛先を変えた。
「くそぉ! がんばれ! 白瀬さん! 君の貞操は君の泳ぎにかかっている!」
 男子生徒からの声援が高まったが、他にも高まった人がいた。
「美奈子ぉ! 死ぬ気で泳げェ!」
 里美は必死で美奈子に声援を送った。
「僕はフリフリドレスなんか着たくない!」
「それはそれで見てみたい気がしますね」
「うーん、ついでに美奈子ちゃんのコーディネートも頼めばよかったんじゃ?」
「それはダメですわ。芽衣美ちゃんがいますもの」
「それじゃあ、きっと、美奈ちゃん、おもちゃ確定だね」
「ヨーコ! 美穂! 恵! 応援しろよ! 負けちゃうじゃないか! そんなにデートしたいのか!」
「そう言われましても、美奈子ちゃん、精一杯頑張ってますし」
「そうそう、あとは美奈子ちゃんを信じるだけ」
「それに……浩ちゃんとだったら……べつに、いいし……」
「だぁああああ! もういい! 美奈子ぉ! ほんとにがんばってくれーーーー」
 美奈子への声援が高まったが、勝負に集中している彼女の耳まで届いていなかった。もし届いたとしたら、その内容で動揺していたかもしれないので、彼女にとって、それは幸運だった。
「そうこう言っている間に勝負は残り10メートルとなりました。白瀬選手のリードはおよそ、体半分程度。体力温存の作戦を使ったとのことですが、やっぱり、ここへ来て、ストロークが鈍いように見られます。さあ! このまま、白瀬選手は逃げ切ることができるのか? それとも、加藤選手が抜き差すことができるのか? 残り5メートル。差はわずか!」
 それぞれの思いが交錯する歓声の中、プールの二人は勝負を忘れて、水を掴み、蹴って前へ進む。ただそれだけに集中していた。
「今、二人、ほぼ同時にゴール! 若干、加藤選手が速いか? 微妙です……あ、今、電光掲示板に名前が出ます……勝者は……加藤チーム! タイムは2分34秒43。白瀬チームは0.12秒遅れでした。ええと、手の平ほどの僅差だったそうです。破れはしましたが、よく頑張りました、女子チーム。デートされるのは残念ですが、男子チームと彼女たちの健闘を称えたいです」
 男子生徒の嘆息と父兄からの惜しみない拍手がプールを包んで、水泳勝負は幕を閉じた。
「ああっ、もう! みんな頑張ってくれたのに! ごめん、みんな」
 美奈子はプールから上がり結果を見て、悔しがると手を合わせて四人に謝った。
「みんな最高の仕事をしましたわ。ですから、負けても悔いない。でしょ?」
「まあ、やるだけやった上だし、勝つか負けるかは悔やんでも仕方ないもんな」
「そうそう。勝つのはみんなのおかげ、負けるのもみんなのせい。みんな頑張ったんだからいいじゃない」
「あたしも息継ぎできるようになったんだし、次にやるときは負けないよ」
「そうだね。それじゃあ、胸を張って帰って、敗者の矜持を示しましょうか」
 美奈子達はそう言って、プールから立ち去ろうとした。
「ちょっと、待てェ!」
「……な、何か用かな、前畑君?」
 ドキドキしながら美奈子は愛想笑いを浮かべて振り返った。
「このまま帰るつもりか? バツゲーム、忘れてないだろうな」
「やっぱり、やらなきゃダメ?」
「敗者の矜持があるなら」
 可愛く尋ねる美奈子をものともせずにきっぱりと前畑は言い切った。
「うー、で、なによ? バツゲームって」
 美奈子はそこで初めて、バツゲームの内容を聞いて、間抜けなくらい口と目を開いて、目を白黒させてから目眩を感じた。
「何で、あんた達とデートなんかしなくちゃならないのよぉ!」
「バツゲームだから」
「仕方ありませんわね。当日の衣装は芽衣美ちゃんが担当することで決定してますわ」
「うそぉ!」
「任せておいてね♪ とびっきり、可愛くするから」
「め、芽衣美ちゃん……いつの間に……」
(ご主人様が窮地に陥ってなくても傍に駆けつけるのが使い魔の務めですから)
 もうすでに言葉の出ない美奈子はその場に項垂れた。
「おい、前畑。俺はそんな話は聞いてないぞ」
 西脇が前畑の腕を掴んで小声で文句を言った。
「いいチャンスじゃないか? 公然と白瀬さんとデートできるんだから」
「お、お、俺は……そんな――なんだか、脅迫みたいな……」
「じゃあ、お前はやめとくか? 白瀬さんは俺が相手しよう――」
「だぁぁぁ! 任せられるか! 俺もいく! 絶対行く!」
「最初から素直にそういえばいいのに」
 前畑は苦笑を浮かべた。
「ちょ、ちょっとぉ! かんべんしてよぉ!」
 美奈子の悲痛な叫びは空しく蝉の声に混じり青空へと消えていった。
 こうして、2年2組の水泳勝負は本当に幕を閉じたのでした。

