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品質には万全を尽くしておりますが、希に体質に合われて中毒になられる方もございますので、少し休憩をおいてから連続の読書をしてください




前回までのあらすじ
存在自体がトラブルメーカー、皆瀬和久は白瀬美奈子となり中学生の身でありながらアルバイトをしていた。しかも、そのアルバイト先で、悪の魔法少女ラスカル☆ミーナとなり、全人類ををウェートレスにする野望を持つ全日本ウェートレスマニア振興協会に協力して、通行人を次々とウェートレスにしていく。そこに登場したファンシー・リリーの敵の弱点を見事に突いた攻撃によりその野望を打ち砕いたのであった。
さて、今回、ラスカル☆ミーナはどんな騒ぎを起こすのやら……
(本編とは若干異なる点もございますので、前作をお読みになられることをお勧めいたします)



魔法少女 ラスカル☆ミーナ

作:南文堂

絵師:ゆきぴょん さん


絵師:もぐたん さん


第5話 なんたって 女幹部

 日が沈むのも大分と遅くなり、まだ七時半でも充分に明るく、藍色に染まる空に茜色の雲がたなびいて、少し幻想的な時間帯。
 美奈子は電源を抜いた喫茶『じぱんぐ』の看板を持ち上げて、服が汚れないように気をつけながら店内に引き入れた。
「よっと!オーナー、看板しまいました」
「ハイ、ご苦労さん。それじゃあ、なぎさクンも美奈子ちゃんもあがっていいよ」
 カウンターの中の清掃ももう仕上げに入っていたオーナーの守部登が店内の清掃を終えていた風島なぎさと美奈子にそう告げ、二人は更衣室で素早く私服に着替えると店の方へと帰りの挨拶をしに顔を出した。
「えと、一週間だけでしたけど、お世話になりました。たくさんご迷惑かけて、すいませんでしたが、色々と勉強になりました。ありがとうございました」
 美奈子は登となぎさに深々と頭を下げた。お金を稼ぐためと言う当初の目的もあったが、もう、そんなことよりもこの一週間で色々な事を学んで、美奈子はそれだけで十分な気がしていた。
「よく頑張ったね。おかげで大助かりだったよ」
 と登。
「それに美奈子ちゃんが来てから、店の売上があがったものね」
 となぎさ。
 二人の優しい言葉に「ありがとうございます」と少し照れながら美奈子は返した。
「でも、おしいな。せっかく、仕事も憶えた頃に期間が終わるなんて」
「ほんと。このまま、もうちょっとやったら?」
「だ、だめですよ。学校で許可貰ってるのは今日までなんです」
「そうだな、中学生だもんな。仕方ない。でも、また何かあったら、お手伝いしてくれるかな?もちろん、孝治を、理事長を通して許可はとるから」
「あ、はい。また、お願いします」
「うん。それじゃあ、これは少ないけど、お手当て」
 『給与 白瀬美奈子殿』と書かれた味気のない茶色の封筒を美奈子に差し出した。
「え、でも……わたし……」
 元々の目的のものではあったが、いざこうやって目の前に出されると、数々の失敗で割ったお皿の数、オーダーミス、その他もろもろの失敗による店の損害を考えてしまい、美奈子はそれを受け取るのがすごく気が引けた。
 差し出された給料袋を受け取ろうかどうしようか迷っている美奈子の背中をなぎさがぽんと叩いてウィンクした。「あなたにはそれを貰うだけの仕事はしてたわよ。胸張って受け取りなさい」と言わんがばかりに。
「はい。ありがとうございます」
 美奈子は生まれて初めて自分で稼いだお金を受け取った。

「で、いくら入ってたの?美奈子お姉ちゃん」
 食後のお茶をすすりながらの家族団欒で、美奈子の報告が終わってすぐに芽衣美が好奇心丸出しの瞳を輝かせていた。
「えーとね……」給料袋の封を慎重に切って美奈子は中を覗き込み、「おお!二万円も入ってる!」
「すごーい!」
「……時給650円ってところか。結構出してくれたんだな」
 賢治がさっと暗算して時給を割り出した。
「失敗しまくっていたわりにはね」
「うっ(は、反論できない)」
『でも、ご主人様の可愛いウェートレスさんのおかげでお店が大盛況だったから奮発してくれたんですよ、きっと』
「ありがとう、リン君」
「それで、どうするの?」
「日曜日にデパートに行って買ってきて、月曜日に返すつもりだけど?」
「それじゃあ、丁度よかった。日曜日は三人でお出かけね」
 琉璃香はパンと手を合わせて喜んだ。以前から、美奈子をそういう所に連れて行こうとしていたので、便乗するらしい。
「え?い、いいよ。一人で行くから」
「何言ってるのよ。芽衣美ちゃんの夏服を買いに行くのよ。美奈子ちゃんの夏服も買わないといけなかったから、丁度よかったわ」
「おでかけ、おでかけ」
 芽衣美は琉璃香が何を狙っているのかをよく知っているらしく、見るからに嬉しそうであった。
「なんか、二人とも期待してない?最初に言っておくけど、着せ替え人形はごめんだからね」
 しかし、美奈子もそれに気が付いていた。
「ほほう、それじゃあ、自腹を切って夏服を買うのね?」
「ひ、卑怯だよ!経済制裁反対!」
「ふふふ、何とでも言いなさい。母はTS娘を着せ替え人形にするのには手段を選ばないと相場が決まっているのよ」
 琉璃香のその一言によって美奈子は沈黙せざるえなかった。
「リリーには連勝なのに、こっちは連戦連敗だね、美奈子お姉ちゃん」
 そういう割には嬉しそうな芽衣美であった。

