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−華代ちゃんシリーズ−


うらみ

作:南文堂




*「華代ちゃんシリーズ」の詳細については
【ここ】を参照して下さい






 こんにちは。初めまして。私は真城華代と申します。
 最近は本当に心の寂しい人ばかりですね。そんな皆様が少しでも幸せになれますように、私は活動しています。まだまだ未熟で至らぬところもございますが、通りかかりました折には、お悩みなどを是非ともおはなし下さい。私に出来る範囲でご依頼の方のお悩みを露散させていただきます。どうぞお気軽にお申しつけくださいませ。
 報酬ですか? いえ、お金は頂いておりません。お客様がご満足頂ければ、それが何よりの私にとっての報酬でございます。
 さて、今回のお客様は…。

 その姿が見えるものは皆無に近かった。見えたとしても、決していい顔はされず、大抵のものは悲鳴をあげて逃げ出すか、ことによってはその存在を消滅させようとありとあらゆる手段を講じる――そう、彼は幽霊だった。しかも、恨みを抱いて死んだ、怨霊だった。
 生前、彼は駆け出しのルポライターで、中途半端に有能だった。その中途半端の有能さが災いして、大きな事件をかぎつけ、その真相まで迫ることに成功した。そういう意味では有能だったが、それに付随して高まる危険に対応することについては並の能力しか持ち合わせていなかった。
 結果として、彼は生きたまま隙間のないようにコンクリートの箱に納められ、海底へと一人旅立つ事になった。
「ちきしょう! こんなんじゃ、死んでも死にきれねえ!」
 その言葉どおり、まさしく、彼は怨霊として、魂魄この世に留まりて――であったが、肝心の化けて出る方法を知らなかった。
「せっかく、幽霊にまでなったってのに!」
 彼は無い足で地団駄を踏んで悔しがった。何度となく、殺した張本人、石竜会の会長とその黒幕の大臣のところに化けて出ようとしたが、姿を見られることなく、枕を高くして寝られるだけであった。
「何をそんなに、悔しがっているのですか?」
 彼はいきなり後ろから声を掛けられて、驚いて振り向いた。
 振り向いた先には白いワンピースを着た少女が一人、にっこりと微笑んで立っていた。
「お、お前、俺が見えるのか?」
「ええ。見えますけど、それが何か?」
 何故、そんなことを訊くのか本当にわからないといった表情で少女は小首をかしげるように答えた。
「なにか?って、俺は幽霊で、普通の人には見えないんだぞ」
「そうなんですか?」
 何故、そんなことを言うのか本当にわからないといった表情で少女。
「そうなんだよ。だけど、普通は見えても逃げ出すか、成仏させようとするかどちらかなのに、……平気なのか?」
「私はセールスレディーですもの。お客様から逃げ出すわけありませんわ」
「お客様?」
 彼は自分の後ろを振り返ってみたが、人影はなく、もちろん、少女の後ろにもいなかった。ただただ、寂れた波止場の風景が広がるだけだった。
「この俺が?」
 彼は半分透けた指で自分を指差した。
「はい、そうです。申し送れましたが、私、こういうものです」
 そう言って、少女は名刺を差し出した。が、それは彼の手をすり抜けて渡せなかった。
「あら、困りましたわね。どうしましょう」
 困った顔で少女は彼を見た。見られたところで彼にもどうする事もできず、苦笑を浮かべて、
「いいよ、名刺なんて。そうやって持っていてくれたら、読めるから」
「そうですか? 申し訳ありません。あとで、ちゃんと渡しておきますので」
 少女は申し訳なさそうに謝った。
「あとで? どうやって? まあ、いいか」
 彼は首を捻ったが、些細な事は気にしない性格なのか、少女の差し出す名刺に目を通した。
「ええと、……ココロとカラダの悩み、お受け致します。真城 華代」
「はい。そうです。最近は本当に心の寂しい人ばかり。そんな皆様が少しでも幸せになれますように、私は活動していますの。まだまだ未熟で至らぬところもございますが、私に出来る範囲でご依頼の方のお悩みを露散させていただきます。報酬ですか? いえ、お金は頂いておりません。お客様がご満足頂ければ、それが何よりの私にとっての報酬でございますから」
「信用できないな」
 彼は眉間にしわを寄せた。
「え? なぜですか?」
 そんなことを言われるとは思っていなかった少女は目を見開いた。
「無報酬で動く人間は必ず何か裏がある。おいしい話には罠が潜んでいる。そういうこった」
「随分と用心深いんですね」
「当たり前だ。何でも人の言うことを鵜呑みにしていたんじゃ、命が幾つあっても足りない。俺はハードボイルドな仕事をしてるんだ。そこいらのリーマンとは違うんだよ」
 彼は胸を張るようにそう言って少女に自慢した。
「はあ。確かに、命がないのですから、幾つあっても足りないと言うことなら困りますわね」
「うっ。それ嫌味か?」
「いいえ、とんでもありませんわ。とても勉強になりましたわ。そのお礼といってはなんなんですけど、あなたの悩みを聞かせくれませんか?」
「……まあ、いいだろう」
 彼は海に沈んだ日以来、誰とも会話をしていない。その寂しさか、自分の調べ上げた事を多少の脚色をして少女に語った。
「……要するに、化けてでたい、ですね?」
 三時間二十八分のアクションハードボイルドストーリーは少女によって一言に要約されてしまった。
「まあ、そういうことになるかな」
「わかりましたわ」
「わ、わかった?! 化けて出る方法を知っているのか?」
「お任せください!」
 少女は自信満々で彼に答えると、「えいっ」と掛け声をかけた。
 その途端、彼の身体は……もとい、彼の霊体はわずかにしぼみ、代わりに胸のあたりが膨らむと腰はくびれ、お尻が丸みを帯び、髪が一気に伸びたかと思うと、乱れ髪が顔半分を覆った。
「な、な、なん、なんだ!?!」
 彼は自分の透けるような――実際透けているが――白い手を、胸元の膨らみにあてがった。
「あとは衣装ですわね」
 少女は再び掛け声をかけると、彼の服は白い着流しの死に装束に代わり、頭にはご丁寧に三角の頭巾を巻いていた。
「さて、おまけですわ」
 少女は青火を二つ三つ出現させると、彼女となった彼の周りに泳がせた。
「それでは、頑張ってくださいね。私はこれで、失礼します」
 少女は呆然としている彼女を置いて、夕暮れに沈む波止場を後にした。