「由利ちゃん……今回の敗因なんだけど……」
 ウッちゃんは例によって包帯でぐるぐる巻きの由利の傍にやってきて、おそるおそる声をかけた。
「わかってるわよ、そんなこと」
 ウッちゃんに背中を向けながら、何やらごそごそしながら由利はそっけなく答えた。
(あ、よかった。相手のペースに乗せられやすいのが弱点だって、わかってたんだ……)
「それでね、僕、考えたんだけど――って、それ何?」
 ウッちゃんが由利の正面に回りこんで、固まった。
「見てわかんない? カキ氷よ」
「いや、それはわかるけど……それを一体……」
「今回の敗因は、『あの程度のカキ氷でアイスクリーム症候群を起こしたあたしの弱さ』にあるのよ。それを克服するために、カキ氷をいくら食べても、頭痛の起きない体質になるため特訓するのよ!」
「ゆ、由利ちゃん!」
「さあ! ラスカル☆ミーナ! 待ってなさいよ! 今度はあなたを――くぅっ! 何のこれしきの頭痛! 正義のために耐えてみせるわ!」
「由利ちゃん〜」
 その後、カキ氷の食べすぎで病院送りになったことは名誉のために黙っておいて上げよう。
「って、言いながら、書いてるじゃないの――うっ!」
「由利ちゃん。大人しくしてようよ」
 ……名誉のために大丈夫であったことを書いておこう。
「ラスカル☆ミーナ! 許すまじ!」

つづく

次回予告
かわいい格好を大好きな人に見せたい。一生懸命お洒落するのは乙女の務め。
格好いいところを大好きな人に見せたい。一生懸命背伸びしちゃうのは少年の性分。
例え、グループでも(わざとはぐれて二人っきりに)、
例え、策略が張り巡らされてあろうが(こんなチャンス滅多にありませんわ)、
例え、偏った愛情が暴走しても(ああ、このまま洗脳したい)、
好きな人と一緒にいれればそれだけで幸せ。……かもしれない。

ラスカル☆ミーナ第8話『桃色ハウスでパニックデート(仮)』




あとがき
 最後まで読んでいただきまして、ありがとうございます。南文堂です。
 かなりお待たせいたしました。ラスカル☆ミーナの第7話『スクール水着だらけの水泳大会』をお送りしました。
 冬です。寒いです。でも、作品は夏真っ盛り! 季節感0。あんたは南半球の人間か? 色々突っ込みもあるでしょうが、ご容赦ください。今、これが流行っています(笑)。
 今回はキャラクター盛りだくさんで(また、増えてるよ)、かなり長くなりましたが(普通、前後編にするって)、ちょっと遅れた新春特別号ということで楽しんでいただければ幸いです。
 それでは、本年もよろしくお願いいたします。



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