 そんなこんなで日曜日。
 三人は駅前にあるデパートの婦人服売り場にやってきた。バーゲンほどではないにしても結構な混んでおり、喧騒の満ちたフロア−はファンデーションの匂いで充満していると錯覚しかねない独特の雰囲気であった。
 最初に買っておかないと、あとで何が起こるかわからないと言う一種の強迫観念が美奈子にはあったので、何はなくとも本当の目的であるタオルを買うのは先に済ませたあった。
「あとは芽衣美ちゃんの夏服だけよね」
 美奈子はあくまで自分のはついでだと強調するかのようにそう確認した。
「美奈子ちゃんのもね」
 しかし、あっさりと琉璃香に否定されてしまった。
「それにしても、美奈子お姉ちゃん恥ずかしかったね」
 芽衣美はさっきまでの買い物を思い出して苦笑いした。
「そうそう、まさかデパートで値切るとは思ってなかったわ。女の子を通り越しておばさんになってるわよ、美奈子ちゃん」
「そ、そう言ったって、調べてた値段よりも高かったんだもの」
 調べていた5,800円は以前の価格で、生産量が減ったとかで今は6,200円に値上がりしているのを見て美奈子は店員に食い下がったのだった。
「だからって、値切るのはどうかと思うよ。しかもギフトコーナーで。店員さんがびっくりしてたよ」
「だ、だって、言うだけ言ってみるのはタダだもん。値引いてくれればラッキーと思わない?」
 さすがに思い出すと自分でも恥ずかしいらしく、美奈子は小さくなりながらも共感を求めるように二人に訊いたが、残念ながら共感は得られなかった。
「おかしいわね。美奈子ちゃんにはどうやら、浪速の商人のDNAが混ざってるみたいね」
「へえ、そうなんだ!それじゃあ……。もうかりまっか?」
「ぼちぼちでんな……って言わすな!」
 手の甲で芽衣美の胸を叩いてツッコミをいれては肯定しているようなものである。
「わー、やっぱり、浪速の商人さんだ。それじゃあ、細腕繁盛記だね」
「銭の花は白くてきれいやけど、その匂いは汗の匂いがして、根っこは血いみたいに赤いんや。ってやつ?」
「時々、我が子ながら思うけど、美奈子ちゃんって幾つ?」
「たぶん、14歳……でも、最近自信ないから、年齢不詳の14歳ってしておく」
「何だか、国籍不明のメキシコ人みたいだね、美奈子お姉ちゃん」
 エスカレーターのロビーで奇妙な会話で盛り上がっている琉璃香と美奈子、芽衣美の方へと店員の一人が近付いて来た。
「あ、やっぱり!芽衣美先輩!ようこそ、いらっしゃいませ」
 店員は芽衣美に向かってぺこりとお辞儀をした。
「あ!佳織さんだ。先輩はやめてよぉ、照れくさいなぁ。あ、この人は、あたし達とコスプレをいっしょにやってる友達で、習志野佳織(ならしの・かおり)さん」
「いらっしゃいませ、習志野です。ここの販売を担当してます」
 芽衣美に紹介された佳織はおしとやかに頭を下げて、自己紹介したので、琉璃香と美奈子もそれぞれ、手短に芽衣美との間柄をつけて自己紹介した。
「まあ、芽衣美先輩の下宿の。それで、今日は何かお探しですか?」
「うん!美奈子お姉ちゃんの夏服を買いにきたの」
「ちょ、ちょっと、芽衣美ちゃんのを買いに来たんでしょう?」
「あたしなんかより、美奈子お姉ちゃんの方が面白そうだもん」
「……芽衣美ちゃん」
「なるほど、わかりました。それならば私にお任せてください」
 美奈子が芽衣美に抗議の視線を向けている間に琉璃香が佳織に手短に何かを話して、それを最後まで聞いて佳織は納得して、100点満点の営業スマイルで承った。
「は?どういうことなんですか?」
「はい。ですから、実家から持ってきた服が男っぽいものばかりで、全然女の子らしくない。女の子らしくなるためにこちらへと、皆瀬様のお宅に行儀見習に来られているのだから、そんなことではいけないと一新して夏服を買いに来られたと、皆瀬様にたった今、説明いただきましたが?」
「る、琉璃香さーん」
「それじゃあ、じゃんじゃん選んで、どんどん試着して貰いましょう」
「よーし!選ぶぞぉ!」
 美奈子の抗議などまったく耳を貸さずに琉璃香と芽衣美、佳織は各々、売り場へと散って行った。
 ほどなく、何着も服を抱えた琉璃香と芽衣美、そして、佳織が美奈子の元に帰って来た。
「それじゃあ、これから行きましょうか」
 ブルーの細い格子模様のワンピースを美奈子は受け取り、試着室に入ると、今着ている服を手早く脱いで、ワンピースを被り、前のボタンを閉めた。肩を覆うものはなく、肩ひもだけの涼しげな服である。麦わら帽子でも被れば、似合いそうな夏の格好であった。
 美奈子は鏡に移る自分の姿を見た。だいぶ見慣れたとはいえ、鏡に映る美奈子は掛け値なしの美少女で、和久はいまだに少しドキドキする。しかし、一つ、残念なところがあり、それが魅力を半減している。表情が硬い。照れくささを隠すために仏頂面をしているので当たり前であるが、普段ならまだしも、今日この時に仏頂面はまずかった。
「さあ、ここからが勝負だ。和久。仏頂面で出て行ったら、『そんなに嫌々着るのなら、買ってあげないわよ』と言われて、そんなわけにはいかないからこっちが謝ると、主導権は完全に向こうになって、相手の思う壺だ。どんな格好させられるかわかったものじゃない。ここは笑顔。ウェートレスのバイトで鍛えた笑顔で付け入る隙を与えずに、自分の要求を向こうに飲ませる」
 美奈子は試着室の鏡に両手をつき、自分の顔を見据えると他人には聞こえないような小声で自分自身に言い聞かせた。
「よし!戦闘開始だ!」
 美奈子は心の中で気合を入れると試着室のカーテンを開いた。
 ちょっとはにかむような笑顔。実際照れくささもあるので演技の必要性は無いが、そんな表情をしている自分が気恥ずかしくて、美奈子ははにかみが赤面にならないように抑えるのに苦労した。
「どうかしら?似合ってる?」
 美奈子はなるべく女の子らしく訊いてみた。その場でゆっくりとターンまでして見せた。内心、転げまわってのた打ち回るほど恥ずかしいが、努力と根性でそれを押さえ込んだ。
(魔法少女は努力と根性が必須だとリン君が言ってたけど、こんな努力と根性をしているのは、世界広しと言えども、わたしぐらいだろうな)
『ご主人様、ファイト!』
 芽衣美も言葉には出さないが、ガンバレのポーズをして応援している。
(ありがとう、リン君、芽衣美ちゃん)
「似合ってる似合ってる。元がいいと、何でも似合うわ。それじゃあ、次はね……」
 使い魔とテレパシーで会話している美奈子を知ってか知らずか、琉璃香は満足そうに頷くとすぐに次の服を美奈子に渡した。
 半袖のシャツ、ポロシャツ、薄手のブラウス、Tシャツ、パーカー、スカート、キュロット、パンツ、ミニスカート、ジーンズ、ワンピース等など様々なバリエーションのファッションショーと化していた。実際、途中から着替えの時間の短縮化といって琉璃香がこっそりと試着室に時間圧縮結界を張ったために見た目にはマジックショーのように瞬時に衣装を替えて登場する美奈子に知らず知らず買い物客も集まってきた。
「続きましては、ノースリーブのチャイナシャツにミニスカート。動きやすく軽快な服装で、お嬢様を活動的に見せます」
 館内整理用のハンドマイクで佳織が集まったお客に向かって解説まで入れているし、芽衣美はいつの間にか試着室に入り込んでアクセサリーや髪のセットなど美奈子の着替えをアシストしている。さらに、芽衣美自身も着替えてお客の前に姿を現し、可愛く愛嬌を振りまいている。
『ご、ご主人様。なんか恥ずかしいですね、これ』
「私の方がもっと恥ずかしい!」
 ブラウスを脱いでワンピースに着替えながら、照れている銀鱗に返した。
「ほらほら、無駄口叩かずに着替えないとカーテン開いちゃうよ」
「注目されるのはミーナだけで充分なのに」
「でも、夏に向けていい訓練になるよ。そうそう、ちょっとポーズとか取った方がかえって恥ずかしくないよ」
「そんなものかな?」
「そんなものだよ、美奈子お姉ちゃん。ほら、カーテン開くよ」
「あ、あわわ」
 慌てて、背中のファスナーを上げて裾を整え、表へと踏み出した。内心は恥ずかしさで一杯だが、そんな素振りは見せずにステージとして空いている空間の真ん中へと軽やかに歩いていく美奈子。そして、芽衣美のアドバイスどおり、そこでくるりとターン。裾がふわりと浮き上がって、一回転正面でストップし、にっこりと微笑んで浮き上がった裾が落ちきらないうちにスカートを抑えるようにぺこりとお辞儀、そのまま踵を返して試着室に戻ってきた。
「芽衣美ちゃんのうそつき!無茶苦茶恥ずかしかったわよ!」
 試着室に入ってからりんご飴よりも顔を真っ赤にして美奈子は芽衣美に文句を言った。
「そうかな?うけてたよ。妙に恥ずかしがってる方がよっぽど恥ずかしいけどなぁ。なりきった方がやりやすくなかった?美奈子お姉ちゃん」
 パーカーにショートパンツと少年のようないでたちになっていた芽衣美はカーテンが開いて、ステージに出るとスキップで舞台中央へと向かい、その直前で前方宙返りをしてピタリと立ち位置に着地した。しかも、宙返り途中で猫耳と猫尻尾まで出して。マジックファッションショーだと思い込んでいる観客は目の前で変身した猫耳娘に拍手喝采を浴びせた。
「猫耳と尻尾は別売りだニャん♪」
 別売りどころか、自前でしょう。とツッコミを入れながら美奈子は場慣れした芽衣美に感心した。
「なりきれば恥ずかしくないか……確かに、そうかも……よし!わたしも頑張らなくっちゃ!……って、何言ってるんだ、僕は!」
 一人ボケ突っ込みをしつつ美奈子と芽衣美のファッションショーはその後しばらく続いた。
「お疲れ様」
 ロビーでぐったりとしている美奈子に佳織がスポーツ飲料を手渡した。
「本当に疲れた。京都に行ってもこれだけは着ないと思うわよ」
「食い倒れの大阪に、着倒れの京都。若い割には変なこと知ってるのね、美奈子ちゃんって……あ、ごめんなさい、私ったら、お客様に向かって」
「いいよ、名前で呼んでくれたった。その代わり、私も佳織さんって呼ぶから」
 口を押さえてはっとしている佳織に美奈子は苦笑を浮かべてそう言った。
「それじゃあ、美奈子ちゃん」
「何?佳織さん」
 早速、名前で呼ぶ佳織に何かしら嫌な予感を覚えたが、気のせいであることを信じて応えた。
「午後からもお願いね」
「きっぱりお断りします」
「ええ!お客様に好評なのに!主任に午後からもやってくれって」
「あ!そうだ。わたしなんかよりも琉璃香さんと芽衣美ちゃんでやった方が盛り上がりますよ、絶対」
「そんなこと無いわよ!美奈子ちゃんには美奈子ちゃんの魅力があるのに。何もない床で転ぶなんておいしいボケをナチュラルにかませる人なんてそういないわよ」
「……そんな魅力、やだ」
「ええ!?浪速のDNAが熱くなりません?」
「わたしはお笑い芸人じゃないって」
「そう?いい味だしてるのに勿体無い」
「佳織さん、お笑い好き?」
「少しだけね」
 佳織は指で少しだけを表現して、悪戯っぽく笑ってそう答えたが、美奈子は絶対両手一杯分ぐらいは好きだと感じていた。
 結局、美奈子はデパートのおごりでお昼を食べた後に、マジックファッションショーに出演することになり、フロアーに急遽、設けられた特設ステージで午前中よりも派手にファッションショーをする羽目になった。琉璃香も派手にステージ中央で美奈子の衣装をチェンジするなど魔法を使いまくって、更には自らも出演して楽しんでいた。
「ばれたらどうするつもりよ」と言う美奈子に、「大丈夫!みんな、マジック、手品だと思ってるから」としれっと答える琉璃香と、「気にしない、気にしない」とお気楽な芽衣美。毎度のことながら二人に美奈子はすっかり翻弄されていた。

