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−華代ちゃんシリーズ−


階段オチ

作:みなふみどう(南文堂)




*「華代ちゃんシリーズ」の詳細については
【ここ】を参照して下さい






 こんにちは。初めまして。私は真城華代と申します。
 最近は本当に心の寂しい人ばかりですね。そんな皆様が少しでも幸せになれますように、私は活動しています。まだまだ未熟で至らぬところもございますが、通りかかりました折には、お悩みなどを是非ともおはなし下さい。私に出来る範囲でご依頼の方のお悩みを露散させていただきます。どうぞお気軽にお申しつけくださいませ。  報酬ですか? いえ、お金は頂いておりません。お客様がご満足頂ければ、それが何よりの私にとっての報酬でございます。
 さて、今回のお客様は…。

 蝉の声がやかましく、耳鳴りのように聞こえる。初夏の日差しを手の平で庇を作って、お堂を見た。思ったよりもこじんまりしている。
「やっぱり、実際見ると違うものなんだな」
 某映画の舞台になった、あまりにも有名な階段のある神社にやってきた彼は誰もいない境内で一人呟いた。
 そして、例の階段に向かって歩くと、その脇に白い立て札が立っているのが目に入った。
『この階段を二人で転がり落ちても入れ替わりはおきません。怪我をするだけなので、興味本位で転がり落ちないでください。――神主』
 彼は苦笑を浮かべた。冗談なのか、はたまた本気か。前者なら、神主はかなり面白い人物だろう。後者なら、入れ替わろうとして転げ落ちる人間が何人かいたということで、それもまた面白い。
「まあ、転げ落ちようにも、相手がいなければ話にならないがな」
 彼は独り言を言って階段を見下ろした。転げ落ちるのはかなり痛そうだ。
「それでは、お相手がいればお話になるのですね?」
 彼はいきなり背後から声をかけられて驚いて振り返った。振り返った拍子にバランスを崩して階段を転げ落ちそうになったが、声をかけた人物が両手でハシッと彼の手を持って支えてくれたので何とか一人で階段落ちすることは避けられた。
「驚かして、ごめんなさい」
 真っ白なワンピースを着た少女がすまなそうな顔をして立っていた。
「いや、ありがとう。助かったよ。えーと……」
「あ、申し遅れました。私、こういうものです」
 少女は名刺を一枚取り出して彼に手渡した。
 彼はそれを受け取り、目を走らせた。
「……ココロとカラダの悩み、お受け致します。真城 か……はなよ?」
「あ、それで、カヨと読みます」
「へー、いい名前だね」
 彼は最近の子供はこういう遊びが流行っているのかと時代の流れを少し感じながら名刺を玩んだ。
「ありがとうございます。ところで、先ほどのお話なのですが?」
「話?」
「はい。階段を一緒に転がり落ちるお相手がいらっしゃればよろしいんですね?」
「え? いや、そういうわけじゃ……」
「どういうわけですか?」
「どうって……まあ、転げ落ちるにしても同性と転げ落ちても仕方ない――じゃなくって!」
 彼は少女のどこかずれた会話のペースに巻き込まれているのに気が付いて、得体の知れない不安にかられた。
「異性であればよろしいんですね。そういうことでしたら、お任せください」
「いや、そうじゃなくって…………!」
 彼は少女に何か言おうとしたその時に体の異変に気がついた。
 胸が膨らみ始め、ウエストがくびれ、お尻のあたりの肉付きがよくなったかと思うと、股間が急に心許ない感覚に陥り、全身の肌が脂ぎったものからさらさらとしたものへと変わり、指は白く細く、手は小さく、腕はしなやかに足は残念ながらズボンに隠れて見えないが、ぴったりだった靴が、今にも脱げそうになっているところを見ると同じように変化しているのは明白だった。
「な、な、な」
 言葉にならない言葉はソプラノの響きで蝉の声と合唱し、短かった髪は肩にかすかに掛かるまでに伸びていた。
「あ、あ、あ、あ」
 男の汗臭い匂いが彼女となった彼の鼻腔を不快にくすぐる。身体に合わないものを身に纏っている気持ちの悪さも加わり、変身したことよりも目先の不快感に彼女は眉をひそめた。
 しかし、その不快感もすぐに解決された。半袖のワイシャツが一枚のTシャツのようになり、濃紺の襟ができ、それに白いラインが走ると赤いスカーフが襟から伸び、胸元で結ばれた。スラックスも濃紺へと色を変え、二つに分かれた筒が一つにまとまり、タックが増えて、それがプリーツに変わると、丈も膝ぐらいまで上がり、健康的に引き締まったふくらはぎが姿を現した。靴もぶかぶかだった革靴が軽快に歩きやすいスニーカーへと変化して、白いソックスが眩しく、引き締まった足首を際立たせた。
「うそ?」
 身体だけでなく服まで変化したことに彼女は驚いて、思わず半歩、後退った。そこにはさっきまではなかった空き缶がそこに転がっており、思いっきりそれに足を取られた。
「あぶない!」
 どこからともなく現れた高校生ぐらいの少年が彼女の腕を取ったが、いくら軽いと言っても、完全に体勢を崩した人一人を片手で支えきれるほど少年には筋力も体重もなく、そのまま、階段を二人して転げ落ちる事になった。
 転んだ拍子に高々と舞い上がった空き缶が山門の屋根瓦に落ちてカラカラと音を立てて転がり、しばらくの静寂の後に甲高い音を立てて地面から跳ね上がった。
………………
「……神社です。……ええ、はい。そうです。またです。……高校生ぐらいの男女が二人。……はい、お願いします」
 神主は電話の受話器を置いて、ため息をついた。
「いっそのこと、立ち入り禁止にしようかな」
 坂の多い町の蝉は今日も元気に鳴き続け、かすかに聞こえるサイレンの音が蝉時雨の静寂を邪魔していた。

 今回の依頼は、階段から一緒に転がり落ちてくれる女性を探している人と、階段から一緒に転がり落ちてくれる異性を探している人。一気に二つも依頼をこなしてしまいましたわ。まさに、一石二鳥で効率的でしたわ。でも、不思議なところですね、ここは。時々、通りかかりますが、同じような依頼を何度も受けましたわ。
 何か困ったことなどありましたら、なんなりと私に相談して下さい。私に出来る範囲でお力になります。とは言え、全国津々浦々、いつでもどこでも居合わせれないのが辛いところ。それでも、もし、今度あなたにお会いできる機会などありましたら、その時はお気軽にお声をお掛けください。
 それでは、いずれどこかで。



あとがき
 TSシンデレラの感想で真城様に「かいだんを書いてみては?」と言われたので、書いてみました。え? かいだん違い?
 ……それはともかく、こういった小ネタをよく思いつくんですが、使えるのは10個のうち一つがいいところなのが悲しいですね。




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