*  *  *  *  *

「6時のニュースです。昨日未明、厚生労働大臣が自宅で首を釣って自殺しているのが発見されました。先日自殺した石竜会会長との関係が取り沙汰されておりましたが、こちらも会長と同じく、自殺する前に「見知らぬ女が夜な夜な化けて出る」と意味不明なことを周囲の人間に訴えていたという事です。警察では事件と自殺の両面で調査を……」
 少女はテレビを消した。
 今回の依頼は、海に潜ったりしなければならないと、少し変わった依頼でしたが、何とかなりましたわ。やっぱり、化けて出るのでしたら、女の方でないと様になりませんものね。
 何か困ったことなどありましたら、なんなりと私に相談して下さい。私に出来る範囲でお力になります。とは言え、全国津々浦々、いつでもどこでも居合わせれないのが辛いところ、もし、今度あなたの街に訪れる機会などありましたら、その時はお気軽にお声をお掛けください。
 それでは、いずれどこかで。

*  *  *  *  *

 半月後、とある波止場で死体があがった。
「お呼びたてしてすいません」
「別に構わんよ。家にいたって、邪魔者扱いされるだけだからな。で、どうだ現状は?」
「はい。コンクリート漬けにされて沈められたのでしょう。詳しくは調べないとわからないですが、死後二月ぐらい、二十代後半の女性だと鑑識は言ってます」
「まったく、運の悪いことだな。海底工事をしなければ、あがる事もなかったのにな」
「警部!」
「わるいわるい。それで身元は?」
「身元を示すようなものは何もありませんでした。ただ……」
「ただ?」
「名刺が一枚」
 そう言ってビニールに包まれた名刺を差し出した。
「……ココロとカラダの悩み、お受け致します。真城 華代。なんだこれは?」
「さあ? なんなんでしょうね? ホトケさんのものでしょうか?」
「どちらにせよ、この人物を調べるように手配しろ。ホトケさんじゃなくても、何か知っているかもしれん」
「はい」
 走り去る部下を見ながら警部と呼ばれた男はタバコに火をつけた。
「……ココロとカラダの悩み、か……」
 そう呟くと寂れた波止場に吹く寒風がタバコの煙を細く引き伸ばしていった。



あとがき
 御粗末さまでした。思いっきり、思い付きです(^^;。しかし、私の作品は魔法だの、幽霊だの、オカルトばかりですね。そう言えば、今構想中の作品も妖怪で、オカルト……(苦笑)。
 そうか、オカルトコメディーTS小説が私の萌えだったのか(爆)。



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