「それじゃあ、1600に正面玄関インフォメーションカウンター前に集合。遅れたら、荷物は一人で持ってかえってもらうわよ。それじゃあ、時計の時刻を合わせるわよ。5,4,3,2,1、スタート」
 昨日見た洋画の影響だろうか、琉璃香はどこぞの軍隊のような事をして自由行動を宣言し、早々と行動に移してどこかへと消えていた。大量に買い込んだ服はインフォメーションカウンターで預かってもらうことになったので、かさばる荷物を持って動き回らなくていいのが美奈子は嬉しかった。
「美奈子お姉ちゃんは何処に行くの?」
「うーん、とりあえずは、CD・ビデオ屋を見て回って、後は本屋さんだと思うよ。小物屋さんもちょっと覗いてみたいけど……無駄遣いしそうだから、気が向いたらかな?」
「ふーん、それじゃあ、あたしも一緒にいっていいかな?」
「うん、いいよ」
 美奈子と芽衣美はエスカレーターでCD・ビデオ屋のあるフロアーまで上ると、ぶらぶらとフロアーを探索しながらCD・ビデオ屋を目指した。
「美奈子お姉ちゃんはなにがお目当て?」
「え?ああ、えーとねえ。『魔法少女♪奈里佳』の二巻の発売情報がないかなと思って。デモとかあったら、ラッキーだけど。あとはどんな新作があるのかチェックするくらいかな?芽衣美ちゃんは?」
「あたしも同じ。いい味出してて面白いよね、奈里佳って♪はまっちゃった」
「さすがはジャージレッドさんだよね」
「美奈子お姉ちゃんも、あれぐらいはじければいいのに……」
「無理だって。それに、あんなに魔法力ないって」
『でも、ご主人様は、制御はいい線いってるから、結構いい勝負になると僕は思いますけど』
「あたしもそう思う。うーん、対決させてみたいな。あたし、ミーナおねえちゃんの勝利に500ペソ!」
「1ペソっていくらよ?」
「さあ、よく知らない」
『じゃあ、僕はご主人様の勝利に1000ペソ!』
「だから、1ペソっていくらよ!」
 などと怪しい会話をしながら歩いていた美奈子と芽衣美は目的のCD・ビデオ屋に到着して、そこに堂々とディスプレイされている商品を見て二人は硬直した。

ラスカル☆ミーナ第1巻ビデオパッケージ

イラスト:ゆきぴょん さん


「魔法少女 ラスカル☆ミーナ 第1巻 絶版絶賛 発売中?!」
「『魔法少女♪奈里佳』に続き、二人目の悪い魔法少女がここに降臨!二匹目のどじょうは存在した!!……だって、美奈子お姉ちゃん」
 パッケージには様々なサイズの極太明朝体をバックにラスカル☆ミーナが照れくさそうにポーズをとっているデザインの絵が描かれてあった。
「これが僕ぅ?!か、かわいい…じゃ、なかった……ええと、制作は正義の魔法少女協力組合?!○○制作委員会のノリみたいだから、本当に協力組合だなんて誰も思わないよな。以前にウッちゃんが『協会、貧乏だから』と言っていたけど、こういうのでも活動資金を稼いでいるのか……」
 美奈子はパッケージの一つを手にとって裏返した。

ラスカル☆ミーナ第1巻ビデオパッケージ裏面

イラスト:ゆきぴょん さん

「ば、バニー橋本……」
 嬉々としているバニー橋本がそこにデザインされていた。ある意味、表よりも派手に。
「ああ!メイじゃないの?」
 芽衣美がそれを覗き込んで頬を膨らませた。
「一話って事だから、多分バニー騒動の話なんだから、メイはまだ出てないよ、多分。……あ、やっぱり、キャラクターデザインはゆきぴょんさんだ」
「じゃあ、仕方ないか」
「え?なんで?」
「秘密♪」
 芽衣美は意味ありげな笑みを浮かべて美奈子の質問に答えなかった。
「とりあえず!」
「買うの?」
「帰ったら、真琴お姉さまに『モデル料代わりに一本頂戴♪』とねだってみよう。なにせ、原作脚本は南文堂とかいう聞いたことない人けど、キャラクターデザインはゆきぴょんさんだもんね♪それだけで見る価値充分!」
 パッケージを元の場所に戻して美奈子はニコニコしていた。
「本当にせこいね、美奈子お姉ちゃん」
「限りある資金は有効に使わないと、ね」
 美奈子がそう言って他の新作をチェックしようとした。
「美奈子ちゃん!」
 そこへいきなり後から名前を呼ばれて、美奈子はとっさに振り返った。
「あ、美穂ちゃん!奇遇ね、こんなところで。どうしたの、血相変えて……」
 美穂は地獄に仏の形相で美奈子に駆け寄ってきた。
「芽衣美ちゃんも一緒とは好都合!一緒に来て!」
 美穂は仔細を一切飛ばして美奈子の腕を引っ張った。突然の美穂の行動に美奈子は手に取っていた商品を取り落としたが、芽衣美がそれを上手くキャッチして商品の棚に戻してくれた。
「?な、何が何だかわからないよ、美穂ちゃん!」
「後でちゃんと説明するから、今はまず来て!」
 有無も言わせずに美穂は美奈子を連行した。芽衣美は何か面白そうな予感にワクワクしながらその後を追った。

 美穂は美奈子を引っ張って屋上まで行くと、関係者以外立ち入り禁止のフェンスの扉をくぐって、小屋のような場所へと連れてきた。
「なぎさ姉。連れてきたよ!ぴったりの代役!」
 美穂は小屋の扉を開けると同時に中で渋い表情をしていた女性にそういった。
「なぎさ姉?ああ!」
 小屋の中で渋い表情をしているのは喫茶『じぱんぐ』で先輩ウェートレスだった風島なぎさ、その人だった。
「紹介するまでもないけど、なぎさ姉は私の従姉で、私と同じく映画監督を目指しているの。今日は人手不足だからお手伝いにきてたの。なぎさ姉、美奈子ちゃんに代わる代役はいないと思うけど?」
 美穂は美奈子になぎさとの関係をさっと説明すると、なぎさの方に向き直った。
「よくやった、美穂。ばっちりよ!お手柄お手柄」
 なぎさに誉められて美穂は嬉しそうに笑った。
「ええと、どういうこと?まったく話が見えないんだけど……」
 何がなにやら分からずにここまで連れて来られた美奈子は情況を飲み込めずに目を白黒させていた。
「ああ、ごめんごめん。あたし、日曜日はこういうショーの監督をやってるの。将来映画監督になるための修行かな?予算もなくて人数も足りないから、あたしも出演してるんだけどね。ちょっとドジっちゃって、足を捻挫しちゃったみたいなの。ううん、怪我はたいした事ないの。立って、普通に歩くぐらいはできるんだけど、アクションはやっぱり無理みたい。人数にも余裕がないから、誰か急ぎで代役を探してたところなのよ。そこで、美奈子ちゃんを美穂が見つけて引っ張ってきた。以上説明終わり」
「それで、わたしにどうしろと?まさか、その代役をしろとか?」
「正解」
「なんで!わたし普通の中学生だよ。子役でもないのにそんなのできないよ!」
「大丈夫!美奈子ちゃんに出来なくても、ラスカル☆ミーナちゃんならできるよ」
「な、なぎささん!なんで、それを知ってるんですか!」
「やっぱりそうだったの?美穂に聞いたら、状況証拠は揃ってるけど、確証はないって言われたし、先週、ウェートレス騒動のときに変身するところ見ちゃったけど、チラッとだから確信なかったから心配だったの。でも、本人が認めたんだもの、間違いないわね」
(しまった!)
『墓穴を掘っちゃいましたね、ご主人様』
(い、いうなぁ!)
「その様子だと、あんまり人に知られたくなさそうね。協力してくれたら、黙っててあげるけど?」
「うー」
 記憶を消す魔法は相手を気絶させないと上手く使えない。お世話になった人と友達を気絶させて記憶を消すなんてことが平気でできる神経を美奈子は持ち合わせていない。選択肢のない選択であった。
「美奈子お姉ちゃん、ここは覚悟を決めて協力するしかないね」
 芽衣美が美奈子の肩をぽんと叩いて話は決まった。
「仕方ないか。わたし、やります。その代わり、みんなには黙って置いてくださいね」
「やった!ありがとう!」
 美穂となぎさは諸手を上げて喜んだ。
「じゃあ、早速……」
「あ、ちょっと、待って!美奈子お姉ちゃん」
「なに、芽衣美ちゃん?」
「あたし、前から言ってみたい台詞があったんだ」
『あ、僕も!』
「リン君も?……多分、一緒だね。それじゃあ、一緒に言おうか?」
『うん。それじゃあ、いくよ。せーの!』
「『美奈子ちゃん!ラスカル☆ミーナに変身だ!』」

 既に変身したラスカル☆ミーナとマイティー・メイ、監督の風島なぎさにアシスタントサポートの井上美穂、そして、主役の正義の味方の方々が最終打ち合わせで顔を合わせた。
 急遽、飛び入り参加のために台本も作る暇もなく、舞台は粗筋だけ決めての台詞は全てアドリブの即興演劇にすることになった。
 粗筋といっても、ラスカル☆ミーナ扮するチ・ミモーリョウの女幹部、紅蜘蛛リールが妖怪ネオ猫娘メイ(今回オリジナル怪人)を伴い、会場に乱入占拠、会場にいる父兄を舞台に引き上げて人質とする。そこで、司会進行をするなぎさが陰陽戦隊ゴセイメイをみんなで呼ぶように呼びかける。ゴセイメイが登場して、人質解放の交渉で、ゲームをして勝ったら開放と言って、ちょっとゲームをする。ミーナが最終的には負けるが、約束は反故にして、アクションスタート。適当なところで、必殺技のゴボウフラッシュを喰らって退場という単純なものであった。
「父兄にはあらかじめ協力してくれるように言って置いたから、子供を狙ったら、子供をかばって捕まってくれるわよ」
「仕事で疲れてるだろうに、お父さんも大変だなあ」
「子供のために頑張ってるところを見せて、株を上げれるかもよ」
「最近の子供はませてるからそれは無理じゃない?」
「そこは演技と心意気で何とかしてあげて」
「うーん、努力します」
「監督、本当にこんな子供を使うんですか?俺は反対です」
「子供と言っても正真正銘の魔法少女だから、演出面では今まで以上に派手にいけるわよ。みんなだって、午前の部、あたしらが聞いてなかったマジックファッションショーとか言うのにお客取られて、悔しがっていたじゃない。違う?レッドファイアー」
「それはそうですけど……」
「ところで、役名で呼ぶのはやめてくださいよ、監督」
「何言ってるの、ブルーウォーター、その方が役に入りやすいでしょう?」
「それを聞くと、別のものを思い出しちゃって……なあ?」
「原作通りなんだから変えられないわよ、グリーンウッド」
「絶対、何か意識してるよな、この二人の命名」
「ホワイトゴールド、そう言うのは別のところで論議してちょうだい」
「まあ、何を言ってももう、どうしょうもない。やるしかないんだから、精一杯やろう!」
「さすがはリーダー、イエローアース。それじゃあ、人質解放ゲームは何にする?」
「地味ですけど、道具もないから、じゃんけんにしますか」
「はい!はい!はーい!あたし、それ、提案がある!」
「何かな?メイちゃん」
 なぎさに促されてメイが提案したゲームは一同を唖然とさせた。
「メ、メイちゃん。……それはちょっと、かわいそう過ぎるって。協力してくれた父兄の人たちに悪いわよ」
 ミーナが思わずそう口にした。
『ご主人様、忘れているかもしれませんけど、悪いことしないと変身は解けないんですよ。そのままの格好で帰るんですか?』
(わ、忘れてた)
「それはさて置くとして、技術的に可能なの?」
「全然、問題ないよね?ミーナおねえちゃん」
「……はい。できます」
 悪いことをしなければならない事と罪悪感を背負って少し暗くなりながらもミーナは肯定した。
「それじゃあ、問題はないから、それでいきましょう」
「ええ!本気ですか、監督!」
「面白そうじゃない。地味なじゃんけんよりよっぽどいい。お客さんも盛り上がるわよ」
「……わ、わかりました。でも、本当に大丈夫なんでしょうね。どうなっても知りませんよ」
「責任は全部私が取る」
 なぎさのその言葉で全ては決まった。後は開演時間を待つだけとなった。

 空は晴天、ステージも観客席も露天のデパートの屋上はコンクリートが焼けて少し暑くはあったが、空気が乾燥しているのと風があったためにさほどでもなかった。
 結構人気のある戦隊モノなのか、それなりに観客席は埋まっており、会場は子供の声でざわついていた。
「みんな!大人しく待っててくれてありがとう!」
 なぎさはマイクを持ってステージの中央へと進んで会場に呼びかけた。子供達はショーが始まったことに気がついて口々に何かを叫んでいるが、全員が全員ばらばらに何か言っているので、何を言っているかは全然わからなかった。
「はーい、みんな、ありがとうね!」
 なぎさは、何を言っているかわからなくてもとりあえず、お礼を言っておく。お客のテンポに引きずられないようにしなければ話が前に進まない。
「それじゃあ、これから、みんな大好きな陰陽戦隊ゴセイメイの五人を呼ぶんだけど、みんな、ゴセイメイは好きかな?」
 なぎさの呼びかけに再び口々に叫び声を上げる子供達。それに耳を傾けるふりをするなぎさ。
「うん、みんな大好きみたいだね。お姉さんも大好きだよ、ゴセイメイ。格好いいよね」
 再び子供の叫び声。
「それじゃあ、ゴセイメイを……」
「あははははは!無駄よ!無駄、無駄!いくら呼んだってゴセイメイの奴らは来ないわよ!」
 高笑いを上げて、後のセットの上に立つ人影、ラスカル☆ミーナこと紅蜘蛛リールが不安定なセットの上に仁王立ちになって立っていた。
「あ、あなたは誰?!」
 わざとらしく振り向いて驚く、なぎさ。舞台ではオーバーアクションが基本となる上に、子供にわかりやすいように派手にアクションをするため、自然と不自然になってしまう。
「ふん、私?私を知らないなんて、なんて物を知らない娘なのかしら?いいわ!今回は特別に教えてあ・げ・る!私は妖怪結社チ・ミモーリョウの女幹部、紅蜘蛛リール!たった今から、この会場は我々、チ・ミモーリョウが占拠した!おまえ達は我々の下で一生タダ働きするのだ!ははははは!」
 ミーナもいつもよりもテンションを上げて悪の女幹部を演じた。もう半分やけくそであったが、踏ん切りがついている分だけ、様になっていた。
「紅蜘蛛リールの服が違う!いつもは水着みたいなのに、こいつ、スカートだ!」
 ミーナのコスチュームに紅蜘蛛リールの装飾品を無理矢理くっつけてそれらしくは見せているが、大元の服装まではどうにもならない。それに気がついた子供が騒ぎ出す。それが伝播して一気に会場は騒然となった。「偽者だ」「ぱちもんや」「ばったもんだ」などと囁きが交わされて不味い雰囲気になってきた。
「紅蜘蛛リール!あなたが、あの残虐非道、冷酷無比なチ・ミモーリョウの女幹部!コスチュームを、服を変えて、更にパワーアップしてきたのね!ああ!なんて事なの!」
 なぎさがコスチュームの違いをアドリブでフォローを入れる。子供達も半信半疑ながらも納得しつつあった。

ミーナ第5話 もぐたんさん

イラスト:もぐたん さん

「あー!リールのパンツが見えてる!白パンツだ!」
 そんな時に更なる叫び声が上がる。ミニスカートでセットの上に仁王立ちになっているために会場の前の方では見えるのであろう。それを見つけて大きな声で指摘した。再び、会場は誰とはなしに「リールのパンツは白パンツ」合唱が巻き起こる。付き添いの父兄はちょっと赤い顔をして、見たいが見ちゃいけない葛藤をしながら、ちらちらとミーナの方に視線を移していた。
 ミーナはまさかそんな事を言われるとは、まったく予想だにしていなかったので顔を真っ赤にしてスカートの裾を抑えてパンツが見えるのを防いだ。
「き、きゃあ!」
 しかし、不安定なセットの上で前屈みになったものだから、そのままバランスを崩してステージへと落ちた。
「み、…リール様!」
 一緒に横にいた猫娘メイが慌ててステージに降りて、ひっくり返っているミーナを助け起こした。
 会場は爆笑している。ドジだのバカだのマヌケなどの野次も飛んでいる。子供はそう言うことにはまったく容赦がない。
「いてててて……ありがとう、メイちゃん」
 助け起こされたミーナは腰をさすりながら立ち上がった。
『ご主人様!芝居、芝居!』
(あっと、そうだった)
「よくも私に恥をかかせてくれたわね、この小童ども!そう言う悪い子ちゃんにはお仕置きが必要なようね。メイ!新兵器を試すわよ!」
「は、リール様!」
 メイがミーナにいつものバトンを手渡した。いつもと違うのはバトンの柄に房が付いているぐらいである。
 ミーナはそれを受け取ると、その房のついていない方をもって構えると、
「我が意に従い、糸よ。縄となりて、彼の者どもを縛り、我の下に集めよ!」
 呪文の必要など一切ないが、雰囲気を出すためにミーナはそう唱えてみせた。ゆっくりと無数の糸が伸びて、その一本一本が縄になり、会場を襲う。予定通り、会場は少しパニックになった。あまりしつこいと泣き出す子供もいるので、いや、もう何人かは大泣きしているが、ミーナは予定通り、父兄のいる子供を狙って縄に襲わせた。
 ちゃんと段取り通りに子供をかばってくれる親御さんがほとんどだが、中には子供を放っておいて逃げようとするのもいた。
(自分の子供だろうが!)
 内心腹が立っていたが、そういうのもちゃんと、子供から見れば自分をかばってくれたように見えるように、無数の縄を同時にコントロールして捕まえることにかなり神経を削った。
 ミーナは何とか捕獲作業も終了して、十数人の父兄を会場に引き上げた。
「ふふふ、我が子をかばって自分が犠牲になるとは、なんて美しい親子の愛かしら。でも、その美しい愛が我々、チ・ミモーリョウには最大の敵。あなた方には死んでいただきますわ」
 ミーナは子供を放って逃げようとしていた男の顎をバトンの先で上に向かせて、感情のこもっていない冷たい声で言い放った。男の顔には血の気はまったくなかった。捕まえられた他の父兄たちもあまりにも冷たい声に色を失っていた。
「お父さんを放せ!」
 恐怖におののき、ざわめく会場でバトンの先に顎を乗せられている男の子供が叫んだ。
 それをきっかけに「お父さんを帰せ」コールが巻き起こる。物までステージに投げつけられているが、メイがそれを一つ残らず叩き落として、捕まった父兄やミーナ、なぎさに当たるのを防いでいた。
「み、みんな、物は投げないで!こ、こんな時は、あの人たちをみんなで呼びましょう!」
 なぎさが更に激しくものが投げられて、メイが叩き落とし漏らしたプラスティックのカプセルを避けながら会場に呼びかけた。
「そう!みんなの大好きな、あの人たちを!あの人たちなら、この悪い人たちを何とかしてくれるわ!」
 なぎさのその言葉で物を投げつけられるのは、とりあえず止まった。
「無駄!無駄!無駄よ!この会場の周りには結界を張ってあるのよ。いくら呼んでも、あいつらは来ないのよ!はははははは」
 ミーナは悪役らしく振舞った。嫌がっている割には妙にしっくりくるのは、やはり暗黒魔法少女の血なのだろうか。
「ううん!そんなことない!みんなで一生懸命呼べばきっと届くよ!さあ、みんな呼ぶわよ!せーの!」
「ゴセイメーイ!」
「あははははは、いくら呼んでも無駄だというのがわからないとはお馬鹿さん!」
「もう一度!もう一度呼ぶわよ!みんな力を合わせて!」
「ゴセイメーイ!!」
「何度呼んでも無駄なこと!」
 そこで勇ましいBGMが会場に流れる。ちょっと和風な感じがするが、アップテンポの力強い曲である。
 そこへステージの後よりドライアイスが噴出して、バックライトによってその中に浮かぶ影が五つ。
「天が呼ぶ地が呼ぶ星が呼ぶ。悪を倒せと我らを望む」
「助けを呼ぶ声聞こえたら、例え地の果て、水の底!」
「炎の中でも突っ込んで!声に応える我らが使命!」
「闇あるところに光あり!希望の光を絶やさぬために!」
「五行を操り、世界を救う!」
「我ら、陰陽戦隊ゴセイメイ!」
「紅蜘蛛リール!貴様の悪事もここまでだ!観念しろ!」
「ええい!ゴセイメイ!よく、ここにこれたわね!バイクのタイヤはパンクさせておいたはずなのに!」
「ふん!駅前デパートには電車でこれるのさ!」
「く!その格好で電車に乗ってくるとは計算外だったわ!」
「さあ、お遊びは終わりだ!紅蜘蛛リール!その人たちを解放して、大人しく封印されろ!」
「へへん!人質がいるから何も出来ないくせに、偉そうに言ってるんじゃないわよーだ!」
 メイが挑発的にゴセイメイに食って掛かる。
「お前達こそ、人質がいなければ、何も出来ないくせに、偉そうに言うな!」
「その台詞、聞き捨てならないわね!いいわよ、人質開放してあげても」
「リ、リール様?!」
「ただし、私たちのゲームに勝てばの話だけど。どう?やってみる?」
「ゲーム?」
「そう、単純なゲームよ」
 そう言って扇子を360度広げて円盤にすると羽根の一枚一枚に文字を浮き上がらせた。
 そこには『顔』『服』『声』『胸』『腕』『胴』『腰』『足』『性格』と黒い文字で、そして、『開放』『封印』と赤い文字で書かれていた。
「このルーレットにダーツを投げて、無事『開放』に当たれば、人質は開放。だけど、『封印』に当たればその人は封印されちゃうの。面白いでしょう?」
「わかった。だが、その黒い文字はなんだ?」
「それは当たってからのお楽しみ。大丈夫、人質にもあなたたちにも危害は加えないわよ」
「リーダー。やるしかなさそうだ」
「うむ、仕方ない」
「それじゃあ、ルーレットスタート!」
 ミーナは円盤状になった扇子を回転させた。メイがダーツを持ってゴセイメイの傍へやってきた。
「本当に大丈夫なんだろうな?」
 ゴセイメイのイエローアースがメイに観客に聞こえない小声で訊いた。
「大丈夫。ミーナおねえちゃんを信じて」
 それに対して胸を張って応えるメイ。
「的から外れたら……」
「それもちゃんと考えてあるから大丈夫。思い切って投げて」
 一番攻撃的なキャラをやっている割には臆病なレッドファイアーにメイはちょっと可笑しくなって笑いながら答えた。
「さあ!一番は誰?」
「一番はこの俺だ!」
 ミーナの呼びかけで、攻撃隊長のレッドファイアーが前に出る。臆病でもキャラはわかっているのはプロの役者である。
「♪何が当たるか、何が当たるか、ちゃららんらんちゃらららん♪」
 悪役のハイテンションを維持するために、ちょっと壊れ気味のミーナが歌うようにそう言うと、レッドファイアーがダーツを投げた。
 ダーツは一直線に的をめがけずに、だいぶ下へと逸れている。あまりに気負いしすぎたせいで腕に力が入ったのだろう。彼はマスクで隠れて顔は見えないが、多分、かなり顔色は青ざめていただろう。が、そんな心配はよそに、ダーツは不自然にホップして的へと当たった。
「ね、大丈夫でしょう?でも、なるべく的には当てるようにしてね」
 メイは片目をつぶってウィンクした。
「さあ、何に当たったかな?」
 ミーナは観客席に的を向けて回転しているルーレットを止めた。固唾を飲んで見守る会場。ダーツは『服』のところに刺さっていた。
「服!なかなかいい所ね。それじゃあ!服、チェンジ!」
 ミーナのその台詞とともにバトンにくっついている紐が白く光り、その先に捕まえられているお父さんたちをも白い光に包み込んだ。
「人質には危害を加えないんじゃなかったのか?卑怯だぞ、リール!」
 グリーンウッドが会場のざわつく前にさっさと指摘した。
「どこが危害を加えているの?ちゃんとよく見なさいよ!」
 そう言っていつの間にか白い光が消えて姿を現した捕まったお父さんたちを体全体で指し示した。
「!!」
 その先には白いお姫様のようなドレスを来たお父さんたちが捕まっている。もちろん、変わったのは服のみで、中年男性が純白のドレスに身を包んでいる。絵的にはかなり嫌な絵である。
「うわ!なんじゃこりゃ!」
「一体なにがどうなってるんだ!」
 口々にそう叫び、お父さん達は自分の姿に混乱していた。
「やっぱり、囚われの身と言えば、お姫様♪あたった項目が変化していく、変身ルーレット。さあ、次は誰かな?」
 『服』に刺さったダーツを引き抜くと服の項目が消えて各項目が等しく広がった。
「次は私だ」
 そう言って進み出たのはグリーンウッド。結果は『声』。次のブルーウォーターは『性格』を当ててしまった。
「お願い!早く助けて!」
「私、私、もう耐えられない!」
 白いドレスに身を包んだ中年男性の容姿で綺麗な澄んだ声を発し、しなをつくって哀願する姿はできればお目にかかりたくないものである。
「がんばれ!ゴセイメイ!」
 会場からも声援が飛ぶ。しかし、ダーツは無情にもホワイトゴールドが『胸』、ぶかぶかだったドレスの胸元が膨らみ、胸の谷間が現れる。イエローアースが『足』、ドレスから覗くすね毛だらけの足が白くすべすべしたものに変わった。二周目に入って、レッドファイアーが『胴』、ドレスのウエストが見るからに締まって、悩ましい細腰になった。グリーンウッドが『腕』、ごつごつした指が白魚のように、骨ばった腕が細くしなやかに。ブルーウォーターが『腰』、膨らんだスカートになっているので変化は見て取れなかったが、捕まったお父さん方は何か不安そうに身を屈めた。ホワイトゴールドが『顔』にあて、ついに完全無欠のお姫様にお父さん達は変身させられていた。
「いやあぁ!私より美人なんて許せない!」
「お、お願い!鏡を、鏡を見せてぇ!」
 会場とステージで同時に悲鳴があがった。
「さあ!あなたが最後よ。イエローアース。ここで、あなたが『開放』を当てれば、全員を解放してあげる。でも、封印を当てれば、あなた達全員を封印よ?」
 ミーナは盛り上げるためにルールの確認をした。
「わかっている!行くぞ!」
 何処からともなくドラムロールが聞こえてくる。緊迫した雰囲気の中イエローアースの手からダーツが放たれる。タン!と音を立てて、的に当り、回転を次第に落とす円盤に会場の視線が釘つけになる。全員が固唾を見守る中、円盤が停止した。
『開放』
 観客席から歓声があがった。
「ふん、運がいいわね。約束どおり、開放してげるわ」
 捕まえていたお父さん達のロープを解いて開放した。しかし、変身は解けておらず、お姫様のままである。
「ちゃんと、元に戻せ!」
「は?私は開放するとは言ったけど、元に戻すなんて一言も言ってないわよ」
「卑怯だぞ、リール!」
「あなた達が勝手に思っただけじゃない。悔しかったら、封印してみたら。そしたら変身は解けるわよ」
「しかたない!みんなやるぞ!」
「ちょっと待った!」
 ミーナが登場していたところに人影が飛び出してきて、打ち合わせにない乱入者に全員の視線が注がれた。
「天が呼ぶ地が呼ぶ星が呼ぶ!」
「リリー、それパクリだよ」
「ちぇっ、毎回登場の口上考えるの大変なのよ。今回ぐらい楽させてくれてもいいじゃない」
「別に変えなくちゃならないことないのに、リリーが勝手に変えてるだけだろう?毎回同じでいいって、僕は何度も言ってるし」
「負けたときの口上は縁起が悪い」
「それで、毎回変わってるんだね。じゃあ、次の分も考えておかないとダメだね」
 メイが二人のやり取りに口を挟んだ。
「そこ!うるさい!まだ、あたしは自己紹介の途中!人の話は最後まで聞きましょうって、学校の先生に習わなかったの?」
 リリーはメイをビシッと指差して注意した。
「それじゃあ、ぱっぱと済ませちゃってよ」
 しかし、そんな注意はメイにとっては馬耳東風、どこ吹く風としれっと流した。
「ええい!わかったわよ!うーん……、残業カット、左遷、リストラ、肩叩き。日頃のストレスお腹に溜めて家族を背に乗せ這いずり回るお父さん。重い身体を引きずって、家族サービスしてるのにこんな目に合わせるなんて許せない!これを理由にリストラされたらどうするの?一家郎党路頭に迷い、残ったものはローンだけ。地価は下がって、売れないマイホーム。売れたとしてもローンも払えぬ雀の涙。一家離散の大ピンチ!そんな残虐非道な事をするなんて、天が許してもあたしが絶対許さない!愛と正義と雇用の味方、魔法少女ファンシー・リリー!ここに推参!」
 リリーの登場の口上に人質だった父兄はお日様のもと、心理的な暗い陰に沈み込んでいた。
「ほら!こんなにしょげちゃって!ミーナ!あなたのせいよ!」
「いや、それは、リリーのせいだと思うけど……それと、今は一応、リールって事で……」
「問答無用!いくわよ!リール!」
「来るな!」
「来るなと言われても行く!」
 リリーはステージに降り立つと、バトンでミーナを直接攻撃してきた。意外な攻撃にミーナは面食らったが、それを扇子で何とか受けた。しかし、リリーの攻撃はそれだけに止まらず、再びバトンで殴りかかってくる。
 息もつかせぬ連続の打ち込みにミーナはたじろぎながらも、その全てを受け流しているのはさすがであった。しかし、そのまま攻撃を続けさせては相手のペースにはまってしまうため、ミーナはリリーのバトンを受け止め、リリーがバトンを引くのにあわせて扇子をそのままリリーの方へと押し返した。
 扇子の端がリリーの頬をかすって赤い血が少し滲んだ。
「ご、ごめん!顔に傷つけるつもりはなかったんだ!」
 ミーナは慌てて謝ったが、リリーはそんな事を気にする様子もなく、滲んだ血を親指で拭い、ぺろりと舌で舐め、バトンを捨てた。拳を構えて体全体で調子を取っている。
「……リリー、もしかして、昨日深夜にやってた、香港映画見たの?」
 ミーナが恐る恐る訊いた。
「考えるな、感じるんだ!」
「や、やっぱり!」
 ミーナが叫ぶと同時にリリーの突きがマシンガンのように突き出され、その残像が千手観音のようになっていた。ミーナもそれを何とか受けたり避けたりしながら、全て回避していた。
「あちょう!」
 リリーのミドルキックをミーナは後に飛んでそれを避けて間合いを取った。
「あたしの翻子拳を全てかわすとはさすがね。でも、次はどうかしら?」
 リリーは、今度は話の展開についていけずに呆然と並んで立っているゴセイメイの人達の後へと回りこんだ。人影をブラインドにして右か左か、それとも上からか攻撃を仕掛けてくるつもりなのだろうかとミーナはリリーが出てきそうなところを警戒した。
 しかし、攻撃は予想外のところからやってきた。
「通背拳!」
 叫び声とともにゴセイメイの一人、グリーンウッドがミーナの方に不自然な形で吹っ飛んできた。それを何とかよけるミーナ。
「な、なに!」
「ちっ!避けたか!」
「通背拳!」
 再び叫び声で吹っ飛んでくるホワイトゴールド。さけるミーナ。
「通背拳!」
 さらに叫び声で吹っ飛んでくるレッドファイアー。かわすミーナ。
「通背拳!」
 次の叫び声で吹っ飛んでくるブルーウォーター。身を翻すミーナ。
「通背拳!」
 続いての叫び声で吹っ飛んでくるイエローアース。飛び退くミーナ。
「ちっ!正義の味方戦隊の割には使えない奴ら!」
「な、なんてことするのよ!普通にそのまま攻撃してくれば問題ないでしょう!人を弾に使わなくてもいいでしょうが!」
 これではどっちが悪の魔法少女かわからない。
「前にも言ったでしょう!正義のためには多少の犠牲は仕方ないって!あの人たちも正義の味方の端くれなら、それぐらいは重々承知!許してくれるわ!」
(これはお仕事でやってるだけで、正義の味方が職業じゃないって)
 ミーナは突っ込みたかったが、子供の夢を壊さないようにとその言葉を飲み込んだ。
「ち!仕方がない!」
 ミーナはバトンを扇状にして横に投げ捨てた。
「リリー!素手で勝負よ!」
「望むところよ!」
 ミーナとリリーが激しく拳を交える。手に汗握った一進一退の攻防で観客達も訳もわからずながら、その激しい打ち合いに魅入っていた。そんな壮絶な打ち合いの最中、リリーはしてやったりと口の端を持ち上げた。
 リリーは少し体を開いて、背中に背負った太陽の光でミーナの視覚を奪った。ミーナは直接太陽を見てしまい、目の前が真っ暗になった。
「リール、敗れたり!」
 リリーは渾身の力を込めて、視覚の奪われたミーナに拳を打ち込もうとした。が、それは永遠になされなかった。突如としてリリーの横から飛んできた物体に側頭部を直撃されたからである。
 ミーナはリリーの側頭部を直撃して跳ね上がった物体を、まだよく見えない目で何とかキャッチした。それは、先ほどミーナが投げ捨てたバトンであった。投げ捨てられたバトンは会場の外をぐるりと回って再びステージへと戻ってきたのであった。回転さえ与えれば扇もブーメランのように戻ってくる。
「リ、リリー!」
 それまでメイを牽制していたウッちゃんが慌ててリリーに駆け寄る。
「リ、リール!卑怯だぞ!素手で勝負だって言ったじゃないか!」
「正義に犠牲が憑き物のように、悪にも卑怯が付き物なのよ!」
 ミーナは啖呵を切った。ウッちゃんは二の句を次げずに沈黙した。
 舞台の上にはリリーの通背拳で気絶したゴセイメイとミーナに屠られたリリーが転がっている。生き残ったのは悪役だけである。
 なぎさももはやフォローの入れようがなくお手上げであるらしく、一言も言葉を発しない。舞台はリリーのおかげで無茶苦茶であった。

「お疲れ様!」
 なぎさが屋上の小屋で紙コップに満たしたジュースを持ち上げて、三人の苦労を労った。
 それに変身を解いた美奈子と芽衣美、それと美穂がコップを合わせて応えた。
 あの後、舞台はどうなったかと言うと、
「でも、美穂ちゃんが出てきた時にはびっくりしたわ」
 美穂が陰陽戦隊ゴセイメイの所属する集団、陰陽寮の制服に身を包み登場したのである。
「それにすごく強いんだね。あたし驚いちゃった」
 美穂とミーナ、それにメイも加わってのアクションで、美穂は襲い掛かるミーナとメイを身体に触れた瞬間投げ飛ばしていた。
「あれって、合気道でしょう?知らなかった、美穂ちゃんがそんなことしてたなんて」
「護身術にって、おじいちゃんが教えてくれたのよ」
 美穂が照れくさそうにそう答えた。美穂のおじいちゃんと言うのは合気道の道場をしているらしい。
「今じゃあ、合気道の達人だもんね。おかげで胸も触らしてくれない」
「なぎさ姉!」
 美穂とミーナのアクションは見た目が派手な上に、ミーナがぽんぽん投げ飛ばされているので、子供達に大受けで滅茶苦茶になった舞台を見事に復活させた。
 そのアクションの間になぎさがゴセイメイの面々に活を入れて復活させて、再度登場させ、決め技のゴボウフラッシュでミーナとメイを退散させ、無事舞台終了となったのであった。
「色々あったけど、おかげで何とか終わらせられたわ。ありがとう」
「もう、二度とはごめんですけど」
「それはあたしも同感。怪我人続出の舞台なんて最低だもの」
「……ゴセイメイの人たち大丈夫かな?」
 舞台が終わってから、ゴセイメイの人たちは病院へ直行した。骨などには異常はなかったが、全員全治1週間の怪我である。気絶していたという事もあって、今日はそのまま検査入院となった。
「あいつらは結構鍛えているから明日にはぴんぴんしてるって。心配してくれて、ありがとう。あなたがしたわけじゃないんだから、気にしないで」
「わたしがいなければこんなことにもならなかったんだし……」
 美奈子はリリーが来たのはミーナがいたからであり、その結果がゴセイメイの人たちに怪我させたことを反省した。
「でも、美奈子ちゃんがいなかったら、舞台ができなかったんだから。途中までは、リリーが出てくるまではすごく順調だったんだし、気にしない気にしない」
 美穂は落ち込んでいる美奈子を慰めた。
「美穂ちゃん。ありがとう」
「それにしても、嫌がってた割には、美奈子お姉ちゃん、ノリノリだったよね」
「そうだったね。もしかして、あれが地?」
「あ、あれは、仕方なく……あ!そうだ!」
 美奈子は舞台が終わってからずっと思っていた、ある一つの疑念を思い出した。
「なに?」
「美穂ちゃん!あんなにすごいんなら、どうして美穂ちゃんが女幹部役をしなかったの?わたしが出るよりもずっとよかったんじゃない?」
「そ、それは……」
 美穂は言葉に詰まった。何か非常に言いにくい理由があるらしい。美奈子はもしや、あんな恥ずかしい格好がしたくなかっただけではないかと勘ぐった。
「そう言われてみればそうだね、どうして?なぎさおねえちゃん」
「それはね、芽衣美ちゃん、美奈子ちゃん。女幹部はグラマーじゃなきゃ務まらないのよ!」
 なぎさは握り拳を一杯に固めて力説した。そして、ふっと息を抜いて、
「美穂の洗濯板ではちょっとね」
「なぎさ姉!」
「美奈子ちゃんぐらいとは言わないけど、もうちょっと成長しなさいよ、美穂」
 美穂はむくれていたが、悪いと思いながらも美奈子と芽衣美は笑い声を上げた。
「あはははは……あ、そう言えば、美奈子お姉ちゃん、今何時?」
 芽衣美が何かを思い出したように美奈子に時間を聞いた。
「えーと、五時五分前。それが……ああ!」
 時計を確認した美奈子が芽衣美の思い出した何かを思い出した。
「約束の時間とっくの昔に過ぎてるよ、どうしよう!」
「約束の時間?」
「琉璃香さんと帰る集合時間を決めてたの」
 美奈子と芽衣美は美穂となぎさに先に帰る事を告げると、集合場所のインフォメーションカウンター前に急いだ。
「あ、白瀬美奈子様と神埼芽衣美様ですね?」
「は、はい」
 インフォメーションカウンター前には琉璃香の姿はなかったが、代わりにカウンター内の案内嬢が二人を呼び止めた。
「皆瀬琉璃香様より伝言を承っております」
「はい」
 大体予想できる内容に美奈子と芽衣美は少し元気なく返事した。
「えと、そのまま読むようにと厳命されていますので、そのまま読みます。いいですね?」
「……はい」
 予想が当たっていることを証明する前置きに二人は承諾して、覚悟を決めた。
「それでは……『どこほっつき歩いてるの!この不良娘ども!罰として荷物は自分らで持ってかえってきなさい!帰りの電車賃は自腹よ!琉璃香よりバカ娘達へ』……以上です」
「……ありがとうございます」
 美奈子と芽衣美はインフォメーションカウンターの後に積まれた、解散する時よりも多くなっている荷物を見て帰りの苦労を想像して暗くなった。
「頑張ろうね、美奈子お姉ちゃん」
「そうだね、芽衣美ちゃん」
 二人はローカル線の行商人のおばあさんのような荷物を背負ってデパートを後にした。

「……はっ!ここは?ああ、あたしの部屋か……そ、そうだ、ミーナとの戦いは……」
 由利は眉間にしわを寄せて記憶の糸をたどった。
「……太陽を背にして闘って、ここぞというタイミングで、太陽光線でミーナの視覚を奪った。そこへ渾身の力を込めたパンチを繰り出した。……うん、勝ったんだね!あまりの嬉しさのあまり、勝った瞬間のことを覚えていないけど、嬉しすぎて気絶したんだね、きっと」
「リリー……」
「あ、ウッちゃん。やったよ!ミーナに勝ったよ」
「リリー……」
「今日はお祝いで、ご馳走だね。何がいい?ウッちゃんの好きなホットドック?」
「リリー……」
「お祝いにホットドックは可笑しいね。やっぱり、鯛の尾頭付きかな?」
「リリー……」
「ああ、でも、これでやっと、真琴お姉さまにも顔向けできるわ。長く苦しい戦いだったわ」
「リリー……」
「さっきから何よ!コピーして貼り付けを繰り返して!」
「リリー、リリーは負けたんだよ。今回も」
「嘘よ!ちゃんと作戦どおり上手くいったもん!負けるわけない!」
「向こうの方が一枚上手だったんだよ」
「そんなことない!だって、あたしは確かに、この手で……この手で?……そうよ!これは夢よ!夢オチよ!起きたら、ウッちゃんはおめでとうっていってくれるはずよ。きっとそうに違いない!おやすみ」
「リリー……」
「おはよう!ウッちゃん!さあ、あたしに言うことは?」
「リリーは、またラスカル☆ミーナに負けたんだよ」
「ふえーん!」
 リリーが勝利する日は来るのだろうか?作者すらも少し心配になってきた。そんな心配を胸に今日も一日が終わろうとしていた。

つづく

次回予告
クイズ一人に聞きました!お金持ちの象徴と言えば?
ごてごての宝飾品!ブー!プール付き豪邸!ブー!折り曲げられない財布!ブー!自家用飛行機!ブー!ヨット!ブー!フェラーリ二十台!ブー!
……メイド?ぴんぽーん!大正解!
メイドのユニホームは誰もが知っていても滅多に見られるものではない。ましてや、雇えるなんて正真正銘お金持ち!
次回 第6話 どうしても メイド(仮)
ご主人様、すぐには無理です。

あとがき
 今回も最後まで読んでいただき、ありがとうございます。南文堂です。
 勝ちつづける悪の魔法少女なんて誰もやらなかったのが、最近身にしみます。ああ、誰かネタをください(笑)
 まあ、冗談はさて置き、着るものに頓着ない性格なのでファッションショーではどんな服装を描写すればいいか手間取りました。そう言うのも日頃から見ていないとだめですね。それと、デパート屋上のヒーローショーってどんなんでしょうね?実は見たことないので変なところが多いかもしれませんが、ご容赦ください。
 最後になりましたが、今回、イラストを描いていただきました、ゆきぴょん様。本当に素敵な絵をありがとうございました。一枚にミーナを全て凝縮した密度の濃い絵で、感激してなんとお礼を言っていいかわからないぐらいです。しかも、名前の出演までしていただいて感謝の気持ちで一杯です。ありがとうございました。
 それでは、第6話は結構先になると思いますが、気長にお待ちいただければ幸いです。

おまけ
閑話 ラスカル☆ミーナ  ラスカル☆ミーナのレギュラーって……
「ラスカル☆ミーナって、登場人物異常に多いよね」
「ええと、一話平均約8人ぐらいの名前のあるキャラが出てきてるよ」
「出すぎだよ、それ」
「レギュラーのはずの私達が出てこない時もあるもんね」
「そう言われてみれば、わたくしは5話には出ていませんでしたわ」
「あたしも2と3話に出たっきりなんだよ」
「僕も2と4話だけだ」
「私は、4話は出てなかった」
「美穂ちゃん、4話にも出てるよ」
「どこ?」
「ここに名前だけ」
「これは出たとはいわないよぉ」
「だけど、なんでこんなにレギュラーが安定しないんだろう?」
「これではまるで……」
「まるで?」
「半身タ○ガースみたいですわ」
「レギュラーが確定せずにずるずるとここまで来て、最下位に低迷する、あの!」
「縁起でもないわね」
「本当にそうですわ」
「でも、それならさ、いるかどうかは疑問だけど、ラスカル☆ミーナファンって言うのも色んな楽しみ方ができるファンなんだよ、半身ファンみたいに」
「それって、ファンに甘えてるっていわない?」
「そうとも言う」
「でも、半身ファンの色んな楽しみ方って何ですの?」
「例えばね、半身が先制するとするでしょう?そしたら、その攻撃が終わったら、テレビ消すの」
「勝ってるのに?」
「もちろん、その日のプロ野球ニュースも翌日の新聞もニュースも見ない。そしたら、自分の中では半身は勝ったまま」
「そ、それって現実逃避って言わない?」
「あとはね、負けたときは戦術分析をするの。結果論だけど。他にはね、もし、あのライナーがあと十センチずれていたら、勝っていたとか、『その時試合は動いた』の瞬間を探して、自分の中でドキュメント番組にするの」
「それって、『たられば』じゃない」
「そんな事してなくっちゃ、とても140試合ももたないって、半身ファンは。シーズン半ばでもう、オフシーズンマッチ。来年の外人の話題で持ちきりなのよ。でも、その代わり勝ったときの喜びようは他の追随を許さないわよ。とにかく、半身ファンほど、どうやって楽しむか知らないとやってられないファンはないのよ」
「と言うことは、ラスカル☆ミーナファンも?」
「どうやって萌えるか知らないとやってられない」
「そんなに読者に頼っているのでいいのか?いいや、よくない」
「作者の南文堂には頑張ってもらわないとね」
「そうそう、だけど……」
「とりあえず、私たちが言いたいのは……」
「「「「私たちの出番をもっと増やせ!」」」」
ちゃんちゃん♪お粗末さまでした(苦笑)
(ちなみに、私は虎党です)



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